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8.予期せぬ出会い
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結局、あの後冒険者たちの乱闘になり、ブチ切れたソーニャが比喩じゃなく雷を落として、騒ぎの幕は閉じた。
俺としては誰でもいいからマッピングを代わってほしかったんだけど……。
「あのねえ、あなたまだ理解ってないみたいですね。本当に鈴の音がするんじゃないですか?ちょっと頭を振ってご覧なさい」
ソーニャは心底呆れた表情でお得意の皮肉を浴びせ、はあっとため息を吐いた。
「仕方ありません、私が行くしかないようですね……」
「えっマジ!?ソーニャきてくれんの!?」
思いもよらない展開に、俺は嬉しくなってしまった。
てっきりギルマスになったソーニャはもう一緒に戦ってくれるような機会はないだろうと思ってたのに、まさかまたパーティーを組めるなんて。
無邪気に喜んでいる俺の頬をソーニャが引っ張ろうとし、俺は慌てて自分のほっぺたをガードした。
「行きたくて行くんじゃありませんよ!どこの馬の骨かも分からないようなのと貴方を一緒にさせたら、あのトカゲが街に血の雨を降らせますからね」
「そんなん、バレなきゃ平気だよ」
ふん、と俺は軽く鼻を鳴らす。
俺がダンジョンに潜ってからもう一週間になるが、ジークが追ってきている気配すらないんだ。
自分からガチで撒いておいて勝手だけど、なんだか面白くない。
(ふつーに遅すぎじゃね?何やってんだよ、まじで)
俺が不機嫌そうに頬を膨らませると、ソーニャがすかさず指で空気を抜きに来る。
「やめなさい、かわいいだけです」
「ぶすくれた顔がかわいいわけないじゃん」
「かわいい子は何やってたってかわいいんです!全く審美眼もまともに持ちわせていないんですから、嘆かわしいにも程があります」
「ねえ、これ俺褒められてんの?ディスられてんの??」
なんだか釈然としないが、何はともあれマッピング地獄からは解放されそうだ。
久々に安眠できそうな予感がして、俺は足取り軽くギルドを後にした。
なんせ、今日はドロップ品を売却した報酬で懐も温かい。
初日に指輪がギルドの建物を破壊してしまったせいで、今までの売却金は修理費に消えてしまったからな。
手持ちの宝飾品を売っても良かったが、あいにく家出中の身だ。どこから足がつくかわかりゃしないから、下手なところでは売りに出せない。お陰で俺は150年ぶりに財布の中身を数える生活を味わっていた。
そんな昨日までとは打って変わって、革の財布は金貨でいっぱいになっている。
今日ぐらいは贅沢をして、宿の最低保証飯じゃなく、何かおいしいものでも食べようかという気になった。
(何食べよっかなぁ~。やっぱ肉かな!めっちゃ豪快で、塩とスパイスかけて焼いただけのデカいやつ!)
シンプルな味付けで、ただ焼いただけの大きな塊肉を想像するだけで、口の中に涎がでてくる。
何せ竜王妃になってからというもの、凝りまくったお上品な料理ばかり食べてきたのだ。
子供のために貫き通すと決めた白百合の仮面をつけたまま『焼いただけの肉を手掴みでかぶりついて食べたいんです』なんて到底言い出せない。
だけど俺は、本当はナイフとフォークなんか使わずに、ただ揚げただけの芋をつまんで食べたり、串に刺さった肉に齧りついたりする食事が大好きなんだ。高級ワインより庶民のエールを浴びるように飲みたい!
(ソーニャとの食事もフランクで良かったけど、基本にお上品なんだよなぁ)
やや大衆的なレストランで食べた下品スレスレの分厚いステーキは野性味に溢れていて大変よかったが、ナイフとフォークを提供されるだけで、もう自分の理想とは違うのだ。
吐くほど飲んでおいて図々しいと言われるかもしれないけど、やっぱりワインよりエールがいいなと思ってしまう。
そんな俺にとって、今この時が絶好のタイミング!
「今日こそは自分の好きなものを好きなように好きなだけ飲み食いしてやるぞ―――!!!」
ぎゅむっ。
「キャンっ!」
浮かれていた俺がうっかり何かを踏んづけたと思った瞬間、甲高い動物の鳴き声が上がる。
慌てて足元を見ると、灰色の犬の尻尾を踏んでしまったのだとわかった。
「うわっ、悪い!ごめんな、大丈夫か!?」
完全に俺の不注意ではあるが、抱き上げた犬は灰色の石畳と完全に同化してしまうほど薄汚れていて、濡れてボサボサになった毛は、全身使い古したモップのようだった。
道の真ん中でぐったりと行き倒れていたであろう犬を、俺は大慌てで宿に連れ帰り、踏んでしまった尻尾が傷になっていないか確認する。
「うん、尻尾は怪我してないな。けど、右脚が折れてる。お腹も……蹴られたのかな、なんて酷いことするんだ……!!」
全身の傷を確かめる俺の手が患部に触れても、もう犬は小さな声でしか鳴くことができない。相当弱っているのだろう。
きっと心無い連中に痛めつけられて、あの道に倒れていたに違いない。
「可哀想に……今治してやるからな」
俺は腰のポーションバッグを開けると、中級ポーションを取り出して犬の体に掛けてやった。
折れた骨をくっつけるためには、普通のポーションじゃ心許ない。多少高価ではあるが、尻尾を踏んでしまったお詫びだ。
俺としては誰でもいいからマッピングを代わってほしかったんだけど……。
「あのねえ、あなたまだ理解ってないみたいですね。本当に鈴の音がするんじゃないですか?ちょっと頭を振ってご覧なさい」
ソーニャは心底呆れた表情でお得意の皮肉を浴びせ、はあっとため息を吐いた。
「仕方ありません、私が行くしかないようですね……」
「えっマジ!?ソーニャきてくれんの!?」
思いもよらない展開に、俺は嬉しくなってしまった。
てっきりギルマスになったソーニャはもう一緒に戦ってくれるような機会はないだろうと思ってたのに、まさかまたパーティーを組めるなんて。
無邪気に喜んでいる俺の頬をソーニャが引っ張ろうとし、俺は慌てて自分のほっぺたをガードした。
「行きたくて行くんじゃありませんよ!どこの馬の骨かも分からないようなのと貴方を一緒にさせたら、あのトカゲが街に血の雨を降らせますからね」
「そんなん、バレなきゃ平気だよ」
ふん、と俺は軽く鼻を鳴らす。
俺がダンジョンに潜ってからもう一週間になるが、ジークが追ってきている気配すらないんだ。
自分からガチで撒いておいて勝手だけど、なんだか面白くない。
(ふつーに遅すぎじゃね?何やってんだよ、まじで)
俺が不機嫌そうに頬を膨らませると、ソーニャがすかさず指で空気を抜きに来る。
「やめなさい、かわいいだけです」
「ぶすくれた顔がかわいいわけないじゃん」
「かわいい子は何やってたってかわいいんです!全く審美眼もまともに持ちわせていないんですから、嘆かわしいにも程があります」
「ねえ、これ俺褒められてんの?ディスられてんの??」
なんだか釈然としないが、何はともあれマッピング地獄からは解放されそうだ。
久々に安眠できそうな予感がして、俺は足取り軽くギルドを後にした。
なんせ、今日はドロップ品を売却した報酬で懐も温かい。
初日に指輪がギルドの建物を破壊してしまったせいで、今までの売却金は修理費に消えてしまったからな。
手持ちの宝飾品を売っても良かったが、あいにく家出中の身だ。どこから足がつくかわかりゃしないから、下手なところでは売りに出せない。お陰で俺は150年ぶりに財布の中身を数える生活を味わっていた。
そんな昨日までとは打って変わって、革の財布は金貨でいっぱいになっている。
今日ぐらいは贅沢をして、宿の最低保証飯じゃなく、何かおいしいものでも食べようかという気になった。
(何食べよっかなぁ~。やっぱ肉かな!めっちゃ豪快で、塩とスパイスかけて焼いただけのデカいやつ!)
シンプルな味付けで、ただ焼いただけの大きな塊肉を想像するだけで、口の中に涎がでてくる。
何せ竜王妃になってからというもの、凝りまくったお上品な料理ばかり食べてきたのだ。
子供のために貫き通すと決めた白百合の仮面をつけたまま『焼いただけの肉を手掴みでかぶりついて食べたいんです』なんて到底言い出せない。
だけど俺は、本当はナイフとフォークなんか使わずに、ただ揚げただけの芋をつまんで食べたり、串に刺さった肉に齧りついたりする食事が大好きなんだ。高級ワインより庶民のエールを浴びるように飲みたい!
(ソーニャとの食事もフランクで良かったけど、基本にお上品なんだよなぁ)
やや大衆的なレストランで食べた下品スレスレの分厚いステーキは野性味に溢れていて大変よかったが、ナイフとフォークを提供されるだけで、もう自分の理想とは違うのだ。
吐くほど飲んでおいて図々しいと言われるかもしれないけど、やっぱりワインよりエールがいいなと思ってしまう。
そんな俺にとって、今この時が絶好のタイミング!
「今日こそは自分の好きなものを好きなように好きなだけ飲み食いしてやるぞ―――!!!」
ぎゅむっ。
「キャンっ!」
浮かれていた俺がうっかり何かを踏んづけたと思った瞬間、甲高い動物の鳴き声が上がる。
慌てて足元を見ると、灰色の犬の尻尾を踏んでしまったのだとわかった。
「うわっ、悪い!ごめんな、大丈夫か!?」
完全に俺の不注意ではあるが、抱き上げた犬は灰色の石畳と完全に同化してしまうほど薄汚れていて、濡れてボサボサになった毛は、全身使い古したモップのようだった。
道の真ん中でぐったりと行き倒れていたであろう犬を、俺は大慌てで宿に連れ帰り、踏んでしまった尻尾が傷になっていないか確認する。
「うん、尻尾は怪我してないな。けど、右脚が折れてる。お腹も……蹴られたのかな、なんて酷いことするんだ……!!」
全身の傷を確かめる俺の手が患部に触れても、もう犬は小さな声でしか鳴くことができない。相当弱っているのだろう。
きっと心無い連中に痛めつけられて、あの道に倒れていたに違いない。
「可哀想に……今治してやるからな」
俺は腰のポーションバッグを開けると、中級ポーションを取り出して犬の体に掛けてやった。
折れた骨をくっつけるためには、普通のポーションじゃ心許ない。多少高価ではあるが、尻尾を踏んでしまったお詫びだ。
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