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17.名案、ひらめく

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 これはいけない。エマージェンシー、エマージェンシー。早急なる軌道修正が必要。
 僕は自分のアホさ加減もさることながら、ウィルフレッドの斜め上すぎる思考回路にも困惑していた。
 
 いやだってさ、ウィルフレッドはレニオールに惚れているんだよ⁉︎いや、ハッキリ聞いたわけじゃないけど、完全にアレはライバルに好感度負けてる時の対応だったでしょ。
 それなのに、ちょっと一晩泊めてあげただけでいきなり対応手のひら返しされると、いくら僕でも混乱しますよ!

 いや、でもある意味ウィルフレッドの正直さとか素直さという面では自然な流れと言えるのかな。
 主人公補正で酒場バイトでの出会いイベントと歌姫スチルが出ちゃって、泊める選択肢と好物プレゼントと好感度大アップ真面目選択肢で好感度が爆上がりしたとか?
 ここがBLゲームの世界で、僕は主人公で、彼は攻略対象者なんだから、有り得ない話ではないんだよね。実際、怪しげチートアイテムでアーネストは攻略出来てるわけだから。

 それとも、専属の話自体がレニオールのために僕をアーネストから引き離す動機付けとしてのものであって、僕に対しての特別な感情はないとか?それもウィルフレッドならありそうな話。ていうか、そっちのがしっくり来るかも。
 多分僕はウィルフレッドの中で恵まれない可哀想な子になっちゃったんだろうな。行け好かないビッチと思ってた奴が、実は家族のために健気に働く勤労少年だったとか、これも立派なギャップってやつだし。お金で苦労したことがないウィルフレッドには、僕にも同情の余地ありって思えたのかも。

 だからきっと、ウィルフレッドは僕を経済的に助けてやれば、正しい礼節を弁えてアーネストから身を引くと思ってるんじゃないかな。性善説で生きてそうなウィルフレッドならありえる思考パターンぽい。
 つまり、あの提案は僕のためじゃなく、レニオールのため。そう考えるとものすごく納得できる。

 まあ、多少は歌に興味が湧いたのは嘘じゃないだろうけどさ。
 お邪魔虫の僕が困らないよう、綺麗な手切金と今後身を立てるコネクション提供で将来への援助もするってとこだろう。
  

(ほんと、人がいいんだから……)


 僕みたいなやつ、権力と力づくで無理矢理学園から追い払うなんて簡単なことなのにね。
 学園からいなくなれば、僕は個人的に王太子に接触するなんて絶対に不可能になるし、今ならまだアーネストは僕を自分から探したり、追いかけてきたりはしない。
 うお、そう考えると僕、結構ピンチだね。うかうかしてる場合じゃないかも。

 とにかく、ウィルフレッドもレニオールも最高にいい人達だから、なるべく幸せになるようにしてあげたい。レニオールは今は傷つくかも知れないけど、一生冷遇のままハートレスアーネストのために人生を犠牲にするなんて可哀想すぎる。
 一方的に友情みたいなものを抱いてる僕からしたら、ダメンズに夢中になってる友達を見てる気分で、どうにかして目を覚まさせてあげたいよ。
 ゲームの悪役令息としての強制力であんないい子が不幸になっていいわけない。
 レニオールには、もっと自分を愛し愛される素敵な相手と結ばれて欲しいなぁ。


 その時、僕の頭に天啓が降りてきた。なんだ、なんだよ。めちゃくちゃカンタンなことだったんじゃん!


(ウィルフレッドとレニオール……めちゃくちゃお似合いじゃない⁉︎)


 人間性二重マル通り越して花マルな2人のカップリングなんて、完璧すぎる布陣だ。
 未来の騎士団長と公爵令息三男。無骨なところがあるけど頼り甲斐のあるウィルフレッドと、ちょっと内気で嫉妬深いけど、優しくて慎ましくて王妃教育で旦那の立て方をわかってて、おまけに夜は最高なお嫁さんなんて、なんで最初からこうじゃなかったの?ってぐらいだよ。
 レニオールは見た目はちょっぴり地味でそばかすがアクセントの小動物系だけど、ウィルフレッドとの体格差といい、美形×平凡の溺愛カプとかツボ過ぎるんだけど!
 『王太子に婚約破棄されたけど、騎士様に娶られて溺愛されてます』とか普通に読みたい。
 僕にも家族がいるから、アーネストに失脚されちゃうのは困るけど、デカいパーティーで恥をかかされるぐらいのざまぁは甘んじて受けますよ!
 
 僕の中の同人魂がめちゃくちゃ疼く。くっ、この右手が……!僕に描けもしくは書けと訴えかけてくるよ!!!


 僕は俄然元気になって、やる気が満ち溢れてきた。
 ちょっと目標を見失いそうになったけど、僕は大丈夫です。
 やることは変わらない。せいぜいレニオール視点の悪役として、ふてぶてしくいやらしく、ザマァされる王太子を奪ってみせるぞ~~!



「エイエイオー!!!」


 僕は拳を天に突き上げ、勢いよく気合の掛け声を叫んだのだった。


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