ミルクはお好きですか?

リツカ

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「まさか、こんなことで俺がお前をクビにすると思ってるんじゃないだろうな……?」
「思ってましたが」
「そんな公私混同するはずないだろう!」

 いかにも心外だという表情で団長は声を張り上げた。そして、少し拗ねたような顔で手近な椅子を引き寄せ、どかりと腰を下ろす。

「一つの団を預かってるんだぞ。私情なんて挟んだら、部下に示しがつかない」
「では、左遷もないんですか?」
「当たり前だ!」

 叫んだあと、団長は大きなため息を吐きながらガリガリと頭をかく。

「同郷だから贔屓してるだのなんだの言われてきたが、それだってお前の才能を見込んで目をかけてきただけだ。贔屓なんてしてない」
「じゃあ、ラナのことは?」
「ラ、ラナのことは……」

 一気にトーンダウンして、団長はどんよりとした表情で頭を抱えた。そして、うんうんと苦しげに唸ったあと、がくりと深く項垂れる。
 
「はぁ……ラナにはなんて言えばいいんだ……」
「結婚のことは俺から報告しますよ」
「そうしてくれ……」

 ゆっくりと顔を上げた団長が、その場に立ったままだったカルナを見つめる。海のように青い瞳は先ほどと違い、凪いだように穏やかだった。

「突然やってきて、騒がしくして申し訳ない。こんなときに言うのもなんだが、君が元気そうで良かった。……あと、結婚おめでとう。シュラトは少し変わったやつだが、真面目だし、いい男だ。これから君とシュラトが幸せな家庭を築けることを陰ながら願ってる」
「あ、ありがとうございます」

 大きな手で力強く握手され、カルナはぺこぺこと何度も頭を下げた。
 その隣で、シュラトは皮肉っぽい笑みを浮かべながら団長を見つめる。

「さっきまで怒鳴り散らしてたくせに、すごい変わり様ですね」
「だから、それはっ…………悪かった」

 団長はしゅんと肩を落として謝罪する。

「シュラト様っ」
「悪かったってことは、つまり、俺たちのことを認めてくれるってことですよね?」

 なにもそこまで言わなくても……とカルナがシュラトを窘めようとしたところで、シュラトはカルナの言葉を遮りながら団長に尋ねた。
 団長はムスッとした表情で答える。

「……認めるもなにもないだろう。結婚は個人の自由だ」
「まあそうなんですが、団長が一言『認める』と言ってくれたら、実家への報告が楽なので。俺は実家に縁を切られても別にいいんですが、カルナが結構気にしてるんですよ」
「お前は本当に……はぁ、わかったわかった。。お前の家族にも、俺から手紙を出しておく」
「助かります」

 シュラトはにっこりと笑って、少し得意げにカルナを見下ろした。

「これで、騎士をクビになることも、故郷で村八分になることもなさそうだ」
「本当に……?」
「群れのトップがそういうんだから、間違いないさ。そうですよね?」

 シュラトの問いかけに、団長も大きく頷く。
 それを見た瞬間、カルナの足の力が抜けていき、その場にへなへなと座り込んだ。
 驚いたシュラトもその場に片膝をついて、カルナを支える様に抱きとめた。

「カルナッ?」
「──よかったぁ」

 心の底からホッとした。
 なんだかんだいって、それでもずっと不安だったのだ。

 目に涙をにじませながら笑ったカルナを見て、目を丸くしていたシュラトも安堵したように微笑んだ。そして──

「カルナ、俺の可愛い奥さん」

 シュラトが甘い声で囁いたかと思うと、突然カルナの唇に深いキスをした。
 一瞬呆然としていたカルナだったが、ハッと我に帰り、慌ててシュラトを引き剥がそうとする。けれども、シュラトの力が強くてどうにも離れられそうになかった。

「…………俺はなにを見せられてるんだ?」

 ため息をつきながら、団長は少し呆れたような目でシュラトを見ていた。
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