【完結】俺を散々冷遇してた婚約者の王太子が断罪寸前で溺愛してきた話、聞く?

ゴルゴンゾーラ安井

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25.王太子は諦めない

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 ステラの言葉に、俺は頷けなかった。俺は答えを決めている。あと10日でアイツとは別れる。そう言ってしまえばいいのに、なんでできないんだろう。

「でも、おばあさまはアーネストにチャンスをあげるって約束したんだ。それを反故にするのはやっぱりだめだと思うし……」

 俺が課題のことを持ち出すと、ステラは苦虫を噛み潰したような顔になった。流石のステラでも、おばあさまには逆らえない。
 ステラが唸りながら黙ったので、俺はほっとした。これで今すぐ結論を出さずに済む。

(いや、違うだろ。結論は出してる。……ああ、考えが全然まとまらない)

「でもあの人、私がレニに纏わりついても、全然気にしてなさそうだったわ。無関心王太子って本当ね。おまけに、婚約者のレニを差し置いて、ルーリクとばかり話して」

「それは、お前がレニを独り占めしようとするからだろ。お前と揉めたくないから、アーネスト様は譲って下さったんじゃないか」

「ものは言いようね。レニはどう思う?」

「えっ、ええと……俺は……どうかな……」

 ルーリクと話すアーネストに、胸が苦しくなったのは事実だ。だからといって、アーネストが本当にルーリクを好きになったとも思えない。優しい抱擁は、俺の中のモヤモヤしたものを鎮めてくれた。ルーリクに気持ちを移していたら、あんなことしないんじゃないだろうか。
 そう言えば、マリクのやつ、アーネストにブン投げられてたな、とふと思い出す。怪我はなかっただろうか。本当に、なんて極端で容赦のないやつ。

「でも多分、俺がどうでもよくはない……んじゃないかな」

 俺が少しはにかみつつ答えると、ステラは肩をすくめてお茶を飲んだ。
 その日は結局それでお開きになり、ステラとルーリクは近いうちにまた訪問する旨を伝えて帰って行った。



     ****************



 二人が帰った後、俺はアーネストの部屋を訪ねることにした。いくらなんでも、あのままにはしておけないし、様子が気になる。
 伯父上には少し時間を置いたほうがいいんじゃないかと言われたけど、行かないと俺が落ち着かない。
 アーネストの客間には護衛の兵士がずらっと並んでいて、相変わらずの厳戒態勢だ。

「アーネストは?」

「お部屋にいらっしゃいます」

 兵士たちは恭しく道を開けて、俺を通してくれる。俺はノッカーを鳴らして、呼びかけた。
 
「アーネスト?俺だけど」

 部屋の中で「レニたん!?」と叫ぶ声が聞こえて、数秒で勢いよくドアが開いた。おおう、あぶねえ!

「いらっしゃい、レニたん。入って入って」

 ものすごく嬉しそうに俺を招き入れるアーネストの頬はちょっぴり紅潮していて、何だか大型の犬が尻尾をふってるみたいだな、と思った。まさかアーネストをかわいいと思う日が来るとは。
 さっきまでのアーネストは、王太子としては完璧で、以前のアーネストみたいだった。今はいつも通りのやばいポンコツなんだけど、なんだか安心する。あんなに元に戻ってほしかったのに、今はそう思えない。

「さっきは、ごめんな。ステラが変なこと言って」

「レニたんが謝ることじゃないよ。それに、お、怒ってないし」

 めっちゃ声震えてるぞ。ウソだろ、めっちゃ気にしてるだろ。
 思えば、自業自得とはいえアーネストもずっと針の蓆で可哀想だ。アウェイの辛さは俺にはよくわかる。
 おばあさまとの約束はあるけど、必ずしも屋敷にいる必要はないんじゃないだろうか。

「アーネスト、この屋敷、出るか?」

「……どういうこと?」

「いや、だってさ。ここってお前には居心地よくないだろ?何だかんだまだ半分も経ってないし、お前が嫌なら、そういうのもありだってこと。フロラインなら、セキュリティのちゃんとした宿だってあるし……」

 俺が言い募ると、アーネストはニマニマとした笑顔を浮かべる。な、なんだよ。

「いや、レニたんの愛を感じるな~って思って」

「はっ、はあっ!?そんなんじゃねーし!勘違いすんな!俺はただ」

「いじめられてる俺がかわいそうだったんだよね。レニたん優しい…めっちゃ天使…」

 アーネストにぎゅうぎゅうに抱きしめられ、俺はぐえっと声を上げた。折れる折れる、あがが。

「大丈夫だよ、レニたん。屋敷は出ないし、ステラ様と婚約もしない」

「………俺と、婚約破棄しても?」

 俺は思い切ってそう言った。俺がお前を選ばなかったら、お前はどうする?諦めるか、それとも暴れたりするんだろうか。

「婚約破棄したぐらいで諦めるって誰が言ったの?確かにマーガレット様とはレニたんの返事次第では婚約破棄に同意するとは約束したけど、レニたんを諦めるとは言ってない。レニたんがファンネに留まるなら、俺もハイランドには帰らないからね」



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