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51.来訪
しおりを挟むそんなこんなで、シュラトの故郷への挨拶も無事に終わり、残りの一週間ちょっとはまたふたりで旅行を満喫した。
そうしてシュラトの休みが終わる頃、ようやくふたりはこちらに戻ってきたのだ。
◇◇◇
帰って来てからも、シュラトがカルナの家に本格的に引っ越して来たり、シュラトの同僚に挨拶をしたりと少し忙しかったが、それも昨日でようやくひと段落ついた。
明日からは、カルナも木こりの仕事も再開する予定だ。
ジェシカにねだられるまま、カルナはここ一ヶ月に起こったことを掻い摘んで説明した。
一通りの話を聞き終えたジェシカは、心底ホッとしたような表情を見せて微笑む。
「相手のご実家に喜んでもらえてよかったわね。不安だったでしょ」
「はい……怒られるかと」
「ふふふ、あの彼氏……いまはもう旦那さんね。あの旦那さんなら、怒られても平然としてそうだわ」
確かに、と思いながらカルナもクスクスと小さく笑い声をあげる。
そこからは、シュラトの話をしたり、ジェシカの恋人の虎獣人についての話を聞いたり、牛獣人あるあるの話をしたりと雑談を楽しんだあと、お昼過ぎくらいにジェシカとは別れた。
最近はずっとこの辺りでミルクを売っているらしいので、また薪を売りに来たときにきっと会えるだろう。
その後、夕飯の食材などをいくつか買い込んでから、カルナは森に帰ることにした。
歩き慣れた山道を、カルナは食材の詰められた紙袋を抱えながらせっせと登っていく。
目的地は当然、カルナの家──いや、カルナとシュラトの家である。
最初はカルナがシュラトの家に引っ越そうと思っていたのだが、シュラトが「カルナの家で暮らそう」と言ってくれたので、ふたりは森で暮らすことになった。シュラトが借りていた家は、もうすぐ引き払うらしい。
おそらく、カルナが木こりの仕事を続けたいと思っていることや、両親と過ごした家で暮らしたいと思っていたことを察して、シュラトはカルナを気遣ってくれたのだと思う。
移動手段が足しかないカルナにとって、街で暮らしながら木こりの仕事を続けるのは難しいことなので、実際とてもありがたい申し出だった。
──そういうさり気なく優しいところがまたかっこいいんだよなぁ。
自然とカルナの顔が緩む。
カルナにとって本当にシュラトは自慢の伴侶だ。
そんなことを思いながらようやく森の中の自宅にたどり着いたカルナは、ふと家の傍に立つ木の根元に誰かが座り込んでいるのを見つけた。
遠目なのではっきりとはわからないが、大柄の男のようだ。胡座をかき、腕を組んだ状態で、寝ているようにも見える。
カルナはおそるおそる男へと近付いた。無視しようかとも思ったが、シュラトの客人かもしれないと思ったのだ。
「あの……」
声をかけた瞬間、男のまぶたが静かに持ち上がった。カルナを捉えた目がゆっくりと数回瞬きして、黒い瞳が改めてカルナを見つめる。
そして、無表情のまま男は口を開いた。
「──お前がルドガーの息子のカルナか」
ここ数年聞くことのなかった母の名に、カルナは目を丸くして息を呑んだ。
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