淫魔はお嫌いですか?

リツカ

文字の大きさ
上 下
2 / 14

2

しおりを挟む

「よっ、元気か?」
「…………」

 ──元気か? じゃねーよ。

 にこにこと明るく声をかけてきた男を、ノアはジトッとした目で見つめる。
 美しい金色の髪に、淡い空色の瞳──よくよく見れば、男はノアと同じ目の色をしていた。……いや、この場合は、と言う方が正しいのかもしれない。

 住んでいる小さな村が見渡せる丘の草原に座り込んだノアは、はあ~っと深くため息を吐く。
 そんなノアの隣に腰を下ろした男は、なにがおかしいのかケラケラと笑った。

「まあまあ、そんな落ち込むなよ」
「落ち込むなとか無理に決まってるでしょ! いきなり淫魔だとか、セックスしなきゃ死ぬかもとか言われて……」
「だから、海を越えて俺が来たんだろ」

 男はぐしゃぐしゃとノアの焦茶色の髪を撫で回した。
 それに対してノアは「やめてよ」と言いながら男の手を払い除け、男を睨むような目で見上げる。

「……それで、アルバさんが俺のもうひとりの父親なんでしょ?」

 男──アルバは月に一度ほどの頻度でこの村にやってくる、変わった魔族の男だった。
 狼獣人しかいない田舎町になにをしにきているのかとずっと思っていたが、どうやらノアと父の顔を見るために毎月海を渡っていたらしい。
 魔族なのにやけに馴れ馴れしく声をかけてくるひとだな……とは思っていたが、まさか彼が自分の父親だなんてノアは夢にも思っていなかった。

 ノアの問いかけに、アルバはあっけらかんとした表情で頷く。

「そうだな。俺がお前の父親。俺がゼノを孕ませて、お前が産まれた」
「そこまでは聞いてないです」

 長年父親だと思っていたひとが母親だったことに多少驚きもあったが、いまとなってはそれも些細なことである。
 問題は、ノアの本当の父親が淫魔で、そしてノアがその特性を引き継いでしまっているらしいことだ。

「……俺、本当に淫魔なの?」
「半分はな。生まれたときは純粋な狼獣人だと思ったが……成長して体が出来上がってきたことで、淫魔の性質が表に出てきたらしい」
「小さいときはお母さん似だったけど、大きくなったらお父さんに似てきたね~……みたいな感じってわけね……」

 ははは……と、ノアの口から乾いた笑いがもれる。ちなみにその目は死んでいた。
 そんなノアを見つめながら、アルバは冷静な声で喋りはじめる。

「ゼノから軽く聞いたとは思うが、魔族の中でも淫魔ってのは少し特殊でな。他人の精気を吸収することが食事代わりなんだ。つまり、淫魔の性質を併せ持つお前はいま、凄まじい空腹状態に襲われている。体調不良もそれが原因だ」
「……このままずっと空腹だったら?」
「死ぬ」
「……いっぱいご飯食べても?」
「死ぬ」

 ──お、おれ、やっぱ死ぬんだ……。

 ノアが泣きそうになっていると、苦笑いをしたアルバが「落ち着け、落ち着け」と背中をぽんぽんと叩いてきた。

「餓死したくなきゃ、ちゃんと食事をすればいい。セックスしなきゃ死ぬってことは、セックスしたら死なないってことなんだから」
「そんな簡単に言うけど、俺とセックスしてくれる相手なんて……」

 自分で言うのもなんだが、ノアは普通の男である。華奢で可愛いわけでもなければ、長身でかっこいいわけでもない。雄としても雌としても、あまりモテた経験はなかった。
 アルバは「うーん」と唸る。

「魔族の国じゃ、淫魔とヤレるのは幸運扱いなんだが、こっちじゃそうはいかないか……」
「……おれ、しぬ? しぬの?」
「あーもう、病むな病むな! 俺とゼノが絶対お前を死なせたりしないから!」

 アルバはノアの髪をガシガシと強い力でもみくちゃにする。
 ずっと離れて暮らしていた息子でも、一応父親としての愛情はあるのだな、とノアは意外に思った。
 しかし、いまはそんな感慨に耽っている余裕もない。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神獣の僕、ついに人化できることがバレました。

猫いちご
BL
神獣フェンリルのハクです! 片思いの皇子に人化できるとバレました! 突然思いついた作品なので軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 好評だった場合、番外編やエロエロを書こうかなと考えています! 本編二話完結。以降番外編。

王子様のご帰還です

小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。 平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。 そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。 何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!? 異世界転移 王子×王子・・・? こちらは個人サイトからの再録になります。 十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。

絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが

古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。 女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。 平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。 そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。 いや、だって、そんなことある? あぶれたモブの運命が過酷すぎん? ――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――! BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。

〜オメガは体力勝負⁉〜異世界は思ってたのと違う件

おもちDX
BL
ある日突然、彼氏と異世界転移した。そこは現代日本と似ているようで、もっと進んでいる世界。そして、オメガバースの世界だった。 オメガと診断されて喜ぶメグムに、様々な困難が降りかかる。オメガは体力勝負って、そんなことある!?彼氏と徐々に深まる溝。初めての発情期。 気づけばどんなときも傍にいてくれたのは、口下手なアルファの雇い主だった。 自分に自信を持てない主人公が、新しい自分と、新しい人生を手に入れるまでのお話。 不器用な美形アルファ× 流されやすいぽっちゃりオメガ 過激な性表現のあるページには*をつけています。

大好きでしょうがないオレの可愛い弟が『女体』に興味をもっちゃう前に、 思い切ってお兄ちゃんの身体で誘惑してみるコトにしましたっ♡

そらも
BL
「――とりあえず、とってもピュアで可愛いふぅくんに『えろ漫画』を強制的に渡してきたクラスメイトの悪ガキ男子Aくんは、あとでブラックリストにでも入れておこうっと♪」 タイトルと上の台詞そのまんまで、高校三年生のお兄ちゃん・ユウマくんが、とっても仲良しですっごく可愛がっている六歳下の小学六年生の弟・ふうまくんがある日クラスメイトの男子から半ば強制的に『えろ漫画』を渡され持って帰ってきたことを知り、この先彼が女の子に…女体に興味を持ち始めちゃったらどうしようっ……そうだっ、それなら自分の身体を使って弟を誘惑しちゃえばいいんだっ♡ なんてぶっ飛んだコトを思いつき即実行しちゃう……という、なんともアホなラブ話であります♡ とはいえ結果から言うと即落ち二コマみたいな感じですぐヤっちゃってたりしますけども笑、どうぞ読んでやってくださいませ♪ 兄弟ラブモノ且つショタな弟くん攻めとなっておりますので、苦手な方はお気を付けください。 ※ R-18エロもので、♡(ハート)喘ぎ満載です。 ※ 素敵な表紙は、pixiv小説用フリー素材にて、『やまなし』様からお借りしました。ありがとうございます! ※ 2021/04/22 お話完結しました~! ここまでお読みいただき本当にありがとうございました♪

(R18短編BL)憧れの美形先輩がゲイだった。地味平凡な俺を溺愛してくる

空月 瞭明
BL
大学の美形ゲイ先輩 × 平凡地味ノンケ後輩 甘々イチャラブ 憧れてたので体を許したら気持ちよかった 全4話・5,000文字弱

初めてを絶対に成功させたくて頑張ったら彼氏に何故かめっちゃ怒られたけど幸せって話

もものみ
BL
【関西弁のR-18の創作BLです】 R-18描写があります。 地雷の方はお気をつけて。 関西に住む大学生同士の、元ノンケで遊び人×童貞処女のゲイのカップルの初えっちのお話です。 見た目や馴れ初めを書いた人物紹介 (本編とはあまり関係ありませんが、自分の中のイメージを壊したくない方は読まないでください) ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 西矢 朝陽(にしや あさひ) 大学3回生。身長174cm。髪は染めていて明るい茶髪。猫目っぽい大きな目が印象的な元気な大学生。 空とは1回生のときに大学で知り合ったが、初めてあったときから気が合い、大学でも一緒にいるしよく2人で遊びに行ったりもしているうちにいつのまにか空を好きになった。 もともとゲイでネコの自覚がある。ちょっとアホっぽいが明るい性格で、見た目もわりと良いので今までにも今までにも彼氏を作ろうと思えば作れた。大学に入学してからも、告白されたことは数回あるが、そのときにはもう空のことが好きだったので断った。 空とは2ヶ月前にサシ飲みをしていたときにうっかり告白してしまい、そこから付き合い始めた。このときの記憶はおぼろげにしか残っていないがめちゃくちゃ恥ずかしいことを口走ったことは自覚しているので深くは考えないようにしている。 高校時代に先輩に片想いしていたが、伝えずに終わったため今までに彼氏ができたことはない。そのため、童貞処女。 南雲 空(なぐも そら) 大学生3回生。身長185cm。髪は染めておらず黒髪で切れ長の目。 チャラい訳ではないがイケメンなので女子にしょっちゅう告白されるし付き合ったりもしたけれどすぐに「空って私のこと好きちゃうやろ?」とか言われて長続きはしない。来るもの拒まず去るもの追わずな感じだった。 朝陽のことは普通に友達だと思っていたが、周りからは彼女がいようと朝陽の方を優先しており「お前もう朝陽と付き合えよ」とよく呆れて言われていた。そんな矢先ベロベロに酔っ払った朝陽に「そらはもう、僕と付き合ったらええやん。ぜったい僕の方がそらの今までの彼女らよりそらのこと好きやもん…」と言われて付き合った。付き合ってからの朝陽はもうスキンシップひとつにも照れるしかと思えば甘えたりもしてくるしめちゃくちゃ可愛くて正直あの日酔っぱらってノリでOKした自分に大感謝してるし今は溺愛している。

【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました

及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。 ※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19

処理中です...