上 下
38 / 76

37.パーティーの日

しおりを挟む
 そうやって楽しく過ごしているうちに日数はどんどん過ぎていった。遂に帰る日を明日に控えている。
 ルーリクからは2日前に招待状が届いていて、俺は前日から楽しみにしていた。
 アーネストだけは、レニたんと2人きりでイチャイチャしてたいなー、とかふざけた事を言ってたけど、留守番か?と聞いたら、絶対に行くと豪語していた。初めからそう言えばいいんだよ。


 パーティーは、ルーリクが先に言っていた通り、貴族街のレストランの2階で行われた。
 パーティーといっても、集まるのは身内だけだから気軽なものだ。それでも、結構な身分の人が集まることになるため、セキュリティは厳重にする必要がある。一階には警備の兵士たちがかなりの数配置されていた。流石にちょっとやりすぎじゃないかって気もするけど、アーネストがいるからなぁ。

「お招きありがとう、ルーリク」

「いらっしゃい、レニ。アーネスト様も」

「俺たちのためにこんな場を設けてくれてありがとう。感謝しているよ」

 パーティーは皆が話しやすい立席スタイルで、俺たちは配られた飲み物に口をつけた。流石は流通の国というべきか、ワインの質が凄くいい。
 俺とアーネストは主賓扱いで、色んな人から入れ替わり立ち替わり挨拶される。従兄弟達やそのパートナーも、俺の帰国を惜しんでくれた。

「本当に帰ってしまうの?もっといてもいいんではなくて?」

「俺なんか、レニが帰ってきてるのも知らなかった。帰るのはもっと先に延ばして、明日は家に遊びに来てくれよ。チビたちも会いたがってる」

「そうよ、うちの子も私たちだけずるいと大暴れ。直前まで馬車にこっそり乗り込もうとしてたのよ。全く…」

 自分に懐いてくれている子供達の顔を思い浮かべると、ちょっと心が痛む。
 だけど、明日出発しないと夏休みが終わるまでにハイランドには帰れない。
 休み前のパーティーの騒動を思うと、ちょっとだけ俺は遅れて帰りたい気持ちもあるけど、俺も婚約者の座に居座ると決めたからには半端なことはしたくない。何より、アーネストが絶対に首を縦に振らないだろう。

「一応聞くけど、お前一人で先に帰ってくれる気ある?」

「絶対イヤ♡レニたんと一緒に帰りを遅らせるのはいいよ」

「そんなことできるわけないだろ、アホか」

 やっぱなー、そうなるよな。いくらなんでも、アーネストを遅れさせるわけにはいかない。
 ただでさえあの事件を目撃した生徒たちからは正気を疑われているだろうに、学園再開早々姿を見せないとなったら、どんな噂を流されるかわかったもんじゃない。
 幸い、あの後すぐに夏休みに入ったから、大勢が集まって騒ぐようなことはなかったはずだ。アーネストの立場のためには、早急にまともな姿を見せて騒ぎを鎮静化させなくてはならない。

「また冬休みになったら顔を見せるからって、チビたちに言っておいて。お土産も沢山持ってくよ」

  普段なら俺も訪問前に色々とお土産を用意してくるんだけど、なんせ逃亡目的で飛び出してきたから、とにかくスピード勝負でそんな暇全然なかったからなぁ。
 どうせ着いてくると知っていたなら、もっとちゃんと用意して来たんだけど…って、それはないか。わかってたら、そもそもファンネには行かない。もっとバレなそうなところか、簡単に追い付かれないよう船にでも飛び乗ったかも。

 挨拶もひと段落して、美味しい料理でお腹を満たされた頃、ダンスが始まった。普通のパーティーなら、もっと早くダンスが始まるんだけど、今回は飯そっちのけで社交するような趣旨のものじゃないしな。

「レニ、踊りましょ!」

 ステラが俺の手を引いて誘ったけど、俺は困り顔で断った。

「ごめん、ステラ。ファーストダンスは婚約者のものだから」

 ちょっと心は痛むけど、これはケジメだから仕方ないのだ。アーネストがキラキラとした目で俺を見てくる。うう、むず痒い。

「行くぞ、アーネスト」

 俺は犬の散歩よろしく、アーネストをフロアに引っ張って踊り始めた。
 アーネストのリードは相変わらず完璧で、ちょっとどんくさい俺でも凄く踊りやすい。
 でも、こんなに楽しく踊るのは初めてだった。だって、アーネストが笑ってる。義務的に添えられた手袋越しの手じゃなくて、生身のあったかくて大きな手が、俺の腰を抱えてくれてる。

「楽しいね、レニたん」

 アーネストが笑いながら言った。大きく振り回すみたいなターンを仕掛けられて、俺は慌てる。

「無茶するな!俺はお前みたくダンスうまくないんだぞ!」

「だいじょーぶ、俺に全部任せて」

 アーネストは俺を抱え上げてお姫様抱っこすると、そのままクルクルと回った。
 脚が風を切る感覚に、俺はちょっとだけビビってしまう。てか、こんなダンス見たことないぞ!

「ア、アーネスト!降ろせ!」

「あはは、落とさないってば」

 アーネストは上機嫌で、回り続ける。これは後で教育的指導だ!と思ったけど、踊ってるうちに怒りは解けて、幸せな気持ちになった。
 ゆるいステップの曲も続けて踊り、俺はアーネストの腕に抱かれながら、いつまでもこうしていられたらいいなと思っていた。



しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います

BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生! しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!? モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....? ゆっくり更新です。

役目を終えた悪役令息は、第二の人生で呪われた冷徹公爵に見初められました

綺沙きさき(きさきさき)
BL
旧題:悪役令息の役目も終わったので第二の人生、歩ませていただきます 〜一年だけの契約結婚のはずがなぜか公爵様に溺愛されています〜 【元・悪役令息の溺愛セカンドライフ物語】 *真面目で紳士的だが少し天然気味のスパダリ系公爵✕元・悪役令息 「ダリル・コッド、君との婚約はこの場をもって破棄する!」 婚約者のアルフレッドの言葉に、ダリルは俯き、震える拳を握りしめた。 (……や、やっと、これで悪役令息の役目から開放される!) 悪役令息、ダリル・コッドは知っている。 この世界が、妹の書いたBL小説の世界だと……――。 ダリルには前世の記憶があり、自分がBL小説『薔薇色の君』に登場する悪役令息だということも理解している。 最初は悪役令息の言動に抵抗があり、穏便に婚約破棄の流れに持っていけないか奮闘していたダリルだが、物語と違った行動をする度に過去に飛ばされやり直しを強いられてしまう。 そのやり直しで弟を巻き込んでしまい彼を死なせてしまったダリルは、心を鬼にして悪役令息の役目をやり通すことを決めた。 そしてついに、婚約者のアルフレッドから婚約破棄を言い渡された……――。 (もうこれからは小説の展開なんか気にしないで自由に生きれるんだ……!) 学園追放&勘当され、晴れて自由の身となったダリルは、高額な給金につられ、呪われていると噂されるハウエル公爵家の使用人として働き始める。 そこで、顔の痣のせいで心を閉ざすハウエル家令息のカイルに気に入られ、さらには父親――ハウエル公爵家現当主であるカーティスと再婚してほしいとせがまれ、一年だけの契約結婚をすることになったのだが……―― 元・悪役令息が第二の人生で公爵様に溺愛されるお話です。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。

白(しろ)
BL
神様曰く、これはお節介らしい。 僕の身体は運が悪くとても脆く出来ていた。心臓の部分が。だからそろそろダメかもな、なんて思っていたある日の夢で僕は健康な身体を手に入れていた。 けれどそれは僕の身体じゃなくて、まるで天使のように綺麗な顔をした人の身体だった。 どうせ夢だ、すぐに覚めると思っていたのに夢は覚めない。それどころか感じる全てがリアルで、もしかしてこれは現実なのかもしれないと有り得ない考えに及んだとき、頭に鈴の音が響いた。 「お節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成り代わるだけさ。お前が欲しくて堪らなかった身体に」 神様らしき人の差配で、僕は僕じゃない人物として生きることになった。 これは健康な身体を手に入れた僕が、好きなように生きていくお話。 本編は三人称です。 R−18に該当するページには※を付けます。 毎日20時更新 登場人物 ラファエル・ローデン 金髪青眼の美青年。無邪気であどけなくもあるが無鉄砲で好奇心旺盛。 ある日人が変わったように活発になったことで親しい人たちを戸惑わせた。今では受け入れられている。 首筋で脈を取るのがクセ。 アルフレッド 茶髪に赤目の迫力ある男前苦労人。ラファエルの友人であり相棒。 剣の腕が立ち騎士団への入団を強く望まれていたが縛り付けられるのを嫌う性格な為断った。 神様 ガラが悪い大男。  

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

処理中です...