【完結】俺を散々冷遇してた婚約者の王太子が断罪寸前で溺愛してきた話、聞く?

ゴルゴンゾーラ安井

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番外編

ひめごとびより 11日目

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 アーネストが公爵家にやってきてから、公爵家は大騒ぎだった。
 突然暫くお世話になりますと荷物を纏めてやって来たアーネストに、父上は青筋を立て、兄上は剣まで持ち出して決闘騒ぎを起こす始末。
 結局血を見そうになって俺が耐えきれず『もうやめてー!』って叫んで体調崩してしまったから、家族全員真っ青になって、目が覚めたら収まるとこに収まっていた。

 公爵家への出入りを許されたアーネストは、毎日俺の部屋に入り浸って、しきりにお腹を気にしてくる。
 俺は編み物をしながら好きにさせてるんだけど、様子を気にして誰かしらが入れ替わり立ち替わり顔を見せてくれるんだよな。

 俺の懐妊が正式に発表されて、屋敷には沢山のお祝いの書状や贈り物が毎日大量に届いてて、メイドや侍従たちが一生懸命中を開封しては目録にしたためてくれてるんだけど、後でお礼状を書かないとだなぁ……そう思うとちょっと憂鬱。
 という話をしたら、アーネストが自分が書くと言い出して、俺は仰天した。

 アーネストは、2人の子の懐妊祝いなんだからどっちが書いたっていいはずと言い張ってたけど、これはアーネストじゃなく公爵家宛に届いたものなんだから、俺か母上、もしくは父上でないとおかしい。
 これから王太子妃としてちゃんとやりますよという形を見せるためにも、俺が書くべきだと言ったら、アーネストはめちゃくちゃ不満そうな顔してた。



「アーネストはさー、貴族どもに『俺はレニたん溺愛のモンペだよ』って言いたいんだよねー」

 屋敷に訪ねて来てくれたマリクが、お菓子を摘みながら言った。

「モンペとは何だ?」

「えっとねー、我が子を守るためならどんな些細なことでも過剰に牙を剥く社会的に迷惑な存在かな」

「親として当然のことではないのか?」

「学芸会の主役がうちの子じゃない!うちの子は傷付きました!って学校に圧力かける親だよ?」

 ウヘェ。言いがかりじゃないか。俺とウィルフレッドは2人して同じ表情を浮かべた。
 そんなのが王様になるなんて……もうこれ何回思ったかわからないぐらいだよ。頼むから未来を信じさせてくれ、アーネスト。

「ま、王宮の連中もみんなわかってるんでしょ。だから、唯一手綱を握ってくれそうなレニオールと仲良くなっておきたいんだよ。で、アーネストはそれに対して『よく分かってんじゃん、交友関係把握してるからね、変な面倒ごと持ち込んだら潰すぞ』って態度を見せたいと」

「ふわぁ……」

 マリク、ほんとすごいな。アーネストの思考や言動を、大体マリクは正しく把握してる。
 頭いいやつ同士だからかな。何だかくやしい。
 いつかは、アーネストのことを一番わかってるのは俺になりたいな。そのためにも頑張ろう。

「君は、アーネスト様のことをよく理解しているんだな」

「やだ!ウィルフレッド、嫉妬?大丈夫だよ!僕が一番理解してるのは、あなただから」

「マリク……」

「ウィルフレッド……」

 2人がめっちゃいい空気出してる。俺、ここにいるよ~!
 去年の武芸大会で優勝したウィルフレッドがマリクにプロポーズして以来、婚約中の2人はラブラブだ。
 自称親友の俺は、いきなり恋人に取られちゃったみたいでちょっと淋しいけど、こうして妊娠中の俺のために料理を作りに来てくれたりする。
 ウィルフレッドは、何故かついてくるけど、いなくてもいいんだよ!ぷすー。


「そういや、そのモンペの姿が見えないけど、どしたの?」

「知らない。なんか温室に籠って怪しげなことしてる。筆持ってウロウロ……絵でも描くつもりかなぁ」

「ははあー、温室で筆をね。ま、何やろうとしてるかは大体想像つくけど、うまくいくといいねぇ」

 むむむ、やっぱりマリクにはアーネストのやろうとしてることがわかるんだ。普通にくやしい!
 俺がぶすくれていると、マリクが器用に二本の細い棒で黄色い食べ物を摘まんでツンツンと唇をつついた。
 食べ物に釣られた訳じゃないけど、せっかくマリクが作って来てくれたんだから、食べないわけにはいかない。

 いつもはマリクは、料理長に教えながらここで料理を作ってくれるんだけど、今日はお弁当を作って来てくれていた。黒くて四角の箱に、色とりどりのおかずが詰められていて、見た目にも美しい。しかも、それが何段にもなっているんだから、ほんとにすごいよなぁ。
 料理上手で頭が良くて、明るくて美人なマリクをお嫁さんにできるんだから、ウィルフレッドは幸せ者だ。
 
 パクリ、と差し出された黄色いものに喰い付くと、見た目に反して少ししょっぱくて、なのにほんの少し甘くて、じゅわっと美味しい汁が沢山溢れ出てくる。な……なんだこれ!食べたことないけど、めちゃくちゃおいしい~~!

「おいしい?レニ」

 俺は問われるままにこくこくと頷いた。おいしい。めちゃくちゃおいしい。多分玉子料理だと思うけど、何が入ってるのか見当もつかない。

「これはねー、だし巻きって言うんだよ。次は何食べたい?筑前煮と、唐揚げと、アボカドのサラダとエビチリ、エビマヨ、あとミートボール。おにぎりは鮭とおかかと、変わり種のオムライスがあるよ」

 全部聞いたことのないメニューだけど、端々にトマトや飾り切りのキュウリなんかが入っていて、かなり凝っている。これ全部手作りとか、マリクすごすぎだろ。
 とりあえずひとつずつお皿に取ってもらって食べたけど、どれもめちゃくちゃ美味しかった。
 ウィルフレッドも食べながら美味しそうに目を細めている。

「相変わらずマリクの弁当は美味いな」

「そう?へへっ、ありがと。そう言って貰えると作り甲斐あるなぁ」

「この間の遠征の時に持たせてくれた弁当を見られて、騎士団の同期に羨ましがられた。恋人の手作りだと言ったら、石を投げられそうになったぞ」

 ウィルフレッド……空気読めよ。騎士団の遠征なんて、皆調理できないからただ焼くか煮ただけの味気ない料理か、携帯食が殆どなんだぞ。そこに初日とはいえこのレベルの弁当を持ちこむとは、首絞められても文句言えない。
 俺はひたすらにフォークでおかずを口に運んでは、幸せを噛み締めた。このエビチリとかいうやつ、うま、うま。
横にあるエビマヨとかいうやつも、うま、うま……。もうマリクは店を出したらいいと思う。お金出すよ。



「レニたん、ちょっと食べ過ぎじゃない?」

 いつの間にか戻っていたアーネストに後ろから話し掛けられ、俺はエビマヨを器官に引っかけた。ゲホゲホ、く、くるしい。

「ああっ、レニたん!!大丈夫?ごめんね、いきなり話し掛けたから」

 ほんとだよ。食べてる時にいきなり脅かすんじゃない。喉に詰まったらどうしてくれる。
 メイドが淹れたお茶を飲んで、暫くゴホゴホいっていたけど、数分も経てば喉の不快感は治まった。はぁ。

「ごめんね、レニたん」

 うるうる、とアーネストが跪いて俺を見上げて来たので、俺は仕方なく頭を撫でてやる。
 お久しぶりのワンワンモードだ。

「ていうかさあ、アーネストってば、レニの食事量まで管理してんの?」
 
 
 

 
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