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15.推しをプロデュース
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「話って言っても、僕が話せることなんて大してないと思うんですけどね。でもまあ、せっかくこんな田舎町まで足を運んで下さったんだから、お話しぐらいは伺いますよ」
僕はそう言って、勉強机の椅子に腰を掛けた。
大して長くはならないだろうけど、ウィルフレッドが座ってるのに、見下ろす感じになるのは失礼だから。
ウィルフレッドは暫く難しい顔をしていたけど、そのうちゆっくりと口を開いた。
「君は、何故あの酒場で働いているんだ?」
「何故って……お金のためですよ」
「君は貴族の嫡男だろう?そんな必要は」
「あるんですよ、これが。それも、すっごく切実にね。理由は、これです」
僕はおもむろに立ち上がって、勢いよくドアを開けた。
「きゃあ!」
「うわっ、押すな!」
「そんなこと言ったって、うわわわ!」
ドアを開くと、弟妹達が雪崩のように部屋の中に雪崩れ込んでくる。盗み聞きをしようとしていた罰だ。
「兄ちゃん、ひでーよ!」
「いったーい!早くどいて!」
「ちょっと待てよ、脚が、いてて」
大騒ぎする弟たちに、ウィルフレッドは目を丸くした。そりゃそうだよね、とても貴族の子とは思えないような子供達が、ワラワラいるんだもん。
「すみません、躾がなってなくて。僕がお客様を連れてくることなんかないんで、珍しかったんでしょう。ホラ、お前達は早く食堂に戻って!」
僕が散れ散れと手を振ると、弟達は文句を言いながら階下に降りて行った。全く、油断できないんだから。
ウィルフレッドは、嵐のような出来事に呆気に取られている。
「まあ、こういうわけです。説明するまでもなくなったでしょ?」
「彼らが……君が金を必要とする理由か」
「それだけじゃないですけどね。うちの領地、見たんでしょう?王都に近いから税はそれなりなのに、特別なものなんて何もない。作物で税を納めるしかないような領民が大半です。うちの領は飢えることはないけど、現金がないんですよ」
「そういうことか……」
「ご理解頂けて何よりです。もういいですか?」
「いや。聞きたいことは沢山あるんだが……何から聞いたものかと。すまない」
「別にいいですよ。隠すようなことも特にありませんし。でも、聞いても多分無駄ですよ?結局のところ、あなたの目的は一つだ。僕にアーネスト様を諦めさせること、そうですよね?」
「それは……」
「そして、僕はそれには頷けない。何処まで行っても平行線です」
ウィルフレッドは黙って僕を見つめていた。綺麗な瞳だな、と思いながら僕は見つめ返す。
きっと、めちゃくちゃに嫌われちゃうんだろうなぁ。しょうがないけど。
でも、ウィルフレッドに蛇蝎のように嫌われようと、僕はウィルフレッドを推し続けるからさ。
「君は、本当にアーネスト様を愛しているのか?」
ウィルフレッドの言葉に、僕は固まった。その質問は意外すぎて、予想してなかったな。
「君の先程の言い方では、君は金が必要だからアーネスト様から離れたくないように聞こえる」
げ。ヤバいな、完全に見抜かれた。やっぱウィルフレッド馬鹿じゃないもんな。
これはまずいやつ。金目当てで王太子に近づく貧乏貴族の息子とか碌でない響きしかない。めっちゃ怒られる。
「そ、そういうわけでは。お金は確かに全然ないですけど、好きな人にお金を無心するほど恥知らずではないです。僕はバイトも好きだし、父さんも頑張って金策してくれてますから、なんとか凌げてますしね」
そう、凌げてはいる。一応ね。弟たちの学費はないけど。
僕は何でもないことのようにニコニコして、さもウィルフレッド様の勘違いですよ~って風に笑った。
「君がそう言うならそれでもいい。それなら、私に君を助けさせてくれないか?」
「は?」
え、ちょっと、この人なに言ってんの?僕、ウィルフレッドに嫌われている筈では?
大体、助けるって何をどういう風に??あ、あれか?手切れ金を私が出すぞってこと?
ヤメロ~!こちとら貧乏だから現金出されると断るのがめちゃくちゃ辛いんだからさ!
「昨日君の歌を聞いた。素晴らしい歌だった。斬新な曲もさることながら、声も曲のたびに印象が違って魅力的だ。私に君を後援させてほしい」
当然だ。超絶歌うまな大人気声優の声帯舐めんな。
おまけに、攻略対象に音楽系キャラがいるから、磨けば光る歌の才能はマリクのデフォルトなんだよ。チートだよ、チート。それに、曲だって前世のヒットナンバーばかりなんだから、大多数の支持を得る名曲に決まってる。
「え、えーと、それはウィルフレッド様が僕のパトロンに?」
「有り体に言えばそうだ。私は君の歌のファンということだな。勿論、私が一方的に君を援助するだけで、君からは何も求めないから安心しなさい」
いや、ウィルフレッドがそんな卑劣なことをしない人間なのはよく知ってるけど!
てか、推しに推されてるってどういうこと⁉︎しかもプロデュースまでされそうとか、違う育成ゲーム始まっちゃうよ!しかもちょっと面白そう!
僕はそう言って、勉強机の椅子に腰を掛けた。
大して長くはならないだろうけど、ウィルフレッドが座ってるのに、見下ろす感じになるのは失礼だから。
ウィルフレッドは暫く難しい顔をしていたけど、そのうちゆっくりと口を開いた。
「君は、何故あの酒場で働いているんだ?」
「何故って……お金のためですよ」
「君は貴族の嫡男だろう?そんな必要は」
「あるんですよ、これが。それも、すっごく切実にね。理由は、これです」
僕はおもむろに立ち上がって、勢いよくドアを開けた。
「きゃあ!」
「うわっ、押すな!」
「そんなこと言ったって、うわわわ!」
ドアを開くと、弟妹達が雪崩のように部屋の中に雪崩れ込んでくる。盗み聞きをしようとしていた罰だ。
「兄ちゃん、ひでーよ!」
「いったーい!早くどいて!」
「ちょっと待てよ、脚が、いてて」
大騒ぎする弟たちに、ウィルフレッドは目を丸くした。そりゃそうだよね、とても貴族の子とは思えないような子供達が、ワラワラいるんだもん。
「すみません、躾がなってなくて。僕がお客様を連れてくることなんかないんで、珍しかったんでしょう。ホラ、お前達は早く食堂に戻って!」
僕が散れ散れと手を振ると、弟達は文句を言いながら階下に降りて行った。全く、油断できないんだから。
ウィルフレッドは、嵐のような出来事に呆気に取られている。
「まあ、こういうわけです。説明するまでもなくなったでしょ?」
「彼らが……君が金を必要とする理由か」
「それだけじゃないですけどね。うちの領地、見たんでしょう?王都に近いから税はそれなりなのに、特別なものなんて何もない。作物で税を納めるしかないような領民が大半です。うちの領は飢えることはないけど、現金がないんですよ」
「そういうことか……」
「ご理解頂けて何よりです。もういいですか?」
「いや。聞きたいことは沢山あるんだが……何から聞いたものかと。すまない」
「別にいいですよ。隠すようなことも特にありませんし。でも、聞いても多分無駄ですよ?結局のところ、あなたの目的は一つだ。僕にアーネスト様を諦めさせること、そうですよね?」
「それは……」
「そして、僕はそれには頷けない。何処まで行っても平行線です」
ウィルフレッドは黙って僕を見つめていた。綺麗な瞳だな、と思いながら僕は見つめ返す。
きっと、めちゃくちゃに嫌われちゃうんだろうなぁ。しょうがないけど。
でも、ウィルフレッドに蛇蝎のように嫌われようと、僕はウィルフレッドを推し続けるからさ。
「君は、本当にアーネスト様を愛しているのか?」
ウィルフレッドの言葉に、僕は固まった。その質問は意外すぎて、予想してなかったな。
「君の先程の言い方では、君は金が必要だからアーネスト様から離れたくないように聞こえる」
げ。ヤバいな、完全に見抜かれた。やっぱウィルフレッド馬鹿じゃないもんな。
これはまずいやつ。金目当てで王太子に近づく貧乏貴族の息子とか碌でない響きしかない。めっちゃ怒られる。
「そ、そういうわけでは。お金は確かに全然ないですけど、好きな人にお金を無心するほど恥知らずではないです。僕はバイトも好きだし、父さんも頑張って金策してくれてますから、なんとか凌げてますしね」
そう、凌げてはいる。一応ね。弟たちの学費はないけど。
僕は何でもないことのようにニコニコして、さもウィルフレッド様の勘違いですよ~って風に笑った。
「君がそう言うならそれでもいい。それなら、私に君を助けさせてくれないか?」
「は?」
え、ちょっと、この人なに言ってんの?僕、ウィルフレッドに嫌われている筈では?
大体、助けるって何をどういう風に??あ、あれか?手切れ金を私が出すぞってこと?
ヤメロ~!こちとら貧乏だから現金出されると断るのがめちゃくちゃ辛いんだからさ!
「昨日君の歌を聞いた。素晴らしい歌だった。斬新な曲もさることながら、声も曲のたびに印象が違って魅力的だ。私に君を後援させてほしい」
当然だ。超絶歌うまな大人気声優の声帯舐めんな。
おまけに、攻略対象に音楽系キャラがいるから、磨けば光る歌の才能はマリクのデフォルトなんだよ。チートだよ、チート。それに、曲だって前世のヒットナンバーばかりなんだから、大多数の支持を得る名曲に決まってる。
「え、えーと、それはウィルフレッド様が僕のパトロンに?」
「有り体に言えばそうだ。私は君の歌のファンということだな。勿論、私が一方的に君を援助するだけで、君からは何も求めないから安心しなさい」
いや、ウィルフレッドがそんな卑劣なことをしない人間なのはよく知ってるけど!
てか、推しに推されてるってどういうこと⁉︎しかもプロデュースまでされそうとか、違う育成ゲーム始まっちゃうよ!しかもちょっと面白そう!
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