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1巻
1-2
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それだけ言って、雅臣はそっと卯月の手を引き剥がす。
気にしてないよ、と言うのがお友達の態度としては正しいのかもしれないが、そんなことを言う気にはなれなかった。雅臣はやはり卯月が苦手で、怖い。
卯月に背を向けたあとは、祖父と並んで、登校する生徒たちと逆方向へ進む。
車に乗り込む直前に校門の方を振り返ると、まだ卯月がじっとこちらを見ていた。雅臣はその視線から逃れるように慌てて助手席へと飛び乗った。
家に帰り着いた雅臣は少し驚いた様子の祖母に迎えられたが、会話もそこそこにすぐ自室へと向かった。そして、ベッドに横になり、卯月のことを考える。
偉そうで、生意気で、意地悪で。でも、今日はちゃんと謝ってくれた。
祖父のことが怖かっただけかもしれないし、本心からの言葉ではなかったのかもしれない。それでも、あのときの卯月の目が、なんだか頭から離れなかった。
その日の夜、雅臣が祖父母に呼ばれて居間の座布団に座ると、いくつかのパンフレットを渡された。パンフレットの表には、校舎の写真とともに折流駕学園という学校名が載っている。
「これなに?」
「ここはね、おばあちゃんが通ってた学校。オメガしか通えない、オメガ専用の学校なの」
話を聞くと、祖父母はもともと雅臣をこの学校に通わせるつもりだったらしい。ただ、雅臣を引き取ってからしばらくは空きがなかったため、今の学校に入れることになったのだという。
この学校にアルファの卯月は絶対に入学できない。
中学からこっちの学校に通うかと祖父に尋ねられ、雅臣はすぐさま頷いた。
▽ ▽ ▽
過去のことを思い返していた雅臣が卯月の顔を見つめていると、眉をひそめた卯月がふいっと顔を逸らした。
「クズ男に捨てられたぐらいで泣いてんじゃねぇよ」
「もう泣いてなんか……」
「泣いてんだろうが、ばーか」
言われて頬に触れると、確かに濡れた感触がした。片桐に差し出された新品のおしぼりを受け取り、強く目に押し当てる。
正直今は誠とのゴタゴタよりも、突然現れて平然と隣にいる卯月への衝撃の方が大きい。特に説明する気がなさそうな片桐との関係性もよくわからなかった。
「ふたりは、友達……なのか?」
「友達なんかじゃないよ。僕の旦那はそこそこ親しくしてるみたいだけど、まあ知り合いってとこかな」
「へぇ……」
嫌な巡り合わせだ。
雅臣はずっと卯月を避けてきた。それは同じ学校に通っているときも、別々の学校に進学してからもずっと。今思えば少し自意識過剰だったのかもしれないが、それだけ雅臣にとって卯月はできるだけ対面したくない相手だったのだ。
記憶が正しければ、こう面と向かって顔を合わせたのは十年ぶりぐらいだろうか。大人になった卯月は、幼い頃の面影を残しながらもすこぶる美形に成長していた。
「……なんだよ」
「別に……」
横顔を目だけでジッと見ていたら、不機嫌そうに睨まれた。
きっと、卯月のなかであの頃の雅臣への執着は、若気の至りと呼んでもいい汚点となっているだろう。そうであってほしかったはずなのに、雅臣は身勝手にも少し寂しい気持ちになった。
居心地の悪さを感じながら、グラスのなかの青い酒を飲み干す。
片桐に連れられて店にやってくるまでは良かった。予想外なのは、突然現れた卯月の存在だ。
過去に色々あったが、親しい友人ではないし、思い出話に花を咲かせるというのもなんだか違う気がする。
もう立ち去りたいが、誠の待つ家には帰りたくなかった。もっと正直に言えば卯月に店から出て行ってほしかったが、そんな気配もなく卯月は平然と片桐の作った酒をおかわりしている。
「雅臣くんは次なに飲む? どんなのが好き?」
「あー……えっと」
「どうせ今も甘いもん好きなんだろ。適当に甘いの作ってもらえよ」
「そう言えば雅臣くん甘党だったね」
手際良く片桐が作ってくれたのは、白と黒のコントラストが綺麗なカクテルだった。
「はい、どうぞ」
差し出されたカクテルの甘い匂いに誘われて、そっと口に運ぶ。
「……うん、チョコレートミルクみたいで美味しい」
でしょ? と笑う片桐に微笑み返し、ちびちびとカクテルを飲む。
「ふたりは小学校まで一緒だったんだっけ? 雅臣くんってどんな子だったの?」
「気が弱くて、すげぇ泣き虫」
「へぇ。中高では全然そんなことなかったけどね」
「じゃあ、どんな感じだったんだよ?」
「人気者だったよ。オメガの学校だから、みんな僕みたいなのばっかじゃん? そんななかで雅臣くんはアルファ並みに背も高いし、イケメンで性格もよかったからね。オメガ同士でも結婚した~い! って子も多かったかな」
「ふーん……」
卯月がやけに冷めた目で雅臣を見る。
すぐ傍で自分の話をされるのは、なかなか気まずいものだ。雅臣は小さく唸ったあと、ぼそぼそと口を開いた。
「別にそんな人気だった訳じゃ……確かに背はデカかったけど……」
事実、雅臣の中高生時代は楽しかった。生徒も教師もみなオメガで、アルファやベータから見下されることはなかったし、一般家庭の子ばかりなので一条家から追い出されたと馬鹿にされることも少なかったからだ。
華奢で小柄な生徒が多いなかでぐんぐん成長していくことへの戸惑いはあったが、周りが好意的に受けとめてくれていたのであまり気にしないようにしていた。誠だって、裏ではデカブツだと笑っていたようだが、雅臣の前ではなにも言わなかった。
雅臣はひとり苦笑してかぶりを振る。
考えないようにしても、なんだかんだ誠のことを思い出してしまう。金目当てで近付いてきただけの男だが、それでも雅臣にとっては結婚したいぐらい好きな男だった。
今日のことをぼんやりと思い返しながら甘いカクテルを飲み干し、ほうっと息をつく。
はじまりは佐伯の電話からだ。誠が酔い潰れたというのは嘘で、たぶんあの飲み会で雅臣の話を持ち出したのも佐伯だろう。
オレンジ色の髪をした派手な見目の気さくで明るいひとだと思っていた。だが、今となってはよくわからない。そもそも、彼は誠の友人であって、誠と同じ大学に通っている以外の情報はなかった。
あのとき――雅臣と目が合ったとき、佐伯は笑っていた。悪いことをしたという様子もなく、いたずらが成功した子どものような笑みだった。
なにを思って彼が雅臣を呼び出したのかはわからないが、おかげで誠の本性を知ることができた。なにも知らないまま誠と結婚するよりは、結果的には良かったのかもしれない。
「雅臣くん?」
黙り込んだ雅臣に気付いたのか、それまで学生時代の雅臣の話に花を咲かせていたふたりがじっとこちらを見つめていた。
雅臣はにこりと笑みを作り、片桐に向かって空のグラスを差し出す。
「おかわりもらえる? 片桐のオススメでいいよ」
「オーケー」
にこにこしながら片桐が作ってくれたのは、レモンティーみたいな味の飲みやすいカクテルだった。
そのあとは、片桐が雅臣と卯月に話を振って、取りとめのない会話をすることで時間が過ぎていく。卯月の乱入でどうなることかと心配だったが、時間がたつにつれ雅臣の緊張もとけていき、お酒の力もあってか卯月と普通に会話できる程度には蟠りがなくなっていた。
そんなとき、片桐のスマートフォンからけたたましい着信音が鳴り響いた。画面をチラッと見た片桐は、かわいい顔に似合わない舌打ちをする。
「ごめん、旦那だ。ちょっと出てくる」
少しうんざりしたような表情で、片桐は店の奥へと引っ込んでいった。
「仲良いな」
「どこがだよ……アイツ舌打ちしてたぞ」
「でも、片桐の性格的に本当に嫌だったら電話に出ないと思うし……」
「子どものことかもしれないから、出ない訳にいかないんだろ」
卯月の言葉に雅臣は目を見開いた。
「片桐、子どもがいるのか?」
「会ったことはねぇけど。今年で二歳とか言ってたな」
今までの会話で子どもの話は一切出てこなかったので知らなかった。婚約者と揉めたばかりの雅臣に気を使って黙っていたのかもしれない。
「そっか。片桐の子どもだったらきっとかわいいんだろうな……頼んだら写真とか見せてくれるかな?」
「お前も子ども欲しいのか?」
唐突に尋ねられた雅臣はうーんと考え込んだあと、へらりと笑った。
「欲しかったけど、もういいかな」
誠と同棲をはじめてから、子どものことについて考えることは多かった。
男の子でも女の子でも、アルファでもベータでもオメガでも、誠との子どもなら世界一かわいくて大切にできると思った。誠もきっとそう思ってくれているのだと信じていた。
けれど思い返してみると、雅臣が子どもの話をすると誠はただ微笑んで「そうだね」と頷くだけで、彼からその話をしてくることは一度もなかった。
当然だろう。誠にとって雅臣は金を運んでくる気持ちの悪いデカブツだ。金を巻き上げて一生飼い殺しにする予定だった失敗作オメガに、子どもを産ませる気など最初からなかったのだろう。
雅臣の喉から乾いた笑いが漏れる。
「だって、俺みたいなのが子ども産みたいなんて言ったら気持ち悪いだろ?」
酒を飲む手をとめ、卯月が驚いた表情で雅臣を見る。動揺からか、黒い瞳がわずかに揺れていた。
「小さい頃からパッとしなかったけど、まさかこんなにデカくなるなんて自分でも思ってなかったよ。お前だって、本当はホッとしたんじゃないか? 昔、俺が婚約の話断ってありがたかったろ? 子どもの頃の思い付きで俺みたいなのと結婚なんて、地獄だもんな」
くつくつと笑いながらカクテルを口に運ぶ途中で、横から伸びてきた手にグラスを奪われた。
「もうやめとけ。酔いすぎだ」
「酔ってなんか……」
「そんな顔真っ赤にして酔ってない訳ねぇだろうが。いつになく馬鹿なことベラベラ喋りやがって」
雅臣から奪い取ったカクテルを一気に飲み干した卯月が、フッと唇の端を緩める。
「お前ってほんと変わらねぇな」
懐かしいものを見るように目を細めた卯月の手が伸びてきて、そっと雅臣の頬に触れた。
輪郭に沿って滑る指先のひんやりとした感触が心地いい。雅臣はうっとりと瞼を閉じて、そのまま卯月の手に頬を預ける。
「子ども欲しいなら欲しいって言えばいいだろ。別に気持ち悪いなんて思わねぇよ」
ぼんやりとした頭のなかで、やけに柔らかい卯月の声だけが響く。
昔からこうだった。普段は意地の悪いことばかり言うくせに、雅臣が落ち込んでいるときだけは妙に優しいのだ。
雅臣は目を閉じたままくすりと笑った。
「変わらないのはお前の方だよ」
「はぁ? ガキの頃よりいい男になってんだろうが」
「……そうだな」
重たい瞼を持ち上げて、ぼんやりと卯月を見つめる。
幼少期から作り物のように整っていた顔はあの頃よりも精巧さを増し、どこか人間離れした美貌を誇っていた。手足がスラリと長く、背も高い。雅臣も長身だが、それと同じか、卯月の方が少し高いかもしれない。高そうなジャケットをさらりと着こなす姿は、まるで海外セレブのように優雅だ。
――昔から別世界の人間って感じだったけど、さらに遠い存在になっちゃったな。ほんと、なんで俺なんかがよかったんだろ……
雅臣がそんな卑屈なことを考えていると、ふわりと花のように甘く爽やかな香りが鼻を掠めた。
香水だろうか。ずっと嗅いでいたくなるような、心地よい香りだった。
「雅臣? 眠いのか?」
「ん……」
「寝てもいいぞ。あとで起こしてやるから」
眠いのだろうか。頭がふわふわして、そのくせ体は重い。風邪のときみたいに体と吐息が熱くて、なにも考えられなくなる。
目元を滑る卯月の指先に促されるように瞼を落とした雅臣は、そのままゆっくりとカウンターに突っ伏した。
▽ ▽ ▽
祖父との一件があってから、卯月の態度は目に見えて改善された。やたらと突っかかってくることがなくなり、雅臣が萎縮するような強い言動も減った。雅臣が自分以外のアルファと接触することを異様に嫌がるのは変わらなかったが、それだけの変化でも雅臣の心は穏やかになった。
なにより、中学からはオメガ専用の学校に転入することが決まっている。
あと数ヶ月でこの学校から――卯月から離れられる。そう思うと、今までつらかった学校生活もそれほど苦ではなくなった。
「卯月くん、最近大人しくなったね」
掃除の時間になる少し前、真理亜から小さな声で話しかけられた。
「うん、じいちゃんに怒られたのが効いたみたい」
「ふふ、あの卯月くんも雅臣くんのおじいちゃんには嫌われたくないんだね。……まあその前に、雅臣くんにこれ以上嫌われるのはまずいって気付いたんだろうけど……」
そう言ってクスクス笑うと、ハーフアップにされた真理亜の綺麗な黒髪が揺れた。
真理亜はアルファだが、オメガを見下したり、威張った態度を取ることのない、心優しい少女だ。雅臣とは幼稚園の頃から仲が良くて、ふたりは一緒にいることが多かった。
「でも、本当に良かったね。卯月くんの周りのうるさい連中も少しは大人しくなったし」
「……うん」
転校を喜ぶ一番の理由は卯月から逃げたいからだが、そもそも雅臣は今の学校があまり好きではなかった。
みんな雅臣が一条家に捨てられたオメガだと知っていて、なかにはニヤニヤとした笑みを浮かべながらわざと雅臣を一条と呼ぶ者もいた。
性別やバース性に関係なく卯月と繋がりを持ちたがっている連中は多く、卯月に構われている雅臣にはみんな容赦がない。卯月のいないところを狙って心ない言葉をかけられ、そこをよく真理亜に助けられていた。
自慢にはならないが、雅臣は愛らしい者が多いオメガのなかでは平凡な見目をしている。特になにが得意という訳でもないし、他者を惹きつける内面的な魅力もない。
そんな凡庸な雅臣が卯月の近くにいることが、彼の取り巻きたちは気に食わないらしかった。
「それにしても、卯月くんのなにがそんなに魅力的なんだろうね? 顔や家柄は申し分ないけど、我が儘だし、口は悪いし、幼馴染の私としてもあまり近寄りたくない存在なんだけど」
「……優しいとこもあるよ」
雅臣がぽつりと言い返すと、真理亜は少し驚いた表情を浮かべてからにんまりと笑った。
「前は意地悪だから嫌いって言ってたよね。とうとう絆されちゃった?」
「そういう訳じゃなくて! ……意地悪だし嫌いだけど、でも優しいところもあるってだけで……」
「はいはい。雅臣くんにだけ特別意地悪で特別優しいんだもんね、卯月くんは」
真理亜にからかわれて雅臣はムッとしたが、真理亜はいっそう楽しそうにクスクスと笑う。
そこで、少し離れたところにいた同じクラスの女子が真理亜を呼んだ。はーいと返事をした真理亜はそちらへと小走りで駆けていき、残された雅臣は箒とちりとりを手に、ひとり掃除場所である階段へと向かった。
階段のゴミを箒で掃き落としながら、自身も一段一段下っていく。
お金持ちの家の子どもが多いこの学校でも、生徒の自主性を高めるため自分たちで校内の掃除をする。業者に頼めばいいのにと文句を言う者もいるが、雅臣はこの時間がさほど嫌いではなかった。
しかし、それも余計な邪魔が入らなければの話だ。
「一条くん」
「…………」
「無視しないでよ、本当に育ちが悪いな」
階段の中段より少し上あたりで雅臣が渋々顔を上げると、踊り場にふわふわと柔らかそうな髪をした美少年が立っていた。その後ろにも数人少年が控えていたが、雅臣にとって先頭の美少年――室井龍太郎がこのなかで一番関わりたくない厄介な相手だ。
この学校の理事長の孫で、しかもあの卯月の遠縁なのだというオメガの室井は、いつも明確な悪意を持って雅臣に近付いて来る。こちらを見下ろす顔は卯月同様天使のように愛らしいのに、形の良い小さな唇から紡がれる言葉はいつだって醜悪だ。
「そんな怯えた顔しないでよ、また総真に僕が君をいじめてるって勘違いされちゃうじゃないか。今日は君にお礼を言いに来たんだ」
「……お礼?」
雅臣は眉をひそめた。
室井にお礼を言われるようなことをした覚えはない。ただ、妙に機嫌のいい室井の態度に嫌な予感がした。
「君もようやくわかってくれたんだね、自分がどれだけ身の程知らずで不相応か。僕はすごくうれしいよ、幼い頃から君に教示してあげた甲斐があった」
「……なんの話?」
「折流駕学園に転校するんだろ?」
にこにこと笑いながら問われた言葉に驚かされたが、すぐに納得した。
中学から別の学校に通うことはまだ誰にも教えていないが、室井はこの学校の理事長の孫だ。学校側には雅臣が他校に転入する話を通してあるので、その話が彼の耳に入っていてもおかしくはない。もちろん、生徒のプライバシーに関わることを身内だからと話してしまうのはどうかと思うが。
「それが室井くんになにか関係ある?」
「ッ……関係あるに決まってるだろう⁉ 僕は総真の許婚だぞ!」
それまで笑っていた室井が、突然目尻を吊り上げて怖い顔で睨みつけてくる。
「君にはずっと迷惑していたんだ! 総真に気に入られてるからって、許婚の僕を差し置いて総真の周りをうろちょろと……!」
雅臣はうんざりしながらも黙っていた。
許婚の件は、室井とその家族が食事の席で一瞬出た話題を一方的に吹聴しているだけで正式なものではないと卯月に聞かされているし、そもそも雅臣が自分から卯月に近付いたことは一度もない。しかし、それを告げたところで室井が自分に都合の悪いことは一切聞き入れないことは、今までの経験上わかっている。
それに、転校するのは事実なのだ。うれしいのならば喜ばせておけばいい。雅臣だって、室井ともう顔を合わせなくてすむようになるのは清々する。
黙ったままの雅臣に多少気分が良くなったのか、室井は怒りに満ちたままの顔に引きつった笑みを浮かべて言った。
「君みたいな価値のないオメガは総真の傍にいるべきじゃない。もっと早く消えてくれたらよかったのに」
その言葉に雅臣は拳を強く握り締め、いっそう深く俯いた。
オメガだからと親に捨てられ、同じオメガからは価値がないと見下される。
雅臣だって、本当はアルファに生まれたかった。ベータでも良かった。どうせオメガとして生まれるなら、室井みたいな愛らしい顔が欲しかった。
でも、全部叶わなかったのだ。
「……わかってるよ」
「え?」
「俺だって、自分が失敗作だってちゃんとわかってる……」
「は? 別にそこまで言ってないんだけど。急に泣かないでよ。僕が泣かしたみたいじゃないか」
しかめた顔すら憎らしいほど愛らしい。
雅臣は涙で滲んだ視界のなか、自分の上履きの爪先をじっと見つめる。
惨めだ。同じオメガなのに、室井はこんなにも美しく、なにより両親に愛されている。雅臣にないものをたくさん持っていて、これからもきっとそれは増えていくのだろう。
「――おい、なにやってんだよ」
突如、不機嫌そうな声がその場に響く。
雅臣が顔を上げると、室井の背後に卯月が立っていた。
卯月はちらりと雅臣を見ると、器用に片眉を上げ、冷めた眼差しで室井を睨み付ける。
「龍太郎、お前いい加減にしろよ」
「ち、違うんだよ、普通に話してただけなのに悠木くんが突然泣き出して……!」
「へぇ、友達でもないお前と雅臣が話すことなんてあんのか?」
「それは、悠木くんが――」
「やめて‼」
自分でもびっくりするくらい大きな声が出た。周りの視線が雅臣に集まる。
転校の件を卯月に知られたくない。同時に、それを室井の口から卯月に知らされることがなぜかどうしようもなく嫌だった。
その雅臣の気持ちを見透かしたのか、室井の顔ににんまりとした笑みが浮かぶ。
「総真、悠木くんはね、転校するんだよ」
「は……?」
「中学からオメガ専用の学校に行くんだって。お祖父様から直接聞いた話だから間違いないよ」
卯月がこちらを振り向いた。雅臣がなにも言えないまま立ち尽くしていると、その端麗な顔はみるみるうちに青ざめていく。
大きく見開かれた瞳に雅臣だけが映っていた。その目がじわりと滲んで、揺れる。
――傷付けた。
あの完璧で、身勝手で、いつも雅臣を振り回してきた少年を。他でもない雅臣が。
雅臣は手に持っていた掃除道具を放り出して、身を翻す。それから、逃げるように階段を駆け下りた。
卯月のあんな顔が見たい訳ではなかった。それなら、いつもみたいに大きな声で喚き立てられる方がずっとましだ。
視界に一階の廊下が見えたところで、階段についた片足がずるりと滑った。あっという間もなく、雅臣の体が一瞬宙に浮く。
「雅臣ッ‼」
後ろから卯月の悲鳴のような叫び声が聞こえた直後――雅臣は階段から一階の廊下へと転げ落ち、頭を強く打ち付けた衝撃で意識を失った。
雅臣が病院のベッドで目を覚ましたのは、階段から転げ落ちてから約一時間後のことだった。
ベッドのすぐ傍に祖父母がいて、祖母は雅臣と目が合った途端にぽろぽろと涙を流す。
幸い怪我はそうひどいものではなく、頭に大きなたんこぶができて体のあちこちに青痣や擦り傷があったが、骨や脳には異常がなかったらしい。雅臣はその日のうちに自宅に帰ることができた。
「足が滑って転んじゃった」
雅臣はそう言って笑ってみせたが、祖父母は悲しげな目をしたままだった。
嘘ではないが、それに至るまでの経緯を、祖父母はある程度知っているのかもしれない。
雅臣はあのとき逃げ出したことを後悔した。そもそも、卯月の傷付いた顔にあれほど取り乱した自分自身がよくわからない。
それでも、あの卯月の顔を思い出すと悲しい気持ちになる。そんな自分に雅臣は戸惑いながら、その日は自室のベッドで眠りについた。
翌日、念のため雅臣は学校を休むことになった。雅臣としてはこのままずっと休んでいたいくらいだが、きっとそうはいかないだろう。また卯月や室井たちと顔を合わせるときのことを思うと、時間がたつのがひどく憂鬱に思えた。
そして、その夜。雅臣が自室で本を読んでいると、困った顔をした祖母が部屋へとやってきた。
「総真さんと総真さんのご両親がいらして、雅臣とお話がしたいって仰っているのだけれど……」
「……会いたくない」
きっと、怪我のことを謝りに来たのだろう。けれど、雅臣はひとりで勝手に階段から落ちて、勝手に怪我をしたのだ。
卯月は関係ない。だから、卯月と卯月の両親に会う理由もない。
「そうね、まだ怪我も治っていないし、今日はおばあちゃんたちで対応するわね」
雅臣の気持ちを察してくれたのか、そう言って祖母は雅臣の部屋から出て行った。
早く帰ってくれればいい。雅臣は掛け布団に包まりながら、祈るように強く目を閉じる。
卯月親子の滞在時間は一時間ほどだったが、雅臣の体感ではもっと長い憂鬱な時間だった。
玄関の扉が閉まる音と車のエンジン音を聞いてから、雅臣はおそるおそる部屋を出る。
居間にいた祖父母は、重苦しい雰囲気で顔を突き合わせていた。なにやら小声で話しているが、雅臣が居間に顔を出した途端、ふたりはぴたりと黙り込む。
嫌な予感がした。雅臣が無言で踵を返そうとしたところで祖父に呼びとめられ、向かいの座布団に座るよう促される。
雅臣がおずおずと座布団に腰を下ろした数秒後、祖父は重々しく口を開いた。
「卯月家からお前に婚約の申し入れがあった」
「え……」
「総真君は成人したらお前と結婚したいと言っている。ご両親もお前がいいなら、と」
一瞬で血の気が引いていく。今回の件の謝罪なんかよりももっと意味のわからない展開だ。
卯月の番になるのも、卯月と結婚するのも、どちらも雅臣はごめんだった。
「やだよ……絶対やだ」
「雅臣、そんなすぐに決めなくてもいいのよ。少し考えてから……」
「考えたって変わらない! 絶対やだっ‼」
そう叫んだ雅臣は走って自室に戻り、ベッドへと潜り込んだ。
祖父母の前であんな態度を取ったのは初めてだったので、ふたりとも驚いた様子だったが、今はそんなことに気を取られている場合ではない。
ベッドのなかで雅臣はブルブルと震える。
卯月と番になって結婚するなんて絶対に考えられない。なにもかも釣り合っていないし、そもそも雅臣は卯月が苦手なのだ。
卯月親子が家を訪れてからも、自宅療養の体で雅臣は学校を休んだ。実際は触れたら痛む程度で通学に問題はなかったが、祖父母は雅臣が学校を休むことを許してくれた。
しかし、いつまでも休んでいる訳にはいかない。丸々一週間休んだあと、雅臣は月曜からまた学校に通うことになった。
「雅臣くん!」
雅臣が教室に入ると、真っ先に真理亜が駆け寄ってきた。
「怪我はもう大丈夫なの?」
「うん、まあ……」
雅臣はへらりと笑ったが、まだその脚に絆創膏や湿布が貼られているのを見て、真理亜は痛ましげに顔を歪めた。
「あいつら……本当に許せない」
「俺が足を滑らせただけだから、別に誰も悪くないよ」
「でも!」
「大丈夫、もうあまり痛くないから」
真理亜は納得いかない顔をしていたが、それ以上はなにも言わなかった。すると、その黒目がちな瞳がスッと動いて、雅臣の背後のなにかを捉える。
「……雅臣」
その直後、今一番聞きたくない少年の声がすぐ後ろから聞こえた。
雅臣が黙ったまま振り返らずにいると、痺れを切らしたらしい声の主はちょっと来いと言って雅臣の腕を引っ張った。
苦笑いの真理亜に見送られながら、雅臣はずるずると引きずられるように廊下を歩く。といっても、その歩みはいつもよりゆっくりとしたものだ。
怪我をしている雅臣を気遣うその優しさが、今はなんだか煩わしい。自分の腕を引く卯月の後頭部を見つめながら、雅臣はそんなことを思った。
空き教室に入った卯月はドアの鍵までかけてから、ようやく雅臣と向かい合う。大きな目が雅臣をじっと見つめた。
「……怪我は、もう大丈夫なのか」
雅臣は無言で頷いた。
それを見て、卯月は苦々しい表情で続ける。
「ごめん……俺のせいだ」
「俺が勝手に転んだだけだから、総真くんは関係ないよ」
「でも、俺がもっと早く追いかけてたら、あんなことにはならなかったかもしれないし、そもそも龍太郎のことだって俺が……」
「本当にもういいから」
いつもより強い口調で雅臣がそう言うと、ようやく卯月は黙った。だが、そのまま教室へ帰してくれる気配はなく、なにか言おうと口を開きかけてやめるというのを何度も繰り返している。
こんなものはただの前置きなのだと雅臣もわかっていた。この先の本題を思うと気持ちが沈み、自然と視線が足元に落ちる。
突如、卯月が雅臣の手を掴んだ。
「こ、婚約の話聞いたかっ?」
ちらりと視線を上げると、卯月も雅臣ではなく足元を見ていた。黒髪から覗く形のいい耳が真っ赤だ。
「うん……」
「どう思った?」
卯月が顔を上げたので、入れ替わるようにして今度は雅臣が俯く。
どう答えたものか迷ったあと、雅臣は卯月に掴まれていない方の手をギュッと握り締め、なけなしの勇気を振り絞った。
「ぜ」
「ぜ?」
「……ぜ、ったい、やだ」
沈黙が落ちた。
どんな顔をしているだろうかと雅臣が顔を上げると、卯月はきょとんとして雅臣を見ていた。
「……なんで?」
「嫌だから」
「だから、なんで嫌なんだよ?」
「……総真くんには、もっとふさわしいひとがいると思う」
「お前……なんだその良い子ぶったクソみたいな断り方……」
気にしてないよ、と言うのがお友達の態度としては正しいのかもしれないが、そんなことを言う気にはなれなかった。雅臣はやはり卯月が苦手で、怖い。
卯月に背を向けたあとは、祖父と並んで、登校する生徒たちと逆方向へ進む。
車に乗り込む直前に校門の方を振り返ると、まだ卯月がじっとこちらを見ていた。雅臣はその視線から逃れるように慌てて助手席へと飛び乗った。
家に帰り着いた雅臣は少し驚いた様子の祖母に迎えられたが、会話もそこそこにすぐ自室へと向かった。そして、ベッドに横になり、卯月のことを考える。
偉そうで、生意気で、意地悪で。でも、今日はちゃんと謝ってくれた。
祖父のことが怖かっただけかもしれないし、本心からの言葉ではなかったのかもしれない。それでも、あのときの卯月の目が、なんだか頭から離れなかった。
その日の夜、雅臣が祖父母に呼ばれて居間の座布団に座ると、いくつかのパンフレットを渡された。パンフレットの表には、校舎の写真とともに折流駕学園という学校名が載っている。
「これなに?」
「ここはね、おばあちゃんが通ってた学校。オメガしか通えない、オメガ専用の学校なの」
話を聞くと、祖父母はもともと雅臣をこの学校に通わせるつもりだったらしい。ただ、雅臣を引き取ってからしばらくは空きがなかったため、今の学校に入れることになったのだという。
この学校にアルファの卯月は絶対に入学できない。
中学からこっちの学校に通うかと祖父に尋ねられ、雅臣はすぐさま頷いた。
▽ ▽ ▽
過去のことを思い返していた雅臣が卯月の顔を見つめていると、眉をひそめた卯月がふいっと顔を逸らした。
「クズ男に捨てられたぐらいで泣いてんじゃねぇよ」
「もう泣いてなんか……」
「泣いてんだろうが、ばーか」
言われて頬に触れると、確かに濡れた感触がした。片桐に差し出された新品のおしぼりを受け取り、強く目に押し当てる。
正直今は誠とのゴタゴタよりも、突然現れて平然と隣にいる卯月への衝撃の方が大きい。特に説明する気がなさそうな片桐との関係性もよくわからなかった。
「ふたりは、友達……なのか?」
「友達なんかじゃないよ。僕の旦那はそこそこ親しくしてるみたいだけど、まあ知り合いってとこかな」
「へぇ……」
嫌な巡り合わせだ。
雅臣はずっと卯月を避けてきた。それは同じ学校に通っているときも、別々の学校に進学してからもずっと。今思えば少し自意識過剰だったのかもしれないが、それだけ雅臣にとって卯月はできるだけ対面したくない相手だったのだ。
記憶が正しければ、こう面と向かって顔を合わせたのは十年ぶりぐらいだろうか。大人になった卯月は、幼い頃の面影を残しながらもすこぶる美形に成長していた。
「……なんだよ」
「別に……」
横顔を目だけでジッと見ていたら、不機嫌そうに睨まれた。
きっと、卯月のなかであの頃の雅臣への執着は、若気の至りと呼んでもいい汚点となっているだろう。そうであってほしかったはずなのに、雅臣は身勝手にも少し寂しい気持ちになった。
居心地の悪さを感じながら、グラスのなかの青い酒を飲み干す。
片桐に連れられて店にやってくるまでは良かった。予想外なのは、突然現れた卯月の存在だ。
過去に色々あったが、親しい友人ではないし、思い出話に花を咲かせるというのもなんだか違う気がする。
もう立ち去りたいが、誠の待つ家には帰りたくなかった。もっと正直に言えば卯月に店から出て行ってほしかったが、そんな気配もなく卯月は平然と片桐の作った酒をおかわりしている。
「雅臣くんは次なに飲む? どんなのが好き?」
「あー……えっと」
「どうせ今も甘いもん好きなんだろ。適当に甘いの作ってもらえよ」
「そう言えば雅臣くん甘党だったね」
手際良く片桐が作ってくれたのは、白と黒のコントラストが綺麗なカクテルだった。
「はい、どうぞ」
差し出されたカクテルの甘い匂いに誘われて、そっと口に運ぶ。
「……うん、チョコレートミルクみたいで美味しい」
でしょ? と笑う片桐に微笑み返し、ちびちびとカクテルを飲む。
「ふたりは小学校まで一緒だったんだっけ? 雅臣くんってどんな子だったの?」
「気が弱くて、すげぇ泣き虫」
「へぇ。中高では全然そんなことなかったけどね」
「じゃあ、どんな感じだったんだよ?」
「人気者だったよ。オメガの学校だから、みんな僕みたいなのばっかじゃん? そんななかで雅臣くんはアルファ並みに背も高いし、イケメンで性格もよかったからね。オメガ同士でも結婚した~い! って子も多かったかな」
「ふーん……」
卯月がやけに冷めた目で雅臣を見る。
すぐ傍で自分の話をされるのは、なかなか気まずいものだ。雅臣は小さく唸ったあと、ぼそぼそと口を開いた。
「別にそんな人気だった訳じゃ……確かに背はデカかったけど……」
事実、雅臣の中高生時代は楽しかった。生徒も教師もみなオメガで、アルファやベータから見下されることはなかったし、一般家庭の子ばかりなので一条家から追い出されたと馬鹿にされることも少なかったからだ。
華奢で小柄な生徒が多いなかでぐんぐん成長していくことへの戸惑いはあったが、周りが好意的に受けとめてくれていたのであまり気にしないようにしていた。誠だって、裏ではデカブツだと笑っていたようだが、雅臣の前ではなにも言わなかった。
雅臣はひとり苦笑してかぶりを振る。
考えないようにしても、なんだかんだ誠のことを思い出してしまう。金目当てで近付いてきただけの男だが、それでも雅臣にとっては結婚したいぐらい好きな男だった。
今日のことをぼんやりと思い返しながら甘いカクテルを飲み干し、ほうっと息をつく。
はじまりは佐伯の電話からだ。誠が酔い潰れたというのは嘘で、たぶんあの飲み会で雅臣の話を持ち出したのも佐伯だろう。
オレンジ色の髪をした派手な見目の気さくで明るいひとだと思っていた。だが、今となってはよくわからない。そもそも、彼は誠の友人であって、誠と同じ大学に通っている以外の情報はなかった。
あのとき――雅臣と目が合ったとき、佐伯は笑っていた。悪いことをしたという様子もなく、いたずらが成功した子どものような笑みだった。
なにを思って彼が雅臣を呼び出したのかはわからないが、おかげで誠の本性を知ることができた。なにも知らないまま誠と結婚するよりは、結果的には良かったのかもしれない。
「雅臣くん?」
黙り込んだ雅臣に気付いたのか、それまで学生時代の雅臣の話に花を咲かせていたふたりがじっとこちらを見つめていた。
雅臣はにこりと笑みを作り、片桐に向かって空のグラスを差し出す。
「おかわりもらえる? 片桐のオススメでいいよ」
「オーケー」
にこにこしながら片桐が作ってくれたのは、レモンティーみたいな味の飲みやすいカクテルだった。
そのあとは、片桐が雅臣と卯月に話を振って、取りとめのない会話をすることで時間が過ぎていく。卯月の乱入でどうなることかと心配だったが、時間がたつにつれ雅臣の緊張もとけていき、お酒の力もあってか卯月と普通に会話できる程度には蟠りがなくなっていた。
そんなとき、片桐のスマートフォンからけたたましい着信音が鳴り響いた。画面をチラッと見た片桐は、かわいい顔に似合わない舌打ちをする。
「ごめん、旦那だ。ちょっと出てくる」
少しうんざりしたような表情で、片桐は店の奥へと引っ込んでいった。
「仲良いな」
「どこがだよ……アイツ舌打ちしてたぞ」
「でも、片桐の性格的に本当に嫌だったら電話に出ないと思うし……」
「子どものことかもしれないから、出ない訳にいかないんだろ」
卯月の言葉に雅臣は目を見開いた。
「片桐、子どもがいるのか?」
「会ったことはねぇけど。今年で二歳とか言ってたな」
今までの会話で子どもの話は一切出てこなかったので知らなかった。婚約者と揉めたばかりの雅臣に気を使って黙っていたのかもしれない。
「そっか。片桐の子どもだったらきっとかわいいんだろうな……頼んだら写真とか見せてくれるかな?」
「お前も子ども欲しいのか?」
唐突に尋ねられた雅臣はうーんと考え込んだあと、へらりと笑った。
「欲しかったけど、もういいかな」
誠と同棲をはじめてから、子どものことについて考えることは多かった。
男の子でも女の子でも、アルファでもベータでもオメガでも、誠との子どもなら世界一かわいくて大切にできると思った。誠もきっとそう思ってくれているのだと信じていた。
けれど思い返してみると、雅臣が子どもの話をすると誠はただ微笑んで「そうだね」と頷くだけで、彼からその話をしてくることは一度もなかった。
当然だろう。誠にとって雅臣は金を運んでくる気持ちの悪いデカブツだ。金を巻き上げて一生飼い殺しにする予定だった失敗作オメガに、子どもを産ませる気など最初からなかったのだろう。
雅臣の喉から乾いた笑いが漏れる。
「だって、俺みたいなのが子ども産みたいなんて言ったら気持ち悪いだろ?」
酒を飲む手をとめ、卯月が驚いた表情で雅臣を見る。動揺からか、黒い瞳がわずかに揺れていた。
「小さい頃からパッとしなかったけど、まさかこんなにデカくなるなんて自分でも思ってなかったよ。お前だって、本当はホッとしたんじゃないか? 昔、俺が婚約の話断ってありがたかったろ? 子どもの頃の思い付きで俺みたいなのと結婚なんて、地獄だもんな」
くつくつと笑いながらカクテルを口に運ぶ途中で、横から伸びてきた手にグラスを奪われた。
「もうやめとけ。酔いすぎだ」
「酔ってなんか……」
「そんな顔真っ赤にして酔ってない訳ねぇだろうが。いつになく馬鹿なことベラベラ喋りやがって」
雅臣から奪い取ったカクテルを一気に飲み干した卯月が、フッと唇の端を緩める。
「お前ってほんと変わらねぇな」
懐かしいものを見るように目を細めた卯月の手が伸びてきて、そっと雅臣の頬に触れた。
輪郭に沿って滑る指先のひんやりとした感触が心地いい。雅臣はうっとりと瞼を閉じて、そのまま卯月の手に頬を預ける。
「子ども欲しいなら欲しいって言えばいいだろ。別に気持ち悪いなんて思わねぇよ」
ぼんやりとした頭のなかで、やけに柔らかい卯月の声だけが響く。
昔からこうだった。普段は意地の悪いことばかり言うくせに、雅臣が落ち込んでいるときだけは妙に優しいのだ。
雅臣は目を閉じたままくすりと笑った。
「変わらないのはお前の方だよ」
「はぁ? ガキの頃よりいい男になってんだろうが」
「……そうだな」
重たい瞼を持ち上げて、ぼんやりと卯月を見つめる。
幼少期から作り物のように整っていた顔はあの頃よりも精巧さを増し、どこか人間離れした美貌を誇っていた。手足がスラリと長く、背も高い。雅臣も長身だが、それと同じか、卯月の方が少し高いかもしれない。高そうなジャケットをさらりと着こなす姿は、まるで海外セレブのように優雅だ。
――昔から別世界の人間って感じだったけど、さらに遠い存在になっちゃったな。ほんと、なんで俺なんかがよかったんだろ……
雅臣がそんな卑屈なことを考えていると、ふわりと花のように甘く爽やかな香りが鼻を掠めた。
香水だろうか。ずっと嗅いでいたくなるような、心地よい香りだった。
「雅臣? 眠いのか?」
「ん……」
「寝てもいいぞ。あとで起こしてやるから」
眠いのだろうか。頭がふわふわして、そのくせ体は重い。風邪のときみたいに体と吐息が熱くて、なにも考えられなくなる。
目元を滑る卯月の指先に促されるように瞼を落とした雅臣は、そのままゆっくりとカウンターに突っ伏した。
▽ ▽ ▽
祖父との一件があってから、卯月の態度は目に見えて改善された。やたらと突っかかってくることがなくなり、雅臣が萎縮するような強い言動も減った。雅臣が自分以外のアルファと接触することを異様に嫌がるのは変わらなかったが、それだけの変化でも雅臣の心は穏やかになった。
なにより、中学からはオメガ専用の学校に転入することが決まっている。
あと数ヶ月でこの学校から――卯月から離れられる。そう思うと、今までつらかった学校生活もそれほど苦ではなくなった。
「卯月くん、最近大人しくなったね」
掃除の時間になる少し前、真理亜から小さな声で話しかけられた。
「うん、じいちゃんに怒られたのが効いたみたい」
「ふふ、あの卯月くんも雅臣くんのおじいちゃんには嫌われたくないんだね。……まあその前に、雅臣くんにこれ以上嫌われるのはまずいって気付いたんだろうけど……」
そう言ってクスクス笑うと、ハーフアップにされた真理亜の綺麗な黒髪が揺れた。
真理亜はアルファだが、オメガを見下したり、威張った態度を取ることのない、心優しい少女だ。雅臣とは幼稚園の頃から仲が良くて、ふたりは一緒にいることが多かった。
「でも、本当に良かったね。卯月くんの周りのうるさい連中も少しは大人しくなったし」
「……うん」
転校を喜ぶ一番の理由は卯月から逃げたいからだが、そもそも雅臣は今の学校があまり好きではなかった。
みんな雅臣が一条家に捨てられたオメガだと知っていて、なかにはニヤニヤとした笑みを浮かべながらわざと雅臣を一条と呼ぶ者もいた。
性別やバース性に関係なく卯月と繋がりを持ちたがっている連中は多く、卯月に構われている雅臣にはみんな容赦がない。卯月のいないところを狙って心ない言葉をかけられ、そこをよく真理亜に助けられていた。
自慢にはならないが、雅臣は愛らしい者が多いオメガのなかでは平凡な見目をしている。特になにが得意という訳でもないし、他者を惹きつける内面的な魅力もない。
そんな凡庸な雅臣が卯月の近くにいることが、彼の取り巻きたちは気に食わないらしかった。
「それにしても、卯月くんのなにがそんなに魅力的なんだろうね? 顔や家柄は申し分ないけど、我が儘だし、口は悪いし、幼馴染の私としてもあまり近寄りたくない存在なんだけど」
「……優しいとこもあるよ」
雅臣がぽつりと言い返すと、真理亜は少し驚いた表情を浮かべてからにんまりと笑った。
「前は意地悪だから嫌いって言ってたよね。とうとう絆されちゃった?」
「そういう訳じゃなくて! ……意地悪だし嫌いだけど、でも優しいところもあるってだけで……」
「はいはい。雅臣くんにだけ特別意地悪で特別優しいんだもんね、卯月くんは」
真理亜にからかわれて雅臣はムッとしたが、真理亜はいっそう楽しそうにクスクスと笑う。
そこで、少し離れたところにいた同じクラスの女子が真理亜を呼んだ。はーいと返事をした真理亜はそちらへと小走りで駆けていき、残された雅臣は箒とちりとりを手に、ひとり掃除場所である階段へと向かった。
階段のゴミを箒で掃き落としながら、自身も一段一段下っていく。
お金持ちの家の子どもが多いこの学校でも、生徒の自主性を高めるため自分たちで校内の掃除をする。業者に頼めばいいのにと文句を言う者もいるが、雅臣はこの時間がさほど嫌いではなかった。
しかし、それも余計な邪魔が入らなければの話だ。
「一条くん」
「…………」
「無視しないでよ、本当に育ちが悪いな」
階段の中段より少し上あたりで雅臣が渋々顔を上げると、踊り場にふわふわと柔らかそうな髪をした美少年が立っていた。その後ろにも数人少年が控えていたが、雅臣にとって先頭の美少年――室井龍太郎がこのなかで一番関わりたくない厄介な相手だ。
この学校の理事長の孫で、しかもあの卯月の遠縁なのだというオメガの室井は、いつも明確な悪意を持って雅臣に近付いて来る。こちらを見下ろす顔は卯月同様天使のように愛らしいのに、形の良い小さな唇から紡がれる言葉はいつだって醜悪だ。
「そんな怯えた顔しないでよ、また総真に僕が君をいじめてるって勘違いされちゃうじゃないか。今日は君にお礼を言いに来たんだ」
「……お礼?」
雅臣は眉をひそめた。
室井にお礼を言われるようなことをした覚えはない。ただ、妙に機嫌のいい室井の態度に嫌な予感がした。
「君もようやくわかってくれたんだね、自分がどれだけ身の程知らずで不相応か。僕はすごくうれしいよ、幼い頃から君に教示してあげた甲斐があった」
「……なんの話?」
「折流駕学園に転校するんだろ?」
にこにこと笑いながら問われた言葉に驚かされたが、すぐに納得した。
中学から別の学校に通うことはまだ誰にも教えていないが、室井はこの学校の理事長の孫だ。学校側には雅臣が他校に転入する話を通してあるので、その話が彼の耳に入っていてもおかしくはない。もちろん、生徒のプライバシーに関わることを身内だからと話してしまうのはどうかと思うが。
「それが室井くんになにか関係ある?」
「ッ……関係あるに決まってるだろう⁉ 僕は総真の許婚だぞ!」
それまで笑っていた室井が、突然目尻を吊り上げて怖い顔で睨みつけてくる。
「君にはずっと迷惑していたんだ! 総真に気に入られてるからって、許婚の僕を差し置いて総真の周りをうろちょろと……!」
雅臣はうんざりしながらも黙っていた。
許婚の件は、室井とその家族が食事の席で一瞬出た話題を一方的に吹聴しているだけで正式なものではないと卯月に聞かされているし、そもそも雅臣が自分から卯月に近付いたことは一度もない。しかし、それを告げたところで室井が自分に都合の悪いことは一切聞き入れないことは、今までの経験上わかっている。
それに、転校するのは事実なのだ。うれしいのならば喜ばせておけばいい。雅臣だって、室井ともう顔を合わせなくてすむようになるのは清々する。
黙ったままの雅臣に多少気分が良くなったのか、室井は怒りに満ちたままの顔に引きつった笑みを浮かべて言った。
「君みたいな価値のないオメガは総真の傍にいるべきじゃない。もっと早く消えてくれたらよかったのに」
その言葉に雅臣は拳を強く握り締め、いっそう深く俯いた。
オメガだからと親に捨てられ、同じオメガからは価値がないと見下される。
雅臣だって、本当はアルファに生まれたかった。ベータでも良かった。どうせオメガとして生まれるなら、室井みたいな愛らしい顔が欲しかった。
でも、全部叶わなかったのだ。
「……わかってるよ」
「え?」
「俺だって、自分が失敗作だってちゃんとわかってる……」
「は? 別にそこまで言ってないんだけど。急に泣かないでよ。僕が泣かしたみたいじゃないか」
しかめた顔すら憎らしいほど愛らしい。
雅臣は涙で滲んだ視界のなか、自分の上履きの爪先をじっと見つめる。
惨めだ。同じオメガなのに、室井はこんなにも美しく、なにより両親に愛されている。雅臣にないものをたくさん持っていて、これからもきっとそれは増えていくのだろう。
「――おい、なにやってんだよ」
突如、不機嫌そうな声がその場に響く。
雅臣が顔を上げると、室井の背後に卯月が立っていた。
卯月はちらりと雅臣を見ると、器用に片眉を上げ、冷めた眼差しで室井を睨み付ける。
「龍太郎、お前いい加減にしろよ」
「ち、違うんだよ、普通に話してただけなのに悠木くんが突然泣き出して……!」
「へぇ、友達でもないお前と雅臣が話すことなんてあんのか?」
「それは、悠木くんが――」
「やめて‼」
自分でもびっくりするくらい大きな声が出た。周りの視線が雅臣に集まる。
転校の件を卯月に知られたくない。同時に、それを室井の口から卯月に知らされることがなぜかどうしようもなく嫌だった。
その雅臣の気持ちを見透かしたのか、室井の顔ににんまりとした笑みが浮かぶ。
「総真、悠木くんはね、転校するんだよ」
「は……?」
「中学からオメガ専用の学校に行くんだって。お祖父様から直接聞いた話だから間違いないよ」
卯月がこちらを振り向いた。雅臣がなにも言えないまま立ち尽くしていると、その端麗な顔はみるみるうちに青ざめていく。
大きく見開かれた瞳に雅臣だけが映っていた。その目がじわりと滲んで、揺れる。
――傷付けた。
あの完璧で、身勝手で、いつも雅臣を振り回してきた少年を。他でもない雅臣が。
雅臣は手に持っていた掃除道具を放り出して、身を翻す。それから、逃げるように階段を駆け下りた。
卯月のあんな顔が見たい訳ではなかった。それなら、いつもみたいに大きな声で喚き立てられる方がずっとましだ。
視界に一階の廊下が見えたところで、階段についた片足がずるりと滑った。あっという間もなく、雅臣の体が一瞬宙に浮く。
「雅臣ッ‼」
後ろから卯月の悲鳴のような叫び声が聞こえた直後――雅臣は階段から一階の廊下へと転げ落ち、頭を強く打ち付けた衝撃で意識を失った。
雅臣が病院のベッドで目を覚ましたのは、階段から転げ落ちてから約一時間後のことだった。
ベッドのすぐ傍に祖父母がいて、祖母は雅臣と目が合った途端にぽろぽろと涙を流す。
幸い怪我はそうひどいものではなく、頭に大きなたんこぶができて体のあちこちに青痣や擦り傷があったが、骨や脳には異常がなかったらしい。雅臣はその日のうちに自宅に帰ることができた。
「足が滑って転んじゃった」
雅臣はそう言って笑ってみせたが、祖父母は悲しげな目をしたままだった。
嘘ではないが、それに至るまでの経緯を、祖父母はある程度知っているのかもしれない。
雅臣はあのとき逃げ出したことを後悔した。そもそも、卯月の傷付いた顔にあれほど取り乱した自分自身がよくわからない。
それでも、あの卯月の顔を思い出すと悲しい気持ちになる。そんな自分に雅臣は戸惑いながら、その日は自室のベッドで眠りについた。
翌日、念のため雅臣は学校を休むことになった。雅臣としてはこのままずっと休んでいたいくらいだが、きっとそうはいかないだろう。また卯月や室井たちと顔を合わせるときのことを思うと、時間がたつのがひどく憂鬱に思えた。
そして、その夜。雅臣が自室で本を読んでいると、困った顔をした祖母が部屋へとやってきた。
「総真さんと総真さんのご両親がいらして、雅臣とお話がしたいって仰っているのだけれど……」
「……会いたくない」
きっと、怪我のことを謝りに来たのだろう。けれど、雅臣はひとりで勝手に階段から落ちて、勝手に怪我をしたのだ。
卯月は関係ない。だから、卯月と卯月の両親に会う理由もない。
「そうね、まだ怪我も治っていないし、今日はおばあちゃんたちで対応するわね」
雅臣の気持ちを察してくれたのか、そう言って祖母は雅臣の部屋から出て行った。
早く帰ってくれればいい。雅臣は掛け布団に包まりながら、祈るように強く目を閉じる。
卯月親子の滞在時間は一時間ほどだったが、雅臣の体感ではもっと長い憂鬱な時間だった。
玄関の扉が閉まる音と車のエンジン音を聞いてから、雅臣はおそるおそる部屋を出る。
居間にいた祖父母は、重苦しい雰囲気で顔を突き合わせていた。なにやら小声で話しているが、雅臣が居間に顔を出した途端、ふたりはぴたりと黙り込む。
嫌な予感がした。雅臣が無言で踵を返そうとしたところで祖父に呼びとめられ、向かいの座布団に座るよう促される。
雅臣がおずおずと座布団に腰を下ろした数秒後、祖父は重々しく口を開いた。
「卯月家からお前に婚約の申し入れがあった」
「え……」
「総真君は成人したらお前と結婚したいと言っている。ご両親もお前がいいなら、と」
一瞬で血の気が引いていく。今回の件の謝罪なんかよりももっと意味のわからない展開だ。
卯月の番になるのも、卯月と結婚するのも、どちらも雅臣はごめんだった。
「やだよ……絶対やだ」
「雅臣、そんなすぐに決めなくてもいいのよ。少し考えてから……」
「考えたって変わらない! 絶対やだっ‼」
そう叫んだ雅臣は走って自室に戻り、ベッドへと潜り込んだ。
祖父母の前であんな態度を取ったのは初めてだったので、ふたりとも驚いた様子だったが、今はそんなことに気を取られている場合ではない。
ベッドのなかで雅臣はブルブルと震える。
卯月と番になって結婚するなんて絶対に考えられない。なにもかも釣り合っていないし、そもそも雅臣は卯月が苦手なのだ。
卯月親子が家を訪れてからも、自宅療養の体で雅臣は学校を休んだ。実際は触れたら痛む程度で通学に問題はなかったが、祖父母は雅臣が学校を休むことを許してくれた。
しかし、いつまでも休んでいる訳にはいかない。丸々一週間休んだあと、雅臣は月曜からまた学校に通うことになった。
「雅臣くん!」
雅臣が教室に入ると、真っ先に真理亜が駆け寄ってきた。
「怪我はもう大丈夫なの?」
「うん、まあ……」
雅臣はへらりと笑ったが、まだその脚に絆創膏や湿布が貼られているのを見て、真理亜は痛ましげに顔を歪めた。
「あいつら……本当に許せない」
「俺が足を滑らせただけだから、別に誰も悪くないよ」
「でも!」
「大丈夫、もうあまり痛くないから」
真理亜は納得いかない顔をしていたが、それ以上はなにも言わなかった。すると、その黒目がちな瞳がスッと動いて、雅臣の背後のなにかを捉える。
「……雅臣」
その直後、今一番聞きたくない少年の声がすぐ後ろから聞こえた。
雅臣が黙ったまま振り返らずにいると、痺れを切らしたらしい声の主はちょっと来いと言って雅臣の腕を引っ張った。
苦笑いの真理亜に見送られながら、雅臣はずるずると引きずられるように廊下を歩く。といっても、その歩みはいつもよりゆっくりとしたものだ。
怪我をしている雅臣を気遣うその優しさが、今はなんだか煩わしい。自分の腕を引く卯月の後頭部を見つめながら、雅臣はそんなことを思った。
空き教室に入った卯月はドアの鍵までかけてから、ようやく雅臣と向かい合う。大きな目が雅臣をじっと見つめた。
「……怪我は、もう大丈夫なのか」
雅臣は無言で頷いた。
それを見て、卯月は苦々しい表情で続ける。
「ごめん……俺のせいだ」
「俺が勝手に転んだだけだから、総真くんは関係ないよ」
「でも、俺がもっと早く追いかけてたら、あんなことにはならなかったかもしれないし、そもそも龍太郎のことだって俺が……」
「本当にもういいから」
いつもより強い口調で雅臣がそう言うと、ようやく卯月は黙った。だが、そのまま教室へ帰してくれる気配はなく、なにか言おうと口を開きかけてやめるというのを何度も繰り返している。
こんなものはただの前置きなのだと雅臣もわかっていた。この先の本題を思うと気持ちが沈み、自然と視線が足元に落ちる。
突如、卯月が雅臣の手を掴んだ。
「こ、婚約の話聞いたかっ?」
ちらりと視線を上げると、卯月も雅臣ではなく足元を見ていた。黒髪から覗く形のいい耳が真っ赤だ。
「うん……」
「どう思った?」
卯月が顔を上げたので、入れ替わるようにして今度は雅臣が俯く。
どう答えたものか迷ったあと、雅臣は卯月に掴まれていない方の手をギュッと握り締め、なけなしの勇気を振り絞った。
「ぜ」
「ぜ?」
「……ぜ、ったい、やだ」
沈黙が落ちた。
どんな顔をしているだろうかと雅臣が顔を上げると、卯月はきょとんとして雅臣を見ていた。
「……なんで?」
「嫌だから」
「だから、なんで嫌なんだよ?」
「……総真くんには、もっとふさわしいひとがいると思う」
「お前……なんだその良い子ぶったクソみたいな断り方……」
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