【完結】俺を散々冷遇してた婚約者の王太子が断罪寸前で溺愛してきた話、聞く?

ゴルゴンゾーラ安井

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10.王太子は心が読める?

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「レニたんってさあ、実は結構口悪いよね」

 アーネストがそんなことを言い出したのは、もうすぐ今夜の宿に着こうかという時だった。
 正気に戻った俺が膝の上から降りようとしたのをガッチリ掴んで離さず、数時間も俺の髪の匂いを嗅いだり、こめかみに頬をすり寄せたりしていたと思ったら、いきなり何をいい出すんだ。

「ソンナコトナイデスヨ」

「アハハ、別に叱るつもりとかないから。俺だってこんなだしさぁ」

 ウソつけ。お前絶対そんなんじゃなかったろ。いきなりだろ。ていうかレニたんやめろや。回数は減ってきたけど、未だにちょくちょく出るな。
 考えてみれば、別にこれは誤魔化す必要ないんじゃないだろうか。口汚い王太子妃なんて絶対NGに決まってるし、あわよくばコイツから逃れられるのでは?

「今更隠しても仕方ないですね。お察しの通り、俺はめっちゃ口悪いし、品もないし、アーネスト様にマナーマナー言われるたびブチ切れそうになってましたよ」

 最低限の敬語以外全てを取っ払って話すと、アーネストは手を叩いて喜ぶ。

「いいねいいね!それでこそレニたんって感じ!」

「な ん で だ よ !!!!!!!!!」

 どういう意味だ!?俺、今まで外面だけはしおらしくちゃんとしてたよね!?できてなかった?マジで?ショックすぎて立ち直れないんだけど。

「あ、違うよ。いつものレニたんはちゃんとお淑やかで完璧だし、多分みんなもレニたんはか弱くて内気な子って思ってるんじゃないかな」

 そんなわけあるか。俺の周囲の共通認識が『か弱くて内気な子』とか、語弊ありすぎだろ。
 
「トロくて陰気の間違いじゃないですか?」

 俺がヘッとはすっぱな声を上げながら言うと、いきなり寒気を感じてぞくっとした。

「なにそれ。俺のレニたんに、誰がそんなこと言ったわけ?」

 え、めっちゃ真顔じゃん。つーかすげー怖いんですけど。アーネストの周りだけ温度下がってるような気さえする。
 誰が言ったかなんて覚えてられないぐらい不特定多数の人間に言われてますけど、それ聞いてどうするつもり?

「別に、誰かに言われたとか、そういうわけじゃナイデス」

 ダメだ。嫌われるために汚い言葉遣いをしたい気持ちはあるけど、普通にコイツが怖すぎて勝手に敬語を使ってしまう。こわいんだもん、コイツ。助けてよ。

「―――そう?まあ、今のところはそうしておこうか。大体想像はついてるけど」

 想像がつかれちゃった人は、一体誰で、どんな目に遭うんだろう。まさか、何かしたりするわけじゃないよな?

「ええと、もしいたら何をするつもりで?」

 恐る恐る尋ねると、アーネストは完璧なアルカイックスマイルで応えた。

「さあ、どうしようかなあ。まずは―――」

「いやっ、いいです!やっぱり聞きたくない!」

「ふふっ」
 
 いや、フフッじゃねえって!ほんとこいつもうやだ。おうちかえりたい。
 俺が怯えているのに気付いてか、アーネストは放っていた冷気を収め、話題を戻す。

「俺はさあ、プレイ中テキスト読んでるから、地の文でわかっちゃうんだよね」

 俺は今のお前の発言全部意味が解らなかったけどな。
 プレイってなんだ。何をプレイしてるんだお前は。テキスト?地の文?単語そのものは理解できるけど、コイツが何を言ってるのかだけが全く分からないって逆にスゲェよ。

「ふふっ、コイツ何言ってんのかマジわかんねぇって顔してる」

 プニプニと人差し指で頬を突きながら指摘され、俺は飛び上がりそうになった。
 
「なんだコイツ、俺の心読んでんのかよ、まじコエーよって思ってるでしょ」

「ひ、ひええええ」

 アーネストが心底面白そうに吹き出す。お前が楽しそうでも、俺は全然笑えねえんだよ!心読んでんじゃねーよ!てか、マジ?マジなの?コイツそんな能力持ってんの?そんなん詰みじゃん!

「レニはさあ、口は悪いけど基本育ちがいいから、汚い言葉のバリエーションが少なくてわかりやすいんだよね」

「心を読んでるわけじゃないってことですか?」

「さあ、どうかなあ。ふふふ」

 ダメだ。怖すぎる。でも、ここはハッキリさせておかなくては、今後の対策もとれやしない。コイツから逃げるためには、全ての考えを読まれるわけにはいかない。

「アーネスト様、これから俺が念じる言葉、当ててみてください」

 俺はアーネストの目を見ると、何かを念じようとする。何を念じようかな。なんにも考えてなかった。えーとえーと、俺が普段絶対思わないやつ。そんで、コイツの反応がわかりやすい言葉。

(アーネスト様、好き。大好き)

 今のコイツなら、俺がこう言えば、きっと喜ぶんじゃないだろうか。俺はアーネストの表情を伺いながら、好き好きと念じ続けた。

「どうですか?わかりましたか?」

「えー、そうだなぁ。好き好き、だいすき~、みたいな。なーんてね」

 え、これ、本物じゃん?なんでわかるわけ?ありえなくない?

「あれ?その反応、もしかして当たった?ほんとに!?うわ~♡♡♡レニたん俺もだよ!好き好き大好き!愛してる!レニたんのためなら本気出す!」

 本気出すっていったい何に?とは聞けなかった。
 力いっぱい抱きしめて頬ずりしてくるアーネストにされるがままになりながら、俺は状況の整理を試みる。

(これは、あてずっぽうだったんだよな?心読まれてはないんだよな?ていうか、俺、まじ何やってんの?あいつの顔見ながら、好き好き~って念じるとか、バカじゃない!?)

 今更ながら自分の行動の滑稽さに気付き、羞恥心でいっぱいになる。数分前の俺の首を絞めて、目を覚ませと言ってやりたい。

「調子のんなよテメー!!!!!こんなの全部ウソだから!!!試しただけだから!ほんとは全然すきじゃないし!大大だいっきらいだから!!!!!」

「ツンデレいただきました――――!それでこそレニたん!!!」

 人生初の罵倒を浴びせられたアーネストは、声の限りにいただきましたと叫び、しまいには奇声を発して悶え始めた。
 そんな馬車の中の二人の会話を、護衛の兵士たちは生暖かい気持ちで聞いていたのだった。





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