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13.妖精ともふもふ
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30階層をクリアした俺は、報告とドロップアイテム売却のためギルドに訪れた。
実のところ、ちゃんとギルドカウンターに顔を出すのは久しぶりだ。
別に大したことをしているつもりはないのに、親衛隊とか名乗る妙な連中が日に日に増えて、一度見つかると面倒だからである。
そのため、ここ最近はギルドに行くと言っても、ローブで姿を隠してそそくさとギルド長の応接室に行き、そこで買い取りやらなにやらを済ませることにしていた。
じゃあなんでわざわざ今更カウンターなんかにいるのかというと、いつものようにカウンターの奥に引っ込もうとしたところを、職員に止められてしまったからである。
原因は、ノエルだ。
俺はギルドの2階への立ち入りは顔パスで許可されていたんだけど、ローブで顔を隠してしまっていた上に、犬を連れているのを見咎められてしまった。
実はノエルもソーニャに『ノエルちゃんなら』と出入りOKになっているんだけど、その職員は知らなかったらしい。
そんなわけで、説明しようともたついている間に親衛隊たちに見つかり、囲まれてしまったというわけだ。
「リディさん、お茶どうぞ」
「お菓子もありますよ!街で評判のクッキーなんです」
「ワンちゃんにはジャーキーもありますよ!」
買取カウンターでの査定まちの間、俺はくつろぎスペースで冒険者たちにちやほやされていた。
つきまとわれるのは普通にめちゃくちゃ迷惑なんだけど、基本的には親切にしてくれるし、悪い連中ではないんだよな。
親衛隊の中には、最初に俺に絡んできた三兄弟も名を連ねている。あの後しばらくは睨まれていたんだけど、24階フロアでレイスに取り憑かれて死にかけている次男を助けてやったらいたく感謝され、いつの間にか親衛隊の仲間に加わっていた。
別に、ダンジョンで危ない目に遭ってるやつを助けるなんて、普通のことじゃないか?
そりゃあ、ダンジョン攻略は早いもの勝ちだしみんなライバルであることに変わりはないけど、冒険者の仕事はなにもダンジョンだけじゃない。
いざって時はスタンピードや大型魔物の襲来に参加して討伐に加わる義務があるし、そういう時に頭数が足りなくなってしまったら困るのは自分だ。
そのことを説明して、だから過剰に感謝する必要はないし、感謝する気持ちがあるなら他の冒険者がピンチになっていた時に助けてやってくれと言ったら、全員が感動して涙を流していて、『リディさんマジ女神』とか、『妖精は心まで美しい』とか言って、翌日には噂が広がり親衛隊の人数が倍になっていた。解せぬ。
俺は椅子の上で膝をたたんで体育座りをしながら、ノエルを抱っこして身を縮めていた。
クッキーとかお茶につい手を伸ばしたくなるんだけど、一度手を付けると他のメンバーも次から次へとお菓子を出してきて、喧嘩になる。
そうするとソーニャが飛んできて俺まで叱られちゃうんだから、酷い話だ。
ノエルは俺の腕の中で不思議そうに周囲を見回している。
「ぐおっ、カワイイ……!!!!」
「よ、妖精だけでも凄いのに、もふもふとコラボだと………っ!?」
「まさに聖域……!!」
「あざといほどの可愛らしさ………!!!」
「ありがとうございます、ありがとうございます……!!!」
ただ座っているだけなのに、次々と親衛隊たちが床に崩折れていく。
なぜだか全然関係ない配達のおっちゃんまで崩折れていた。なんでだよ。
「ワフン」
ノエルが無邪気に俺の頬をペロンと舐める。
うちの子はやっぱりかわいいなぁ。
「よしよしノエル、こわくないからなー。おうちに帰ったら、おやつあげるからな」
ふわふわの頭に顔をうずめてもふもふを堪能していると、ますます床に転がった連中の挙動がおかしくなる。
ほんと、大丈夫か?なんか新手の病とかじゃないんだよな、これ。
そうこうしている間に、査定も終了したようだ。
今回も結構な額になったらしく、査定内訳リストにはパッと見じゃ判別できないゼロの数がついている。
中でも一番高値がついたのは、29階層のボス宝箱に入っていた魔法剣だ。かなりいいものではあるが、流星剣がある限り出番はない。
異空間で眠らせているよりも、使われたほうが世の中のためになる。結構嵩張るし、キリもないからな。
「そういえば、30階層の宝箱はお売りにならなかったんですね」
何が入っていようと大抵のものは売り払ってしまう俺が、珍しく手元においたものだから気になったのかもしれない。
俺は『まあ、ちょっとね』とだけ答えた。
よほどいいものが入っていたと思ったのか、職員さんはそれ以上は追求せず、職務を全うしてくれる。
「ものは相談なんですが、今回の買取金額はかなり大きいので、ギルドのバンク制度を利用してみませんか?」
「バンク制度?」
なんだそりゃ。疑問に思って首を傾げると、職員さんはパンフレットを取り出して丁寧に説明してくれる。
「バンク制度というのは、ギルドが冒険者さんのお金をお預かりして管理する制度のことです。窓口ではいつでも任意の金額を受け取れますし、本人認証付き冒険者カードなら、登録店でカードで支払いができます。冒険者が利用するきちんとした店なら、大抵加入しているので、ご不便を感じることはないと思いますよ」
「カードで支払う???ってどういうことだ??」
「まず、バンク登録をしてお金をプールしていただきますと、リディさんがお持ちの冒険者カードに現在の預け入れ金額が表示されます。それを宿屋や道具屋、武器屋なんかで会計する際に提示すると、店側はそのカードを認証機に翳して金額とともに利用登録します。利用登録記録は月末にギルドに提出され、ギルドは店側に支払いを行います」
「へーえ……!いっぱい金を持ち歩く必要がないってことか」
「そういうことです。盗難や紛失、強奪なんかの対策にもなりますし、利用者は多いんですよ」
「確かに、異次元ポーチとか空間制御スキルがない冒険者は大変だもんな。金貨って結構重いし邪魔だし」
「はい、ですので多くの利用者からは大変好評なんです。リディさんには無用の心配ではあると思うんですが、実は今回の買取金額があんまりにも大きすぎるもので、できたらある程度の部分をバンクにプールという扱いにしていただけたらと思いまして。あ、勿論払えないとかではないんですよ?ないんですけど、ギルドに買い取り用に置いている金額も防犯のためセーブされていまして、今回リディさんへの支払を全て現金で行うと、他の冒険者への買い取りに影響が出る可能性があるもので、もし良かったらとお勧めさせていただきました」
なるほど、たしかにバンク制度とやらを利用する冒険者が多いんだったら、無理してギルドに全財産詰め込んでおかなくてもいいもんな。
ギルドにだって、いつ何時無法者が現れるかわからない。分散は有効な手段だ。
「冒険者カードの決済って、この街限定なの?」
「いえ、冒険者バンク登録店であれば他の街でもご利用いただけます。冒険者ギルドは国に所属していないので、ほんとに結構どこでも使えますよ」
なにそれ、めちゃいいじゃん。
俺は今回の買い取り金額の半分を受け取って、残りをプールしておいた。
手続き後にカードを見てみると、確かにプール金の項目が増えている。
「あ、地味にレベル上がってるな。……ん??なにこれ」
実のところ、ちゃんとギルドカウンターに顔を出すのは久しぶりだ。
別に大したことをしているつもりはないのに、親衛隊とか名乗る妙な連中が日に日に増えて、一度見つかると面倒だからである。
そのため、ここ最近はギルドに行くと言っても、ローブで姿を隠してそそくさとギルド長の応接室に行き、そこで買い取りやらなにやらを済ませることにしていた。
じゃあなんでわざわざ今更カウンターなんかにいるのかというと、いつものようにカウンターの奥に引っ込もうとしたところを、職員に止められてしまったからである。
原因は、ノエルだ。
俺はギルドの2階への立ち入りは顔パスで許可されていたんだけど、ローブで顔を隠してしまっていた上に、犬を連れているのを見咎められてしまった。
実はノエルもソーニャに『ノエルちゃんなら』と出入りOKになっているんだけど、その職員は知らなかったらしい。
そんなわけで、説明しようともたついている間に親衛隊たちに見つかり、囲まれてしまったというわけだ。
「リディさん、お茶どうぞ」
「お菓子もありますよ!街で評判のクッキーなんです」
「ワンちゃんにはジャーキーもありますよ!」
買取カウンターでの査定まちの間、俺はくつろぎスペースで冒険者たちにちやほやされていた。
つきまとわれるのは普通にめちゃくちゃ迷惑なんだけど、基本的には親切にしてくれるし、悪い連中ではないんだよな。
親衛隊の中には、最初に俺に絡んできた三兄弟も名を連ねている。あの後しばらくは睨まれていたんだけど、24階フロアでレイスに取り憑かれて死にかけている次男を助けてやったらいたく感謝され、いつの間にか親衛隊の仲間に加わっていた。
別に、ダンジョンで危ない目に遭ってるやつを助けるなんて、普通のことじゃないか?
そりゃあ、ダンジョン攻略は早いもの勝ちだしみんなライバルであることに変わりはないけど、冒険者の仕事はなにもダンジョンだけじゃない。
いざって時はスタンピードや大型魔物の襲来に参加して討伐に加わる義務があるし、そういう時に頭数が足りなくなってしまったら困るのは自分だ。
そのことを説明して、だから過剰に感謝する必要はないし、感謝する気持ちがあるなら他の冒険者がピンチになっていた時に助けてやってくれと言ったら、全員が感動して涙を流していて、『リディさんマジ女神』とか、『妖精は心まで美しい』とか言って、翌日には噂が広がり親衛隊の人数が倍になっていた。解せぬ。
俺は椅子の上で膝をたたんで体育座りをしながら、ノエルを抱っこして身を縮めていた。
クッキーとかお茶につい手を伸ばしたくなるんだけど、一度手を付けると他のメンバーも次から次へとお菓子を出してきて、喧嘩になる。
そうするとソーニャが飛んできて俺まで叱られちゃうんだから、酷い話だ。
ノエルは俺の腕の中で不思議そうに周囲を見回している。
「ぐおっ、カワイイ……!!!!」
「よ、妖精だけでも凄いのに、もふもふとコラボだと………っ!?」
「まさに聖域……!!」
「あざといほどの可愛らしさ………!!!」
「ありがとうございます、ありがとうございます……!!!」
ただ座っているだけなのに、次々と親衛隊たちが床に崩折れていく。
なぜだか全然関係ない配達のおっちゃんまで崩折れていた。なんでだよ。
「ワフン」
ノエルが無邪気に俺の頬をペロンと舐める。
うちの子はやっぱりかわいいなぁ。
「よしよしノエル、こわくないからなー。おうちに帰ったら、おやつあげるからな」
ふわふわの頭に顔をうずめてもふもふを堪能していると、ますます床に転がった連中の挙動がおかしくなる。
ほんと、大丈夫か?なんか新手の病とかじゃないんだよな、これ。
そうこうしている間に、査定も終了したようだ。
今回も結構な額になったらしく、査定内訳リストにはパッと見じゃ判別できないゼロの数がついている。
中でも一番高値がついたのは、29階層のボス宝箱に入っていた魔法剣だ。かなりいいものではあるが、流星剣がある限り出番はない。
異空間で眠らせているよりも、使われたほうが世の中のためになる。結構嵩張るし、キリもないからな。
「そういえば、30階層の宝箱はお売りにならなかったんですね」
何が入っていようと大抵のものは売り払ってしまう俺が、珍しく手元においたものだから気になったのかもしれない。
俺は『まあ、ちょっとね』とだけ答えた。
よほどいいものが入っていたと思ったのか、職員さんはそれ以上は追求せず、職務を全うしてくれる。
「ものは相談なんですが、今回の買取金額はかなり大きいので、ギルドのバンク制度を利用してみませんか?」
「バンク制度?」
なんだそりゃ。疑問に思って首を傾げると、職員さんはパンフレットを取り出して丁寧に説明してくれる。
「バンク制度というのは、ギルドが冒険者さんのお金をお預かりして管理する制度のことです。窓口ではいつでも任意の金額を受け取れますし、本人認証付き冒険者カードなら、登録店でカードで支払いができます。冒険者が利用するきちんとした店なら、大抵加入しているので、ご不便を感じることはないと思いますよ」
「カードで支払う???ってどういうことだ??」
「まず、バンク登録をしてお金をプールしていただきますと、リディさんがお持ちの冒険者カードに現在の預け入れ金額が表示されます。それを宿屋や道具屋、武器屋なんかで会計する際に提示すると、店側はそのカードを認証機に翳して金額とともに利用登録します。利用登録記録は月末にギルドに提出され、ギルドは店側に支払いを行います」
「へーえ……!いっぱい金を持ち歩く必要がないってことか」
「そういうことです。盗難や紛失、強奪なんかの対策にもなりますし、利用者は多いんですよ」
「確かに、異次元ポーチとか空間制御スキルがない冒険者は大変だもんな。金貨って結構重いし邪魔だし」
「はい、ですので多くの利用者からは大変好評なんです。リディさんには無用の心配ではあると思うんですが、実は今回の買取金額があんまりにも大きすぎるもので、できたらある程度の部分をバンクにプールという扱いにしていただけたらと思いまして。あ、勿論払えないとかではないんですよ?ないんですけど、ギルドに買い取り用に置いている金額も防犯のためセーブされていまして、今回リディさんへの支払を全て現金で行うと、他の冒険者への買い取りに影響が出る可能性があるもので、もし良かったらとお勧めさせていただきました」
なるほど、たしかにバンク制度とやらを利用する冒険者が多いんだったら、無理してギルドに全財産詰め込んでおかなくてもいいもんな。
ギルドにだって、いつ何時無法者が現れるかわからない。分散は有効な手段だ。
「冒険者カードの決済って、この街限定なの?」
「いえ、冒険者バンク登録店であれば他の街でもご利用いただけます。冒険者ギルドは国に所属していないので、ほんとに結構どこでも使えますよ」
なにそれ、めちゃいいじゃん。
俺は今回の買い取り金額の半分を受け取って、残りをプールしておいた。
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