【完結】俺を散々冷遇してた婚約者の王太子が断罪寸前で溺愛してきた話、聞く?

ゴルゴンゾーラ安井

文字の大きさ
上 下
63 / 76
番外編

ひめごとびより 11日目

しおりを挟む
 アーネストが公爵家にやってきてから、公爵家は大騒ぎだった。
 突然暫くお世話になりますと荷物を纏めてやって来たアーネストに、父上は青筋を立て、兄上は剣まで持ち出して決闘騒ぎを起こす始末。
 結局血を見そうになって俺が耐えきれず『もうやめてー!』って叫んで体調崩してしまったから、家族全員真っ青になって、目が覚めたら収まるとこに収まっていた。

 公爵家への出入りを許されたアーネストは、毎日俺の部屋に入り浸って、しきりにお腹を気にしてくる。
 俺は編み物をしながら好きにさせてるんだけど、様子を気にして誰かしらが入れ替わり立ち替わり顔を見せてくれるんだよな。

 俺の懐妊が正式に発表されて、屋敷には沢山のお祝いの書状や贈り物が毎日大量に届いてて、メイドや侍従たちが一生懸命中を開封しては目録にしたためてくれてるんだけど、後でお礼状を書かないとだなぁ……そう思うとちょっと憂鬱。
 という話をしたら、アーネストが自分が書くと言い出して、俺は仰天した。

 アーネストは、2人の子の懐妊祝いなんだからどっちが書いたっていいはずと言い張ってたけど、これはアーネストじゃなく公爵家宛に届いたものなんだから、俺か母上、もしくは父上でないとおかしい。
 これから王太子妃としてちゃんとやりますよという形を見せるためにも、俺が書くべきだと言ったら、アーネストはめちゃくちゃ不満そうな顔してた。



「アーネストはさー、貴族どもに『俺はレニたん溺愛のモンペだよ』って言いたいんだよねー」

 屋敷に訪ねて来てくれたマリクが、お菓子を摘みながら言った。

「モンペとは何だ?」

「えっとねー、我が子を守るためならどんな些細なことでも過剰に牙を剥く社会的に迷惑な存在かな」

「親として当然のことではないのか?」

「学芸会の主役がうちの子じゃない!うちの子は傷付きました!って学校に圧力かける親だよ?」

 ウヘェ。言いがかりじゃないか。俺とウィルフレッドは2人して同じ表情を浮かべた。
 そんなのが王様になるなんて……もうこれ何回思ったかわからないぐらいだよ。頼むから未来を信じさせてくれ、アーネスト。

「ま、王宮の連中もみんなわかってるんでしょ。だから、唯一手綱を握ってくれそうなレニオールと仲良くなっておきたいんだよ。で、アーネストはそれに対して『よく分かってんじゃん、交友関係把握してるからね、変な面倒ごと持ち込んだら潰すぞ』って態度を見せたいと」

「ふわぁ……」

 マリク、ほんとすごいな。アーネストの思考や言動を、大体マリクは正しく把握してる。
 頭いいやつ同士だからかな。何だかくやしい。
 いつかは、アーネストのことを一番わかってるのは俺になりたいな。そのためにも頑張ろう。

「君は、アーネスト様のことをよく理解しているんだな」

「やだ!ウィルフレッド、嫉妬?大丈夫だよ!僕が一番理解してるのは、あなただから」

「マリク……」

「ウィルフレッド……」

 2人がめっちゃいい空気出してる。俺、ここにいるよ~!
 去年の武芸大会で優勝したウィルフレッドがマリクにプロポーズして以来、婚約中の2人はラブラブだ。
 自称親友の俺は、いきなり恋人に取られちゃったみたいでちょっと淋しいけど、こうして妊娠中の俺のために料理を作りに来てくれたりする。
 ウィルフレッドは、何故かついてくるけど、いなくてもいいんだよ!ぷすー。


「そういや、そのモンペの姿が見えないけど、どしたの?」

「知らない。なんか温室に籠って怪しげなことしてる。筆持ってウロウロ……絵でも描くつもりかなぁ」

「ははあー、温室で筆をね。ま、何やろうとしてるかは大体想像つくけど、うまくいくといいねぇ」

 むむむ、やっぱりマリクにはアーネストのやろうとしてることがわかるんだ。普通にくやしい!
 俺がぶすくれていると、マリクが器用に二本の細い棒で黄色い食べ物を摘まんでツンツンと唇をつついた。
 食べ物に釣られた訳じゃないけど、せっかくマリクが作って来てくれたんだから、食べないわけにはいかない。

 いつもはマリクは、料理長に教えながらここで料理を作ってくれるんだけど、今日はお弁当を作って来てくれていた。黒くて四角の箱に、色とりどりのおかずが詰められていて、見た目にも美しい。しかも、それが何段にもなっているんだから、ほんとにすごいよなぁ。
 料理上手で頭が良くて、明るくて美人なマリクをお嫁さんにできるんだから、ウィルフレッドは幸せ者だ。
 
 パクリ、と差し出された黄色いものに喰い付くと、見た目に反して少ししょっぱくて、なのにほんの少し甘くて、じゅわっと美味しい汁が沢山溢れ出てくる。な……なんだこれ!食べたことないけど、めちゃくちゃおいしい~~!

「おいしい?レニ」

 俺は問われるままにこくこくと頷いた。おいしい。めちゃくちゃおいしい。多分玉子料理だと思うけど、何が入ってるのか見当もつかない。

「これはねー、だし巻きって言うんだよ。次は何食べたい?筑前煮と、唐揚げと、アボカドのサラダとエビチリ、エビマヨ、あとミートボール。おにぎりは鮭とおかかと、変わり種のオムライスがあるよ」

 全部聞いたことのないメニューだけど、端々にトマトや飾り切りのキュウリなんかが入っていて、かなり凝っている。これ全部手作りとか、マリクすごすぎだろ。
 とりあえずひとつずつお皿に取ってもらって食べたけど、どれもめちゃくちゃ美味しかった。
 ウィルフレッドも食べながら美味しそうに目を細めている。

「相変わらずマリクの弁当は美味いな」

「そう?へへっ、ありがと。そう言って貰えると作り甲斐あるなぁ」

「この間の遠征の時に持たせてくれた弁当を見られて、騎士団の同期に羨ましがられた。恋人の手作りだと言ったら、石を投げられそうになったぞ」

 ウィルフレッド……空気読めよ。騎士団の遠征なんて、皆調理できないからただ焼くか煮ただけの味気ない料理か、携帯食が殆どなんだぞ。そこに初日とはいえこのレベルの弁当を持ちこむとは、首絞められても文句言えない。
 俺はひたすらにフォークでおかずを口に運んでは、幸せを噛み締めた。このエビチリとかいうやつ、うま、うま。
横にあるエビマヨとかいうやつも、うま、うま……。もうマリクは店を出したらいいと思う。お金出すよ。



「レニたん、ちょっと食べ過ぎじゃない?」

 いつの間にか戻っていたアーネストに後ろから話し掛けられ、俺はエビマヨを器官に引っかけた。ゲホゲホ、く、くるしい。

「ああっ、レニたん!!大丈夫?ごめんね、いきなり話し掛けたから」

 ほんとだよ。食べてる時にいきなり脅かすんじゃない。喉に詰まったらどうしてくれる。
 メイドが淹れたお茶を飲んで、暫くゴホゴホいっていたけど、数分も経てば喉の不快感は治まった。はぁ。

「ごめんね、レニたん」

 うるうる、とアーネストが跪いて俺を見上げて来たので、俺は仕方なく頭を撫でてやる。
 お久しぶりのワンワンモードだ。

「ていうかさあ、アーネストってば、レニの食事量まで管理してんの?」
 
 
 

 
しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

処理中です...