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34.大事にしたい自分
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「キエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!」
やばい、アーネストが壊れた。
アーネストは人生初の奇声を上げると、万人にわかる狂気を目に宿して、ブツブツと何事かを呟き、やがて能面のごとき貼りついた笑顔を見せて言った。
「ごめんレニたん。俺やっぱり一度かえんなきゃ」
「ふざけんな!お前ぜってーマリクになんかするつもりだろ!」
「レニたんとめないであいつころせない」
「殺すなっつってんだよな――――!?」
はあはあ。やばいぞ。コイツの躊躇のなさ、恐ろしい。呪いは解けたんじゃなかったのか。愛する心はどうした。立派なハートレスロボじゃないか。
「呪いは解けたんだろ?愛する心を取り戻したんだろうが!」
「うん。取り戻したよ。でも残念ながらレニたんしか愛せないんだよね、不思議だね。もう俺っていう人間がレニたんしか愛せないようにできてるんじゃないかな」
「うわあ、すごいうれしくない。こんなに人に好かれて嬉しくないってあるか逆に凄いお前」
ひどい、とアーネストが喚く。いけない、場を収めなくては。俺は半分ジョークでもこいつは知らずに本気出すからな。恩人のマリクの安全を守るためにもセルフコントロールを覚えさせなくては。
「ステイだ、アーネスト。ステイ。よーしよしよし」
俺が顔の前に手のひらを突き付けて止めると、アーネストが口を閉じる。俺はコマンドに従ったアーネストの頭を撫でた。
アーネストはあからさまな犬扱いに顔をしかめつつも、どことなく嬉しそうにしている。
「レニたん、俺のことほんとに犬にする気?」
「お前がほんとに犬になっちゃいたいって言ったんだろ。何か不満が?」
「それは、言葉のあやでしょ!」
しれっと返した俺に、アーネストは憤慨する。この反応も初めて見るな。
「でも俺は、飼った犬は捨てないぞ?」
アーネストはカチンと固まったように動きを止め、俺を見つめる。俺は真剣な顔でその目を見つめ返した。
ざまあみろ。前にお前は俺の考えてることはわかりやすいって言ったけど、俺だって心を読めなくてもお前の考えてることぐらいわかる。
だってお前、俺を大好きじゃん。すっごくわかりにくすぎてわかんなかったけど、昔からずっと好きなんじゃん。
「俺は、権力なんて興味ない。王妃もできるならなりたくないし、お前の澄ましたデキる男ヅラもムカつく。だけど、俺に懐いてる犬なら飼ってもいい」
つまんない周りの評価とか、プライドとか全部かなぐり捨てて、ただ俺を愛する一人の男として俺を大事にしてくれるなら。
そういうお前なら、おれは素直に愛しいと思える。
「お前がほんとに辛くてもう王太子なんてやめたいんなら、好きにしろ。俺の募集してる犬に肩書は必要ないし、俺の意志を尊重して癒してくれればそれで十分っていう簡単なお仕事だけど、どうする?」
アーネストはめちゃくちゃ複雑そうな顔をして、暫く悩んだ末に尋ねる。
「………犬はエッチはNG?」
心配なのはそこかよ。でも、すごくこいつらしい。図々しいんだか、臆病なんだか。俺は何だか笑ってしまう。
「それは、お前次第かな。でも、イイコにしてればさせてやる」
「それでお願いします」
俺の返事を聞くなり、アーネストは食い気味に即答した。おおう。いつかは、と言うつもりだったけどタイミングを逃したぞ。
アーネストはものすごく真剣な顔で言い募った。
「でも王太子はやめない。どんなやつがレニたんを俺から取ろうとしても、絶対追い返したいし、今までできなかった分レニたんに色んなことしてあげたいから。だけど、一生レニたんのものでいるよ。絶対裏切らない」
アーネストが椅子から立ち上がって、俺の前に片膝をついて跪いた。俺の手を取って、頭を垂れる。
「俺を、レニたんの番犬にしてください」
言ってることはちょっとマニアックで倒錯的なのに、何だか騎士の誓いみたいで、思わずときめいてしまう。顔がいいって、ほんとずるいな。最強じゃん。
俺はふざけてまだ使ってなかったバターナイフを手に取って、ちょんちょんと肩を叩いてやる。
「くるしゅうない、なんてな」
「有り難き幸せ」
俺とアーネストは顔を見合わせて笑い、それから二人で軽食を食べた。二人で犬の躾の本を読んで、ああだこうだと話し合ったりする。
犬だなんだと言ったけど、普段はいつもと変わらない。
あれは、俺とあいつだけの確認と約束だ。俺の意志を無視しない、けして俺を傷つけない。そのかわりに俺は、こいつを見捨てずに傍にいる。そういう約束。
その約束がいつまで続くかは、まだわからないけど、なんとなく大丈夫なんじゃないかな、と思える。そう思える自分を、今は大事にしたかった。
やばい、アーネストが壊れた。
アーネストは人生初の奇声を上げると、万人にわかる狂気を目に宿して、ブツブツと何事かを呟き、やがて能面のごとき貼りついた笑顔を見せて言った。
「ごめんレニたん。俺やっぱり一度かえんなきゃ」
「ふざけんな!お前ぜってーマリクになんかするつもりだろ!」
「レニたんとめないであいつころせない」
「殺すなっつってんだよな――――!?」
はあはあ。やばいぞ。コイツの躊躇のなさ、恐ろしい。呪いは解けたんじゃなかったのか。愛する心はどうした。立派なハートレスロボじゃないか。
「呪いは解けたんだろ?愛する心を取り戻したんだろうが!」
「うん。取り戻したよ。でも残念ながらレニたんしか愛せないんだよね、不思議だね。もう俺っていう人間がレニたんしか愛せないようにできてるんじゃないかな」
「うわあ、すごいうれしくない。こんなに人に好かれて嬉しくないってあるか逆に凄いお前」
ひどい、とアーネストが喚く。いけない、場を収めなくては。俺は半分ジョークでもこいつは知らずに本気出すからな。恩人のマリクの安全を守るためにもセルフコントロールを覚えさせなくては。
「ステイだ、アーネスト。ステイ。よーしよしよし」
俺が顔の前に手のひらを突き付けて止めると、アーネストが口を閉じる。俺はコマンドに従ったアーネストの頭を撫でた。
アーネストはあからさまな犬扱いに顔をしかめつつも、どことなく嬉しそうにしている。
「レニたん、俺のことほんとに犬にする気?」
「お前がほんとに犬になっちゃいたいって言ったんだろ。何か不満が?」
「それは、言葉のあやでしょ!」
しれっと返した俺に、アーネストは憤慨する。この反応も初めて見るな。
「でも俺は、飼った犬は捨てないぞ?」
アーネストはカチンと固まったように動きを止め、俺を見つめる。俺は真剣な顔でその目を見つめ返した。
ざまあみろ。前にお前は俺の考えてることはわかりやすいって言ったけど、俺だって心を読めなくてもお前の考えてることぐらいわかる。
だってお前、俺を大好きじゃん。すっごくわかりにくすぎてわかんなかったけど、昔からずっと好きなんじゃん。
「俺は、権力なんて興味ない。王妃もできるならなりたくないし、お前の澄ましたデキる男ヅラもムカつく。だけど、俺に懐いてる犬なら飼ってもいい」
つまんない周りの評価とか、プライドとか全部かなぐり捨てて、ただ俺を愛する一人の男として俺を大事にしてくれるなら。
そういうお前なら、おれは素直に愛しいと思える。
「お前がほんとに辛くてもう王太子なんてやめたいんなら、好きにしろ。俺の募集してる犬に肩書は必要ないし、俺の意志を尊重して癒してくれればそれで十分っていう簡単なお仕事だけど、どうする?」
アーネストはめちゃくちゃ複雑そうな顔をして、暫く悩んだ末に尋ねる。
「………犬はエッチはNG?」
心配なのはそこかよ。でも、すごくこいつらしい。図々しいんだか、臆病なんだか。俺は何だか笑ってしまう。
「それは、お前次第かな。でも、イイコにしてればさせてやる」
「それでお願いします」
俺の返事を聞くなり、アーネストは食い気味に即答した。おおう。いつかは、と言うつもりだったけどタイミングを逃したぞ。
アーネストはものすごく真剣な顔で言い募った。
「でも王太子はやめない。どんなやつがレニたんを俺から取ろうとしても、絶対追い返したいし、今までできなかった分レニたんに色んなことしてあげたいから。だけど、一生レニたんのものでいるよ。絶対裏切らない」
アーネストが椅子から立ち上がって、俺の前に片膝をついて跪いた。俺の手を取って、頭を垂れる。
「俺を、レニたんの番犬にしてください」
言ってることはちょっとマニアックで倒錯的なのに、何だか騎士の誓いみたいで、思わずときめいてしまう。顔がいいって、ほんとずるいな。最強じゃん。
俺はふざけてまだ使ってなかったバターナイフを手に取って、ちょんちょんと肩を叩いてやる。
「くるしゅうない、なんてな」
「有り難き幸せ」
俺とアーネストは顔を見合わせて笑い、それから二人で軽食を食べた。二人で犬の躾の本を読んで、ああだこうだと話し合ったりする。
犬だなんだと言ったけど、普段はいつもと変わらない。
あれは、俺とあいつだけの確認と約束だ。俺の意志を無視しない、けして俺を傷つけない。そのかわりに俺は、こいつを見捨てずに傍にいる。そういう約束。
その約束がいつまで続くかは、まだわからないけど、なんとなく大丈夫なんじゃないかな、と思える。そう思える自分を、今は大事にしたかった。
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