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24.覚悟をきめろ
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「変わった冗談を仰いますね、ステラ様は」
ステラの突然の申し出を、アーネストは笑い飛ばした。
「あら、どうして冗談だとお思いになりますの?私は本気ですわ」
「私はレニオールの婚約者です」
「ええ、わかってますわ。あと10日足らずの婚約者ですわね。それが済んでからで結構ですわ」
アーネストの顔から笑顔が消える。俺は思わずステラをかばうように身を寄せた。
「ステラ、まだ決まってもいないことを話すんじゃない」
ルーリクがステラを咎めた。ステラは悪びれた様子もなくツンと顎を上げる。
「あら、そうかしら。今までのことを思えば、答えはわかりきっているんじゃない?今更手のひらを返して機嫌を取ろうとしたところで、失った信用は取り戻せないわ」
ステラはアーネストに視線を戻し、言葉を続ける。
「レニオールにはレニオールの人生がありますの。私はレニのこんな顔を見ているのは真っ平ごめんですわ。あなたの心境にどういった変化がおありになったのかは存じ上げませんけど、レニの優しさに付け込んで、いつまでも飼い殺しにするのはやめて下さらないかしら」
正面からあまりにもまっすぐに、ステラはアーネストを糾弾した。
ステラの言葉はいつも俺が思い悩んでいることそのもので、まるで俺の心を代弁してくれたかのようだ。
なのに、あんまり嬉しくないのはなんでだろう。むしろ、不安で胸がざわざわする。
「決めるのはレニです。申し訳ありませんが、今日はここで失礼します。私がいては場を壊してしまうようだ」
アーネストがそう答えて、席を立った。俺は慌てて席を立ち、食堂を出るアーネストを追い掛ける。
「アーネスト!」
アーネストは立ち止まり、振り向いて俺の頭を撫でながら言った。その仕草は優しくて、怒っているようには見えない。
「心配しなくて大丈夫だよ。レニたんはもうちょっと楽しんできなよ」
「ステラがごめん、あいつ昔っから言いすぎるとこあって」
「でも、間違ったことは言ってない。でしょ?」
「……それは………」
俺は答えられなかった。アーネストは俺を抱き寄せて旋毛にキスを落とすと、そのまま部屋に帰って行った。
どこか沈んだ気持ちで食堂に戻ると、ステラが皆に叱られていた。他国の王太子に対して言っていいことと悪いことがある。まして、ステラは責任ある王族なのだから。
一歩間違えば、国同士の争いに発展してしまうところだ。
「あの人はそんなことしないわよ。ほんとにレニと結婚したいならね」
ステラはしれっとした顔で紅茶を飲み、そう言った。
確かに、俺がアーネストの婚約者に選ばれたのは、傍系とはいえファンネ王家の血が流れているからだ。ファンネと争うことになれば、俺の立場は悪くなり、王太子妃にはなれなくなるだろう。
「もしレニを捨てて自分の面子を優先させるような男が王太子なら、正面から争うことも辞さないわ。今まで散々レニを苛めて、ファンネの血統をコケにしてくれたのはあっちなんだから。皆だってそう思っているでしょ」
いやいや、物騒すぎるだろ。そんなことのために、争わないでほしい。
そう思う俺とは裏腹に、テーブルに付いている全員が黙っていた。まじか……やめてくれよ、まじで。
「俺はそんなこと望んでないよ。みんなが大変な目に遭う方がいやだ」
「ほんと、レニはいい子なんだから。でも、もう大丈夫よ」
「大丈夫って、何が?」
「あの人との婚約のことよ。迷う必要なんてないわ。レニは優しいから、国に与える影響とか色々気にしてるんだと思うけど、そんなこと考えなくていいの。後は私が引き受けるから、あんな男切っちゃいなさい」
ステラの突然の申し出を、アーネストは笑い飛ばした。
「あら、どうして冗談だとお思いになりますの?私は本気ですわ」
「私はレニオールの婚約者です」
「ええ、わかってますわ。あと10日足らずの婚約者ですわね。それが済んでからで結構ですわ」
アーネストの顔から笑顔が消える。俺は思わずステラをかばうように身を寄せた。
「ステラ、まだ決まってもいないことを話すんじゃない」
ルーリクがステラを咎めた。ステラは悪びれた様子もなくツンと顎を上げる。
「あら、そうかしら。今までのことを思えば、答えはわかりきっているんじゃない?今更手のひらを返して機嫌を取ろうとしたところで、失った信用は取り戻せないわ」
ステラはアーネストに視線を戻し、言葉を続ける。
「レニオールにはレニオールの人生がありますの。私はレニのこんな顔を見ているのは真っ平ごめんですわ。あなたの心境にどういった変化がおありになったのかは存じ上げませんけど、レニの優しさに付け込んで、いつまでも飼い殺しにするのはやめて下さらないかしら」
正面からあまりにもまっすぐに、ステラはアーネストを糾弾した。
ステラの言葉はいつも俺が思い悩んでいることそのもので、まるで俺の心を代弁してくれたかのようだ。
なのに、あんまり嬉しくないのはなんでだろう。むしろ、不安で胸がざわざわする。
「決めるのはレニです。申し訳ありませんが、今日はここで失礼します。私がいては場を壊してしまうようだ」
アーネストがそう答えて、席を立った。俺は慌てて席を立ち、食堂を出るアーネストを追い掛ける。
「アーネスト!」
アーネストは立ち止まり、振り向いて俺の頭を撫でながら言った。その仕草は優しくて、怒っているようには見えない。
「心配しなくて大丈夫だよ。レニたんはもうちょっと楽しんできなよ」
「ステラがごめん、あいつ昔っから言いすぎるとこあって」
「でも、間違ったことは言ってない。でしょ?」
「……それは………」
俺は答えられなかった。アーネストは俺を抱き寄せて旋毛にキスを落とすと、そのまま部屋に帰って行った。
どこか沈んだ気持ちで食堂に戻ると、ステラが皆に叱られていた。他国の王太子に対して言っていいことと悪いことがある。まして、ステラは責任ある王族なのだから。
一歩間違えば、国同士の争いに発展してしまうところだ。
「あの人はそんなことしないわよ。ほんとにレニと結婚したいならね」
ステラはしれっとした顔で紅茶を飲み、そう言った。
確かに、俺がアーネストの婚約者に選ばれたのは、傍系とはいえファンネ王家の血が流れているからだ。ファンネと争うことになれば、俺の立場は悪くなり、王太子妃にはなれなくなるだろう。
「もしレニを捨てて自分の面子を優先させるような男が王太子なら、正面から争うことも辞さないわ。今まで散々レニを苛めて、ファンネの血統をコケにしてくれたのはあっちなんだから。皆だってそう思っているでしょ」
いやいや、物騒すぎるだろ。そんなことのために、争わないでほしい。
そう思う俺とは裏腹に、テーブルに付いている全員が黙っていた。まじか……やめてくれよ、まじで。
「俺はそんなこと望んでないよ。みんなが大変な目に遭う方がいやだ」
「ほんと、レニはいい子なんだから。でも、もう大丈夫よ」
「大丈夫って、何が?」
「あの人との婚約のことよ。迷う必要なんてないわ。レニは優しいから、国に与える影響とか色々気にしてるんだと思うけど、そんなこと考えなくていいの。後は私が引き受けるから、あんな男切っちゃいなさい」
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