【完結】俺を散々冷遇してた婚約者の王太子が断罪寸前で溺愛してきた話、聞く?

ゴルゴンゾーラ安井

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 俺が思い切り叫ぶと、アーネストは動きを止めた。

「アーネスト、ノー!」

 続けて言うと、アーネストが剣を下ろす。警戒は解いていないみたいだけど、正気は取り戻したようで安心する。
 アーネストが動けない俺を察して、座席に横たわる俺の体を優しく抱き上げる。

「遅れてごめんね、レニたん」

「来てくれてありがとう……助かった」

 俺の服が乱されてるのを見て、アーネストは眼差しを厳しくしたけど、俺が目を見て首を振ったら渋々と頷いた。
 アーネストの声が聞こえた時点で、必死でズボンだけ直しといたんだけど、本当に良かったな。もしあの状態を見られてたらと思うと恐ろしすぎる。
 アーネストに抱き上げられて馬車の外に出ると、炎が街道の行手を阻むように激しく燃えていた。街道は整備されているからそこまで激しく燃え広がらずに済んでいるけど、このまま放って置くと周囲の木々に燃え移って大変なことになる。

「な、なんでこんな燃えてんだ……?」

 犯人らしき男の顔を見ると『てへぺろ☆』と舌を出してウインクする。うわあ……助けて貰っといてなんだけど、過去イチむかつく表情ナンバーワンだわ……!!!

「いやー、馬車止めなきゃ!って思ったら、ついね」

「ついじゃねえんだよ!何やったらこんな燃えんだよ!!!油でも持ち運んでんのか!」

「こんなこともあろうかと、用意してた火炎瓶を」

「カエンビン……?」

「あー、忘れて。オーバーテクノロジーでした」

 最近ちょっと分かり合えたと思ったアーネストの顔が、やっぱりモンスターに見える。こいつ、どうしよう。こんなのがいずれ王様になるウチの国、ほんとに大丈夫なんだろうか。
 青くなっている俺の耳に、遠くから複数の馬が駆ける音が聞こえてくる。

「あ、来たね応援」

 どうやら、アーネストは護衛を振り切って走ってきたらしい。なんて恐ろしいやつ。お陰で助かったけど、撒かれた兵士の方々はたまったもんじゃないだろうな。お疲れ様です……。

「うわっ、なんだ!?燃えてるぞ!?」

「水だ!水を持ってこい!!!!」

 到着早々兵士たちは大騒ぎで火消しに走らされる羽目になってしまった。カエンビンが何だか知らないが、あとでアーネストにはきちんと言い聞かせなきゃ。はぁ……。
 
「あのさ、アーネスト」

「無罪はムリだよ」

 即答で返されて、俺は言葉に詰まった。殺さないでくれただけでコイツとしては十分な譲歩なのかもしれない。
 確かに怖かったし、色々されたのは嫌だったけど、だからといって大切な幼馴染が罪に問われることを望む気持ちにはなれなかった。

「あのね、俺がレニたんの愛のために死ぬほど我慢して許したとしても、ファンネの国王陛下の前でやっちゃったんだから、流石に無罪にはできないでしょ」

「あ……」

 そうだ、記憶が飛んでて忘れかけていたけど、確かにあの場にはファンネの王様と王妃様がいた。しかも、その後俺がいないことに気付いたアーネストが大騒ぎしたはずだ。ばれない筈がない。

「言っておくけど、一応知られるのは最小限の人になるように努力はしたよ?馬とか最低限の人員は借りなきゃいけなかったから、秘密にはできなかったけど。でも、王様は騙せない」

「そっか……そうだよな」

「薄々なんかやるとは思ってたけど、まさか俺の足を止めるために父親である国王まで使うとはね。絶対にバレるし、ただじゃすまない。本気で国に帰らないつもりだったんだろうね」

「ルーリク……」

 ルーリクは後から駆け付けた兵士たちに、馬車に乗せられて行ってしまった。俺は悲しくなって、そっと目を伏せる。目の奥が熱くなって、後から涙がこぼれた。

「泣かないで、レニたん。滅茶苦茶イヤだけど、俺からもあんまり厳しい罰にならないよう嘆願してあげるから。一緒に頼みに行こ」

 アーネストが普通じゃ絶対考えられないことを言う。本当は嫌なのに、俺のために我慢してくれてるんだ。
 俺は頷いて、アーネストの胸に顔を寄せた。涙はますます止まらなくなって、アーネストの上着を濡らしてしまう。アーネストは何にも言わないで、暫くずっとそのままでいてくれた。



    *****************



 その後、公爵家へ帰った俺達は、心配顔の親族たちに迎えられた。
 あの会場にいた全員ではないけど、事情を知った一部の人達が、俺の無事な顔を見るために待っていてくれたんだ。
 アーネストは、よくぞ俺を助け出してくれたと感謝され、少し皆に認められたみたいだった。これで少しでもアウェイ感が薄れればいいんだけど。

「おかえりなさい、レニ。怪我はない?」

「大丈夫です、おばあさま。少し馬車で遠出しただけのようなものですから」

 俺が笑って答えると、皆がホッとした顔になる。
 いくら拉致したのが人柄をよく知るルーリクとはいえ、国王陛下を計画に利用するとは正気とは思えない。普段温和なルーリクだからこそ、思い詰めたら何をするかわからないと思っていたのだろう。

「あのルーリクが俺に酷いことを出来るわけがないじゃありませんか。ちょっと俺への心配が高じすぎて暴走してしまいましたけど、悪意なんかありません」

 ほんとはちょっとだけ薬盛られたし、ちょっ…と…いやらしいこともされたけど、あくまで未遂だったし。アーネスト、マジでグッジョブ。もう少しで誤魔化しようのない惨事が引き起こされるところだった。

「さあさ、安心したなら皆もうお帰りなさいな。今日は遅いわ」

 おばあさまが手を叩いて、その場は解散となった。アーネストと一緒に屋敷の玄関前に立って、馬車に乗り込む皆を見送る。
 俺は明日王宮にルーリクの減刑を嘆願に行くため、帰国を遅らせることにした。学園再開までに帰れるかは微妙なところになるが、嘆願に行かないという選択肢はない。多少強行軍にはなるが、一日の移動時間を伸ばして、休憩を少なくすればギリギリなんとかなるはずだ。

 全ての客を見送った後、俺はアーネストと部屋に戻った。体は疲れているけど、色々あって興奮しているのか、すぐに眠れそうにもなかった。  
 
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