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3.衝撃の事実

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 僕はウィルフレッドに連れられて、寮の傍の遊歩道に着いた。秋になるとイチョウがきれいで学園のカップルにも人気のスポットだ。
 僕はその話を聞いた時から、秋になったら絶対銀杏を拾いに行こうと決めている。沢山集めて下処理して、串に刺して網で焼けば、屋台で売れる。元手がタダなのでこれはやるっきゃないでしょ。
 ついでにプチトマトをベーコンで巻いたやつも焼こうかなぁ。

 いやいやいや、トマトベーコンで巻いてる場合じゃないでしょ。僕は王太子妃になるんだってば。
 この怪しげな占い屋から仕入れた香水やハンカチやクッキー、バレンタインチョコ、アーネストの正解誕プレの『古の書』とかを使ってさ。
 まだ食べ物はあげられそうにないから、今のところ香水とハンカチだけだけど、好感度は着実に上がって来てるし、焦らなくても大丈夫でしょ。
 クッキー5回も食べさせれば断罪イベは固いし、夏休みにデートイベ起こして、10月にアーネストのバースデーイベと誕プレでゴール一直線だよ!

 『君アル』のゲーム期間は恐ろしいことに1年なんだよね。普通に考えれば卒業まで結婚なんかしないでしょって感じなんだけど、いきなり飛んでエンディングで卒業しちゃってる。シナリオォ……。
 まあ、そうでないと3年のキャラが困るし、長くてダレるし開発も大変っていう大人の事情はわかるけどさ。
 そういうとこ差っ引いても楽しめたから、そこはいいゲームと思うんだけど、リアルに生きてみると色々ツッコミどころが満載なんだよね。

「………ろ」

「えっ?」

「おい、聞いているのか?」

「あっ、ゴメン。ちょっと考え事してて、聞いてなかった」
  
 なんてことだ!せっかく推しと二人きりでいるっていうのに!貧すれば鈍す。長年貧乏してると、いつもあくせくしてるから余裕がなくなって行くんだね。かなぴよ。
 僕があっけらかんと言うと、ウィルフレッドは小さく息を吐いた。

「アーネスト様に近付くのはやめろ、と言ったんだ」

 僕はぱちくり、と目を瞬かせた。レニオールならいざ知らず、ウィルフレッドにまさかそんなことを言われるとは思わなかったからさ。
 だって、ウィルフレッドは直接レニオールにもアーネストにも接触することはないはず。ぶっちゃけ、かんけーない。
 確かに男爵令息が王太子に纏わりついてるのを快く思わない輩はいるだろうけど、現婚約者のレニオールだってそんなに評判はよくない。
 多分レニオール以外から嫌がらせがきてないのは、まず僕にレニオールを蹴落とさせるという嫌な役目を押し付けて、それから僕からアーネストを奪えばいいと思ってるんじゃないかな。僕はちょっと見た目が良いだけのしがない男爵令息だから、顔でも傷つければ心は離れるかもしれないけど、ノクティス公爵家に喧嘩を売るのは恐ろしいもんね。ま、黙ってやられる僕じゃないですけど。

「なんで、あなたがそんなことを?」

 僕が問い返すと思わなかったのか、ウィルフレッドは軽く目を瞠る。アーネストの前ではちょいぶりってるけど、タダで媚びるほど安くないからね。

「アーネスト様には婚約者がいる。君のしていることは恥ずかしいことだ」

 人の事情も知らないで、ウィルフレッドは正しいことを言った。正論が一番腹が立つ。そんなの僕にだってわかってるけど、そうしないとどうしようもないんだからしょうがないでしょ。
 でもね、僕は怒らない。だってウィルフレッドだもん。堅物で、融通がきかなくて、ちょっとメンタル弱いけど誠実な騎士見習い。ビジュアル◎のドンピシャ推し。CVもイチオシの声優さんとくれば、推さない理由がない。
 だから、ニコニコして彼に答えてあげた。

「人を好きになるのは、あなたにとって恥ずかしいことなんだ」

「それとこれとは関係がないだろう!」

「関係あるよ。だって僕は、アーネスト様が好きで『少しでもお傍に居られたらいいな』とは思うけど、嫌がってるのに無理を通したりしたことは一度もないよ。僕がお傍にいることを許されてるのは、全てアーネスト様のご意志なわけ。そうでしょ?」

「………それは……」

 痛いところを突かれたのか、ウィルフレッドが口ごもる。頭はいいのに、堅物だから詭弁にも弱いんだよね。
 僕は優位を確信して一気に捲し立てた。伊達にイヤイヤ期の弟の世話してきてないんだよ。相手の主張を煙に巻くのなんて朝飯どころかおやつよりイージーだ。

「人を好きになるのは誰しもに平等に与えられた権利でしょ?僕にもアーネスト様にも、その権利はないとあなたが決めるわけ?僕はレニオール様をないがしろにして取って代わろうなんて烏滸がましことは思ってない。ただ、この学生の間だけ、自分の恋心を許してあげたいだけじゃない。それが他人の目にどう映ろうと、僕は負けないよ」

 うーん、我ながらダウト!でも、現時点でそれを確かめる術はないしね。後で何か言われても、アーネスト様がまさかそんな決断なさるとはーみたいな顔しとけばよし。
 僕への好意ゆえに牽制してきてくれたウィルフレッドには悪いけど、ここですっぱりフラグ折っとかないと、万一僕が揺らいだりするとまずいんで。ゴメンね、最終的には君の幸せのためでもあるんだよ。

「……諦める気はないということだな」

「それは、あなたが決めることじゃないからね」

「―――――――思い上がるなよ。今に化けの皮をはがしてやる。レニオール様はたおやかで慎み深く、王太子妃にふさわしいお方だ。お前などに負けはしない」

「えっ」

 ウィルフレッドは言いたいことだけ言うと、そのまま立ち去ってしまった。でも、僕も混乱してそれどころじゃない。

(え?今、なんてった?ウィルフレッドが僕を牽制したのは、僕に好意があるからじゃなくて、レニオールのため????つまり、ウィルフレッドが好きなのは………)




「はあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!??????」





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