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28.困ったひと
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手紙の返事は来なかった。
一ヶ月経って、もしかしたら郵便事故で届かなかったのかもしれないと思ったカルナが二通目の手紙を送ると、さらに二週間後、その手紙が『受取拒否』の赤いスタンプを押されてカルナの元に返ってきた。
手紙が返送されてきたとき、カルナは言いようもない悲しみにひとり涙を流した。
そして、それを悲しむ者すらもう自分しかいないのだという現実に、また少しゾッとしたのだ。
「……そうか。悲しい思いをしたんだな……かわいそうに……だが、その話がいまの俺たちに何の関係があるんだ?」
カルナを慰めながらも不思議そうな表情でそう呟いたシュラトを、カルナは少しムッとした顔で見上げる。
「シュラト様には無関係ではありません!」
「……?」
「だ、だって……シュラト様にはちゃんと故郷があって、そこには家族や友達もいるんでしょう?」
「まあ、そうだが……」
だからどうした?という顔をされて、カルナは一瞬言葉に詰まった。それでも、しどろもどろになりながらカルナは懸命に話す。
「……俺、シュラト様と一緒にいるのが楽しくて、父さんの言ってたことも別にいいやって思っちゃって……でも、よくよく考えたら俺には群れも家族もいないし、失うものがない俺自身にはなんの関係のない話だったんです……」
たぶん父は、カルナに自分と同じような思いをしてほしくなくて『自分と同じ草食獣人と家族になりなさい』と言ったのだ。
もしくは、母のように家族を失う者をつくらないように、だろうか。
どちらにせよ、父の言葉は正しかったのだと思う。あの日、酒場で騎士たちの話を聞いて、カルナはそれに気付かされた。
「……俺は、俺のせいでシュラト様に寂しい思いやつらい思いをしてほしくない……後悔してほしくないんです……出会ったときから何もない俺とシュラト様では何もかもが違います。シュラト様はたくさんのものを持ってるじゃないですか。だから……」
「カルナ」
話を遮るように、シュラトがカルナを呼ぶ。
シュラトは場違いなほどににっこりと上機嫌に笑っていた。どことなく、その深緑の瞳が煌めいて見える。
「あなたの言いたいことはわかった」
「ほ、ほんとうですか……?」
「ああ。カルナは俺のことが大好きってことだろう?」
「……え?」
嬉しそうに告げられた言葉に、カルナは少々面食らう。
──それはそうなんだけど、いまはそんなこと一言も言ってないよな……?
「……い、いえ、今そんな話は……」
「そうか? 俺にはそういう風に聞こえたが」
シュラトは揶揄うように笑うと、腕の中のカルナを再びぎゅっと抱きしめた。
「それなのに俺と別れようとするなんて、本当にカルナは困ったひとだ」
「……シュラト様、俺は真剣に話をしてるんですよ」
「俺だって真剣だ。たとえ家族から縁を切られようと、あなたと別れる気はない。あなたが俺を愛しているのなら尚更な」
「バカなことを言うのはやめてください!」
思わず声を荒げたが、シュラトは少し物珍しげな顔をしただけだった。
その涼しげな表情に、またカルナはむかむかしてくる。
「……真面目に考えてください。俺ひとりのために家族や仕事を失っていいなんて本当に思ってるんですか?」
「思ってる」
「シュラト様!」
目を吊り上げたカルナを見て、シュラトはクスクスと笑いながらカルナの頬を撫でた。
「あなたは怒った顔も可愛いな」
「……」
打っても打っても響かない。
どうしたものか。カルナは途方に暮れたような顔でシュラトを見つめ返した。
すると、シュラトは苦笑いしながらも明るい声で言う。
「カルナは本当にネガティブだな。あなたと結婚したからって、俺が家族や仕事を失うなんてまだ決まってないだろう?」
「……でも、可能性はあります」
「なら、俺の家族や団長から祝福してもらえる可能性もあるな」
一ヶ月経って、もしかしたら郵便事故で届かなかったのかもしれないと思ったカルナが二通目の手紙を送ると、さらに二週間後、その手紙が『受取拒否』の赤いスタンプを押されてカルナの元に返ってきた。
手紙が返送されてきたとき、カルナは言いようもない悲しみにひとり涙を流した。
そして、それを悲しむ者すらもう自分しかいないのだという現実に、また少しゾッとしたのだ。
「……そうか。悲しい思いをしたんだな……かわいそうに……だが、その話がいまの俺たちに何の関係があるんだ?」
カルナを慰めながらも不思議そうな表情でそう呟いたシュラトを、カルナは少しムッとした顔で見上げる。
「シュラト様には無関係ではありません!」
「……?」
「だ、だって……シュラト様にはちゃんと故郷があって、そこには家族や友達もいるんでしょう?」
「まあ、そうだが……」
だからどうした?という顔をされて、カルナは一瞬言葉に詰まった。それでも、しどろもどろになりながらカルナは懸命に話す。
「……俺、シュラト様と一緒にいるのが楽しくて、父さんの言ってたことも別にいいやって思っちゃって……でも、よくよく考えたら俺には群れも家族もいないし、失うものがない俺自身にはなんの関係のない話だったんです……」
たぶん父は、カルナに自分と同じような思いをしてほしくなくて『自分と同じ草食獣人と家族になりなさい』と言ったのだ。
もしくは、母のように家族を失う者をつくらないように、だろうか。
どちらにせよ、父の言葉は正しかったのだと思う。あの日、酒場で騎士たちの話を聞いて、カルナはそれに気付かされた。
「……俺は、俺のせいでシュラト様に寂しい思いやつらい思いをしてほしくない……後悔してほしくないんです……出会ったときから何もない俺とシュラト様では何もかもが違います。シュラト様はたくさんのものを持ってるじゃないですか。だから……」
「カルナ」
話を遮るように、シュラトがカルナを呼ぶ。
シュラトは場違いなほどににっこりと上機嫌に笑っていた。どことなく、その深緑の瞳が煌めいて見える。
「あなたの言いたいことはわかった」
「ほ、ほんとうですか……?」
「ああ。カルナは俺のことが大好きってことだろう?」
「……え?」
嬉しそうに告げられた言葉に、カルナは少々面食らう。
──それはそうなんだけど、いまはそんなこと一言も言ってないよな……?
「……い、いえ、今そんな話は……」
「そうか? 俺にはそういう風に聞こえたが」
シュラトは揶揄うように笑うと、腕の中のカルナを再びぎゅっと抱きしめた。
「それなのに俺と別れようとするなんて、本当にカルナは困ったひとだ」
「……シュラト様、俺は真剣に話をしてるんですよ」
「俺だって真剣だ。たとえ家族から縁を切られようと、あなたと別れる気はない。あなたが俺を愛しているのなら尚更な」
「バカなことを言うのはやめてください!」
思わず声を荒げたが、シュラトは少し物珍しげな顔をしただけだった。
その涼しげな表情に、またカルナはむかむかしてくる。
「……真面目に考えてください。俺ひとりのために家族や仕事を失っていいなんて本当に思ってるんですか?」
「思ってる」
「シュラト様!」
目を吊り上げたカルナを見て、シュラトはクスクスと笑いながらカルナの頬を撫でた。
「あなたは怒った顔も可愛いな」
「……」
打っても打っても響かない。
どうしたものか。カルナは途方に暮れたような顔でシュラトを見つめ返した。
すると、シュラトは苦笑いしながらも明るい声で言う。
「カルナは本当にネガティブだな。あなたと結婚したからって、俺が家族や仕事を失うなんてまだ決まってないだろう?」
「……でも、可能性はあります」
「なら、俺の家族や団長から祝福してもらえる可能性もあるな」
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