淫魔はお嫌いですか?

リツカ

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 ロウの黒い目がノアを見て、ノアの両親を見て、そしてまたノアを捉える。

「外が騒がしいと思ったら……突然どうした?」
「あっ、ろ、ロウ……あの、その……」
「ノアがお前に頼みたいことがあるらしい」

 そう言って、ゼノがぐいぐいとノアの背中を押してきた。
 ロウの前に立ったノアは、あわあわと胸の前で手を振る。

「やっ、頼みたいことっていうか、大したことではなくて……! いや、大したことではあるんだけど……!」
「どっちだ?」

 覗き込むようにノアを見下ろしたロウの眉がぴくりと動いた。かと思うと、その眉が寄り、大きな手がノアの頬に触れる。
 頬に添えられた男らしい手の硬さに、ノアの心臓がどきりと跳ねる。

「え、あ、ロウ……?」
「お前、なんでこんなに顔色が悪いんだ? それに、前より痩せてる気がする」

 少し怒っているような顔だ。
 しかし、幼馴染のノアには純粋に心配してくれているだけだとわかった。
 ノアは場違いにも照れくさい気持ちになり、視線を落としてもごもごと口ごもる。

「えっと……」
「そのことで相談があるんだよな!」

 ノアが返答に迷っていると、背後からノアの肩を掴んだアルバがにっこりとロウに笑いかけた。

「ノアの命運はお前にかかってる! 俺たちの大事な息子を頼んだぞ!」
「……はい?」
「ちょ、ちょっと!!」
「じゃっ、俺とゼノは王都をぶらついてるから、腹がいっぱいになったらまた落ち合おうな!」
「これ、俺たちが泊まる宿の名前と住所だから」
「え、ちょ、ま、待ってよ!!」

 捲し立てたアルバと、ノアの手に折り畳まれた紙切れを握らせたゼノはそそくさと来た道を引き返していく。
 それをノアも慌てて追いかけようとした……が、タイミング悪く立ちくらみに襲われ、足を踏み出すと同時に体がくらりと傾く。

 ──あっ……。

 と、思った瞬間、崩れかけた体を背後から抱き留められる。

「ノア!!」
「あ……ろ、ロウ……ありがと……」
「お前、本当にどうしたんだ? どこか悪いのか?」
「いや、あの……」

 ──ロウ、俺、セックスしないと死んじゃうんだ……って、言えるかッ!!

 自分で自分に突っ込んで、開きかけた口を閉ざす。
 でも、言わなければ。
 ノアは死にたくないし、セックスするなら幼い頃から大好きなロウが良い。
 ……もちろん、ロウがノアの申し出を受け入れてくれてるかはわからないが。

「とりあえず、家の中に運ぶぞ」
「あ、自分で歩けるよ……」
「いい。大人しく運ばれてろ」

 ロウは抱き留めていたノアの体をそのまま横抱きに抱き上げ、開かれたままだったドアの方へと歩いていく。
 顔を赤くしたノアがふと来た道に目をやると、少し離れたところにある木陰からこちらを窺う両親を見つけた。

 ノアの視線に気付いた両親は、『がんばれ!』とでもいうように拳を握って見せてくる。
 この裏切り者!と心の中で叫んだノアは涙目で両親を睨んだ……つもりだが、ロウの腕に抱き上げられたのがうれしくて、自然と顔が緩んでしまう。感情が顔に出てしまうタイプだから仕方がない。

 ロウの家の中に招かれたノアはソファに寝かされ、そうして──話はようやく冒頭へと戻る。



「俺とセックスしてくれないっ?」

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