【完結】俺を散々冷遇してた婚約者の王太子が断罪寸前で溺愛してきた話、聞く?

ゴルゴンゾーラ安井

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33.ほんとを教えて(後編)

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「レニたんが落ち込んで俯いちゃった時、すっごい罪悪感はあったけど、死んじゃうみたいな興奮よりは全然いつもの俺的にニュートラル寄りだからマシな感じでさ。すっごく安直な上にバカだけど、こうすればいいんだなって思った。キラキラしてるレニたんは危険すぎる」

「で、変な学習しちゃった結果、あの11年になったと」

「ほんとにすいませんでした!!!!!!!!」

 なんてことだ。そんなことで、と思うか、呪いって怖いと思うべきなのか。
 いや、確かに大変なことだと思う。自分がそんなんになるの、絶対に嫌だし。超できる王太子が、まさかハートレスロボだったなんて、俺これ聞いちゃってホントに大丈夫だったかな。
 だけど、コイツの俺に取った態度って、好きな女の子をいじめちゃう子供と変わんないレベルなんだよな。

「俺の態度のせいで、何にも知らないシンパがレニたん苛めだした時はどうしようかと思ったけど、俺が庇ったことがレニたんに知られてお礼とか言われたら、話してるだけで心拍数限界になってる俺の心臓がどうなっちゃうかわかんないし、そう思ったら贈り物もなんもできなくて。流石にレニたんに直接危害与えるような奴が出たら牢屋にブチ込んで日の目見れなくしてやったかもしれないけど」

「ひえ……こわ……」
 
 アーネストの青い瞳が、ランプに照らされてギラッと光る。こいつはやる気だよ。
 俺がおいそれと手を出されない身分で良かった。危うく王宮の闇みたいな惨事になるとこだった。
 それにしても今の口ぶりを聞いてると、コイツまじで根本的なとこは変わってないんだな。情緒死んでるから、行き過ぎた残虐行為も軽く感じちゃうんだろうか。ほんとこれ、野放しにして王様とかにしちゃいけないやつでは?

「だから、なんもくれなかったし、俺が贈り物してもスルーだったのか。まあ、捨てられてもしようがないと思ってたけど」

「それをすてるなんてとんでもない!!!!!!!!!!!!!!」

「うおっ」

 今の今まで落ち込んだムードだったアーネストが、突然テンション上げて叫んだ。あわわ、これは覚えがあるぞ。

「貰った時はいつも目に入ると危険だから見えないようにずっと隠してたけど、ちゃんと全部日に当たらないように完全保管してあるからね!食べ物だけはどうしても駄目だったけど、それ以外は全部とってあるから!!!もう、パーティーから帰った後、速攻で開けに行ったからね。推しのプレゼントに埋もれるとか至福過ぎてたまんなくて、11年分の手紙熟読して徹夜で全部返事書かせて頂きました!!!!帰ったら渡すね」

「いらないです、お気遣いなく……」

 やっぱり来たな、超絶早口のマシンガントーク。こいつ急にこういうスイッチ入るの、なんなんだろうな。
 あと、手紙はマジでいらない。何書いたか覚えてないし。

「ん?パーティー帰ってからってことは、やっぱりあの時お前の呪いになんかあったんだな!」

 なるほどなるほど、そうじゃなきゃおかしい。あからさまにおかしかったもん。さもありなん。

「うん、レニたんの愛の力で、俺はものすごく遅ればせながら愛する力を取り戻しまして、レニたんへの気持ちこそが真実の愛だってわかったんだ。ありがとう、レニたん」

「うーん、愛じゃねえなー。愛想尽きたのほうだったなー。てか、愛の力っていうならやっぱりマリクの力なんじゃね?勘違いなんでは?」

 10年前ならいざ知らず、俺はあのパーティーに臨んだ時には、綺麗さっぱりコイツへの愛なんか消え去っていた。確かに、ようやっと断罪の時が来た!ってめちゃくちゃ嬉しくて目を輝かせた記憶はあるけど、間違っても愛の力ではない。

「マリクはそういうんじゃないから」

「ウソつけ!入学式の時からめっちゃ特別感出してただろ。プレゼントだってちゃんと受け取ってたし、あの頃から呪いは解けてたんじゃねえの?」

「あれはね、レニたん……偽物の愛なんだよ……全部つくりものの、虚構の愛なんだ」

「なんかよくわかんねーけど、要するに遊んで捨てたってことか?」
 
 マジかこいつ、サイテーだな。俺はマリクを恩人だと思っているし、悪いこともしちゃった負い目がある。なまじっかずっと観察していたものだから、意外にガッツあるとことか、真面目で勤勉な授業態度とかには好感が持てて、図々しいけど一方的に友情みたいなものも感じたりしていた。
 そういうこともあって、あっさりと関係を否定するアーネストを侮蔑の目でみてしまう。俺を冷遇してた過去より許せないかもしれない。
 俺の冷たい目に気付いて、アーネストは慌てて言い募った。

「違うんだよレニたん!そんな目で見ないで!!!!!!マリクはね、えーと……なんて言ったらいいかな、そう、呪術師みたいなもんなの!呪いとか心の闇を抱えてる存在がわかって、そいつを救うために色々と力をこめた特別な香水とかハンカチとかクッキーとかを使って、疑似的な愛情を植え付けるんだ」

「えっ、それってすごくないか?……でも、犯罪スレスレなんじゃ」

 呪いを解くためとはいえ、仮にも一国の王太子の心を惑わす怪しげな薬を使ったってことだよな。こわすぎる。これも聞いちゃダメなやつなのかもしれない。

「そう。だからあの後、もうやっちゃダメだよって話も付けたし、感謝のしるしにお礼も渡した。騎士団長の息子のウィルフレッド知ってる?あいつとマリク、結婚するんだってさ」

「えっ、えええええええええええっ!!!!!????結婚ッ!?」

「そう、秋の武術大会で優勝したらだけどね」

 そんなバカな、いつのまに。ずっと見てたのに、マリク、俺の目を盗んで……??あ、でもそう言えばたまに運動場見てたり、騎士科の打ち合いを見に行ってたりしてたなあ。もしかしてウィルフレッドを見てたのか。

「ウィルフレッドって大丈夫なやつなの。女遊びは?暴力振るわない?頭悪くない?顔は?」

「えっ、レニたんなにいきなり」

「いいから答えて」

 めちゃくちゃ一方的だけど、俺は身内以外で唯一の心の中の友みたいに思ってるんだ。いきなり出てきた馬の骨に任せて大丈夫なのか知りたい。
 俺がずずずいっと机から身を乗り出して問い詰めようとすると、アーネストはチュッと俺の頬にキスした。同時に、あっとアーネストが声を上げる。
 
「ごめん、つい反射的に……」

「反射でキスするな!このバカ犬!!!!」
 
 俺は拳を握って耐える。ダメだ、殴っちゃ。躾は殴っちゃダメ……。俺は躾の心得を思い返して心を落ち着けた。

「目の前にめちゃくちゃ可愛い顔が来たから、我慢できなくて」

「そこらへんについての教育的指導はまた後でちゃんとするから覚えとけ。それより、質問に答えるんだ」

「え、えーと。ウィルフレッドはちゃんとまともな奴だよ。あ、そうだ、マリクに直接聞くといいよ。マリク、レニたんとお茶したいなーって言ってたよ?」

「お、お茶……マリクと……えっ、でも俺なんかが。色々意地悪しちゃったし。でも、お茶に誘われるとか初めて……どうしよう」

 一方的に友情を育んでた俺は、唐突な誘いにもじもじしながら迷った。ほんとにいいのかな、でも、ちゃんと謝れてないしな。許してくれるかな。

「レニたんのその態度おかしくない!?なんでマリクにその反応!?はっ、まさかあいつ、俺だけじゃなくレニたんまでチートアイテムを?駄目だあいつ……早くなんとかしないと……」

 アーネストがまたわけのわからないことをブツブツ呟く。でも、色々と聞いたおかげで、半分くらいは理解できるようになったぞ。ちーとあいてむとは、さっきアーネストが言ってた、香水やらハンカチに違いない。
 もしかして、俺が正気に戻れたのも、ほんとにマリクのお陰なのか?ハンカチとかは知らないけど、アーネストの隣にいた時にマリクから香水の香りがしたのは覚えてる。あの時は完全嫉妬モードだったからあんまり覚えてないけど、いい匂いだった気がする。

「え、やば。マジ天使じゃん。マリク好き……」




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