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過去話・後日談・番外編など
もう一方のメリーミー
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本編から約三年後。
夜彦と結婚したくない誠がなんとか夜彦から逃げようとがんばるけれど……という話。
個人サイトに載せていたものを加筆修正したものです。
+++++++
「誠ー、こっちきてー」
間延びした声で呼ばれた。
しかし、ラグの上で寝たふりをする誠は声の主の元に行く気なんてさらさらなかった。行ったところでどうせ碌なことにはならないのは今までの経験上わかっている。そういう男なのだ、佐伯夜彦という奴は。
「もー、呼んでんのになんで来ねぇの?」
ぶつぶつと文句を言いながら、のんびりとした足音が近付いてくる。それはラグに横たわる誠のすぐ傍で止まり、徐に伸びてきた手が雑に誠の髪を撫でた。
「なに? もしかして先にニュース見て不貞腐れてんの?」
「……ニュース?」
夜彦の言葉の意味がわからず、誠はうっすらと目を開く。僅かに視線を上げると、口角を上げて笑う夜彦と目が合った。
意味もなく、背筋がぞくりとする。別にめずらしいことじゃない。この男といるときはよくあることだ。
「なんだ、別に拗ねてたわけじゃないんだ」
「だから、なんの話だよ……」
「これ」
眼前に、スマートフォンの画面を突きつけられた。誠は僅かに顎を引いて、そこに表示された言葉に目を奪われる。
「っ……」
「俺さぁ、前に言っただろ? もうすぐアルファとオメガの番以外も同性婚できるようになるって」
うっとりと微笑む夜彦とは対照的に、誠の顔面は蒼白だった。
唇は小さく震えたが、言葉は出てこない。来年の春からバース性に関わらず同性婚が認められるというそのネットニュースに、誠の頭の中は一瞬で真っ白になっていた。
言葉を失った誠を見て、夜彦は一際うれしそうに甘く囁く。
「来年の春、結婚しような」
──冗談じゃないッ!
誠はベッドに向かってスマートフォンを叩きつけるように投げ捨てた。ボスっと音を立てて寝具に沈んだそれを見下ろし、肩で大きく息をする。
来年の春頃、アルファとオメガの番以外でも同性婚ができるようになる──そのニュースは、どうやらフェイクニュースではないらしい。
いつかはこんな日が来ると頭ではわかっていた。わかってはいたが、あまりにも早すぎる……誠は奥歯を噛んで、髪をかき乱した。
──ありえない。夜彦と結婚なんて、想像するだけでゾッとする……!
やむを得ず夜彦の傍にいるが、誠は夜彦に対して好意的な感情など一切なかった。夜彦のことはただ利用しているだけで気持ち悪いと思っているし、それ以上に恐ろしいとも思っている。
色々と面倒をみてもらっているので求められれば仕方なくセックスにも応じてはいるが、ただそれだけ。恋人でもなければ、セックスフレンドですらない。たまにセックスをする気味の悪い友人……いや、もう友人ですらないのだろうか。
父が馬鹿なことをしなければ、自分がベータだと公表しなければ、姉が余計な口を挟まなければ、卯月総真さえいなければ──……どうしようもないたらればばかりが頭に浮かんで、よりいっそう苛立ちが募る。
夜彦を頼らなければまともに生活すらできない自分が情けなく、自身をここまで追い込んだすべてが憎らしい。
諸悪の根源である父は逮捕されたが、だからといって誠の生活が元に戻るわけではなかった。大学だって、あの騒動のせいで中退せざるを得なかったのだ。あと数ヶ月もすれば卒業できたというのに、父のせいで誠の人生はめちゃくちゃだ。
帰る家も、金も、学歴もない。
誠に残ったのは、アルファと偽っても周りを欺けた整った容姿と、なぜか誠に執着する特別なアルファの男だけ。
あれでも夜彦は誠のことが好きなのだという。だから、助けてやると。
その言葉通り、住む家を与えられ、必要な物もそうでない物も惜しみなく与えられ、一見誠の生活は充実していた。きっと羨ましいという者もいるだろう。
けれど、誠は今の生活が幸福だとは思わない。むしろ、夜彦に愛されるだけのペットのような日々に誠は心底飽き飽きしている。
それになにより、誠と最愛の男を引き離した元凶こそが夜彦なのだ。そんな男の傍にいて、幸福なんて感じられるわけがない。
いつだって夜彦にとって誠は可愛い犬で、自分が楽しむための玩具だ。
夜彦と結婚したくない誠がなんとか夜彦から逃げようとがんばるけれど……という話。
個人サイトに載せていたものを加筆修正したものです。
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「誠ー、こっちきてー」
間延びした声で呼ばれた。
しかし、ラグの上で寝たふりをする誠は声の主の元に行く気なんてさらさらなかった。行ったところでどうせ碌なことにはならないのは今までの経験上わかっている。そういう男なのだ、佐伯夜彦という奴は。
「もー、呼んでんのになんで来ねぇの?」
ぶつぶつと文句を言いながら、のんびりとした足音が近付いてくる。それはラグに横たわる誠のすぐ傍で止まり、徐に伸びてきた手が雑に誠の髪を撫でた。
「なに? もしかして先にニュース見て不貞腐れてんの?」
「……ニュース?」
夜彦の言葉の意味がわからず、誠はうっすらと目を開く。僅かに視線を上げると、口角を上げて笑う夜彦と目が合った。
意味もなく、背筋がぞくりとする。別にめずらしいことじゃない。この男といるときはよくあることだ。
「なんだ、別に拗ねてたわけじゃないんだ」
「だから、なんの話だよ……」
「これ」
眼前に、スマートフォンの画面を突きつけられた。誠は僅かに顎を引いて、そこに表示された言葉に目を奪われる。
「っ……」
「俺さぁ、前に言っただろ? もうすぐアルファとオメガの番以外も同性婚できるようになるって」
うっとりと微笑む夜彦とは対照的に、誠の顔面は蒼白だった。
唇は小さく震えたが、言葉は出てこない。来年の春からバース性に関わらず同性婚が認められるというそのネットニュースに、誠の頭の中は一瞬で真っ白になっていた。
言葉を失った誠を見て、夜彦は一際うれしそうに甘く囁く。
「来年の春、結婚しような」
──冗談じゃないッ!
誠はベッドに向かってスマートフォンを叩きつけるように投げ捨てた。ボスっと音を立てて寝具に沈んだそれを見下ろし、肩で大きく息をする。
来年の春頃、アルファとオメガの番以外でも同性婚ができるようになる──そのニュースは、どうやらフェイクニュースではないらしい。
いつかはこんな日が来ると頭ではわかっていた。わかってはいたが、あまりにも早すぎる……誠は奥歯を噛んで、髪をかき乱した。
──ありえない。夜彦と結婚なんて、想像するだけでゾッとする……!
やむを得ず夜彦の傍にいるが、誠は夜彦に対して好意的な感情など一切なかった。夜彦のことはただ利用しているだけで気持ち悪いと思っているし、それ以上に恐ろしいとも思っている。
色々と面倒をみてもらっているので求められれば仕方なくセックスにも応じてはいるが、ただそれだけ。恋人でもなければ、セックスフレンドですらない。たまにセックスをする気味の悪い友人……いや、もう友人ですらないのだろうか。
父が馬鹿なことをしなければ、自分がベータだと公表しなければ、姉が余計な口を挟まなければ、卯月総真さえいなければ──……どうしようもないたらればばかりが頭に浮かんで、よりいっそう苛立ちが募る。
夜彦を頼らなければまともに生活すらできない自分が情けなく、自身をここまで追い込んだすべてが憎らしい。
諸悪の根源である父は逮捕されたが、だからといって誠の生活が元に戻るわけではなかった。大学だって、あの騒動のせいで中退せざるを得なかったのだ。あと数ヶ月もすれば卒業できたというのに、父のせいで誠の人生はめちゃくちゃだ。
帰る家も、金も、学歴もない。
誠に残ったのは、アルファと偽っても周りを欺けた整った容姿と、なぜか誠に執着する特別なアルファの男だけ。
あれでも夜彦は誠のことが好きなのだという。だから、助けてやると。
その言葉通り、住む家を与えられ、必要な物もそうでない物も惜しみなく与えられ、一見誠の生活は充実していた。きっと羨ましいという者もいるだろう。
けれど、誠は今の生活が幸福だとは思わない。むしろ、夜彦に愛されるだけのペットのような日々に誠は心底飽き飽きしている。
それになにより、誠と最愛の男を引き離した元凶こそが夜彦なのだ。そんな男の傍にいて、幸福なんて感じられるわけがない。
いつだって夜彦にとって誠は可愛い犬で、自分が楽しむための玩具だ。
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