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48.公爵令息は女王様? 3

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 ひっ、とラートンが悲鳴を上げた。さもありなん。普通に怖いもんな、魔王。
 アーネストが近くに控えていた兵士に首で指図すると、訓練された兵士たちがサッと動いてラートンを拘束しようとする。

「私のレニを散々侮辱してくれた罪は、どのように贖ってもらおうか。少なくとも五体満足ではいられないことを覚悟するがいい」

 えっ、マジで?やりすぎじゃね?ちょっと文句言われただけだぞ?五体満足でいられないって、どっか捥いだりする?
 ぞぞぞぞぞぞぞ、と全身に鳥肌が立って、震えが走った。ムリ、無理無理!俺そういうのダメだから!
 聞いてた俺だけでそうなんだ、実際に言われたラートンは、甲高い悲鳴を上げて泣きじゃくっている。そりゃそうだよ、いくらなんでも可哀想すぎる。
 俺はさすがに可哀想になって、アーネストを止めることにした。

「やめろアーネスト、かわいそうだろ。そこまでしなきゃならないようなことはされてない」

「そうかな?この場合、王太子である俺の忠告を無視して暴挙に走ったこと自体が罪になる。今後同じような輩を出さないためにも、見せしめは必要だ」

「見せしめとか、そういう考え方、俺は好きじゃない。個人的な感情や効率のために本人が犯した罪以上の罰を与えることは、結果的に法を揺るがし、民からの信用を損なうことになる。もう一度言うぞ、やめなさい。でないと許さない」

 俺がしっかりと目を見て叱ると、アーネストは暫くムッとして、それから頷いた。

「放してやれ」

 アーネストが吐き捨てるように命じて、兵士たちはラートンを解放する。ラートンは極度の緊張から足に力が入らずその場にへたりこみ、恐怖のあまり失禁してしまっていた。そりゃあなあ……。
 沢山いたはずの取り巻きは、皆遠巻きにして誰もラートンを庇おうとしない。王太子に睨まれた今、もうラートンに用はないのだろう。ぼっちなのは辛いけど、あんな友達ならいなくてもいい。

「大丈夫か?立てるか?医務室に行って着替えよう」

 近付いて手を差し伸べると、ラートンはしばらく呆然としていたけど、やがておずおずと俺に手を伸ばした。
 アーネストが何か言おうとして近付いて来たけど、俺はキッと睨んで牽制する。元凶が寄るんじゃないよ、ますます怯えるだろうが。

 泣きじゃくるラートンを宥めながら俺達が会場を出て行ったあと、ホールは俺への称賛で大喝采が沸き、誰からともなくクイーンコールが叫ばれ、熱気と興奮が物凄いことになっていたらしい。
 俺がその珍事を知るのは、翌日学園に登校してからのことだった。
 世の中とはなんと現金な。

 現金といえば、あれからラートンはすっかり俺に懐いてくるようになった。友達2号だ。
 1号は、一応マリク……のはず。まだあんまり話せてないけど、お茶に誘われてるし、屋敷に招待状も送ってるから!あと、俺の心の問題?
 実際、遅ればせながらその後話し掛けて来てくれたマリクは、俺の今までの嫌がらせの謝罪を受け入れ、笑って許してくれた。『むしろ図書券ほんと助かったよー、俺貧乏だからさぁ。途中から今日は破かれてないかなぁって期待してたもん』とか言われたのは、よかった……んだよ、な???



 それから、俺は生徒会にサポートとして出入りすることになった。特別役職があるわけじゃないけど、役員たちからの強い希望があって、ちょっとしたお手伝いみたいなことをしてる。
 というのも……アーネストがすぐに俺を求めて抜け出して、職務をサボるようになったからだ。
 生徒会役員の人たちが必死で止めても、聞く耳を持たないどころか、『レニに会えないなら、生徒会長なんかやめる』と言いだして臍を曲げる有様だ。
 役員たちも、ふざけるなと怒鳴りつけたいところだろうが、王太子に向かって声を荒げるわけにもいかない。仕事は滞るし、相当ストレス溜まっただろうなー。お疲れ様です……。

 これではいけないと、役員たちは揃って俺の前に押しかけた。何もしなくていいから、どうかアーネストの横に居て脱走を防いでほしいと。
 俺は最初はそんなわけにいかないと断って、きちんと仕事をしろとアーネストに言い聞かせたんだけど、やっぱり数日後、再び役員たちがやって来て、懇願されてしまった。
 なんでも、仕事はしてくれるものの、アーネストが滅茶苦茶イラついてるらしい。うわぁ……。
 
 アーネストからすれば、『王太子だから当然だよね!』みたいに半ば押し付けられた生徒会長の仕事をやらされ、俺と会うこともできず、それが終われば城で王太子の仕事をさせられる。休みなく毎日。それで常に機嫌よくしてろって言う方が無理な話だ。にんげんだもの……。
 以前はそれができてたってのも、アーネストがある意味異常だったってことなんだよなあ。

 俺は仕方なく、生徒会の申し出を受けることにした。アーネストがストレスまみれで可哀想なのもあるし、毎日そんな恐ろしい状態で仕事をしなくちゃならない役員の方々にも申し訳ない。
 飼い犬のストレスを解消するのも、飼い主の務めである。 

 最初はアーネストが俺を絶対に離そうとしなくて、膝に載せながら仕事したがったり大変だったんだけど、徐々にやめるよう段階を踏んで説得した。
 今は、大量にある書類の整理や仕分けなんかをしたり、役員のためにお茶を淹れたりして、皆がなるべく仕事しやすい環境になるようにお手伝いをしている。
 役員にはいたく感謝されて、皆とも仲良くなれた。アーネストだけは面白くなさそうだけど、そこはもう気にしてもしょうがないな。

 
 
 そうなってくると、王宮内での俺の評価も随分変わったものになってくる。
 学園は王宮の縮図だ。学園での評判がめでたくなれば、その子息たちから親へと話が伝わる。特に、生徒会役員たちの親はそれなりに重要なポストにいる面子ばかりだった。
 その縮図の生徒会で、俺がいないとアーネストがどうなるかという話を聞かされ、俺さえ横に置いておけばアーネストは機嫌よく仕事をするし、気遣いも細やかで性格も良く、いざとなればアーネストの我儘を諫めてくれる婚約者だとなれば、歓迎しない理由がない。
 そりゃあもう、手のひらを返したように、下にも置かない扱いを受ける日々だ。

 あと、ラートンの一件も噂になったらしいしね。アーネストを怒らせて見せしめにされたいようなやつはいないということだろう。父上もラートン公爵からすごく感謝されて、仕事も円滑に行くようになったらしい。同じ派閥なんだから、仲よくするに越したことはない。
 俺の周囲はいい意味で騒がしくなった。一番の騒ぎの元は、勿論あのバカ犬なんだけど……そのことは、もう少し後で語ることにしよう。
 

 
 
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