60 / 76
番外編
ひめごとびより 8日目
しおりを挟む
迷った末、俺はアーネストにこっそり話しちゃおうかな、と思った。
だってさー、学校行きたいじゃん?多分ほんとに妊娠確定したら、父上は家にいなさいって言うと思うんだよ。学園は中退になって、アーネストとの結婚がめちゃくちゃ早まるやつ。
でも、俺はそんなのイヤだ。お腹の子もめちゃくちゃ大事にするけど、学園はちゃんと卒業したい。
後になってから思い返して、やっぱり卒業したかったな……なんて思うのはごめんだし。
そうなると、アーネストを先に説得して味方につけるしかない。アーネストもお腹の子を心配して渋るかもしれないけど、それでも父上よりはまだ勝算はあるはず。
だから、まずは妊娠の可能性が高いことと学園を卒業したいってことを同時に打ち明けて、言質を取っておくんだ。
「あのな、アーネスト」
「なあに?レニたん♡」
うーん、めちゃくちゃ期待されている。これを打ち砕くのは可哀想だが、致し方ないよなぁ。
ぶんぶんと振られるアーネストの尻尾が見えた気がするが、心を鬼にする。ゆるせー。
「その編んでるやつは、お前のじゃないんだ」
そう打ち明けた時のアーネストの表情を、一体何に例えよう。
言うなれば、無。完全に言葉の意味の理解を拒まれてる感じ。
実際アーネストは『えっ?』と訊きかえしすらした。ううう、良心が痛むぅ。そんな顔するなよ。
「だから、編み物はお前のためにしてるんじゃないんだよ」
「じゃあ、誰にあげるつもり?」
一転、アーネストの纏う雰囲気がめちゃくちゃ冷たくなった。冷気すら漂ってくるこの感じ、本当に久々だなあ。
でも、何度見ても怖いものはこわい。こいつ、ほんとなんなの?兄上達といい、人間ってそんな簡単に周囲の温度を上げ下げできるようなものではないはず。どういう原理でそうなるんだよ。
そうは思うけど、今俺がコイツの威圧に寒気を感じているのも事実なわけで。
俺は何だか気分が悪くなって、ふらっと体をよろめかせた。
「レニたん!?」
すかさずアーネストが怒りを引っ込めて俺の体を支える。俺は何だか体に力が入らなくて、そのまま体重を預けた。俺、どうしたんだろう。
「ごめんねレニたん、病み上がりなのに怒ったりして。こわかったよね。もう怒ってないから」
俺は一転して尻尾を下げたアーネストに、首だけ頷いて応える。なんか眩暈がして、うまく言葉が出てこない。
アーネストは俺を抱っこして、寝室に連れて行った。俺を優しい手つきでベッドに横たえ、部屋の外に控えさせていたメイドを呼ぶ。
「レニオールの気分が優れない。医者の手配を」
それを聞いて、メイドは仰天し、大慌てて母上のところへ走っていく。止めたいけど、今の俺にはどうすることもできない。
メイドたちは俺が妊娠してるかもって知っているから、尚更一大事と思って動転しているんだろう。
「アーネスト……」
「大丈夫、レニたん。今日はここにいるから。気分悪い?今お医者様来るからね」
俺が心細くなってアーネストを呼ぶと、アーネストは俺の手を取って励ました。まだ子供がいるって言ってないのに、もうそんな状態なのかと思うとちょっとおかしくて、俺は笑う。
「ちょっと立ちくらみしただけだから、少し休んだら良くなるよ」
「うん。レニたんが目を覚ますまでここにいるから。ゆっくり眠って」
俺はその言葉に甘えてしまいたくなったけど、何とかそれをとどめて唇を開いた。
このままじゃ、母上が乱入してきて何も知らないアーネストに洗いざらいぶちまけて怒ってしまう。
そんな形で妊娠の可能性を知らせたくないと俺は思った。せっかくの嬉しい報せなのに、台無しになってしまうなんて悲しい。
「あのな……アーネスト」
「うん、なぁに?レニたん」
「おれ……お前に言わなきゃいけないことがあって」
「うん」
アーネストは頭がなかなか回らない俺に、優しく相槌を打った。だから俺は、迷いながらも一生懸命言葉を続けようとする。
「あの編み物は、俺の大切な人のために編んでたんだ……何かしてあげたくて。喜ぶかなって思いながら……」
アーネストはめちゃくちゃ複雑そうな顔をする。こんな時でも嫉妬を隠せないなんて、ほんとに子供だな。大丈夫か?おまえ、きっと父親になるんだよ。
「大切な人って、だれ?」
アーネストが尋ねる。俺はアーネストを手招きすると、内緒話をするみたいに耳元に顔を近付けて、こっそり打ち明けた。
「お前と、俺の……赤ちゃん」
だってさー、学校行きたいじゃん?多分ほんとに妊娠確定したら、父上は家にいなさいって言うと思うんだよ。学園は中退になって、アーネストとの結婚がめちゃくちゃ早まるやつ。
でも、俺はそんなのイヤだ。お腹の子もめちゃくちゃ大事にするけど、学園はちゃんと卒業したい。
後になってから思い返して、やっぱり卒業したかったな……なんて思うのはごめんだし。
そうなると、アーネストを先に説得して味方につけるしかない。アーネストもお腹の子を心配して渋るかもしれないけど、それでも父上よりはまだ勝算はあるはず。
だから、まずは妊娠の可能性が高いことと学園を卒業したいってことを同時に打ち明けて、言質を取っておくんだ。
「あのな、アーネスト」
「なあに?レニたん♡」
うーん、めちゃくちゃ期待されている。これを打ち砕くのは可哀想だが、致し方ないよなぁ。
ぶんぶんと振られるアーネストの尻尾が見えた気がするが、心を鬼にする。ゆるせー。
「その編んでるやつは、お前のじゃないんだ」
そう打ち明けた時のアーネストの表情を、一体何に例えよう。
言うなれば、無。完全に言葉の意味の理解を拒まれてる感じ。
実際アーネストは『えっ?』と訊きかえしすらした。ううう、良心が痛むぅ。そんな顔するなよ。
「だから、編み物はお前のためにしてるんじゃないんだよ」
「じゃあ、誰にあげるつもり?」
一転、アーネストの纏う雰囲気がめちゃくちゃ冷たくなった。冷気すら漂ってくるこの感じ、本当に久々だなあ。
でも、何度見ても怖いものはこわい。こいつ、ほんとなんなの?兄上達といい、人間ってそんな簡単に周囲の温度を上げ下げできるようなものではないはず。どういう原理でそうなるんだよ。
そうは思うけど、今俺がコイツの威圧に寒気を感じているのも事実なわけで。
俺は何だか気分が悪くなって、ふらっと体をよろめかせた。
「レニたん!?」
すかさずアーネストが怒りを引っ込めて俺の体を支える。俺は何だか体に力が入らなくて、そのまま体重を預けた。俺、どうしたんだろう。
「ごめんねレニたん、病み上がりなのに怒ったりして。こわかったよね。もう怒ってないから」
俺は一転して尻尾を下げたアーネストに、首だけ頷いて応える。なんか眩暈がして、うまく言葉が出てこない。
アーネストは俺を抱っこして、寝室に連れて行った。俺を優しい手つきでベッドに横たえ、部屋の外に控えさせていたメイドを呼ぶ。
「レニオールの気分が優れない。医者の手配を」
それを聞いて、メイドは仰天し、大慌てて母上のところへ走っていく。止めたいけど、今の俺にはどうすることもできない。
メイドたちは俺が妊娠してるかもって知っているから、尚更一大事と思って動転しているんだろう。
「アーネスト……」
「大丈夫、レニたん。今日はここにいるから。気分悪い?今お医者様来るからね」
俺が心細くなってアーネストを呼ぶと、アーネストは俺の手を取って励ました。まだ子供がいるって言ってないのに、もうそんな状態なのかと思うとちょっとおかしくて、俺は笑う。
「ちょっと立ちくらみしただけだから、少し休んだら良くなるよ」
「うん。レニたんが目を覚ますまでここにいるから。ゆっくり眠って」
俺はその言葉に甘えてしまいたくなったけど、何とかそれをとどめて唇を開いた。
このままじゃ、母上が乱入してきて何も知らないアーネストに洗いざらいぶちまけて怒ってしまう。
そんな形で妊娠の可能性を知らせたくないと俺は思った。せっかくの嬉しい報せなのに、台無しになってしまうなんて悲しい。
「あのな……アーネスト」
「うん、なぁに?レニたん」
「おれ……お前に言わなきゃいけないことがあって」
「うん」
アーネストは頭がなかなか回らない俺に、優しく相槌を打った。だから俺は、迷いながらも一生懸命言葉を続けようとする。
「あの編み物は、俺の大切な人のために編んでたんだ……何かしてあげたくて。喜ぶかなって思いながら……」
アーネストはめちゃくちゃ複雑そうな顔をする。こんな時でも嫉妬を隠せないなんて、ほんとに子供だな。大丈夫か?おまえ、きっと父親になるんだよ。
「大切な人って、だれ?」
アーネストが尋ねる。俺はアーネストを手招きすると、内緒話をするみたいに耳元に顔を近付けて、こっそり打ち明けた。
「お前と、俺の……赤ちゃん」
60
お気に入りに追加
3,362
あなたにおすすめの小説
BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います
雪
BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生!
しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!?
モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....?
ゆっくり更新です。
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
愛しい番の囲い方。 半端者の僕は最強の竜に愛されているようです
飛鷹
BL
獣人の国にあって、神から見放された存在とされている『後天性獣人』のティア。
獣人の特徴を全く持たずに生まれた故に獣人とは認められず、獣人と認められないから獣神を奉る神殿には入れない。神殿に入れないから婚姻も結べない『半端者』のティアだが、孤児院で共に過ごした幼馴染のアデルに大切に守られて成長していった。
しかし長く共にあったアデルは、『半端者』のティアではなく、別の人を伴侶に選んでしまう。
傷付きながらも「当然の結果」と全てを受け入れ、アデルと別れて獣人の国から出ていく事にしたティア。
蔑まれ冷遇される環境で生きるしかなかったティアが、番いと出会い獣人の姿を取り戻し幸せになるお話です。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる