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しおりを挟む固まったロウを見上げ、ノアも引きつった笑みを浮かべたまま固まる。
──しにたい…………いや、やっぱりしにたくない……!
思い直したノアはぶんぶんと首を振り、ロウに向かって叫ぶ。
「ロウ!」
「え、あ、なんだ?」
「俺、セックスしないと死んじゃうんだ!」
「は……?」
ロウは面食らったように目を見開く。
言葉を失ったらしいロウに向かって、ノアはつい最近起こったあれこれに対して激しく捲し立てた。
急に体調が悪くなってしまったこと。
実は父親が魔族で、しかも淫魔だったこと。ノア自身にも淫魔の特性が出てきてしまったこと。
他人の精気を吸わなければ餓死してしまうかもしれないこと──……
勢いで一気に捲し立てたノアはゼーゼーと荒い呼吸をする。
顔、というか、全身が熱い。
興奮のせいなのか、羞恥のせいなのかはノア自身にもわからなかった。
長い間、ロウは口を閉ざしていた。目を丸くして、まじまじとノアを見つめている。
居心地の悪さに、ノアはもぞもぞと身じろいだ。
「……な、なんか言ってよ」
「…………」
「帰れとか、頭おかしくなったのかとか、そんなんでもいいから……」
「……帰れなんて、言うわけないだろ」
息を吐くように言ったロウが頭をかき乱し、ちらりとノアを見下ろす。
「……本当の話なんだよな?」
「嘘なんて吐かないよ」
「だよな……わかってる」
ロウはその場にしゃがみ、ソファに横たわるノアと視線を合わせる。
険しくさえ見える、真剣な目だ。
ノアはこくりと唾を飲み込み、ロウの言葉を待った。
「なんで俺なんだ?」
「なんでって……」
「誰でもよかったから?」
「ち、違うよ!」
否定したものの、『好きだから』とは言えなかった。
なんというか、重い。
というか、こんなに弱った姿を見せて、セックスしないと死んでしまうと告げて、おまけに好きだというなんて──……卑怯以外のなにものでもない。
アルバは『体で堕とせ』といったが、ノアにはそんなこと無理だ。
ロウに断られたら、王都で誰か別の相手を探そう。今回ロウが受け入れてくれたとしても、継続的な関係を断られたら潔く引き下がらなければ……。
ノアがそんなことを考えてひとり落ち込んでいると、向かいからぽつりと小さな声が聞こえてきた。
「──じゃあ、俺がお前のことを好きだから?」
「…………え?」
ノアはパッと顔を上げ、呆然とロウの顔を見つめる。
ロウは硬い表情でノアを見ていた。きっと、すごく緊張している。黒い瞳が、真っ直ぐにノアを映していた。
「俺がお前のことを好きだから、俺なら断らないと思って俺のとこに来たのか?」
「え、いや、違う、違うけど……え、え……?」
──『俺がお前のことを好きだから』って……ロウは俺こと好きってこと……?
カッとノアの頬が熱を持つ。
ノアははくはくと唇を開閉させ、上擦った声で言った。
「ろ、ロウは俺のこと……?」
「好きだって言ってるだろ」
「ッ~~そ、そんなさらっと言わないでよ!! 俺だってずっとロウのこと好きだったんだから!!」
すると、途端にロウの目が丸くなる。
ハッとしたノアは両手で口を押さえたが、もう遅かった。
「……あ、あの、ちが……いや、違わないんだけど、その……こんな風に伝えるつもりはなくて……!!」
「ふっ……くくっ……」
あわあわと言い訳をしようとしたノアの言葉を遮るように、ロウが笑いはじめた。
顔を背け、口元を手で隠し、めずらしいほど長く笑っている。
「ちょ……ロウ……?」
「ッ……いや、すまん。そうか、そうだよな。誰でも良かったら、わざわざ王都の俺のところまで来ないか」
「そうだよ!」
「体調も悪いのに、俺に抱かれるために王都に来たんだな。俺のことが好きだから」
「そ……そ、そうだよっ!!」
もうヤケだった。
今まで見たこともないくらいニヤニヤしているロウがなんとも憎らしい。
「ニヤニヤ笑ってんのいやらしいぞ! 大体俺が苦しんでんのに──んっ」
言葉を遮るよう、突然唇を奪われた。
重なった唇の意外な柔らかさと、間近にあるロウの顔のドアップにノアは目を見開く。
──……柔らかくて、気持ちよくて……あと、なんとなく、甘い……?
初めてのキスだった。
それも、子どもの頃から大好きだった男とのキスだ。
触れ合った唇からじんわりとなにかが生まれ、それがノアの全身へと巡っていく。
カラカラに渇いた喉にようやく水を与えられたような、そんな気分だった。
──心地いい、もっとほしい……。
ノアはとろけるようにゆっくりと瞼を落として、その先をねだるようにロウの唇を舌で舐めた。
すると、重なっていたロウの唇がぴくりと震え、直後に触れるだけの口付けが深いものへと変化する。
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