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18.王太子の死ぬほどいらん報告
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翌朝起きた俺は、食堂には行かずに自室で朝食を食べていた。いつもは朝はあんまり食べないんだが、今日はパンを3つ、ハムに玉子、果物まで手を伸ばして口に運ぶ。半ば自棄食いに近い。
昨夜は何だか雰囲気に酔って、乙女よろしく枕を濡らすような行動を取ってしまったが、我ながらきもかったと反省してる。
よくよく考えれば、変なことされずに済んだんだから、喜びこそすれ悲しむようなことじゃない。
それでも、狩った獲物を『やっぱマズそう』みたいに捨てて行ったアーネストには、純粋にバカにされたみたいでムカつく。朝一であのニヤけた顔を拝んだら、マジでぶん殴りたくなりそう。
それで、こうして自分の部屋でガツガツ朝食を貪ってるってわけだ。
「本日はどうなさいますか?」
メイドがお茶のおかわりを淹れてくれながら予定を聞いてくるけど、俺はうーんと唸ってしまう。
予定では久しぶりに遠乗りでも行こうと思っていたけど、どうしようかなぁ。一人じゃ許してもらえなさそうだし、かといってアーネストの野郎を誘ってやりたいとも思えない。
「先日アルテナが仔馬を産んだんですよ。もしお時間があるなら、会いに行くのはいかがですか?」
アルテナは綺麗な葦毛の馬で、俺のお気に入りだ。とても穏やかな気性で、あんまり乗馬が得意でない俺でも安心して乗ることができるいい子なのだ。
そのアルテナの仔馬なんて、絶対可愛いに決まってる。俄然ワクワクしてきたぞ!
「早速行ってみる!」
俺の声が弾んだのを聞いて、メイドはニコニコした。きっと俺が朝からバクバク自棄食いなんかしてるから、気を遣ってくれたんだろうな。優しい。
今度街に行って、日頃のお礼も兼ねてお土産を買うのもいいかもしれない。
王都の街を歩くのは初めてだし、この間の誘拐事件にはめちゃくちゃビビらされたけど、護衛をたくさんつけてもらって、絶対に1人にならなければ大丈夫だろう。王都には貴族用の店もいっぱいあるし。
何だか予定が一気に増えて、俺はルンルンと機嫌良く厩舎へと向かった。
久しぶりの訪問を馬丁のヨゼフは歓迎してくれる。
ヨゼフは俺が小さい頃からずっと公爵家に仕えていて、今はだいぶおじいちゃんだ。
幼い頃、母国で人の悪意に晒されまくった俺は、一時期人間不信になったことがある。
俺を励ましてくれる使用人たちも、本当は自分を嫌って陰で笑っているんじゃないか。そんな被害妄想に陥った俺は、この厩舎に入り浸っていた。
馬たちは人間と違って、俺を騙したり悪口を言ったりしないし、大きな優しい目を見つめていると、何だかすごく癒されたんだよな。
身分あるガキが仕事場に毎日のように居座り続けたら、ヨゼフも仕事が大変だったに違いない。それでも、この馬丁は嫌な顔ひとつ見せず、いつも穏やかに笑っていた。
口数が多くないヨゼフは、そんなにたくさん話してくれるわけではなかったけど、そういうところを含めて俺はヨゼフが大好きになった。
年老いても元気な姿を見ることができて、俺は余計に嬉しくなる。
「久しぶり、ヨゼフ。元気そうで安心したよ」
「坊ちゃんもお元気そうで。またお目にかかれて、いい冥土の土産になりました」
言葉の内容とは裏腹に、ヨゼフの語り口は力強くて、それほど老いを感じなかった。
ていうか、同じセリフをここ10年ぐらいずーっと聞いてる。もはや口癖なんだろうな。
「またそんなこと言って。そんな元気な老人を相手にするほど、死神も暇じゃないよ」
「わかりませんよ。コイツらの飼い葉を1人でやるのも、年々辛くなって来ました。そろそろその仕事も若造どもに任せにゃなりませんなあ」
ここの馬、50頭はいるからな。そもそも一人で餌やり出来るのがおかしいんだよ。こりゃまだまだ大丈夫そうだな。
「アルテナが子供を産んだって聞いて来たんだ。アルテナは元気?」
「アルテナも子供も元気でさあ。こっちです」
ヨゼフについていくと、仔馬がアルテナからお乳を貰っているところだった。仔馬はまだ小さくて、思わず身悶えしてしまうぐらいの可愛さだ。
「うわぁ、かわいい~~~♡」
俺は柵に寄って、その様子を覗きこむ。アルテナのおっぱいを一生懸命吸ってミルクを飲んでいる姿は、本当に微笑ましい。
「お馬にはしゃぐレニたんも、最高にかわいい♡♡♡」
いきなりぬっと背後に現れた人影に耳元で囁かれた俺は、全身に鳥肌を立てて絶叫する。
「ギャー―――――――!!!!!!」
俺の声にびっくりして馬たちが興奮し、嘶き上げる。ああああ、ごめん、ほんとにごめん!!!!
ヨゼフや厩舎の人たちがきちんと対処して馬たちを落ち着かせてくれたけど、本当に申し訳ない。
「後ろから声を掛けるな!キモいしコエーしキモいんだよ!」
「キモいって2回も言うじゃん……。でも、びっくりさせた俺が悪いもんね、ごめんねレニたん」
アーネストはそう言いながら、どさくさに紛れて俺の顔に頬ずりしてくる。クソムカつくな、調子こいてんじゃねーぞクソ王子!俺は半眼になりながら心底いやそうな顔になった。
「やめろくださいクソ野郎」
「うわあ、レニたんがいつにも増して辛辣♡♡♡推しの虚無顔いただきました!レニたんの新顔、目に焼き付けちゃおう。脳内保存待ったなしあースマホとカメラ超欲しい」
殴っていい?もうほんとこいつ、殴っていいですかね!?
昨夜のことを思い返しても、本当にコイツが何を考えてるのか全くわからん。キ○ガイの思考を理解するなんて土台無理な話なんだろうが、このままじゃ俺の堪忍袋がいつ切れるかわからない。2週間と言わず、今すぐ追い出してやりたいんだが!!!!!
「昨夜のレニたんも、最高に可愛かったな。俺の脳内メモリいっぱいになっちゃった」
声のトーンを変えて、俺以外の誰にも聞こえないような声でアーネストが囁いた。吐息が耳元にかかって、俺は硬直する。
いや、ダメだ!負けるな俺!コイツは俺をからかっているだけなんだ。きっとそうだ。
「ウソつけ。ほんとに可愛かったらその気にならないわけねーだろ。誰が騙されるか」
アーネストがキョトンとした顔で俺を見た。俺はますます憎たらしく思って奴を睨んだけど、ハッと我に返る。
今のって、何だか俺がこいつにその気になってほしかったみたいに聞こえないか?違う、断じて違うぞ!いや、確かに俺も男だから、あの時は煽られて興奮してしまったけど、それは健康な男子の正常な生理現象であって、別にコイツのことが好きとかそういうわけでは断じてない!!!
「レニたん、もしかして昨日のこと怒ってるの?」
「おっ、おおおおおおおお怒ってねーし!」
「でも、俺に置いてかれて寂しかったんだよね?」
アーネストがニヤけた顔で笑うもんだから、俺は怒りと羞恥で顔を真っ赤にする。こいつほんとに嫌いだ!
「ごめんねレニたん。でも、俺もマジ爆発寸前で、今すぐ離れないとそりゃあもう野獣のようにレニたんのやらしい体にむしゃぶりついちゃうとこだったからさ。俺としてはもうどうなってもいいからやりたいって思ったんだけど、この屋敷の人に俺が無理矢理レニたんを強姦したって思われたら追い出されちゃうからさあ。そりゃあもう、断腸の思いで断念したわけ。あの後部屋戻ってからレニたんのエロ顔でめちゃくちゃハッスルしまくって、なんで追い出されてもいいからやっちゃわなかったんだろって死ぬほど後悔したよね」
心底悔しそうに拳を握りしめ、アーネストは一人でべらべらと捲し立てた。
つまりコイツは、俺に食指が動かなかったわけじゃなく、ほんとはめちゃくちゃやりたかったのか。
それはそうとして、俺をオカズにして抜いたことまで本人に報告するな。普通に引く。
でも、俺も昨日はアーネストを想像しながらしちゃったから、同罪?いやでも、それを言うのはやっぱないよな。でも、こいつは俺がコイツで抜いたって聞いたらめちゃくちゃ喜びそうだよな。
「だからね、レニたん。もしレニたんがオッケーって思ってたら、今日は窓の鍵を開けておいて?」
「はっ?」
「レニたんが同意してくれた上でのことなら、公爵家の人たちも文句言えないでしょ?」
アーネストがにっこりと、でもなんかちょっと黒い笑顔で笑う。
俺は言われた言葉の意味を理解するのに数分かかり、再び厩舎で悲鳴をあげることになったのだった。
昨夜は何だか雰囲気に酔って、乙女よろしく枕を濡らすような行動を取ってしまったが、我ながらきもかったと反省してる。
よくよく考えれば、変なことされずに済んだんだから、喜びこそすれ悲しむようなことじゃない。
それでも、狩った獲物を『やっぱマズそう』みたいに捨てて行ったアーネストには、純粋にバカにされたみたいでムカつく。朝一であのニヤけた顔を拝んだら、マジでぶん殴りたくなりそう。
それで、こうして自分の部屋でガツガツ朝食を貪ってるってわけだ。
「本日はどうなさいますか?」
メイドがお茶のおかわりを淹れてくれながら予定を聞いてくるけど、俺はうーんと唸ってしまう。
予定では久しぶりに遠乗りでも行こうと思っていたけど、どうしようかなぁ。一人じゃ許してもらえなさそうだし、かといってアーネストの野郎を誘ってやりたいとも思えない。
「先日アルテナが仔馬を産んだんですよ。もしお時間があるなら、会いに行くのはいかがですか?」
アルテナは綺麗な葦毛の馬で、俺のお気に入りだ。とても穏やかな気性で、あんまり乗馬が得意でない俺でも安心して乗ることができるいい子なのだ。
そのアルテナの仔馬なんて、絶対可愛いに決まってる。俄然ワクワクしてきたぞ!
「早速行ってみる!」
俺の声が弾んだのを聞いて、メイドはニコニコした。きっと俺が朝からバクバク自棄食いなんかしてるから、気を遣ってくれたんだろうな。優しい。
今度街に行って、日頃のお礼も兼ねてお土産を買うのもいいかもしれない。
王都の街を歩くのは初めてだし、この間の誘拐事件にはめちゃくちゃビビらされたけど、護衛をたくさんつけてもらって、絶対に1人にならなければ大丈夫だろう。王都には貴族用の店もいっぱいあるし。
何だか予定が一気に増えて、俺はルンルンと機嫌良く厩舎へと向かった。
久しぶりの訪問を馬丁のヨゼフは歓迎してくれる。
ヨゼフは俺が小さい頃からずっと公爵家に仕えていて、今はだいぶおじいちゃんだ。
幼い頃、母国で人の悪意に晒されまくった俺は、一時期人間不信になったことがある。
俺を励ましてくれる使用人たちも、本当は自分を嫌って陰で笑っているんじゃないか。そんな被害妄想に陥った俺は、この厩舎に入り浸っていた。
馬たちは人間と違って、俺を騙したり悪口を言ったりしないし、大きな優しい目を見つめていると、何だかすごく癒されたんだよな。
身分あるガキが仕事場に毎日のように居座り続けたら、ヨゼフも仕事が大変だったに違いない。それでも、この馬丁は嫌な顔ひとつ見せず、いつも穏やかに笑っていた。
口数が多くないヨゼフは、そんなにたくさん話してくれるわけではなかったけど、そういうところを含めて俺はヨゼフが大好きになった。
年老いても元気な姿を見ることができて、俺は余計に嬉しくなる。
「久しぶり、ヨゼフ。元気そうで安心したよ」
「坊ちゃんもお元気そうで。またお目にかかれて、いい冥土の土産になりました」
言葉の内容とは裏腹に、ヨゼフの語り口は力強くて、それほど老いを感じなかった。
ていうか、同じセリフをここ10年ぐらいずーっと聞いてる。もはや口癖なんだろうな。
「またそんなこと言って。そんな元気な老人を相手にするほど、死神も暇じゃないよ」
「わかりませんよ。コイツらの飼い葉を1人でやるのも、年々辛くなって来ました。そろそろその仕事も若造どもに任せにゃなりませんなあ」
ここの馬、50頭はいるからな。そもそも一人で餌やり出来るのがおかしいんだよ。こりゃまだまだ大丈夫そうだな。
「アルテナが子供を産んだって聞いて来たんだ。アルテナは元気?」
「アルテナも子供も元気でさあ。こっちです」
ヨゼフについていくと、仔馬がアルテナからお乳を貰っているところだった。仔馬はまだ小さくて、思わず身悶えしてしまうぐらいの可愛さだ。
「うわぁ、かわいい~~~♡」
俺は柵に寄って、その様子を覗きこむ。アルテナのおっぱいを一生懸命吸ってミルクを飲んでいる姿は、本当に微笑ましい。
「お馬にはしゃぐレニたんも、最高にかわいい♡♡♡」
いきなりぬっと背後に現れた人影に耳元で囁かれた俺は、全身に鳥肌を立てて絶叫する。
「ギャー―――――――!!!!!!」
俺の声にびっくりして馬たちが興奮し、嘶き上げる。ああああ、ごめん、ほんとにごめん!!!!
ヨゼフや厩舎の人たちがきちんと対処して馬たちを落ち着かせてくれたけど、本当に申し訳ない。
「後ろから声を掛けるな!キモいしコエーしキモいんだよ!」
「キモいって2回も言うじゃん……。でも、びっくりさせた俺が悪いもんね、ごめんねレニたん」
アーネストはそう言いながら、どさくさに紛れて俺の顔に頬ずりしてくる。クソムカつくな、調子こいてんじゃねーぞクソ王子!俺は半眼になりながら心底いやそうな顔になった。
「やめろくださいクソ野郎」
「うわあ、レニたんがいつにも増して辛辣♡♡♡推しの虚無顔いただきました!レニたんの新顔、目に焼き付けちゃおう。脳内保存待ったなしあースマホとカメラ超欲しい」
殴っていい?もうほんとこいつ、殴っていいですかね!?
昨夜のことを思い返しても、本当にコイツが何を考えてるのか全くわからん。キ○ガイの思考を理解するなんて土台無理な話なんだろうが、このままじゃ俺の堪忍袋がいつ切れるかわからない。2週間と言わず、今すぐ追い出してやりたいんだが!!!!!
「昨夜のレニたんも、最高に可愛かったな。俺の脳内メモリいっぱいになっちゃった」
声のトーンを変えて、俺以外の誰にも聞こえないような声でアーネストが囁いた。吐息が耳元にかかって、俺は硬直する。
いや、ダメだ!負けるな俺!コイツは俺をからかっているだけなんだ。きっとそうだ。
「ウソつけ。ほんとに可愛かったらその気にならないわけねーだろ。誰が騙されるか」
アーネストがキョトンとした顔で俺を見た。俺はますます憎たらしく思って奴を睨んだけど、ハッと我に返る。
今のって、何だか俺がこいつにその気になってほしかったみたいに聞こえないか?違う、断じて違うぞ!いや、確かに俺も男だから、あの時は煽られて興奮してしまったけど、それは健康な男子の正常な生理現象であって、別にコイツのことが好きとかそういうわけでは断じてない!!!
「レニたん、もしかして昨日のこと怒ってるの?」
「おっ、おおおおおおおお怒ってねーし!」
「でも、俺に置いてかれて寂しかったんだよね?」
アーネストがニヤけた顔で笑うもんだから、俺は怒りと羞恥で顔を真っ赤にする。こいつほんとに嫌いだ!
「ごめんねレニたん。でも、俺もマジ爆発寸前で、今すぐ離れないとそりゃあもう野獣のようにレニたんのやらしい体にむしゃぶりついちゃうとこだったからさ。俺としてはもうどうなってもいいからやりたいって思ったんだけど、この屋敷の人に俺が無理矢理レニたんを強姦したって思われたら追い出されちゃうからさあ。そりゃあもう、断腸の思いで断念したわけ。あの後部屋戻ってからレニたんのエロ顔でめちゃくちゃハッスルしまくって、なんで追い出されてもいいからやっちゃわなかったんだろって死ぬほど後悔したよね」
心底悔しそうに拳を握りしめ、アーネストは一人でべらべらと捲し立てた。
つまりコイツは、俺に食指が動かなかったわけじゃなく、ほんとはめちゃくちゃやりたかったのか。
それはそうとして、俺をオカズにして抜いたことまで本人に報告するな。普通に引く。
でも、俺も昨日はアーネストを想像しながらしちゃったから、同罪?いやでも、それを言うのはやっぱないよな。でも、こいつは俺がコイツで抜いたって聞いたらめちゃくちゃ喜びそうだよな。
「だからね、レニたん。もしレニたんがオッケーって思ってたら、今日は窓の鍵を開けておいて?」
「はっ?」
「レニたんが同意してくれた上でのことなら、公爵家の人たちも文句言えないでしょ?」
アーネストがにっこりと、でもなんかちょっと黒い笑顔で笑う。
俺は言われた言葉の意味を理解するのに数分かかり、再び厩舎で悲鳴をあげることになったのだった。
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