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しおりを挟むロウの分厚く、長い舌が、薄く開かれていたノアの唇を割って、口内へと入ってくる。
中を確かめるように口内をまさぐられ、歯列を舐められ、舌を絡め取られた。濡れた舌が絡み合うたびにいやらしい水音が耳の奥で響いて、ノアの頭がぼうっとしてくる。
──気持ちいい……美味しい……。
このときノアは、食事のときに感じる味覚や満足感を確かに覚えていた。
これはノアにとって間違いなく食事なのだ。
「ん……む、…………あっ」
絡み合っていた舌がふいにゆっくりと抜き取られる。
突き出されていた舌同士を繋いでいた銀糸もぷつりと切れ、ふたりを繋ぐものがなくなる。
ノアは切ない瞳でロウを見上げた。
「ろ、ろう、おれ……」
「もっとほしいか?」
「……うん」
恥ずかしいのを我慢して頷く。
ほしいのだからしょうがない。まだ満腹には程遠いのだ。
ロウは目を細めて笑った。
そして、ソファからノアを抱き上げ、家に入ってきたときと同じように横抱きにする。
「──ベッドに行こう」
耳元で低く囁かれた言葉に、ノアの心臓が大きく跳ねる。
そのままどきどきと高鳴る心臓の音を無視して、ノアはこくこくと何度も頷いた。
寝室へと運ばれ、ノアは大きなベッドに横たえられる。
そこにすぐロウが覆いかぶさり、真上からノアを見下ろす。黒い瞳が場違いなほど穏やかにノアを眺めていた。
ノアはぽうっと惚けた顔でロウを見上げる。
やっぱりロウはかっこいい。
男らしい顔立ちも、短い髪も、切長の目も、しっかりとした眉も、高い鼻筋も、日に焼けた肌も──なにもかも、かっこよくて、愛おしい。
「……ロウ、怖くない?」
「なにがだ?」
「だって俺……半分魔族らしいし、なんかいろいろ面倒かも」
ノアが知らないだけで、ノアの父親が魔族のアルバだということは、村の老人たちの間では周知の事実なのかもしれない。
魔族が怖いから邪険にもできず、けれど余所者だから近づくことも許さない。
村八分と呼ぶほど酷い扱いを受けたわけではないが、確かに村の多くの狼獣人たちとの間には埋められない距離があった。
それを気にせずノアと遊んでくれたのは、ロウと、シュラトと、あと数人の子どもたちだけだ。
そんなノアとロウが結ばれたら、村の人たちはどう思うだろう……。
考えるだけで、ノアは憂鬱な気持ちになった。
しかし、ロウはノアの言葉の意味がわからないというように眉を顰め、首を傾げる。
「面倒ってなんの話だ? 毎日セックスしなきゃいけないから大変ってことか?」
「そんなわけないだろっ! ……いや、わかんないけど、それは大丈夫だと思う……たぶん……」
──……え、もしかして淫魔ってそんな感じなの……? え……?
アルバはそんなことは言ってなかった。
しかし、ずっと狼獣人として生きてきたノアには淫魔のことなんてわからない。
ノアが表情を引きつらせていると、「じゃあ、なにが面倒なんだよ?」とロウがぶっきらぼうに尋ねてくる。
ノアは迷いながら、ロウから目を逸らした。
「な、なにがって、いろいろあるだろ……俺と父さ……母さんは、村で浮いてるし……それに、魔族なんて普通怖いだろ……」
魔族だからといって淫魔にさほど特殊な力はないとアルバは言っていた。
だが、そんなこと村の狼獣人たちや、ロウにはわからないだろう。
そもそもノアだって自分のことがよくわからないし、正直自分の体に流れる半分の血が怖い。
未知なものは誰だって怖いだろう。
そして、それが自分たちより遥かに強靭な種族のものだと知れば、その恐怖はいっそう大きくなる。
騎士のロウだって、魔族の強さや恐ろしさは知っているはずだ。
怖くないはずがない、とノアは思うのだが──……
「怖くない」
「……え?」
ノアは目を丸くして、ぽかんとロウを見上げる。
その間抜けな顔を見て、ロウはおかしそうに小さく笑った。
「魔族は怖いけど、お前は怖くない。お前のこと、ガキの頃からずっと好きだったから」
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