十年先まで待ってて

リツカ

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過去話・後日談・番外編など

温泉旅行 5

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「雅臣、雅臣」
「ん、んぅ……」
「起きろよ。もう朝だぞ」

 体をゆすられ、雅臣は小さく唸りながら目を覚ました。ぱちぱちと瞬きをして、寝ぼけ眼で総真を見上げる。

「……もうあさ?」
「まあ、まだ七時前だけどな。仲居さんが朝飯持ってくる前に、一回風呂入っといた方がいいだろ?」
「……大浴場行ってもいい?」
「それはダメ」

 即却下して、総真は雅臣の体を抱き上げた。どうやら部屋に付いている露天風呂へと向かっているようだ。
 腕の中の雅臣を見下ろしながら、総真は苦笑する。

「大体こんな状態で大浴場なんて行けるわけねぇだろ。お前肌が白いからキスマ目立ってるし、粗方掻き出したけど、昨日はめちゃくちゃ中出ししちまったし」
「んー……」
「おい、寝るな」

 露天風呂に連れて行かれ、湯に浸かる前に軽く髪と体を洗った。その頃には雅臣も眠気が覚めて、総真の背中を流してやったりもした。

「温泉の匂いっていいよな」
「ああ。あと、この開放感は家の風呂じゃ味わえねぇよな~」

 そんな会話をしながら、ふたりで湯に浸かる。足先を入れた瞬間、ジンと痺れるような少し熱めのお湯が心地よかった。
 雅臣はフーと息を吐いて、肩まで湯に浸かる。隣に腰掛けた総真の肩に頭を預けてうっとりと目を閉じた。

「また眠りそう……」
「こら、寝るな」

 くすくすと笑う声が聞こえたと同時に、雅臣の腰に手が回される。
 総真が雅臣に甘く囁いた。

「お前、昨日めちゃくちゃエロかったな。なんで?」
「……しらない」
「発情期近いから? 場所が変わって興奮したとか?」
「だ、だからっ、知らない! わかんない!」

 顔を上げた雅臣は、頬を真っ赤にして叫んだ。勢いで、湯がバシャリと跳ねる。
 昨日は少し……というか、かなり乱れてしまった自覚があるからこそ、総真のからかいが恥ずかしい。腹の最奥に総真の雄を押し込まれた快感を思い出すと、また下腹部がきゅうっと収縮したような気さえした。
 総真は赤くなった雅臣の顔を見てニヤニヤと笑う。

「そんな照れるなって。昨日は最高だったって話だろ」
「朝になってそんな話したくない……」
「わかったわかった。むくれるなよ」

 総真は宥めるように雅臣の頬にキスをした。
 
「今度俺の友達集めてフットサルするんだろ? 喧嘩してたら遊びになんて行けねぇぞ」
「……ほんとに予定立ててくれるのか?」
「まっ、お前からのお願いだからな。三月の適当な日に数人集めりゃなんとかなるだろ。どうせあいつらも入社式までは暇だろうし。あっ、絶対怪我だけはしないよう気を付けろよ。またゴールポストで流血とかシャレになんねぇからな」
「わかってる……そんなに心配なら、お前がずっと俺の傍についててくれたら良いじゃん」
「ばか、そんなの無理に決まってんだろ。ただでさえストーカー扱いされてんのに、ずっとお前の傍にいたらあいつらになんて言われるか……」
「……ストーカー??」
「あっ……」

 総真が見るからに『しまった』という顔をした。普段の自信に満ち溢れた姿が嘘のように、総真はおろおろと視線を泳がせる。

「いや、えっと……その……あー……そうっ! 俺がお前を十年想ってたこと仲良い友達は知ってるから、それでストーカー扱いされてんの!! 俺はただ一途なだけなのに、酷い話だよなっ!?」
「へ、へぇ……?」
「ほんとふざけてるっ! 俺はちょっと愛が重いだけなのにストーカー扱いとか名誉毀損だろっ!」

 ──いや、『ちょっと』ではないと思うけど……

 雅臣は苦笑いをした。
 けれど、そんな重い愛を捧げられて幸せを感じてしまうのだから、きっと雅臣と総真の相性はいいのだろう。たとえ、ふたりが『運命の番』でなくとも。
 少し様子のおかしい総真を不思議に思いながらも、雅臣は総真に身を寄せて頬を緩める。

「旅行とか温泉とか久々で、すごく楽しかった。連れてきてくれてありがとう」

 雅臣が告げると、それまでぺらぺらと友人たちへの文句を口にしていた総真がぴたりと黙った。そして、雅臣の体を抱き寄せてぎゅっと抱き締める。

「就職しても休みくらいは取れるから、またどっかいいとこ探してふたりで来ような」
「うん。……まだ先の話だけど、子どもが産まれたら家族旅行とかも行きたいな」
「子ども一緒なら泊まりでテーマパークとかもいいよな~。場所によっては中にホテルとかあって泊まれるとこもあるらしいし。子どもはああいうアトラクションとかパレードとか絶対好きだろ」
「耳の付いたカチューシャとかね」
「あっ、あとあれ、キャラクターの入れ物に入った首からぶら下げるポップコーン!」

 嬉々として未来の話をする総真を見つめて、雅臣は穏やかに微笑んだ。
 傍にいればいるほど愛おしくなる。それでも、十年待ったこの男にはまだまだ敵わないのかもしれないが。

「総真、好きだよ」
「唐突だな……俺も好き」

 うっとりと笑った総真が、微笑んだ雅臣にそっと口付ける。
 温泉の温かさも相まって、そのままふたりでとろけあってしまいそうなくらい、心地のいいキスだった。


 (終)


 閲覧並びにエールや感想などありがとうございました!
 またいつか続きのフットサルの話を書いて投稿する予定です。
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