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31.失言【Side:アーネスト】

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  やらかした。しにたい。
 言いたいことこれだけだから、帰っていいよ。なんてね、ダメだよね。すいません。

 でもさ、俺マジでへこんでるのよ。あと、めちゃくちゃ動揺してんの。もしかしたら、2回の人生で過去一かもしれない。あ、トラックで跳ね飛ばされた時とはタイかも……。



 ほんと、やっちゃったよ。自分をコントロールできなくなるなんて、初めて。感情死んでるマシンの王太子時代だけじゃなく、前世含めて初めて。
 俺、こう見えてエッチは得意だけど性欲は薄い方なのよ?
 前世でカノジョはいっぱいいたけど、興奮することなんか稀で、確かにスッキリはするし気持ちよくはあるけど、正直めんどくさいなって方が大きかった。
 今生なんか、閨教育で経験はまああるけど、素人童貞だよ、素人童貞。まあ、その気になれば相手は沢山いたんだろうけど、情緒アレだから前世に輪をかけて興味なし。王族がうっかり失敗しちゃったら最悪だしさ。
 あ、言っとくけど、マリクとはそういう関係にはなってなかったから。『君アル』のアーネストルートは、断罪イベント後が本番で助かった。

 だから、正真正銘俺の初恋はレニたんで、自分からこんなにエッチしたい、イチャイチャしたいなんて思うのも初めてで、胸に顔埋めた時なんか、もう最高に天国だった。なにあれ。なんもつけてないのに、赤ちゃんみたいなめちゃくちゃいい匂いするの。あと、ものすごい抱擁感。バブみって興味なかったけど、アリだわ。新しい扉開けた。
 そんでめちゃくちゃ安心したのと同時に、それを剥ぎ取られる恐怖も感じた。あのクソ女のセリフが頭よぎっちゃったんだよね。あと10日足らずでしょ、みたいな。
 いやいや、そうしないために頑張ってるんだろって思いはしたけど、それでも実際どうなるんだろって不安はあった。レニたんのこと好きであればあるほど、前世の恋愛経験とか駆け引きのテクニックなんか通用しないし、流されるんじゃなく俺のことちゃんと受け止めてもらうにはどうしたらいいんだろって。

 だから、もしも犬ならって思った時、ほんとその方がいいなって思った。犬なら、レニたんに負担を掛けずにレニたんに愛して貰える。つまんないものに邪魔されずに、ずっとレニたんの傍にいられるし、くっついてじゃれ合ったり、二人で散歩したり、遊んだりできる。何より、きっとレニたんは一度飼った犬を捨てたりしない。
 そんなことを思ったら、とにかくもう今の俺を縛ってる何もかもが煩わしくなって、絶対に言わないでおこうと思ったことまでベラベラ洩らしちゃってた。
 あんな甘ったれたクソガキみたいなダサい愚痴、誰にも聞かせるつもりじゃなかったのに、思わず吐き出しちゃったときには、『えっ、俺今何言った?』って混乱して、めちゃくちゃ動揺したよ。

 俺は今まで散々傷つけたレニたんに可能な限り信用してもらうために、できるだけ頼れる男でいようと決めていた。
 そうじゃなきゃ俺の尻馬に乗っかってレニたんを苛めた虫を何とかできるって思ってもらえないと思うし、今まで俺も辛かったんですぅーみたいなクソ寒い被害者面でレニたんの同情を買おうとするような真似は死んでもしたくなかったから。だってそんなの、償いでもなんでもないでしょ。そんぐらいなら、クソムカつくって殴られた方がずっとまし。
 レニたんは優しいから、きっと俺が可哀想になって、自分の気持ちを殺して俺を許そうとしちゃうんじゃないだろうかと思うと、自分の迂闊さに反吐が出る。
 もう、レニたんに会わせる顔がなくて、俺はフラフラと書庫とか裏庭とかに身を隠すみたいにして、晩餐にも顔を出さなかった。
 今だって、時々無駄に男気を発揮するレニたんが俺の部屋を突撃してきても鉢合わせないよう、こっそり警備を抜け出して庭を歩き回っている。不審者と間違われないように、ちゃんと身を隠しながらだけどね。

 そうしながらも、俺はレニたんの部屋のバルコニーが見えるところまで歩いてきてしまった。バルコニーには侵入禁止とデカデカと書かれた看板がくくりつけられたロープが下がってる。
 いつもはちょっとガッカリする程度だけど、今はレニたんの心が全力で俺を跳ね返そうとしてるみたいで、結構くる。つらみ。

 ふと、公爵家の庭の木って枝振りいいなあ、みたく思った。ここから首とか吊ったら、いい感じに死ねそう。
 別にいつもこんなこと考えてるわけじゃないし、死んでおしまいみたいな安易な方法を取るつもりはないけど、思い付いちゃうのは仕方ない。

(ダメダメ、俺が死んだらレニたんを幸せにできないし)

 レニたんの呪いがある限り、俺は死ぬわけにはいかない。呪いが解除されるならいいけど、もしそうじゃなかった場合、レニたんが思いつめて後追いとかする羽目になったら困る。
 それがなきゃ、トラックにも跳ねられ済だし、弟に首も絞められて実質もう2回死んでるみたいなもんだから、どうなってもいいんだけどさ。
 いっそ誰かが俺が死んだらレニたんの呪いが解けますよって太鼓判押してくんないかな。俺の命で推しを救えるなら、喜んでガソリンでもなんでも被ってやるのにね。

「ゴメンね、レニたん。こんなんで」

 記憶が戻った時は、すっごい嬉しかったのにな。絶対絶対、レニたんを幸せにするって燃えてたのに。
 でも今は、どうすればレニたんにとって一番いいのか、なんだかよくわからなくなっちゃったよ。

 もう遅いから、流石に部屋に帰ろうかと思った時、レニたんの部屋のカーテンが開いた。
 レニたんは勢いよく窓を開け、ズカズカとバルコニーに出ると、吊り下がっていたロープを看板と一緒に回収して、部屋の中に放り込んだ。
 そして、窓の外をしばらく眺めた後、部屋に戻って窓を閉めた。でも、カーテンは閉まっていない。



「俺に、来いってこと……?」





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