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32.獣耳
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「ま、まだ、話は……っ」
「話はもう終わりだ。あなたは俺が好きで、俺もあなたが好き。二人でいるだけで幸せになれるから、俺たちは結婚するんだ」
「またそんな勝手なことを言って!」
カルナが咎めるように叫ぶと、カルナの胸元に顔を埋めていたシュラトが顔を上げてチラッと上目遣いにカルナを見る。
この体勢自体は初めてではないので、シュラトに見上げられるのも初めてではない。
──しかし、この日のシュラトはいつもと少し違った。
「ッ!? ……シュ、シュラト様っ、み、みみっ、耳がっ!」
「嫌なのか?」
「えっ?」
「俺と結婚するのは嫌なのか? 俺のことが嫌いか……?」
眉を下げ、不安そうな顔をするシュラトの頭に狼の耳が生えていた。しかも、シュンとしたように耳先がぺたんと折れている。
──か、かわいいっ……!!
カルナは両手で口を覆い、声を殺して身悶えた。そうしなければ、おそらく叫んでしまっていただろう。
獣人は気が昂ったり、驚いたりすると、体に獣の特徴が現れることがある。種族によって多少の違いはあるが、主に牙や耳、尻尾などだ。
シュラトも興奮しているときなどに時々牙を見せることはあったが、シュラトの獣耳を見たのはカルナも今日が初めてである。
格好いいのに可愛いとは、いったいどういうことなのだろう。
そのあまりの愛くるしさに、カルナの胸がキュンとした。
「ああ……みみ、耳がっ……」
「いまは耳なんてどうでもいいだろう。カルナは俺を幸せにしてくれないのか? 俺を捨てるのか?」
「捨てるなんて、そんな……!」
僅かに潤んでいるのか、心細げな表情でカルナを見上げるシュラトの目がキラキラと光って見える。
なぜだかカルナは、段ボール箱の中に捨てられた子犬の姿を思い出した。精一杯背伸びをして箱から顔を覗かせ、くぅーんと寂しげに鳴く可愛らしい子犬──
カルナは慌てて顔を背け、目を泳がせる。
獣耳以外はまったく似ていないのにもかかわらず、捨てられた子犬と今のシュラトの顔が不思議と重なって見えた。
「俺は、その……」
狼狽えつつも、カルナは返事となりそうな言葉を必死に探す。だが、こういうときに限って良い言葉はなかなか浮かんでこない。
「カルナ」
そうこうしている内に、シュラトが切ない声でカルナを呼び、そのゴツゴツとした手でカルナの頬にそっと触れた。
「好きだと言ってくれるだけでいい。俺は勝手に幸せになるし、あなたのことは俺が絶対に幸せにする」
「それは、もちろん好きですけど、でも……」
「カルナっ」
「わっ…………んんッ」
シュラトに後頭部を掴まれ、少し強引に頭を引き寄せられると、そのまま噛み付くようなキスをされた。
唇を割って入ってきたシュラトの舌が、口付けたときの勢いとは対照的にゆっくりとカルナの口内を舐め回す。
舌を舐められ、上顎をくすぐられ、それだけで体中が熱くなっていくのを、カルナは流されるままに感じていた。
そして、何度か舌を絡め、吸い、カルナの体から完全に力が抜けてしまったところで、シュラトはようやくカルナの唇を解放する。
「はっ……あ、あ……」
「カルナ。俺の可愛い奥さん」
いつもの軽口なのか、それとも本気で言っているのか。わからないが、シュラトはひどく楽しげだった。先ほどまでペタンと折れていた獣耳もピンと立っていて、弧を描いた口元からは尖った牙が覗いている。
「話はもう終わりだ。あなたは俺が好きで、俺もあなたが好き。二人でいるだけで幸せになれるから、俺たちは結婚するんだ」
「またそんな勝手なことを言って!」
カルナが咎めるように叫ぶと、カルナの胸元に顔を埋めていたシュラトが顔を上げてチラッと上目遣いにカルナを見る。
この体勢自体は初めてではないので、シュラトに見上げられるのも初めてではない。
──しかし、この日のシュラトはいつもと少し違った。
「ッ!? ……シュ、シュラト様っ、み、みみっ、耳がっ!」
「嫌なのか?」
「えっ?」
「俺と結婚するのは嫌なのか? 俺のことが嫌いか……?」
眉を下げ、不安そうな顔をするシュラトの頭に狼の耳が生えていた。しかも、シュンとしたように耳先がぺたんと折れている。
──か、かわいいっ……!!
カルナは両手で口を覆い、声を殺して身悶えた。そうしなければ、おそらく叫んでしまっていただろう。
獣人は気が昂ったり、驚いたりすると、体に獣の特徴が現れることがある。種族によって多少の違いはあるが、主に牙や耳、尻尾などだ。
シュラトも興奮しているときなどに時々牙を見せることはあったが、シュラトの獣耳を見たのはカルナも今日が初めてである。
格好いいのに可愛いとは、いったいどういうことなのだろう。
そのあまりの愛くるしさに、カルナの胸がキュンとした。
「ああ……みみ、耳がっ……」
「いまは耳なんてどうでもいいだろう。カルナは俺を幸せにしてくれないのか? 俺を捨てるのか?」
「捨てるなんて、そんな……!」
僅かに潤んでいるのか、心細げな表情でカルナを見上げるシュラトの目がキラキラと光って見える。
なぜだかカルナは、段ボール箱の中に捨てられた子犬の姿を思い出した。精一杯背伸びをして箱から顔を覗かせ、くぅーんと寂しげに鳴く可愛らしい子犬──
カルナは慌てて顔を背け、目を泳がせる。
獣耳以外はまったく似ていないのにもかかわらず、捨てられた子犬と今のシュラトの顔が不思議と重なって見えた。
「俺は、その……」
狼狽えつつも、カルナは返事となりそうな言葉を必死に探す。だが、こういうときに限って良い言葉はなかなか浮かんでこない。
「カルナ」
そうこうしている内に、シュラトが切ない声でカルナを呼び、そのゴツゴツとした手でカルナの頬にそっと触れた。
「好きだと言ってくれるだけでいい。俺は勝手に幸せになるし、あなたのことは俺が絶対に幸せにする」
「それは、もちろん好きですけど、でも……」
「カルナっ」
「わっ…………んんッ」
シュラトに後頭部を掴まれ、少し強引に頭を引き寄せられると、そのまま噛み付くようなキスをされた。
唇を割って入ってきたシュラトの舌が、口付けたときの勢いとは対照的にゆっくりとカルナの口内を舐め回す。
舌を舐められ、上顎をくすぐられ、それだけで体中が熱くなっていくのを、カルナは流されるままに感じていた。
そして、何度か舌を絡め、吸い、カルナの体から完全に力が抜けてしまったところで、シュラトはようやくカルナの唇を解放する。
「はっ……あ、あ……」
「カルナ。俺の可愛い奥さん」
いつもの軽口なのか、それとも本気で言っているのか。わからないが、シュラトはひどく楽しげだった。先ほどまでペタンと折れていた獣耳もピンと立っていて、弧を描いた口元からは尖った牙が覗いている。
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