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4.再会
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「ソーニャ!」
俺は嬉しくなって、カウンターから出てきたソーニャに駆け寄った。
ソーニャと最後に会ったのは、末の娘のエスメラルダが生まれた時以来だから、今から優に80年は経つ。
「ソーニャ!じゃありませんよ、何しに来たんです?私のギルドを吹き飛ばして壊滅させるつもりですか」
ソーニャは容赦なく両手で俺の両頬を捻り上げると、ギリギリと力を込めて引っ張った。いでででで、イタイイタイ!!!!!
こんなことをしたら指輪が発動しそうなものだが、指輪は眩いほど輝いてはいるものの、周囲を破壊することはない。恐らくソーニャがそれ以上の魔力で押さえつけているのだろう。
「ご、ごえんなひゃい……」
「謝って済む問題ですか!あの執着トカゲがいないところを見ると大方のところは察しがつきますが、人としての常識を持ち合わせていないようならすぐさまお空に帰りなさい!」
「ごえんなひゃい~~ゆうひてぇえ」
涙目になって謝る俺に、ソーニャはようやっと気が済んだのかほっぺたを放してくれた。ううう、痛い。まだジンジンするうう。
頬っぺたをさすさすしている俺に、ソーニャは冷たい視線を投げかけると、『ついてこい』と軽く顎で促して背を向けた。
500歳を超えるエルフであるソーニャに逆らえるほどの勇気はない。きっと建物の修理費用も請求されたりするんだろうな……と思うが、こればっかりは完全に俺が悪い。危うく罪のない職員と冒険者を塵にしてしまうところだった。
(あれ?これ、やばくないか?俺、大量殺人未遂犯では??)
『竜王妃、人間の国で大量虐殺!』
『動機は新興ダンジョンの占有か?』
センセーショナルな文字がデカデカと書かれた新聞の一面が頭をよぎり、背中に嫌な汗が流れた。
ほんっっっとうに未遂でよかった。ソーニャ様、マジ女神さま。危うく社会的に死ぬところだった。下手すれば戦争ものだ。
すっかり借りてきた猫のように大人しくなった俺は、通された応接室のソファにちょこんと腰かけた。
ギルドの職員が気を利かせてお茶を出してくれて、その後は部屋に二人きりになる。
ソーニャは紅茶に口を付けて、懇々と説教を始めた。
「あなた、一体何歳になったんです?」
「173です……」
「それほど生きていて、どうしてこんなに迂闊なんですか?竜王妃がこんなところにフラフラ一人で現れて、何かあったらあのトカゲがこの街を灰にするという想像もできないほど頭が箱入りになってしまったんですか?」
「灰になんかならねぇもん」
「ならないわけがないでしょう!あの番至上主義の本能の塊なトカゲが」
「ジークのことトカゲって言うな!」
昔からソーニャとジークハルトは仲が悪く、ジークハルトはソーニャのことをババアと呼んでは殺されかけていたし、ソーニャは事あるごとに俺に求愛するジークハルトをトカゲと呼んでいた。
喧嘩するほどなんとやらというやつだとは思うが、いい加減150年連れ添った国王をトカゲと呼ばれるのは何となく面白くない。
「トカゲで十分です!アレがあなたを一人で外に出すわけがない。それがこうして一人でいるのだから、愛想を尽かして出てきたのでしょう?」
「………ご明察。ソーニャには敵わないなぁ」
何も聞いていないのに全てを見抜いている昔馴染みに、俺はため息をついた。お茶に手を伸ばして、仕方なく事情を話す。
最初は黙って聞いていたソーニャだったが、全ての話を聞き終わるとにっこりと微笑みを浮かべた。うおおお、圧。圧がある。めっちゃこわい。
「あのクソトカゲ、浮気が露見して仕事に逃げるとは語るに落ちた屑っぷりですね」
「だよな!?普通にムカつくよな!?」
「だからと言って家出するあなたの短絡さ加減もどうかと思いますがね。……まぁいいでしょう。丁度使える冒険者を捜していたところです。私の出す条件を呑むなら、冒険者登録を受理してあげましょう」
上から目線の申し出に文句を言いたくなったが、突き付けられた冒険者カードを見たら口をつぐむしかなかった。
俺の血を吸った冒険者カードには、
【リディエール・アルディオン】
HP:1283 MP:756 種族:人間 (竜神と血の婚礼済)
冒険者ランク:S レベル:85 次レベルまでの経験値:20085
称号:竜王妃、アルディオンの白百合、ソードマスター、白銀の狂犬
スキル: 剣8 槍1 弓3 体術5
魔法:炎0 水1 風5 地0 身体強化7 空間制御3
と、俺の個人情報が余すところなく記載されていたからだ。
こんなものを誰かに見られたら一発アウト。即この国の王宮から出迎えが来て、ジークハルトに報せが行くだろう。しかし、冒険者カードを提示せずにダンジョンに入ることはできない。
適当に身分を偽るつもりだったのに、150年でセキュリティがこんなにきつくなってしまうなんて、何だか恨めしい。
「私の言うことを聞いてくれるなら、ダミーの冒険者カードを出してあげないこともありませんが?」
俺は嬉しくなって、カウンターから出てきたソーニャに駆け寄った。
ソーニャと最後に会ったのは、末の娘のエスメラルダが生まれた時以来だから、今から優に80年は経つ。
「ソーニャ!じゃありませんよ、何しに来たんです?私のギルドを吹き飛ばして壊滅させるつもりですか」
ソーニャは容赦なく両手で俺の両頬を捻り上げると、ギリギリと力を込めて引っ張った。いでででで、イタイイタイ!!!!!
こんなことをしたら指輪が発動しそうなものだが、指輪は眩いほど輝いてはいるものの、周囲を破壊することはない。恐らくソーニャがそれ以上の魔力で押さえつけているのだろう。
「ご、ごえんなひゃい……」
「謝って済む問題ですか!あの執着トカゲがいないところを見ると大方のところは察しがつきますが、人としての常識を持ち合わせていないようならすぐさまお空に帰りなさい!」
「ごえんなひゃい~~ゆうひてぇえ」
涙目になって謝る俺に、ソーニャはようやっと気が済んだのかほっぺたを放してくれた。ううう、痛い。まだジンジンするうう。
頬っぺたをさすさすしている俺に、ソーニャは冷たい視線を投げかけると、『ついてこい』と軽く顎で促して背を向けた。
500歳を超えるエルフであるソーニャに逆らえるほどの勇気はない。きっと建物の修理費用も請求されたりするんだろうな……と思うが、こればっかりは完全に俺が悪い。危うく罪のない職員と冒険者を塵にしてしまうところだった。
(あれ?これ、やばくないか?俺、大量殺人未遂犯では??)
『竜王妃、人間の国で大量虐殺!』
『動機は新興ダンジョンの占有か?』
センセーショナルな文字がデカデカと書かれた新聞の一面が頭をよぎり、背中に嫌な汗が流れた。
ほんっっっとうに未遂でよかった。ソーニャ様、マジ女神さま。危うく社会的に死ぬところだった。下手すれば戦争ものだ。
すっかり借りてきた猫のように大人しくなった俺は、通された応接室のソファにちょこんと腰かけた。
ギルドの職員が気を利かせてお茶を出してくれて、その後は部屋に二人きりになる。
ソーニャは紅茶に口を付けて、懇々と説教を始めた。
「あなた、一体何歳になったんです?」
「173です……」
「それほど生きていて、どうしてこんなに迂闊なんですか?竜王妃がこんなところにフラフラ一人で現れて、何かあったらあのトカゲがこの街を灰にするという想像もできないほど頭が箱入りになってしまったんですか?」
「灰になんかならねぇもん」
「ならないわけがないでしょう!あの番至上主義の本能の塊なトカゲが」
「ジークのことトカゲって言うな!」
昔からソーニャとジークハルトは仲が悪く、ジークハルトはソーニャのことをババアと呼んでは殺されかけていたし、ソーニャは事あるごとに俺に求愛するジークハルトをトカゲと呼んでいた。
喧嘩するほどなんとやらというやつだとは思うが、いい加減150年連れ添った国王をトカゲと呼ばれるのは何となく面白くない。
「トカゲで十分です!アレがあなたを一人で外に出すわけがない。それがこうして一人でいるのだから、愛想を尽かして出てきたのでしょう?」
「………ご明察。ソーニャには敵わないなぁ」
何も聞いていないのに全てを見抜いている昔馴染みに、俺はため息をついた。お茶に手を伸ばして、仕方なく事情を話す。
最初は黙って聞いていたソーニャだったが、全ての話を聞き終わるとにっこりと微笑みを浮かべた。うおおお、圧。圧がある。めっちゃこわい。
「あのクソトカゲ、浮気が露見して仕事に逃げるとは語るに落ちた屑っぷりですね」
「だよな!?普通にムカつくよな!?」
「だからと言って家出するあなたの短絡さ加減もどうかと思いますがね。……まぁいいでしょう。丁度使える冒険者を捜していたところです。私の出す条件を呑むなら、冒険者登録を受理してあげましょう」
上から目線の申し出に文句を言いたくなったが、突き付けられた冒険者カードを見たら口をつぐむしかなかった。
俺の血を吸った冒険者カードには、
【リディエール・アルディオン】
HP:1283 MP:756 種族:人間 (竜神と血の婚礼済)
冒険者ランク:S レベル:85 次レベルまでの経験値:20085
称号:竜王妃、アルディオンの白百合、ソードマスター、白銀の狂犬
スキル: 剣8 槍1 弓3 体術5
魔法:炎0 水1 風5 地0 身体強化7 空間制御3
と、俺の個人情報が余すところなく記載されていたからだ。
こんなものを誰かに見られたら一発アウト。即この国の王宮から出迎えが来て、ジークハルトに報せが行くだろう。しかし、冒険者カードを提示せずにダンジョンに入ることはできない。
適当に身分を偽るつもりだったのに、150年でセキュリティがこんなにきつくなってしまうなんて、何だか恨めしい。
「私の言うことを聞いてくれるなら、ダミーの冒険者カードを出してあげないこともありませんが?」
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