十年先まで待ってて

リツカ

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過去話・後日談・番外編など

十年先 1

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後日談。
本編から約十年後。
誠の顛末。終始暗いバッドエンド(?)

※殺人表現などの残酷な描写や、見る人によっては胸糞悪い描写が多々あります。
※なんでも許せる方向け。

++++++++




 ふと気付くと、薄暗い部屋の中にいた。
 自分の部屋のはずなのに、一瞬どこにいるのかわからなかった。また薬を飲みすぎたのか、それとも夢なのか。
 誠は室内をぐるりと見回す。

「……夜彦?」

 心細くなって、意味もなく夜彦を呼んだ。
 しかし、どこからも返事はない。

 誠は立ち上がり、足早にドアの方へと向かった。
 なぜだか、部屋の中にひとりでいることが恐ろしい。とうとう外だけでなく、家の中でも夜彦が傍に居ないとダメになってしまったのだろうか。

「──誠」

 ドアの前にたどり着いた瞬間、誰もいなかったはずの室内から声が聞こえた。
 穏やかで、優しい、懐かしい声だった。

 誠が弾かれたように背後を振り返ると、そこには海と砂浜があり、月明かりに照らされた砂浜にひとりの男が立っていた。

「雅臣……」

 誠は砂に足を取られながら懸命に走り、その男──悠木雅臣の元にたどり着く。

 雅臣はあの頃となにも変わっていないように見えた。顔も、髪も、笑い方も、なにもかもが誠が恋をした雅臣のままだった。

「雅臣……ごめん、俺……」
「いいんだ。誠もつらかっただろ。傍に居てやれなくてごめんな」

 雅臣は少し切なげに微笑んで、そっと誠を抱きしめた。
 その腕の中のあたたかさに、誠の瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちていく。

「ッ……ごめん、ごめんなっ……嘘ついて、傷付けて、ごめん……」
「うん。怒ってないよ」

 誠の背を撫でる雅臣の手のひらは、どこまでも慈愛に満ちていた。

 ずっと謝りたかった。
 ずっとこのときを待っていた。

「……雅臣、一緒に逃げよう」

 今度こそ、ふたりで生きていこう。
 誰にも邪魔されずに。バース性にも囚われずに。

 雅臣は微笑んだまま、確かに頷いてくれた。

 しかし、その瞬間──世界が暗転する。

 目の前から雅臣は消え、途端に辺り一面が真っ暗になった。
 そして、聞き覚えのある女の囁きが、誠の耳元に吹き込まれる。








「いつか天罰が下るわ、きっと」








 軽快で耳障りな電子音で目を覚ます。
 ゆっくりと瞼を持ち上げた誠は虚ろな目で手を伸ばし、スマートフォンのアラームを止めた。

 シミひとつない天井を見上げたまま、誠はしばらくの間呆然とする。目尻から涙がこぼれ落ちていく不快感さえどうでもよかった。

 現実では決して叶うことのない幸福な夢こそ本物の悪夢なのだと、誰かが言っているのを聞いたことがあった。
 だとすれば、まさしく先ほどの夢は悪夢なのだろう。最後の姉のそしりさえ、誠にはどうでもいいことだった。

 そこで、コンコンと控えめなノックの音が部屋に響いた。
 誠が返事をする前に、静かにドアが開けられ、ひとりの女性が顔を覗かせる。誠が起きているのを確認すると、女性はにっこりと明るい笑みを浮かべた。

「おはようございます、誠さん」
「……おはようございます」
「食事の用意ができていますが、どうされますか?」
「ありがとうございます。いただきます」
「では、準備ができたらダイニングの方におりてきてくださいね」

 女性はそう言って、静かにドアを閉める。
 のそりと上体を起こした誠はまたしばらくぼうっとしていたが、やがてベッドから抜け出し、緩慢な動きで服を着替えはじめた。

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