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10.意外な救世主
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「よーし、ノエル。気をつけていくぞ」
「ワンッ!」
俺は収納庫から取り出したチョーカーをノエルにつけてやりながら、もう一度言い聞かせた。
ダンジョンでモンスターと間違われないよう、首輪代わりになるものを探してみたんだけど、これが結構似合っている。
ついでに、ワンコじゃいざという時に呼びにくいから、ノエルと名前をつけた。
首輪をして名前をつけちゃったら、これはもう責任取って飼うしかないんだろうなぁ。
「まったく……どうなっても知りませんよ」
口ではそんなことを言いながら、ソーニャはしっかりノエルに防御魔法を掛けてくれた。
俺がつけてやったチョーカーも、実は元々ジークハルトから貰ったもので、魔力登録しておくとお互いの居場所がわかる機能がついている。迷子防止にはもってこいだ。
ちなみに、ジークハルトの登録は外させたから、今登録してるのは俺とソーニャとノエルだけ。
付き合ってすぐの頃にプレゼントされて使ってたら、まさかの追跡用発信機で、当時は本気でこんな変態とは縁を切ろうと思った。
俺だけじゃなくソーニャも盛大にブチ切れて、あの時ばかりはストレートな罵詈雑言を浴びせていたっけ。
しまいにはジークハルトもお前には関係ないだろと逆ギレして、実力行使の代理戦争になり、何故か当事者の俺が仲裁するという訳のわからないことになった。なんだかおんなじようなことがもう一度起こりそうな気がするけど、多分気の所為じゃないに違いない。
まあ、何はともあれ出発だ。
俺たちは二人と一匹でダンジョンの中に潜っていった。
「ノエル……!!!!あなたは素晴らしいわんこですね!!!」
「ワンッ!」
その日の終わり、夕食を目当てに寄った食堂には、ノエルを膝に乗せてちやほやするソーニャの姿があった。
※※※
魔の20階層、ワープフロア。
3時間ほどソーニャとさ迷い歩いてマッピングに挑んだものの、やはりワープフロアは難敵だった。
4回目に振り出しに戻され、しかも理論上今までのマッピングに齟齬があることが判明した瞬間、ソーニャは脱力して地べたにへたりこんだ。
これはもう、一度戻ってプロのマッパーを連れてくるしかないかとなった時、それまで大人しく俺のリュックに収まっていたノエルがワンワンと吠え立て、外に出せとばかりに暴れはじめた。
トイレかなと思って地面に下ろしてやると、ノエルはサッと走って行ってワープの前で立ち止まり、振り返ってこちらを向いた後、ワープの中に飛び込んだ。
「あっ、ノエル……!!!」
俺は、慌ててノエルを追ってワープに飛び込んだ。
ワープの先ではノエルがコウモリ型の魔物に襲われていたので、すぐさま退治して救出する。
「全くもう!危ないだろ、ノエル!」
めっ、と叱って抱き上げると、ノエルはペロペロと俺の頬を舐めた。これはごめんなさいという意味なんだろうか。幸い、ソーニャの防御魔法のおかげで、ノエルには傷ひとつない。
「さて、ここどこかなぁ。俺のマップだと、こっちなんだけど……」
地図を頼りに歩き出そうとした俺の背中で、ノエルがワンワンと吠え立てる。
ノエルは基本聞き分けがいいのに、こんなに吠えるなんてどうしたんだろうか。
「もしかして、お前道わかるの?こっちじゃないってこと?」
「ワンッ!」
俺は試しにノエルの指示通りに歩いてみることにした。
ノエルが吠えたら道を変え、大人しくしているならそのまま進む。
そうして歩いていると、いつもよりずっと早く元の場所に戻ってくることができた。そして、ソーニャは地べたに這いつくばって一心不乱にマップを書き殴っているソーニャの姿を見つける。
「なにやってんの?休憩か?」
「こっ・・・」
「こ?」
「これは………っ!素晴らしいですよリディ!!!!」
ソーニャは目を輝かせ、大興奮でまくし立てる。
説明された内容としては、こうだ。
ノエルがワープに乗って行ってしまった後、ソーニャはそれみたことかと呆れてその場に留まっていた。
正直疲れていたし、経験上大体いつもこの場所に戻ってくるから、俺が追いかけていったなら問題ないし休んでいようと思ったらしい。
そうしたら、ふとノエルの位置をぼんやりと感じていることに気付いた。首輪に登録しておいたおかげで、ソーニャにもノエルの居場所がわかるのだ。
そして、ノエルもソーニャのいる方向が感じ取れる。だからノエルはなるべくソーニャのいる方向に近づけるように移動し、離れていくなら吠えるを繰り返して軌道修正していったのだろう。
これは暗礁に乗り上げたマッピングにおいて希望の光だった。
ソーニャはマップにあたりをつけながら、自分の方向に戻ってくるノエルの動きを書き留めていけばいいのである。時々ハズレの道もあるけど、それは候補として残しておいて、新しい道を足せばいいわけだ。
正確に場所がわかるわけではないが、大枠さえ分からずに手探り状態で彷徨うよりずっといい。
これをヒントに俺たちは試行錯誤を繰り返し、少しずつマップを埋めていった。
ある程度マップが記入されてきたら、複写して俺も同じものを持ち、進みながら『ここで行き止まりだった』とか、『ここに行ったことのないワープがある』とか補足として書き込むようにすると、作業スピードもグンとアップする。
結局一日では完成させられなかったものの、かなり信頼性の高いマップを半分くらい埋めることができた。大勝利と言っていい。
そして、冒頭に戻る。
ソーニャは功労賞であるノエルを『かしこいワンちゃん』と褒めちぎり、膝の上で干し肉を与えて労っていた。
----------------------------------------------
ノエルのビジュアルはサモエドの子犬です。
「ワンッ!」
俺は収納庫から取り出したチョーカーをノエルにつけてやりながら、もう一度言い聞かせた。
ダンジョンでモンスターと間違われないよう、首輪代わりになるものを探してみたんだけど、これが結構似合っている。
ついでに、ワンコじゃいざという時に呼びにくいから、ノエルと名前をつけた。
首輪をして名前をつけちゃったら、これはもう責任取って飼うしかないんだろうなぁ。
「まったく……どうなっても知りませんよ」
口ではそんなことを言いながら、ソーニャはしっかりノエルに防御魔法を掛けてくれた。
俺がつけてやったチョーカーも、実は元々ジークハルトから貰ったもので、魔力登録しておくとお互いの居場所がわかる機能がついている。迷子防止にはもってこいだ。
ちなみに、ジークハルトの登録は外させたから、今登録してるのは俺とソーニャとノエルだけ。
付き合ってすぐの頃にプレゼントされて使ってたら、まさかの追跡用発信機で、当時は本気でこんな変態とは縁を切ろうと思った。
俺だけじゃなくソーニャも盛大にブチ切れて、あの時ばかりはストレートな罵詈雑言を浴びせていたっけ。
しまいにはジークハルトもお前には関係ないだろと逆ギレして、実力行使の代理戦争になり、何故か当事者の俺が仲裁するという訳のわからないことになった。なんだかおんなじようなことがもう一度起こりそうな気がするけど、多分気の所為じゃないに違いない。
まあ、何はともあれ出発だ。
俺たちは二人と一匹でダンジョンの中に潜っていった。
「ノエル……!!!!あなたは素晴らしいわんこですね!!!」
「ワンッ!」
その日の終わり、夕食を目当てに寄った食堂には、ノエルを膝に乗せてちやほやするソーニャの姿があった。
※※※
魔の20階層、ワープフロア。
3時間ほどソーニャとさ迷い歩いてマッピングに挑んだものの、やはりワープフロアは難敵だった。
4回目に振り出しに戻され、しかも理論上今までのマッピングに齟齬があることが判明した瞬間、ソーニャは脱力して地べたにへたりこんだ。
これはもう、一度戻ってプロのマッパーを連れてくるしかないかとなった時、それまで大人しく俺のリュックに収まっていたノエルがワンワンと吠え立て、外に出せとばかりに暴れはじめた。
トイレかなと思って地面に下ろしてやると、ノエルはサッと走って行ってワープの前で立ち止まり、振り返ってこちらを向いた後、ワープの中に飛び込んだ。
「あっ、ノエル……!!!」
俺は、慌ててノエルを追ってワープに飛び込んだ。
ワープの先ではノエルがコウモリ型の魔物に襲われていたので、すぐさま退治して救出する。
「全くもう!危ないだろ、ノエル!」
めっ、と叱って抱き上げると、ノエルはペロペロと俺の頬を舐めた。これはごめんなさいという意味なんだろうか。幸い、ソーニャの防御魔法のおかげで、ノエルには傷ひとつない。
「さて、ここどこかなぁ。俺のマップだと、こっちなんだけど……」
地図を頼りに歩き出そうとした俺の背中で、ノエルがワンワンと吠え立てる。
ノエルは基本聞き分けがいいのに、こんなに吠えるなんてどうしたんだろうか。
「もしかして、お前道わかるの?こっちじゃないってこと?」
「ワンッ!」
俺は試しにノエルの指示通りに歩いてみることにした。
ノエルが吠えたら道を変え、大人しくしているならそのまま進む。
そうして歩いていると、いつもよりずっと早く元の場所に戻ってくることができた。そして、ソーニャは地べたに這いつくばって一心不乱にマップを書き殴っているソーニャの姿を見つける。
「なにやってんの?休憩か?」
「こっ・・・」
「こ?」
「これは………っ!素晴らしいですよリディ!!!!」
ソーニャは目を輝かせ、大興奮でまくし立てる。
説明された内容としては、こうだ。
ノエルがワープに乗って行ってしまった後、ソーニャはそれみたことかと呆れてその場に留まっていた。
正直疲れていたし、経験上大体いつもこの場所に戻ってくるから、俺が追いかけていったなら問題ないし休んでいようと思ったらしい。
そうしたら、ふとノエルの位置をぼんやりと感じていることに気付いた。首輪に登録しておいたおかげで、ソーニャにもノエルの居場所がわかるのだ。
そして、ノエルもソーニャのいる方向が感じ取れる。だからノエルはなるべくソーニャのいる方向に近づけるように移動し、離れていくなら吠えるを繰り返して軌道修正していったのだろう。
これは暗礁に乗り上げたマッピングにおいて希望の光だった。
ソーニャはマップにあたりをつけながら、自分の方向に戻ってくるノエルの動きを書き留めていけばいいのである。時々ハズレの道もあるけど、それは候補として残しておいて、新しい道を足せばいいわけだ。
正確に場所がわかるわけではないが、大枠さえ分からずに手探り状態で彷徨うよりずっといい。
これをヒントに俺たちは試行錯誤を繰り返し、少しずつマップを埋めていった。
ある程度マップが記入されてきたら、複写して俺も同じものを持ち、進みながら『ここで行き止まりだった』とか、『ここに行ったことのないワープがある』とか補足として書き込むようにすると、作業スピードもグンとアップする。
結局一日では完成させられなかったものの、かなり信頼性の高いマップを半分くらい埋めることができた。大勝利と言っていい。
そして、冒頭に戻る。
ソーニャは功労賞であるノエルを『かしこいワンちゃん』と褒めちぎり、膝の上で干し肉を与えて労っていた。
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ノエルのビジュアルはサモエドの子犬です。
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