上 下
71 / 76
番外編

ひめごとびより 19日目

しおりを挟む
 それから、アーネストを味方に付けた俺は、父上に学園に復帰できるよう直談判した。
 当然全員にめちゃくちゃ反対されたけど、最終的には色々と条件をつけられつつも登校再開できることになって、俺は再び学園に返り咲くことになったんだ。

 学園では、俺がアーネストの子を身籠っていることが正式に発表され、俺に万一のことがないよう配慮するよう全生徒に『お願い』という形で周知させることになった。
 あくまでも強制力のない個人の良心に甘えるになってはいるけど、まあ実質命令だよなー。
 本気で怪我でもさせたら普通に罰を受けるし、そうでなくても何かあった場合、今はお咎めなしになろうが、卒業後にどんな未来が待っているかはお察しだ。

 そんなさわらぬ神になんとやらな爆弾状態で学園に戻るのは申し訳なくはあったけど、殆どの生徒は俺の復帰を喜んでくれて、妊娠のことに関しても祝福してくれた。
 
 衝撃的というか、案の定というか、アーネストはいきなり俺のクラスに無理矢理自分を捻じ込んでいた。
 教室まで送ってくれたと思いきや、しれっと俺の隣の席に座って授業受け始めた時は、頭が痛くなったよ。
 マリクは爆笑してるし、クラスメイトは然もありなんと頷きながら生暖かい目で見て来るし、俺は恥ずかしくて身を縮めるしかない。
 アーネストはべったり俺に張り付きまくり、比喩じゃなく一時たりとも側を離れなかった。
 あのなぁ……お前は一応、王太子なんだぞ?守られて生活するはずの立場なんだが??




 放課後になり、生徒会で働くアーネストの膝に乗せられながら大人しく仕事ぶりを見ていたら、数人の生徒会役員に泣かれてしまった。ど、どうした?
 マリク曰く、淡い恋心を粉砕されたらしい。アーネスト、モテるからな。ごめんな。
 
「すみません、ほんとにただ居るだけになっちゃって」

  俺が謝ると、みんなは首を激しく横に振って、とんでもないと言い募った。

「会長の不機嫌爆弾を制御して下さるだけで、女神様です」

「会長が全部悪いんです」

「レニオール様は、お身体のことだけ考えていてください」

「具合が悪くなったら、無理しないですぐにお休み下さい」

 何気に、アーネストの評判が悪くなってないか?
 扱いが明らかに雑になってるのを感じる。
 アーネスト本人は全く気にせず、むしろ上機嫌で見る見るうちに書類の山を潰していってるんだけどさ。
 仕事ができる男は、やっぱりいいよなぁ。

 マリクがちょっと尊敬の眼差しでアーネストを見てる俺に気付いて、猫みたいに目を細めてニヤァっと笑う。
 そして、口をパクパクさせて、俺に何か言おうとしているのがわかった。

(えーと……そ い つ ほ め ろ……?そいつって、アーネストのことだよな?アーネストを褒めればいいのか?)

 マリクとアイコンタクトして意図を確認すると、マリクは力強く頷く。
 なんだか分からないけど、マリクが言うならきっと何か意味があるんだろう。やってみるとするか。

「アーネスト、すごいなー。仕事できる男ってカッコいいよなー」

 これでいいのか?とマリクをちらりと見ると、マリクは眉を寄せてなんとも言えない表情を浮かべてる。なんで!

「レニたんに褒めてもらうと、めっちゃやる気が沸いてくる!もっと褒めて褒めて!」

 マリクの合格点はもらえなかったけど、アーネストは大喜びで手の動きを早めた。ただでさえ高速だったのに、もう目で追えないぐらいの速さになってる。俺は楽しくなって、パチパチ手を叩いた。
 すごいぞ、アーネスト。つよいぞ、アーネスト。なんかそういう怪獣みたい。



「お疲れ様です、皆さん。お茶を淹れましたから、休憩しましょう」

 暫くすると、シリルがお茶とお菓子を用意してくれて、みんなでワイワイお茶を飲みながらお喋りした。
 俺がいない間の学園のこととか、色々と面白い話がたくさん聞ける。
 やっぱり、色々反対や不安もあったけど、学校に戻ってきてよかったなぁ。こんな楽しい時間、きっと学園にいる間にしか味わえないと思う。

「そういえばさぁ、僕、卒業したらレニオール付きの側仕えになることになったんだよね」

「ええっ!?ズルイ!僕も一緒にやりたい~!!」

 話の流れでマリクが打ち明けると、シリルは羨望の声を上げた。おいおい……。

「いや……シリルはダメでしょ。公爵令息が使用人働きなんて聞いたことないよ」

 至極当然のことを言われて、むぅう、とシリルは頬を膨らませて拗ねる。
 そういえば、シリルは卒業したらどうするんだろうか。

「シリルは進路って決まってないの?」

「僕はお父様から領地管理を手伝ってほしいって言われてるけど、できれば王都から離れたくないんですよね。宮仕えの道も考えてるんですけど、父上が良い顔しないからなかなか決まらないんです」

 なるほど。多分ラートン公爵はシリルを一緒に領地経営してくれるいい人と結婚させるつもりなんだろうな。
 俺がずっとアーネストとうまくいってなかったから、ワンチャン狙いで今までフリーだったけど、普通シリルの年で婚約者がいないなんてあり得ない。
 シリルの性格的に、官吏になったらバリバリ働いて、暫くは自由に過ごしたがるんじゃないかな。そうなると、結婚もまだ先の話になるだろう。公爵的にはそれが喜ばしくないんだろうなぁ。

「大方お見合いの吊書きが山積みにされてるんじゃないか?」

「わかります?全く、今更そんなこと言われたって困りますよね」

 アーネストの指摘に、シリルは実家の見合い話を思い出したのか、鼻息を荒くした。
 シリルには可哀想だけど、ラートン公爵の言い分もわからくはないからなぁ。

「シリルは具体的に縁談の何がイヤなわけ?」



 
しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います

BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生! しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!? モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....? ゆっくり更新です。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

身代わりの花は甘やかに溶かされる

天宮叶
BL
隣国の皇帝から兄に婚姻の申し入れが舞い込んだ。しかし兄は、隣国に嫁ぐことを頑なに嫌がり、困り果てた父は弟である僕を兄の身代わりとして嫁がせることに……。 ※最初は少し受け君が不憫ですが、最終的には糖度過多になる予定です ※独自のオメガバース設定があります ※ストーリー重視で書いておりますのでシリアス回多めになる予定です 10/17 BL.2位ありがとうございます✨ 10/16 女性向けhotランキング.6位ありがとうございます✨

お飾り王婿ライフを満喫しようとしたら、溺愛ルートに入りました?

深凪雪花
BL
 前世の記憶を取り戻した侯爵令息エディ・テルフォードは、それをきっかけにベータからオメガに変異してしまう。  そしてデヴォニア国王アーノルドの正婿として後宮入りするが、お飾り王婿でいればそれでいいと言われる。  というわけで、お飾り王婿ライフを満喫していたら……あれ? なんか溺愛ルートに入ってしまいました? ※★は性描写ありです ※2023.08.17.加筆修正しました

処理中です...