【完結】俺を散々冷遇してた婚約者の王太子が断罪寸前で溺愛してきた話、聞く?

ゴルゴンゾーラ安井

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38.公爵令息、窮地に陥る(前編)

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 その後、猛獣みたいに飛びついてきたステラと、俺は踊った。
 ステラは流石のお姫様で、俺のちょっと微妙なリードでも、自分の重心を完璧にコントロールして美しく踊る。
 アーネストはちょっと面白くなさそうだったけど、ステイだぞ、ステイ。

 その頃には周りのみんなもダンスに興じていて、フロアも、なかなかの混雑になった。いくら広めのレストランの半分以上の面積を使ってるとはいえ、身内もパートナーやその親しい親族など結構な人数集まってるし、仕方ない。貴族は繋がりが多いから、絞っても増えちゃうんだよなぁ。
 それでも、夜会慣れしたみんなは勝手知ったる様子で自然に道を譲りあい、楽しく踊っていた。

 踊り終えてアーネストのところに戻ろうとすると、ルーリクが近付いてきて、飲み物をくれた。
 ステラはアーネストの方に行って、また何かバトルが始まっている。あれは、ある意味あれで仲がいいのかな。

「疲れてるだろうけど、僕とも踊ってくれる?仲間はずれはイヤだからね」

 ルーリクがおどけた調子で言って、俺をダンスへ誘う。ルーリクは昔からステラと一緒に扱われたがる。いつもは大人だけど、こういうのは双子特有のものなのかな。

「いいよ、気合い入れて頑張る」

 踊り始めると、なんだか少し動きが鈍くなった気がした。やっぱり連続4曲は結構くる。今までそんなの滅多になかったし。
 
「大丈夫?レニ。気分悪い?」

「いや、大丈夫」

 俺はちょっと強がってそう言った。ルーリクが準備してくれたパーティーなのに、踊りを中断しておしまいなんて可哀想だ。

「ありがとう、レニ。ほんとに大好き」

 ルーリクのリードで、フロアをぐるぐる回る。なんだか暑い。熱気かな。頭がぼうっとしてきた。アルコール入れたの、やばかったかな。

 そんなことを考えてたら、入り口の方がにわかに騒がしくなった。

「あ、ようやく来たみたいだね」

 見ると、ファンネの国王様と王妃様がご尊顔を見せていた。マジか!?

「アーネスト様も見えてるってバレちゃって。お忍びだからって言ったら、王宮に招待じゃなく、隠れて挨拶に行くって」

 そうか。あれは国王様のための厳重なガードだったんだ。それなら納得できる。むしろ、ちょっと足りないんじゃないかなと思う。
 
「挨拶は曲が終わってからで大丈夫だよ。皆に囲まれちゃって、近づけそうもないしさ」

「うん……」

 いいのかな、と思うけど、なんだか頭がよく回らない。これ、やばいんじゃないかな。

「大丈夫?レニ。やっぱり少し休んだ方がいいよ。陛下とアーネスト様には言っておくから」

 ルーリクが俺の肩を支えて、バックヤードの休憩室に連れて行こうとする。俺はちょっとアーネストが気になったけど、人の輪ができていて姿は見えなかった。

「ごめんねレニ、もうちょっとだけ我慢して」

 そう言うルーリクの声が遠くなっていく。
 俺はルーリクの気遣いに甘えて肩を借りながら歩き、そのまま意識を失った。



   ************



 ガタガタガタ、と世界が揺れている。なんだこれ。俺、どうしたんだっけ。
 ここ、馬車の中かな……。
 
(えっと……俺ルーリクと踊ってて……気分悪くなって、それで)

 まだはっきりしない意識の中で、俺はぼんやり記憶を辿った。何だか体がだるい。
 身じろぎした俺に気付いたのか、視界の端に移る人影が立ち上がる気配がした。

「目が覚めた?レニ」

「ルー、リク………?」

 ルーリクは俺の額に手を当てて、俺を気遣ってくれた。その掌はひんやりとしていて、何だか気持ちいい。
 もしかして、俺はあのまま倒れてしまって、それで伯爵家に送ってくれているんだろうか。だとしたら、申し訳ない。

「ごめん、面倒掛けて。えっと、アーネストは……?」

「アーネスト様は後でいらっしゃるよ。まだ気分が悪いでしょ?寝てていいよ」

 うそだ。俺は瞬間的にそう思った。アーネストが、体調の悪い俺を別の人間に任せて残るなんて、絶対にない。

(でも、なんでそんなウソを?)
 
 ルーリクが俺にウソをつくなんて、信じられない。
 俺は混乱した。これが知らない男なら、俺は自分が拉致されていると思うだろう。
 だけど、優しくて思慮深いルーリクが、俺に危害を加えようとするなんて、どうしても想像できなかった。
 一体、ルーリクに何があったのか。誰かに脅されるようなルーリクではないけど、親しい友達が人質にとられたりしたら、わからない。

「嘘、だよな。なんで?ルーリク。俺をどこに連れて行くんだ?」

 ルーリクがちょっと意外そうに目を見開いた。俺に嘘を見抜かれるとは思ってなかったって顔だ。

「どうして僕がレニに嘘を?」

「……それは、わからない。でも、アーネストが俺から離れるわけないから」

「随分仲良くなったんだ、あの王子様と」

 ルーリクの笑顔が、皮肉げに歪む。いつも温和なルーリクがこんな表情を見せるのは初めてで、何だか違う人間のようにも思える。

「ステラの言う通りだよ。君は騙されてるんだ。僕もレニが心配で、昔から君と王太子や、その周囲の動向を調べさせていた。もし君の身に何かあったら、すぐさま迎えに行って、婚約を破棄させるつもりで」

「そんなこと……」

  今まで監視が付いていたなんて、俺は全然気付かなかった。一体いつから。
 ルーリクが俺のためにそうしてくれたんだというのはわかる。俺がいつもアーネストとの関係に悩んだり愚痴ったりしてばかりいたから、万一俺の身に何か危険が及ばないように気にかけていてくれたんだろう。
 だから、ルーリクはアーネストの長年の俺への態度を怒っていて……?

「結婚破棄したら、僕はレニと結婚しようと思ってた。なかなかそうならないから焦ったけど、マリクとかいう男爵令息に現を抜かした婚約者に、遂にレニも見切りをつけたみたいだと知って、どれだけ嬉しかったか。……なのに、レニの血欲しさに、あいつは今頃になって態度を変えて、レニを騙してる」

「違う、それは本当に違うよ。アイツは確かにちょっとおかしいとこあるし、今まで俺を心配してくれたルーリクが信用できないのはわかる。だけど、俺は騙されたりしてない」

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