大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生

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第三章〜日丸島防衛戦〜

第16話 海戦の後処理

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「敵、引き上げてきます…」

消火活動に集中するため、島の裏に停泊していたながと。ながとの艦橋にて、レーダーの反応から敵が引き上げていくのが確認されていた。

「たった二隻の戦艦で…」

乗組員の一人がそう呟く。
内心馬鹿にしていた大和型戦艦二隻が、百倍の数がある艦隊相手に戦い、自身に大した損害を出すことなく追い返したという事実に、ながとの乗組員は唖然としていた。

「…大和に武蔵、戦艦は無用の長物という考えを改めないと行けないかもしれませんね…」

乗組員達が唖然としている中、春菜は大和と武蔵への考えを改める。
護衛艦も魚雷や対艦ミサイルを使用すれば、蹴散らすことは出来ただろうが、同じように主砲や副砲だけとなると、それは難しいだろう。
そう考えると、大和と武蔵の強力な主砲やその硬さは、必要と言える。

「空母改装は諦め、対空防御や水防対策を強化する改装案を計画しますか…」

帽子を被り直しながら、春菜は空母改装から大和と武蔵を強化する方向に切りかることにした。

「…これより本艦は帰投する!錨上げ!」

「了解っ!」

錨が上がり、ながとはつばき用の停泊場所に向けて、動き出す。





戦艦大和の艦橋。光太郎は逃げるように引き上げていく敵艦隊を見ていた。
そして、敵が水平線の彼方に消えていった後、新たな命令を下す。

「本艦はこれより、人命救助に動く!短艇を出せ!」

「はっ!」

大和は微速で進みながら、大和に乗せたままにしていた二隻の短艇を出し始める。
大和の近くで漂流している生存者は、救出し直接大和に乗せ、大和から遠くにいる生存者は、短艇に乗せ大和へと運ぶ。
救出出来た者の数は、海兵や奴隷を含め、男性852名、女性1528名、計2380名のみだった。
その報告を聞き、光太郎は少し首を傾げる。

「何故、女性の方が多いのだ?第九護衛艦隊のように、女性のみの船があったのか?」

光太郎の疑問に、報告に来た乗組員は、気まずそうな表情を浮かべる。

「……そ、それが…我々をみるや否や、怯えておりまして…その、恐らくは……」

「そうか…もう言わなくていい、十分だ……」

「はっ、お気遣いありがとうございます…」

乗組員の反応を見て、全てを悟った光太郎は、握り拳を作る。
救出した女性全員が奴隷身分の者達なのだ。女性全員、海兵のストレスの捌け口として使われており、使わない時は、艦尾部分にある部屋に閉じ込められていたのだ。だが、そのお陰で戦いに巻き込まれることなく、殆どの者が助かったのだ。但し、光太郎が人命救助を命じなければ、まともな食事を摂ることが出来ないゆえに、体力が少ない彼女達はそのまま亡くなっていたことだろう。

(社会主義国家シュヴァルツ…か…まともな国では無いのは確かだな……)

奴隷の件のこともあり、光太郎は社会主義国家シュヴァルツに対して、より一層警戒心を高めることにする。

「取舵いっぱい!日丸島に帰投する!」

「とーりかーじ、いっぱーーい!」

光太郎の命令を受け、大和は取舵を取り、日丸島の入り江に向けて動き出す。
大和が日丸島に向けている最中に、第一艦橋に連絡が入る。

『第一艦橋、第一艦橋!』

「どうした?」

『山本艦長!申し訳ないのですが、医務室に来ては頂けませんか?救助した海兵の一人が騒いでしまして…艦長を出せと先程からうるさいのです』

「分かった。そちらへ向かおう!」

『ありがとうございます!』

乗組員の一人から来て欲しいと頼まれ、光太郎は第一艦橋から医務室へと向かう。
医務室では、身分関係なく負傷している者に適切な治療を施しており、軽傷の奴隷の者達は、廊下で横になっているようだ。なお、手当が終わった軽傷の者や無傷のシュヴァルツの海兵達は、空になっている倉庫に入れている。
医務室に近づくと、男の叫び声が聞こえてくる。

「何があった!」

「山本艦長~!!」

光太郎が医務室に入ると、げっそりとしていた黒髪に丸眼鏡をかけた軍医の今堅いまかた いかづちは、光太郎の姿を見るや否や、表情を明るくし、光太郎に抱きついた。

「あの人を何とかしてください!僕や他の人達だけじゃ無理です!!」

雷が指さす方を見ると、でっぷりと太った金髪に髭を生やしたシュヴァルツの海軍兵が、乗組員達を怒鳴りつけていた。

「貴様らでは話にならん!さっさと艦長を出さんか!!」

「…私が、この戦艦大和の艦長、山本光太郎ですが…何か用ですかな?」

一方的に怒鳴りつけられ、乗組員達が参っているのを見て、光太郎は男に自己紹介をしながら、声をかけた。

「ようやく気をおったか…おい、儂のためにさっさとベットを空けんか!上級国民である儂が、怪我をしてるのだぞ!あんな奴隷如きに、ベット何ぞ使うな!!」

頭に巻かれてある包帯に指をさしながら、男は偉そうな態度で、光太郎にベットを空けるように、要求する。
光太郎は、男の態度に少し腹が立ったが、それを抑え、雷の方を見る。

「今堅軍医、この人の容態は?」

「頭にかすり傷を負った程度です…」

「それで、あのベットで寝ている女性の容態は?」

「あちらこちらに痣がある上に、風邪の症状があります。できる限りの処置をしましたが、身体が衰弱しているため、命が危険な状態です」

男の容態と、ベットで寝ている女性の容態を聞き、光太郎は男の方を向く。

「聞きましたか?あの女性は、命が危険な状態なんです。軽傷の貴方とは違うのですよ?大人しく医務室から移動してください」

「巫山戯るな!!儂はシュヴァルツの海軍少将で、上級国民のアールエ・ラソウニだぞ!!あんな奴隷なぞ、さっさと海にでも捨てて、儂を大切に扱え!!!」

ラソウニは、ライン超えの発言をする。
その発言を聞き光太郎は、

「人の命は平等だ故に、誰であろうと助かる命は助ける…そこに上級だろうと、奴隷だろうと関係ない!それを理解できない貴様は、人間以下の下衆だ!!」

敬語で話すのを辞め、ラソウニに一喝する。

「き、きさマッッッ!!!!」

光太郎の反応に、腹が立ったラソウニは、顔を真っ赤にして、光太郎を殴ろうとしたが、その前にラソウニの腹に、光太郎からの怒りの鉄拳が直撃。その痛みに耐えられなかったラソウニは、白目を向いて倒れ込んだ。

(((やっぱ、山本艦長怖ぇ~…)))

光太郎がラソウニを殴ったのを見て、乗組員全員は心の中で同じことを思う。
大和の乗組員達は、ラソウニのような愚か者が、キレた光太郎から天罰を受けている所を何度も見ており、全員が光太郎を怒らせないように、細心の注意を払っている。
なお補足だが、光太郎が怒ることは滅多にない。しかし、人に対して無礼な態度をとったり、人の命を大切にしない者には怒ることがあるのだ。

「さっ、これで静かになったな…倉庫へ連れて行ってくれ」

「は…はっ!」

一息を付いた後、光太郎はいつも通りの表情を浮かべ、捕虜を詰め込んでいる倉庫に、気絶しているラソウニを連れて行くように命じる。
命令を受け、二人の乗組員は、気絶しているラソウニを倉庫へと連れて行った。
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