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第一章 新兵師団内乱編
第二十四話 参謀総長との邂逅
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少し車で移動した後、私を陸軍省に辿り着いた。
「こちらです」
「…」
私はエストに案内され、陸軍省の中へ入って行く。陸軍省で働いている者達は、男の数が多いよう思える。恐らく、バレラーが男の方を積極的に雇っているのだろう。
全く、どれだけ腐っていることやら。
執務室らしき部屋で、エストは立ち止まり、扉をノックした。
「誰かね?」
「シャインス閣下!ご命令通り、八雲勇一教官をお連れ致しました!」
「…入れ」
「失礼致します」
入室の許可を得て、エストは私を連れて執務室に入っていく。
執務室は葉巻の煙で満たされており、執務室の扉の正面には、私達に背中を向けて座っている人物が居た。
「よく来たな、八雲教官…まぁ座りたまえ」
「……失礼します」
バレラーはこちらの方を向き直しながら、座るよう勧めたため、私は進められた通り長椅子に座った。
「本日はよく来た…色々と話したいことはあるが…単刀直入に聞こう……私に協力しないか?」
バレラーは執務机に肘を置きながら、協力を提案してきた。
やはりそう来たか…
「何故です?」
「そうか…君は知らなかったのだな……」
何かを理解したかのように納得したバレラーは、葉巻を咥えながら席から立ち上がり、窓を外を見始める。
「実はな、私はクーデターを起こそうとしているのだ…」
「クーデター…ですか?」
クーデターとバレラーの口から聞いた私は、目を丸くする。
陸軍によるクーデターと聞き、私は二.二五事件を思い出す。
一応、私の聞き間違えではないことをバレラーに確認してみるが、バレラーはクーデター企てていると頷き、詳細を話し始める。
「貴殿は知らないと思うのだが、現在この帝国政府は腐っているのだ…!陛下の意志を無視した政治、海軍による金の横領!ありとあらゆる不正が横行している。私は、それが許せない!だからこそ、私は現政権に対してクーデターを行い、陛下を中心とした政権を立てようとしているのだ!」
バレラーは、無駄に熱烈的な演説をし、私の心に訴えかけてくる。バレラーは、私が帝国政治に詳しくないと思って、嘘を吹き込もうとしているのだろう。
確かに現政権は腐っていると聞く。だが、それはバレラーを中心とした大臣の横行による物ということを私は知っている。
以前、女帝陛下から届いた荷物の中にあった書類に、海軍大臣と大蔵大臣の二名以外の大臣が汚職している疑いがかかっていることが、書かれてあったのだ。
そのため、バレラーの熱弁は、私の心に一切響かないのだが、ここは一芝居打つことにしよう。
「…なるほど……帝国政治がそこまで腐っているとは…」
「うむ。そこでだ!たった一師団で、二師団の反乱を食い止めたという君を仲間にしたいのだ!」
バレラーは熱弁しながら、私の方へ歩み寄る。
「それに、クーデターが成功すれば、富や名声が手に入る…貴殿にとっても悪くは無い話だろう?」
私の元に歩み寄ってきたバレラーは、耳打ちで欲望を刺激してくる。
「…………確かに魅力的なお話ですが、少々考える時間をくれませんか?クーデターとなると、それなりの覚悟が必要になると思うので…」
「ふっはははは!構わん構わん!好きなだけ時間を取れ!!」
私が考える時間を欲しいと頼むと、バレラーは高笑いしながら了承した。
「演習場のことが少し心配なので、私はそろそろ…」
「あいわかった。気をつけて帰るのだぞ?」
「はっ」
退出の許可を得た私は、立ち上がり部屋の扉に手をかけた。
「ああそれと…クーデターの参加を拒否しても私は何も言わん……だが、海軍だけには着くなよ?あの者達は、金食い虫の雑魚集団だからな」
「…分かりました。それでは、失礼致します」
退出しようとした私をバレラーは引き止め、忠告をしてきたが、私はその言葉を流し、そのまま執務室から退出して行った。
執務室から出た私は、そのまま車まで向かう。
しかし、海軍が金食い虫の雑魚集団か…帝国本土が島国である以上、海軍はある程度強くしておく必要があると思うのだがな…
そんなことを思いながら、私は車に乗り兵舎へと帰っていった。
○
勇一が帰った後、陸軍省の執務室には、新たな葉巻を吸っているバレラーと、エストが話し合っていた。
「八雲勇一…奴は我々の計画に参加してくださるでしょうか?」
「ふっ…参加するとも、なんせクーデターに成功したら、富や名声を手に入れることが出来るのだがらな!男は欲望に弱い生き物だ。必ず協力するさ……!」
「それなら良いのですが…」
自信満々のバレラーに対し、エストには一抹の不安があった。
(富が欲しかったのなら、賄賂を受け取ると思うのだが………私の考え過ぎか?)
エストはバレラーの自信満々な姿を見て、自身が感じた嫌な予感を考え過ぎということで、片付けることにした。その予感が、将来当たるとも知らずに…
○
陸軍省から戻った私は、兵舎の執務室にて考え事をしていた。
バレラーが行おうとしていることは、大日本帝国で起きた二.二五事件と似ている。違う点を上げるとすれば、主犯格の者達が、政治の腐敗の元凶ということだな。
取り敢えず、怪しまれないように、グリア殿達に伝えることなく、兵舎に戻ってきたが…第七歩兵師団の者達から信用を得たということを知っているのと、総司令部でのタイミングが良すぎる出迎えを考えると、陸軍省は私を遠くから監視員を送っているっぽいな。
なら、下手に総司令部や海軍省に迎えば怪しまれる…どうしたものか……
クーデターのことをどうやって伝えようか考えながら、私は茶を一口飲んだ。
…取り敢えず、本日中は辞めておくか、私が答えを出すまで、クーデターが起きることは無いだろうしな…
私はそう判断し、本日は、明日の訓練内容を決めたり、幽閉中の第八歩兵師団、第十八機甲師団の今後を決めたりなど、事務作業を済ませることにした。
「こちらです」
「…」
私はエストに案内され、陸軍省の中へ入って行く。陸軍省で働いている者達は、男の数が多いよう思える。恐らく、バレラーが男の方を積極的に雇っているのだろう。
全く、どれだけ腐っていることやら。
執務室らしき部屋で、エストは立ち止まり、扉をノックした。
「誰かね?」
「シャインス閣下!ご命令通り、八雲勇一教官をお連れ致しました!」
「…入れ」
「失礼致します」
入室の許可を得て、エストは私を連れて執務室に入っていく。
執務室は葉巻の煙で満たされており、執務室の扉の正面には、私達に背中を向けて座っている人物が居た。
「よく来たな、八雲教官…まぁ座りたまえ」
「……失礼します」
バレラーはこちらの方を向き直しながら、座るよう勧めたため、私は進められた通り長椅子に座った。
「本日はよく来た…色々と話したいことはあるが…単刀直入に聞こう……私に協力しないか?」
バレラーは執務机に肘を置きながら、協力を提案してきた。
やはりそう来たか…
「何故です?」
「そうか…君は知らなかったのだな……」
何かを理解したかのように納得したバレラーは、葉巻を咥えながら席から立ち上がり、窓を外を見始める。
「実はな、私はクーデターを起こそうとしているのだ…」
「クーデター…ですか?」
クーデターとバレラーの口から聞いた私は、目を丸くする。
陸軍によるクーデターと聞き、私は二.二五事件を思い出す。
一応、私の聞き間違えではないことをバレラーに確認してみるが、バレラーはクーデター企てていると頷き、詳細を話し始める。
「貴殿は知らないと思うのだが、現在この帝国政府は腐っているのだ…!陛下の意志を無視した政治、海軍による金の横領!ありとあらゆる不正が横行している。私は、それが許せない!だからこそ、私は現政権に対してクーデターを行い、陛下を中心とした政権を立てようとしているのだ!」
バレラーは、無駄に熱烈的な演説をし、私の心に訴えかけてくる。バレラーは、私が帝国政治に詳しくないと思って、嘘を吹き込もうとしているのだろう。
確かに現政権は腐っていると聞く。だが、それはバレラーを中心とした大臣の横行による物ということを私は知っている。
以前、女帝陛下から届いた荷物の中にあった書類に、海軍大臣と大蔵大臣の二名以外の大臣が汚職している疑いがかかっていることが、書かれてあったのだ。
そのため、バレラーの熱弁は、私の心に一切響かないのだが、ここは一芝居打つことにしよう。
「…なるほど……帝国政治がそこまで腐っているとは…」
「うむ。そこでだ!たった一師団で、二師団の反乱を食い止めたという君を仲間にしたいのだ!」
バレラーは熱弁しながら、私の方へ歩み寄る。
「それに、クーデターが成功すれば、富や名声が手に入る…貴殿にとっても悪くは無い話だろう?」
私の元に歩み寄ってきたバレラーは、耳打ちで欲望を刺激してくる。
「…………確かに魅力的なお話ですが、少々考える時間をくれませんか?クーデターとなると、それなりの覚悟が必要になると思うので…」
「ふっはははは!構わん構わん!好きなだけ時間を取れ!!」
私が考える時間を欲しいと頼むと、バレラーは高笑いしながら了承した。
「演習場のことが少し心配なので、私はそろそろ…」
「あいわかった。気をつけて帰るのだぞ?」
「はっ」
退出の許可を得た私は、立ち上がり部屋の扉に手をかけた。
「ああそれと…クーデターの参加を拒否しても私は何も言わん……だが、海軍だけには着くなよ?あの者達は、金食い虫の雑魚集団だからな」
「…分かりました。それでは、失礼致します」
退出しようとした私をバレラーは引き止め、忠告をしてきたが、私はその言葉を流し、そのまま執務室から退出して行った。
執務室から出た私は、そのまま車まで向かう。
しかし、海軍が金食い虫の雑魚集団か…帝国本土が島国である以上、海軍はある程度強くしておく必要があると思うのだがな…
そんなことを思いながら、私は車に乗り兵舎へと帰っていった。
○
勇一が帰った後、陸軍省の執務室には、新たな葉巻を吸っているバレラーと、エストが話し合っていた。
「八雲勇一…奴は我々の計画に参加してくださるでしょうか?」
「ふっ…参加するとも、なんせクーデターに成功したら、富や名声を手に入れることが出来るのだがらな!男は欲望に弱い生き物だ。必ず協力するさ……!」
「それなら良いのですが…」
自信満々のバレラーに対し、エストには一抹の不安があった。
(富が欲しかったのなら、賄賂を受け取ると思うのだが………私の考え過ぎか?)
エストはバレラーの自信満々な姿を見て、自身が感じた嫌な予感を考え過ぎということで、片付けることにした。その予感が、将来当たるとも知らずに…
○
陸軍省から戻った私は、兵舎の執務室にて考え事をしていた。
バレラーが行おうとしていることは、大日本帝国で起きた二.二五事件と似ている。違う点を上げるとすれば、主犯格の者達が、政治の腐敗の元凶ということだな。
取り敢えず、怪しまれないように、グリア殿達に伝えることなく、兵舎に戻ってきたが…第七歩兵師団の者達から信用を得たということを知っているのと、総司令部でのタイミングが良すぎる出迎えを考えると、陸軍省は私を遠くから監視員を送っているっぽいな。
なら、下手に総司令部や海軍省に迎えば怪しまれる…どうしたものか……
クーデターのことをどうやって伝えようか考えながら、私は茶を一口飲んだ。
…取り敢えず、本日中は辞めておくか、私が答えを出すまで、クーデターが起きることは無いだろうしな…
私はそう判断し、本日は、明日の訓練内容を決めたり、幽閉中の第八歩兵師団、第十八機甲師団の今後を決めたりなど、事務作業を済ませることにした。
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