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第五章〜南北大戦争〜

第31話 大戦の始まり

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「何だと!!」

執務室にて、トムヤードはシュヴァルツの軍勢が、セレーネ連邦国に向けて進軍を始めたと、報告を受けていた。

「防衛戦はどうなっている!」

トムヤードは、シュヴァルツ進行を伝えに来てくれた、連邦軍総司令官マルフェス・サーガに、戦線の現状を聞いた。

「現在、シュヴァルツに接していた国々が、防衛戦を形成していますが…シュヴァルツからの猛攻が激しく、陥落する都市などが出てきている状態です。正直に言って、シュヴァルツの陸軍の力は、我々の想像以上と断言できますね」

「……」

サーガからシュヴァルツ陸軍の想像以上の力を聞き、トムヤードは対応を考えた。

(奴らは、電撃戦で所属国を攻めていくだろう。軍の準備は整っているが、このままだと押し負けてしまう…出来るだけ多く軍を派遣することが出来れば良いのだが……彼らに援軍要請を申し出るか…)

しばらく考えたトムヤードは、1つの案を呟く。

「日丸国に援軍要請するか…」

「お言葉ですが首相、日丸国は人口が少ない故に陸軍を保有していませんし、そもそもあの国は、戦時中立国です。援軍は期待できないのでは?」

トムヤードの日丸国に援軍要請を出すという案に、サーガは日丸国が戦時中立国のことを話した。

「だが、海軍力は我々を圧倒的に超えている。それに、シュヴァルツは必ず、通商破壊を行い、貿易船を破壊するはずだ…そうすれば、日丸国はシュヴァルツに挑む口実ができる。それから、シュヴァルツの艦隊の対処と、艦砲射撃を頼むのだよ」

「なるほど」

トムヤードから日丸国に援軍要請をする理由を聞き、サーガは納得した。

「では、少し前に設置した日丸国との魔法通信機で、早急に援軍を要請してくれ。事態は一刻を争うからな…」

「はっ!」

トムヤードに頼まれ、サーガは援軍要請を行うべく、敬礼してから執務室から退出して行った。





「そうですか。ついにシュヴァルツが動きましたか…分かりました。今すぐに艦隊を動かすことは出来ませんが、会議を行い、いつでも対応ができるように致しましょう」

『頼む。事態は一刻を争うのでな…』

「分かっております…では、私はこれで…」

日丸島に建設された軍令部の執務室にて、眞は、特別に設置されたセレーネ連邦国間専用の魔法通信機にて、サーガからシュヴァルツが動き出したという連絡を受けていた。
魔法通信を終わらした眞は、電話を手に取った。

『私だ』

眞が電話をかけると、光成が出た。

「竹田さん。ついに、シュヴァルツの軍勢が、侵略のために動き出しました」

眞はサーガから受けた報告を光成に伝え、それを聞いた光成は、

『ついにか…現状はどうなっている?』

シュヴァルツの進行を聞き、光成は溜息を吐きながら現状を尋ねた。

「現在、シュヴァルツに接していた、ルーイア国、コパン国、アルカーヤ公国が、それぞれの街を放棄し、北で防衛戦を築いているとのことですが、コパン国はアルカーヤ王国の属国だったため、軍事力が弱いという面があり、コパン国が防衛戦の穴になる可能性が大いにあります…」

現状を尋ねられた眞は、サーガから聞いたことに自分の考えを入れながら、光成に報告した。

『我々は戦時中立国だからな…義勇軍などの派遣ができんはずだが、セレーネ連邦国はなんと?』

「艦隊を向かわせて欲しいとの事ですが…それだと何か口実が欲しいですね……」

髭を触りながら、眞は艦隊出撃の理由を考える。
日丸国を戦時中立国にした以上、シュヴァルツの宣戦布告ができる理由をが欲しいのだ。

「…前の大規模な艦隊の進軍を口実にしても良いですが……あの時はまだ日丸国は出来ていませんし、それに蹴散らしてしまいましたからなぁ……」

頬を掻きながら、眞はシュヴァルツとの海戦を口実にしようか考えるが、無理があると判断する。

『…シュヴァルツが、我々に攻撃をしてくるまで待つしかないか……一度会議を開き、皆の意見を聞きたい…一文字くん、全員を集めてくれ』

「分かりました。ここの会議室に全員を集めます」

『頼む』

シュヴァルツの進行に対する皆の意見を聞くために、光成は会議を開くことを決め、頼まれた眞は部下に全員を集めるよう指示を出した。





セレーネ連邦国に向かう一隻の大型帆船があった。
大型魔導帆船ホエール。セレーネ連邦国でも開発が進んでいた試作品の魔導炉を搭載された魔導船である。
現在は、日セ間の軍事技術交流により、魔導炉の仕組みを学ぶために日丸国の一部技術者が乗っている。


「おっ、大陸が見えてきた!」

今回、日丸国からの技術者の一人として搭乗した、平前三郎が、セレーネ大陸が見えてきたことに、声を出し喜んだ。

「セレーネ連邦国…異世界の大国は一体どんな所なんだろうか…」

セレーネ連邦国に辿り着くことを楽しみにしている一郎に、悲劇が降りかかる。

ドォーーン!

大きな音と共に、ホエールが大きく揺れ、更に周りには何本かの水柱が立った。

「敵襲ーーーー!!!」

ホエールの見張り台から、叫び声と共に鐘が周辺に響き渡る。

「日丸国の技術者を安全な場所に連れていけ!」

船長のニゲラーチ・ユーノーは、乗組員達に、三郎達の安全を確保するように指示を飛ばし、自身で舵を取るために、舵輪を掴んだ。

「急いで帆を畳め!魔導炉で一気に本国まで逃げる!!」

ユーノーは指示を飛ばす。
このホエールに搭載されている魔導炉は、試験用のため出力が低く、魔導障壁は貼れない上にエンジンとして長時間使い続けると、オーバーヒートしてしまうので、いざと言う時以外はマストで移動していたのだ。
船体が大きく揺れる中、乗組員達は帆を畳み、機関員が魔導炉を起動した。

「全員何かに掴まれ!!」

ホエールに直撃弾が当たり始める中、ユーノーは乗っている者達に注意をしながら、舵を取り海域から逃げ出そうと試みる。
その後、援軍が来るのを恐れたのか、シュヴァルツの艦艇が追撃することはなく、ホエールは中破しつつも、無事近くの港に入港することが出来た。
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