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番外編

王子殿下の悩み 前編

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 僕の父上は、ちょっとヘン。
 この国の王太子で、超絶美形で、頭も良くて、仕事も物凄く出来るけど、変なんだ。

 それを、国中の人たちに知られてる。
 それが、ボクの目下の悩み。


 父上は、アーネスト・ハイランドという。嘘かホントかは知らないけど、昔は物凄くクールで自制的な人だったんだって。
 それで、子供のボクでも引いちゃうぐらい執着してる母上にも、冷たくしてたとも。
 これに関しては、ボクは完全にウソだと思う。あの父上が、母上に付き纏わずにいられるなんて、あり得ないもの。

 ボクの父上ときたら、もう結婚して6年も経つのに、未だに新婚気分が抜けなくて、そりゃあもうイチャイチャイチャイチャ……。
 母上は呆れて苦言を呈すけど、聞いちゃいない。
 夫婦仲がいいのは結構だけど、あんな父親の姿を見せられるのは割と複雑だよ。

「マナリス、こっちおいで」

 母上が手招きして呼ぶので、ボクは喜んで母上に近寄った。ほんとは走りたいぐらいだけど、王族はそんな落ち着きのない動きをしちゃいけないんだって。
 ボクが母上に頭を撫でて貰っていると、廊下の端から父上が走ってきて、ボクごと母上に抱き付いている。く、苦しい~。
 王族の筆頭にあたる父上が、こんなにも堂々と全力ダッシュしてくるんだから、礼儀作法も全然説得力がない。アレでも王太子になれるのに?って思うよね。
 
「アーネスト~~……チェストォォォ!!!」

 母上は眉間に皺を寄せて唸り、父上の頭上に思い切り手刀を叩き込んだ。
 父上はけして母上から離れようとせず、黙って手刀を受けている。

「なんでぶつのレニたん⁉︎ひどくない⁉︎」

「うるさい!また仕事サボって!大体、廊下は走るな、奇行に走るな、情けない姿を人前に晒すな!マナリスの教育に悪いだろうが!」

「誤解だよレニたん!サボってないし!ちゃんと今日のノルマは片付けたから!それに、両親が仲良しな方が子供だっていいに決まってるじゃない!」

 常識の範囲なら、そうなんだけどねー。父上のは、ちょっと度を越してるから。
 最近では礼儀作法のシリル先生も、父上に叫び声をあげてる。

「お前が反面教師にしかならなくて困るって、シリルからも苦情が来てるんだ!少しは父親の威厳とかそういうのを見せろ!」

 母上、そんな無茶な。今更手遅れだよ。
 この期に及んで真面目ぶったところで、名誉の回復は不可能です。

「父親の威厳かぁ……わかった、レニたんが言うなら」

 父上は、しぶしぶって感じで了承した。よくわかんないけど、威厳ってそんな『ハイわかりました』って言って出るもの??

「よし、マナリス。明日から次期王太子教育始めよっか」

「えっ」

 父上がまだ王太子のままなのに、次期王太子って。ボクが困惑していると、母上は優しく頭を撫でてくれる。

「大丈夫、最初はそんなに難しいことをするわけじゃないから。だよな?アーネスト」

「………うん!遊びみたいなもんだよ!へーきへーき」

 その間、なんなの!?こわいよ母上!たすけて!
 ボクがあからさまに不安そうな目で見たからか、母上もジトッとした目で父上を見る。

「シリルについててもらって、報告させるからな」

「だ、大丈夫だよぉ……疑り深いなぁ」

 良かった。シリル先生がついててくれるなら、信用できる。母上の監視も同然だし、父上も無茶はできないと思う。
 むしろ、最初は何させられるところだったのかな。普通にこわい。
 父上って、基本的にものすごくお仕事が出来る人らしいんだけど、その分他人への仕事の投げ方もすごいらしくて、いつも部下の人が悲鳴を上げてる。耐えかねて母上の足元に這い蹲ってる人を見たのも、一度や二度じゃない。
 そういうことがあると、母上はこっぴどく父上を叱ってお仕置きするんだけど、また暫くすると同じことが起こってるんだよね。

 父上ってば、ほんと正直すぎる。ボクには基本的には優しいし大事にしてもらっているけど、父上にとっての一番は断トツで母上って決まってるんだ。
 ボクだって父上より母上の方が好きだから、しょうがないとは思うけどね。

 そんなこんなで、ボクは明日から次期王太子教育っていうのを始めることになった。
 ほんとに、大丈夫なのかなあ……。

 一抹の不安を抱えつつ、僕は溜息を吐いたのだった。

 
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