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第七章~日丸国建国祭~

第74話 慰労会

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建国祭が終わってもなお、日丸国の者達は休むことなく、仕事に追われていた。
帰国者の誘導、露店の片付け、売り上げの集計などやることが多く、皆の疲労は溜まり始めていた。
それを見越した光成は、建国祭が終わった次の日、日和街の大宴会場で慰労会を開くことにした。





夕方、日和街にある大宴会場「富士」。その広さから富士と名付けられた西洋造りの宴会場には、様々な料理や酒が並べられており、今回の慰労会に参加する者達が大勢集まって居た。

「かなり集まって居るな…」

「まぁ、こういうことには参加する方が得だからな」

今回の慰労会に参加するため、光太郎と信介の2人もやってきていた。
2人は酒が入ったコップを片手に会場内を見渡し、光太郎は光成を信介は零を探していた。
すると、

「ろ、ローベルト首相!?」

っと、信介が声を出して驚いた。

「ローベルト首相達ならとっくに帰っているだ…ろ……」

信介を疑いながら、光太郎は信介の視線の先を見て言葉を失う。
2人の視線の先には、帰ったはずのトムヤードが、オーレルドと話しており、少し右に視線を向ければ桜花艦隊の者と話しているウルフの姿もあった。

「……ローベルト首相…」

光太郎はどうしてここにいる理由を聞くため、トムヤードに声をかけることにした。

「おお、山本くんに鳴門くんか」

「おっと、では私はこれで」

「ああ…!」

声をかけられたトムヤードは、オーレルドとの話を切り上げ、光太郎の方を向いた。

「何故、ここに…?」

トムヤードが居る理由が分からない2人は、恐る恐る理由を尋ねた。

「それか…実は部下達から少し休めと言われてな…明々後日まで休暇することになったんだ。まぁ、明日には帰るつもりだがな。アルシャー大統領はある程度安全が確認されるまで居るみたいだがな」

光太郎からの質問に、トムヤードは自身とウルフがここに居る理由を答えた。

「なるほど…そういうことだったんですか」

「嗚呼…ここにいる理由としては、竹田首相にパーティーへの参加を勧められてな。まぁ、我々のことを気にせず楽しんでくれ」

「「はっ、失礼します!」」

2人はトムヤードに敬礼し、その場を後にした。
トムヤードと別れた2人が会場内を歩いていると、

『皆様、お静かにお願い致します』

会場の前方にあるステージの上にたった者からアナウンスが入り、先程まで賑わっていた会場が静まり返る。

『それでは、これより慰労会を開始いたします。竹田首相、お願いいたします』

静かになったのを見て、司会の者はステージに上がって来た光成にマイクを渡し、そのまま端の方に移動して行った。

『日丸国首相、竹田光成だ。今回の日丸国建国祭は、君達の活躍のおかげで、無事に終えることができた。そんな君達を労わるため、今回の慰労会を企画した。今宵は無礼講だ。皆、飲んで食べて、楽しんでほしい。正し、光太郎以外は酒に飲まれないようにな!』

光成の言葉を聞いていた者達は、微笑んで少し笑う。

「…」

当の本人は頭を抱え、弄られたことに呆れる。

『それでは、気を取り直して…乾杯!』
カンパイ!!

光成の合図と共に、全員が空にコップを掲げ、慰労会を楽しみ始める。

「うむ…酒が美味い」

乾杯と同時に酒を一気飲みした光太郎は、酒の味に満足そうにしていた。

「俺は零ちゃん探してくるー」

「…本当に好きなんだな」

「まぁねぇ~!」

信介は光太郎に一言かけて、そのまま零を探しに向かって行った。

「山本司令…!」

信介と別れて光太郎に、誰かが声をかけた。
光太郎が声がした方を振り返ってみるとそこには、

「高野艦長、それに里水くん」

信濃艦長の光佑と通信長の美幸が居た。

「お疲れ様です、山本司令」

「お疲れ様です」

2人は敬礼しながら光太郎に労いの言葉を送る。

「私はあまり動いていないがな…そう言えば、2人は露店を出していたな?」

「ええ、良い小豆が見つかったので、大判焼きを部下と焼いていました」

光太郎からの質問に、光佑は笑みを浮かべながら答えるが、それを聞いた光太郎は首を傾げる。

「…今川焼きでは?」

「大判焼きかと…」

未来でも不毛な争いの種となっている今川焼き大判焼き回転焼きおやきetcの呼び方の違いに、2人は互いを見つめ合う。

「そこまでです。多分その言い合いは、お2人が他界した後でも続くと思うので、個人それぞれに任せましょう」

不毛な争いになる前に、美幸は2人を止めた。

「すまん。失礼な態度をとった」

「いえ、こちらも少々熱が入ってしまいました」

止められた2人は、お互いに謝った。

「それでは、山本司令、私達はこれで…」

「ああ」

2人はそのまま光太郎から別れて行った。
ふと、光太郎がステージの方を見てみると、何やら長テーブルと椅子が横一列に並べられていた。

「…嫌な予感がするな……」

テーブルと椅子を見た光太郎は、嫌な予感を感じとり、少しでも離れようとしたが、

「山本司令~!」

顔を赤くしている春菜に捕まった。

「山稜!?ど、どうした!?」

いきなり抱きつかれ、光太郎は頬赤らめながら、春菜との普段とは違う態度に戸惑う。

「見事に絡まれましたねー」

「なー」

春菜が光太郎の身体に頬をスリスリしていると、信介と零がやってきた。

「こ、これはどう言う!?」

動揺しながら光太郎は、今の春菜の状況を信介達に尋ねる。

「春菜は酒に弱い方でよくセーブしていたのですが…今回は慰労会ってことでセーブせずに飲み、その結果がそれです」

光太郎の質問に、零が自分たちが羽目を外すように唆したことを伏せて答える。

「と、とにかく。どうにかしてくれ!」

中々離れない春菜のことを光太郎は2人に頼む。

「え~…でも嬉しそうじゃ「信介ぇ~?」

茶化す信介に光太郎は本気で怒りそうになる。
そんなことをしている光太郎の肩を誰かが叩く。

「一文字さんっ!」

振り返った光太郎を眞が脇から抱きかえる。

「すまんな、光太郎。これからとある催しに参加してもらうぞ」

「それって、飲み対決じゃないですよね!?」

「…」

図星なのか、眞は無言を貫きそのまま光太郎を連れて行いこうとする。

「はい、春菜も離れなさい」

「や~~~~!!!」

眞と共に居た剛士により、光太郎に甘えていた春菜は強制的に引き剥がされ、光太郎は眞達に連れられて行った。

「………ねぇ、零…」

「ん?」

光太郎を連れられて、しょんぼりしている春菜を見ていた信介は、同じくそれを見ている零に声をかける。

「今こんなの持っているんだけど…」

信介が零に見せたのは、ボイスレコーダーのように音を録音できる魔法道具だった。
そして2人は互いの顔を見ながら悪い笑みを浮かべ、春菜の方を向きお互いに思ったことを実行することにした。
その後の慰労会では、光太郎が飲み勝負で20人に勝ったり、眞が芸を行ったり、酔った勢いでミスターコン、ミスコンの2つが急遽開催するなど、馬鹿騒ぎは朝まで続いた。
日丸国の東で、大変なことが起きているとも知らずに…
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