上 下
31 / 38

31.罠

しおりを挟む
 ソーニャの一喝に、俺の目頭が熱くなる。
 辛いことがあってもめげずにいつも前向きで、一生懸命で。そんな二人の姿が脳裏をよぎった。
 二人ともダンジョンで死にかけたてたところを俺が助けたことで知り合ったんだ。
 レベルはけして高くなかったけど、気のいい仲間たちだった。
 俺はパーティーに入らないか誘ったら、パワーレベリングは絶対にしたくないと断られたっけ。
 強い冒険者にくっついて、楽してレベルを上げたがるやつらなんか掃いて捨てるほどいるのに。そういう矜持の高さと、強い精神を持ったやつらだから、俺は仲間になってほしかったんだ。
 
「でも~~~、ソーニャ~~~!!!!」

「二人のことは後で詳しく聞かせてあげますから、今は正気に戻ってあのキチガイを倒すことに集中しなさい!」

 ソーニャが愛用の世界樹の聖杖を構えて、魔法を放ち、サイラスが全身に纏わせ始めていた紫のオーラを霧散させた。
 相変わらず禍々しいオーラだ。紫って何なんだ、まじで。この世界に存在する魔法属性のどれにも属さない色は、底が知れない。

「なんでなんで!?せっかくリディエールが俺と二人きりで会いたいって言ってくれてるのに、なんで邪魔するわけ??ソーニャはいっつもそうだ、俺とリディの邪魔ばっかして、だからリディエールは俺を構ってくんなかった!」

「言いがかりも大概にするんですね、幻覚でも見ているんですか?それとも150年の間に記憶が捏造されでもしましたか!」

 交わされる言葉だけは子供の喧嘩のようだが、互いの杖から放たれる魔法の威力は、掠っただけでも体の一部が吹き飛ぶぐらいの強さだ。
 魔力は永く時を生きるほどにより強く濃密になる。冒険者時代には殆ど使用せず、今も風魔法以外は少し覚えがある程度のスキルレベルしか持たない俺でさえ、この150年の間に練られた魔力でスキルレベルの数字では考えられないほどの威力を出せる。
 魔力と魔法は同一のものではない。魔力は自身の中から湧き上がる泉の水のようなもので、それが研ぎ澄まされ良質なものになるほど、それを源として体外に発現される魔法は強力なものになる。
 この二人は幼い頃から魔術師としての高い資質を持ち、その上長い時を掛けて魔力の質も練り上げられているのだから、互いに魔法の撃ち合いなどすれば周囲が巻き込まれ吹き飛んでしまうだろう。
 だが、ダンジョンは多少その地形を変えはしたが、びくともしない。数秒のうちに修復が始まり、やがて元の姿へと戻っていく。

 案の定、闘いは長期戦の様相を呈した。
 何度も打倒されては再生するサイラスに、再生クールタイムとワープシステムを利用しながら補給しつつ戦っているが、一向にサイラスには衰えが見られない。むしろ、ずっと遊んでいるようにさえ見える。

 体力以上にきついのが、アイツが攻撃しながら掛けてくる口撃のほうだ。
 150年の間にどうやって過ごしてきたか語るその内容は、倫理の欠片もないものばかりで、聞くだけでメンタルを摩耗させてくる。
 何度もブチ切れそうになったけど、その度に理性を働かせて耐えた。アイツの再生の秘密をソーニャが見抜くまで、それまでは。

「リディ!」

 サイラスがもう何十回目かの再生を始めた時、ソーニャはやっと声を上げた。

「3、8、23です!」

「わかった!」

 ソーニャの言った数字は、ワープマップにつけた俺達だけの番号だ。
 きっと何かわかったのに違いない。
 俺は指示に従って通路を左に曲がって3のワープへ、出た先を右折して直進し三番目の分かれ道を右に行った先の8番のワープへ飛び込む。そして、ここが一番最後まで解き明かせなかったこのフロアのミソのワープ。8番出口のワープを逆流してもう一度飛び込む。
 8番のワープだけは、転移先の魔法陣にもう一度乗ることでワープが起動するのだ。これが23番めのワープ。そのワープの先には、このフロアのゴールであるボス部屋があった。

 俺と間髪入れないタイミングで、別ルートからやってきたソーニャが現れる。
 二人揃ってボス部屋に飛び込んで、ようやっと息を吐いた。

「あいつ、まじでバケモンだ。………どうなってんだよ!」

「落ち着いてください、リディ。あいつの再生の秘密がわかりました。アイツは恐らく自分の異空間に生き物を飼っています。そして、死滅するたびそれらから命を吸い上げて再生しているのでしょう。どれくれぐらいの数いるのかわかりませんが……」

「あの余裕からして相当な数だろうな………」

 今までアイツを再生させた数だけ命を消費させていたのかと思うと心が痛む。
 けれど、異空間は本人にしか開くことができない。アイツを倒せば永遠に閉じられてしまう場所では、助けることなどできそうもなかった。

「……可哀想だけど、仕方ないんだよな。アイツに異空間を開かせるなんて、できそうもねぇし……」

「あなたのせいじゃありませんよ、相変わらず優しすぎます」

 ソーニャが落ち込む俺の頭をよしよしと撫でて慰める。
 しなやかな指先に嵌められた見慣れない指輪にほんの一瞬違和感を感じたが、この緊急時に魔導具くらい使用するかと疑念は霧散した。
 ―――――――その直感を信じていれば良かったのに。
 




「優しいリディ……今度こそ掴まえました」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら親指王子?小さな僕を助けてくれたのは可愛いものが好きな強面騎士様だった。

音無野ウサギ
BL
目覚めたら親指姫サイズになっていた僕。親切なチョウチョさんに助けられたけど童話の世界みたいな展開についていけない。 親切なチョウチョを食べたヒキガエルに攫われてこのままヒキガエルのもとでシンデレラのようにこき使われるの?と思ったらヒキガエルの飼い主である悪い魔法使いを倒した強面騎士様に拾われて人形用のお家に住まわせてもらうことになった。夜の間に元のサイズに戻れるんだけど騎士様に幽霊と思われて…… 可愛いもの好きの強面騎士様と異世界転生して親指姫サイズになった僕のほのぼの日常BL

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

王子様と魔法は取り扱いが難しい

南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。 特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。 ※濃縮版

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

天使の声と魔女の呪い

狼蝶
BL
 長年王家を支えてきたホワイトローズ公爵家の三男、リリー=ホワイトローズは社交界で“氷のプリンセス”と呼ばれており、悪役令息的存在とされていた。それは誰が相手でも口を開かず冷たい視線を向けるだけで、側にはいつも二人の兄が護るように寄り添っていることから付けられた名だった。  ある日、ホワイトローズ家とライバル関係にあるブロッサム家の令嬢、フラウリーゼ=ブロッサムに心寄せる青年、アランがリリーに対し苛立ちながら学園内を歩いていると、偶然リリーが喋る場に遭遇してしまう。 『も、もぉやら・・・・・・』 『っ!!?』  果たして、リリーが隠していた彼の秘密とは――!?

処理中です...