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19.伯爵邸への道
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ウィルフレッドと専属契約を結んでから、1週間が経った。
流石にアーネストに纏わりつく有名人の僕が、これまた有名人のウィルフレッドを訪ねていく訳にはいかないので、学園が休みの週末にすることにした。
まあ、体のいいバイトのかわりだよねー。
金曜日になって『何故連絡してこない』とウィルフレッドに詰めよられて、じゃあ明日って頷いた結果だけど、妥当なとこでしょ。
予想外だったのは、ウィルフレッドが場所として伯爵家を指定して来たこと。思いがけず推しの家にお招きされることになって、僕のテンションは最高潮!
やっぱり異世界転生して良かったよ~!!
「妙に嬉しそうだな」
迎えに来たウィルフレッドが、馬車の中で異様な興奮を見せる僕に呆れた顔を見せる。
僕は満面の笑みで頷いた。
「あったり前じゃないですか!ウィルフレッド様のご自宅ですよ!伯爵家のお屋敷なんて初めてです!」
「私の屋敷のどこにそんなに喜ぶ要素があるのか理解に苦しむな。言っておくが、そこまで華美ではないぞ」
「わかってますよ。あ、別に金目の物を狙ってるとか、そういうんじゃないですからね?」
ドロボー目当てだと思われたら堪らない。
僕がそう言うと、アーネストは虚を突かれたような表示をした後、吹き出すように破顔した。
「金目の物ときたか。わかっているさ、君はそんな事をするような子ではない」
うわわわわ、顔が、顔が勝手に赤くなっちゃう!その顔反則すぎるよ~!
間違っても好きな人のライバルキャラにしていい顔じゃない。好きになっちゃうじゃん!てか生まれる前からずっと好きだけど!
「わからないですよ。僕がどんな人間か知らないでしょ。あなたを騙して、大事な物を盗むかも」
赤くなる顔を何とか収めつつ、僕は露悪的なことを言う。
好感度を下げないと危険だ。天然タラシだ。数多のご婦人をそうやって勘違いさせて来たんでしょ!
僕は主人公なんだから!あくまで選ぶのは僕!好感度を下げてフラグを折るなんて朝飯ま……
「わかるさ、君はいい子だからな」
ウィルフレッドは僕の憎まれ口にも動じず、僕の頭を優しく撫でた。
大きな掌で髪をくしゃっとされて、僕の全身がカーッと熱くなる。な、な、なななな。
「さ、触んないでくださいっ!」
僕はフーッと毛を逆立てて、ウィルフレッドの手から逃れた。これは危険!僕が落とされちゃう!
ていうか、まさかそれが狙いなの⁉︎
「ウィルフレッド様が好きなのは、レニオール様ですよね?それなのに、僕にこんな事して、何のつもりですか⁉︎」
「何のつもりと言われてもな。確かに私はレニオール様をお慕いしているが、それとこれとは関係がないだろう?」
関係がないわけあるか!
でも、これでわかった。ウィルフレッドは僕を野良猫扱いしてるんだ!だから、レニオールへの恋心とは矛盾しない。そういうことでしょ!
「お慕いしているなら、ご自分で幸せにして差し上げればいいじゃないですか。アーネスト様といても、レニオール様は幸せになれない。ウィルフレッド様もお分かりでしょう?」
ぶち切れられる覚悟で、僕はウィルフレッドに言った。ウィルフレッドにぶん殴られたら流石にヤバいけど、それならそれで完全にフラグ折れるし、レニオールに『あなたのせいで殴られました』ってアプローチして、ウィルフレッドを意識して貰うのに使える。
レニオールが悪役令息なら意味ないけど、善人には効果あるやつだからね。
だけど、僕の意に反して、ウィルフレッドは少しだけ難しい顔をしただけだった。
そして、僅かに憐れみを乗せた目で僕を見る。
「君にレニオール様の幸せを決める権利などない。勿論、私にもだ。たとえ周囲が不毛だと思おうと、戦い続けることを望む限り、人は折れることはない。私はレニオール様の思う幸福を願うだけだ」
「そうでしょうか?その理屈で言うと、溺れそうな人が泳ごうとする限り手を貸さないってことになります。人は誤った判断をするものですよ。特に恋愛に関してはね。周りの方が状況を冷静に判断できることもあります」
僕は知ってる。アーネストとは、レニオールは絶対に結ばれないことを。
ゲームの強制力に支配されたレニオールを救い出さなくては、彼にはバッドエンドしか待っていない。
そんなこと、この世界に生きるキャラクター達には絶対に理解できないだろうけど、僕だけは知っている。だから、僕がやらなくてはいけないんだ。
「君がそういう考えの持ち主とは、意外だな。ならば何故君はアーネスト様に執着する?」
「それは……」
「アーネスト様はこの国の王太子だ。恋をしても未来はないし、ひととき傍に居たところで、別れが辛くなるだけだ。周りの貴族階級の生徒からも要らぬ恨みを買う。君にとってプラスになることはない。それが傍から見ている私からの判断だ。君も本当はわかっているだろう」
ぐうの音も出ない。それは、本当は僕がアーネストとの関係を学生限りにするつもりなんかさらさらないことをウィルフレッドに隠しているからなんだけど、それを打ち明けたら本気で学園から叩きだされるかもしれない。それは困る。
黙り込んだ僕をどう受け取ったのか、ウィルフレッドは呟くように言った。
「人の心は儘ならないものだな」
それは、本当にね。僕はこの話の終わりを悟って窓の外を見た。
ウィルフレッドの心を変えることはできるだろうか。僕を好きにさせるだけなら、アイテムを使えば簡単なことになのに、どうしたらウィルフレッドがレニオールを口説き落としてくれるかわからない。
(やっぱり、断罪イベントまで待つしかないのかな)
アーネストが完全にレニオールを捨ててしまうまで。そうすればウィルフレッドは捨てられた憐れなレニオールの手を取って、助け上げてくれる……。
僕はそうなってくれることを祈りながら、あとは無言で馬車に揺られた。
流石にアーネストに纏わりつく有名人の僕が、これまた有名人のウィルフレッドを訪ねていく訳にはいかないので、学園が休みの週末にすることにした。
まあ、体のいいバイトのかわりだよねー。
金曜日になって『何故連絡してこない』とウィルフレッドに詰めよられて、じゃあ明日って頷いた結果だけど、妥当なとこでしょ。
予想外だったのは、ウィルフレッドが場所として伯爵家を指定して来たこと。思いがけず推しの家にお招きされることになって、僕のテンションは最高潮!
やっぱり異世界転生して良かったよ~!!
「妙に嬉しそうだな」
迎えに来たウィルフレッドが、馬車の中で異様な興奮を見せる僕に呆れた顔を見せる。
僕は満面の笑みで頷いた。
「あったり前じゃないですか!ウィルフレッド様のご自宅ですよ!伯爵家のお屋敷なんて初めてです!」
「私の屋敷のどこにそんなに喜ぶ要素があるのか理解に苦しむな。言っておくが、そこまで華美ではないぞ」
「わかってますよ。あ、別に金目の物を狙ってるとか、そういうんじゃないですからね?」
ドロボー目当てだと思われたら堪らない。
僕がそう言うと、アーネストは虚を突かれたような表示をした後、吹き出すように破顔した。
「金目の物ときたか。わかっているさ、君はそんな事をするような子ではない」
うわわわわ、顔が、顔が勝手に赤くなっちゃう!その顔反則すぎるよ~!
間違っても好きな人のライバルキャラにしていい顔じゃない。好きになっちゃうじゃん!てか生まれる前からずっと好きだけど!
「わからないですよ。僕がどんな人間か知らないでしょ。あなたを騙して、大事な物を盗むかも」
赤くなる顔を何とか収めつつ、僕は露悪的なことを言う。
好感度を下げないと危険だ。天然タラシだ。数多のご婦人をそうやって勘違いさせて来たんでしょ!
僕は主人公なんだから!あくまで選ぶのは僕!好感度を下げてフラグを折るなんて朝飯ま……
「わかるさ、君はいい子だからな」
ウィルフレッドは僕の憎まれ口にも動じず、僕の頭を優しく撫でた。
大きな掌で髪をくしゃっとされて、僕の全身がカーッと熱くなる。な、な、なななな。
「さ、触んないでくださいっ!」
僕はフーッと毛を逆立てて、ウィルフレッドの手から逃れた。これは危険!僕が落とされちゃう!
ていうか、まさかそれが狙いなの⁉︎
「ウィルフレッド様が好きなのは、レニオール様ですよね?それなのに、僕にこんな事して、何のつもりですか⁉︎」
「何のつもりと言われてもな。確かに私はレニオール様をお慕いしているが、それとこれとは関係がないだろう?」
関係がないわけあるか!
でも、これでわかった。ウィルフレッドは僕を野良猫扱いしてるんだ!だから、レニオールへの恋心とは矛盾しない。そういうことでしょ!
「お慕いしているなら、ご自分で幸せにして差し上げればいいじゃないですか。アーネスト様といても、レニオール様は幸せになれない。ウィルフレッド様もお分かりでしょう?」
ぶち切れられる覚悟で、僕はウィルフレッドに言った。ウィルフレッドにぶん殴られたら流石にヤバいけど、それならそれで完全にフラグ折れるし、レニオールに『あなたのせいで殴られました』ってアプローチして、ウィルフレッドを意識して貰うのに使える。
レニオールが悪役令息なら意味ないけど、善人には効果あるやつだからね。
だけど、僕の意に反して、ウィルフレッドは少しだけ難しい顔をしただけだった。
そして、僅かに憐れみを乗せた目で僕を見る。
「君にレニオール様の幸せを決める権利などない。勿論、私にもだ。たとえ周囲が不毛だと思おうと、戦い続けることを望む限り、人は折れることはない。私はレニオール様の思う幸福を願うだけだ」
「そうでしょうか?その理屈で言うと、溺れそうな人が泳ごうとする限り手を貸さないってことになります。人は誤った判断をするものですよ。特に恋愛に関してはね。周りの方が状況を冷静に判断できることもあります」
僕は知ってる。アーネストとは、レニオールは絶対に結ばれないことを。
ゲームの強制力に支配されたレニオールを救い出さなくては、彼にはバッドエンドしか待っていない。
そんなこと、この世界に生きるキャラクター達には絶対に理解できないだろうけど、僕だけは知っている。だから、僕がやらなくてはいけないんだ。
「君がそういう考えの持ち主とは、意外だな。ならば何故君はアーネスト様に執着する?」
「それは……」
「アーネスト様はこの国の王太子だ。恋をしても未来はないし、ひととき傍に居たところで、別れが辛くなるだけだ。周りの貴族階級の生徒からも要らぬ恨みを買う。君にとってプラスになることはない。それが傍から見ている私からの判断だ。君も本当はわかっているだろう」
ぐうの音も出ない。それは、本当は僕がアーネストとの関係を学生限りにするつもりなんかさらさらないことをウィルフレッドに隠しているからなんだけど、それを打ち明けたら本気で学園から叩きだされるかもしれない。それは困る。
黙り込んだ僕をどう受け取ったのか、ウィルフレッドは呟くように言った。
「人の心は儘ならないものだな」
それは、本当にね。僕はこの話の終わりを悟って窓の外を見た。
ウィルフレッドの心を変えることはできるだろうか。僕を好きにさせるだけなら、アイテムを使えば簡単なことになのに、どうしたらウィルフレッドがレニオールを口説き落としてくれるかわからない。
(やっぱり、断罪イベントまで待つしかないのかな)
アーネストが完全にレニオールを捨ててしまうまで。そうすればウィルフレッドは捨てられた憐れなレニオールの手を取って、助け上げてくれる……。
僕はそうなってくれることを祈りながら、あとは無言で馬車に揺られた。
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