上 下
56 / 76
番外編

ひめごとびより 4日目

しおりを挟む
 レニたんがいない。
 それだけで、薔薇色の学園生活は、クソみたいに味気ないものになる。噛み終わったガムみたいに、吐き出したくなる不快感。
 レニたんに毎日会いに行きたいけど、やりたくもない生徒会の仕事が溜まってくと、後でツケを払うハメになる。
 
 今回レニたんが体調崩したのも、俺のせいかもわかんない。マジで自己嫌悪。
 俺がフラストレーション溜まりまくるから、そのためにレニたんは殆ど毎日みたいに生徒会に来てくれるようになって、しかもレニたん真面目で健気だから、ほっときゃいいのに他の連中のお世話してくれたり、部外者が触れられるギリギリのラインまで仕事を手伝ってサポートしてくれたりしてた。
 最初は生意気にもレニたんの出入りを歓迎してなかった奴等も、今じゃ手のひら返したみたいにデレデレになって、王太子妃になれるのはレニオール様しかいないみたく言ってる。
 元々レニたん、超天才とかではないけど、普通にスペック高いからね。突出してない分適切に人の意見を聞いたり頼ったりできる子だし、周囲に色々言われてきたせいか他人の動向にも目敏くて、気配りもできる。何より性格がいい。あとめちゃくちゃ可愛い。あ、そういうとこは俺だけがわかってればいいんだけど!

 まあ、そんなだから、俺が仕事溜めると、巡り巡ってレニたんに迷惑がかかるわけ。
 病明けにレニたんに負担を掛けるなんて、絶対にさせられない。かと言って、出入りを差し止めたらレニたんがまた自分を責めて気に病んじゃうし、俺の精神も死ぬ。
 どうせ灰色なんだから、今更ドブ色になろうが大して変わりゃしない。レニたんのいる薔薇色の生活を余すところなく謳歌するために、今は根性いれるしかないでしょ。

 あ、ちなみにお見舞いには朝行ってる。登校前の、ほんの20分ぐらいだけど。
 欲を言えばもっとゆっくりしたいけど、お見舞い、お見舞い。それに、朝からレニたんの顔見ておはようのキスして、ちょっとおしゃべりしながらモーニングティーしばいて、行ってきますのキスとか、正直たまりません!新婚ぽい!新婚シチュの先取り!
 心なしか公爵家一家の視線が殺されそうに痛いけど、気にしないよ俺は。

 ふと、今朝のレニたんの姿を思い出す。
 出かける寸前の俺を、もういっちゃうの?みたいな名残惜しい表情で見上げてきて、もう辛抱たまらなくて、色んなものが出ちゃいそうだったよね。許されるなら学校なんかブッチしてずーっとレニたんといたい。
 でも、流石に出禁はまずいから、俺もめちゃくちゃ涙を飲んだ。

「レニたん、もう行かなきゃ」

「うん……そうだよな。そろそろ出なきゃ遅刻する」

「また明日来るからね、行ってきます、レニたん」

 チュッ、と俺がレニたんの頬にキスすると、レニたんはちょっと驚いて、それから頬を淡く染めて眉を下げた。
 俺が期待した目でじっと見つめると、おずおずと戸惑いながら俺の肩に手を伸ばす。

「い、行ってらっしゃい……。学校、がんばれ」

 レニたんは、ちょっと背伸びをしながら俺の頬にキスをした。やばい。幸せ過ぎて死にそう。人は幸福でしねる。


「会長、どうかお戻りを」

 3度目のトリップに、副会長が紅茶を出しながら声をかけてくる。
 しけた顔ぶれだけど、仕事をしなくてはならないのは本当だから仕方ない。

「あーあ、レニたんが『ちゃんと仕事しないとダメだぞ♡』ってしてくれたらめっちゃやる気出るのになー。副会長のしけた顰め面じゃ萎えだよ、萎え。はーあ」

「会長、全て口に出ていますが」

「紅茶マズイなぁ……マリクはお茶淹れるのうまいからな。いや、まてよ?レニたんお茶淹れるの下手くそなんだよな。そう思うと飲めるわ。レニカフェって感じだわ。『しょうがないだろ、初めてなんだから……』って恥ずかしそうに睨んでくるのほんとたまらない。かわいすぎる。2億点あげれる」

 俺は俄然やる気が湧いてきて、バリバリとペンを走らせて仕事を始めた。
 そうだ。今度俺の俺による俺のためだけのレニたんカフェ作ろう。レニたんの幼少期から今までの肖像画と、レニたんの好きなスイーツとレニたんをイメージしたドリンクと、レニたんが作った風のフード。メイド姿の等身大パネルと、レニたんからのプレゼント飾って、思い切りレニたんを堪能する。
 土下座してお願いしたら、オムライスにケチャップでハートマーク書いて萌え萌えキュン♡してくれるかな。してくれるなら一億出してもいい。

「ハートマーク書くだけで一億……」

 書記がゴクリ、と喉を鳴らす。やべ、どっから口に出てたんだろ。
 まあ、俺がレニたんの愛の奴隷だってことなんか、皆知ってるから今更どうだっていいか。
 レニたんが善良な平和を愛する天使みたいな子なのを、皆はもっと感謝して讃えてどうぞ。
 レニたんが『アーネスト、俺世界が欲しいな♡』って言ったら、俺はやるよ。
 銃火器も毒ガスもダイナマイトも作るし、簡易型無線機作って本気出す。三世代ぐらいオーバーテクノロジー起こしてやるからね。
 基本、ゴムと電気と石油と金属あれば何でもできるんだよ。ゴムはもうあるし、石油掘ればプラスチックもいける。この世界のDr.STONE目指すから。

 まあ、実際はレニたんが悲しむからそんなこと起こらないんだけどね。
 目下の研究目標は、スワンボートの製作と、馬車のタイヤだよ。居心地のいい馬車作って新婚旅行なんて行ったら、レニたんは絶対に喜ぶ。アーネストすごい!大好き♡抱いて♡なんてね、ムフフ……。

 新婚旅行といえば、来年の春には卒業だから、秋には結婚式だ。そっちも待ち遠しい。
 もう何回もしてるけど、やっぱり初夜は特別だし。
 そんでもって、ハネムーンベイビーとか出来ちゃったりしたら最高!赤ちゃんがお腹にいる間は激しいエッチは我慢しなきゃだけど、やり方は他にも色々あるからね。
 普段はレニたんがやらせてくれなさそうなあんなこととかこんなことを、ワンチャンおねだりできる。
 やっぱり、その時のために早急にビデオカメラ作るべきかもじゃないか?これは。

 あまりにも気が早いことを考えて、俺は今のうちにレニたんといっぱい激しいエッチしとかなきゃ、と不埒な決意を燃やしていた。




しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います

BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生! しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!? モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....? ゆっくり更新です。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

愛しい番の囲い方。 半端者の僕は最強の竜に愛されているようです

飛鷹
BL
獣人の国にあって、神から見放された存在とされている『後天性獣人』のティア。 獣人の特徴を全く持たずに生まれた故に獣人とは認められず、獣人と認められないから獣神を奉る神殿には入れない。神殿に入れないから婚姻も結べない『半端者』のティアだが、孤児院で共に過ごした幼馴染のアデルに大切に守られて成長していった。 しかし長く共にあったアデルは、『半端者』のティアではなく、別の人を伴侶に選んでしまう。 傷付きながらも「当然の結果」と全てを受け入れ、アデルと別れて獣人の国から出ていく事にしたティア。 蔑まれ冷遇される環境で生きるしかなかったティアが、番いと出会い獣人の姿を取り戻し幸せになるお話です。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

処理中です...