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47.団長

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「ご家族のことは、まだどうなるかわからないじゃないですか」
「まあそうだが。なんにせよ、カルナさえいれば俺はどうでもいいってことだ」

 軽口を叩いたシュラトの手のひらが、カルナの頬をそっと撫でる。
 深緑の瞳と視線が交わり、どちらからともなく引き寄せられるようにふたりの唇が重なりかけた、その時──

 突然、パッと弾かれたようにシュラトが顔を背けた。
 何事かとカルナが目を丸くしていると、シュラトはあまり見たことのない険しい表情で、玄関の辺りを怪訝そうに睨んでいる。

「シュラト様……?」
「騎馬の足音だ。近付いてくる」
「足音……?」

 そんなもの特に聞こえない──とカルナが思ったところで、かすかに地面を叩くような小さな音が聞こえてきた。そして、それは徐々に大きく、つまりは近くなっていく。
 なんとなく身の危険を感じ取ったカルナは、思わずシュラトに縋り付いた。

「シュ、シュラト様……」
「大丈夫だ。俺がいる」

 カルナを安心させるように、シュラトがカルナを抱きしめて、その額にキスを落とした。
 だが、その間にも、馬の蹄の音はどんどんと近付いてくる。
 なぜだかその足音が怒っているように聞こえて、カルナはシュラトの腕の中でぶるりと体を震わせた。

 やがて、家のすぐ外で馬の足音が止まる。
 その直後、玄関のドアがドンドンと強く叩かれた。

「シュラト! 居るんだろう!」

 猛々しい男の声だった。
 ドンドン、ガンガン、とドアが壊れそうな勢いで叩かれ、時折ドアからみしみしと嫌な音も聞こえてくる。そんなはずはないが、家全体が軋んでいるような気さえした。

 怯えるカルナの背を撫でながら、シュラトは呆れたようにハァ……と大きなため息を吐く。

「団長だ……」

 そうなんじゃないか、とは思っていたのでカルナも驚きはしなかった。単純に、ドアをドンドンと叩くその気迫が恐ろしい。

「とりあえずここに居てくれ。流石に一般市民に殴りかかったりはしないと思うが……危ないと思ったら奥の部屋に逃げてもいい」
「シュラト様は……」
「俺は大丈夫だ。なんとかなる」

 そう言うと、シュラトはカルナの唇に軽くキスをしてから、足早に玄関へと向かう。
 カルナはハラハラしながら、その後ろ姿を静かに見守っていた。

「シュラトッ! 無視するな!」
「いま開けます」

 シュラトが玄関のドアの鍵を開けた瞬間、バンッと音を立てて大きくドアが開かれ、ひとりの男の姿があらわになる。

 岩のようにゴツゴツとした大きな体に纏う騎士服はシュラトのものよりも華美で、胸元あたりには勲章のようなものも付いている。
 黒に近い茶色い髪に、海のような青い瞳。口元からは鋭い牙が覗いていて、その雄々しい精悍な顔には憤怒の表情が浮かべられていた。

 ──あっ。

 カルナは大きく口を開けて、声もなく男を凝視する。
 怖いからではない。表情は似ても似つかないが、カルナはその壮年の男に見覚えがあったのだ。
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