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24.あの日の話
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「じょ、冗談はやめてください……!」
「冗談だと思うのか?」
シュラトが口角を釣り上げてにやりと笑う。
「この辺りは住んでいる獣人も少ないし、あなたを一日中閉じ込めていても、本当に誰も気づかないかもな」
「そんな……」
加えて、カルナには家族はおろか親しい友人すらいない。急に森からいなくなったところで、心配する者などいないだろう。
カルナが青ざめたまま固まっていると、少し雰囲気を和らげたシュラトがくすくすと笑い、正面からカルナを抱きしめた。
「冗談にしてほしいのなら、嘘なんて吐かないでちゃんと別れたい理由を教えてくれ。あなたの中で何か考えがあるんだろう?」
「……教えたら、家に帰してくれますか?」
「内容次第だな」
あっさりとした返答だが、依然シュラトの両腕はがっちりとカルナの体に回されたままだった。
その腕の中、カルナは悩まし気に小さく唸る。
カルナにとっての正当な理由が、シュラトにとってもそうであるとは限らない。
今までのシュラトの態度から見ても、カルナの説明でシュラトが納得してくれるとは到底思えなかった。だが、話さなければずっとこのままなのだろう。
そうしてカルナは、迷いながらも渋々口を開いた。
「……一週間くらい前、ひとりで酒場に行った時に、騎士の方たちが話してるのを聞いたんです……シュラト様が、団長さんの娘さんと結婚するんじゃないかって……」
そこからは、あの日に聞いたことを、所々言葉に詰まりながらも一気に話した。
シュラトは驚いたように目を見開き、どこか呆気に取られたようにカルナの話を最後まで聞いていた。
「ああ、カルナ……」
そして、どこか甘い声でカルナを呼ぶと、切な気に眼を細める。
「ラナは……団長の娘とは幼馴染で、今でも彼女がこちらに来た時は団長の家に招かれることもある。だが、それだけだ。指輪はあなたに贈るために買ったものだし、あなたが心配するようなことは何もない。……噂好きの馬鹿どもの所為で不安になったんだな……」
そう言って、慰めるようにシュラトがカルナの髪を撫でる。
──しかし、そうではない。
カルナがシュラトとの別れを決意したのは、ラナのことで不安になっただとか、嫉妬しただとか、そんな理由からではないのだ。
騎士たちの話を聞いた時は、正直カルナもその不安が一番初めに頭をよぎった。
もしかしたら自分とのことは遊びで、そのラナという女性が本命なんじゃないかと、シュラトを一瞬疑った。
けれど、カルナはすぐに思い直したのだ。シュラトは決してそんな軽薄なことをする男ではない、と。
多少強引で頑固なところもあったが、シュラトは優しい男だった。
それに、いつも無愛想だと言われていたシュラトだが、カルナと一緒にいるときは笑っている時間の方が長い。
自惚れているのかもしれないが、シュラトから誰よりも大切にされている自信がカルナにはあった。
だから、指輪の話も、ラナにではなく自分に贈ろうとしている物なのではないかと、カルナは容易に想像できたのだ。
先ほどシュラトに結婚のことを尋ねた際の反応から、もしや本当に遊ばれていたのかと一瞬血の気が引いたものの、結局、件の指輪の贈り先はカルナで間違いなかった。
──けれど、本当は嬉しいはずのその予想当たっても、今のカルナは素直に喜べない。
「冗談だと思うのか?」
シュラトが口角を釣り上げてにやりと笑う。
「この辺りは住んでいる獣人も少ないし、あなたを一日中閉じ込めていても、本当に誰も気づかないかもな」
「そんな……」
加えて、カルナには家族はおろか親しい友人すらいない。急に森からいなくなったところで、心配する者などいないだろう。
カルナが青ざめたまま固まっていると、少し雰囲気を和らげたシュラトがくすくすと笑い、正面からカルナを抱きしめた。
「冗談にしてほしいのなら、嘘なんて吐かないでちゃんと別れたい理由を教えてくれ。あなたの中で何か考えがあるんだろう?」
「……教えたら、家に帰してくれますか?」
「内容次第だな」
あっさりとした返答だが、依然シュラトの両腕はがっちりとカルナの体に回されたままだった。
その腕の中、カルナは悩まし気に小さく唸る。
カルナにとっての正当な理由が、シュラトにとってもそうであるとは限らない。
今までのシュラトの態度から見ても、カルナの説明でシュラトが納得してくれるとは到底思えなかった。だが、話さなければずっとこのままなのだろう。
そうしてカルナは、迷いながらも渋々口を開いた。
「……一週間くらい前、ひとりで酒場に行った時に、騎士の方たちが話してるのを聞いたんです……シュラト様が、団長さんの娘さんと結婚するんじゃないかって……」
そこからは、あの日に聞いたことを、所々言葉に詰まりながらも一気に話した。
シュラトは驚いたように目を見開き、どこか呆気に取られたようにカルナの話を最後まで聞いていた。
「ああ、カルナ……」
そして、どこか甘い声でカルナを呼ぶと、切な気に眼を細める。
「ラナは……団長の娘とは幼馴染で、今でも彼女がこちらに来た時は団長の家に招かれることもある。だが、それだけだ。指輪はあなたに贈るために買ったものだし、あなたが心配するようなことは何もない。……噂好きの馬鹿どもの所為で不安になったんだな……」
そう言って、慰めるようにシュラトがカルナの髪を撫でる。
──しかし、そうではない。
カルナがシュラトとの別れを決意したのは、ラナのことで不安になっただとか、嫉妬しただとか、そんな理由からではないのだ。
騎士たちの話を聞いた時は、正直カルナもその不安が一番初めに頭をよぎった。
もしかしたら自分とのことは遊びで、そのラナという女性が本命なんじゃないかと、シュラトを一瞬疑った。
けれど、カルナはすぐに思い直したのだ。シュラトは決してそんな軽薄なことをする男ではない、と。
多少強引で頑固なところもあったが、シュラトは優しい男だった。
それに、いつも無愛想だと言われていたシュラトだが、カルナと一緒にいるときは笑っている時間の方が長い。
自惚れているのかもしれないが、シュラトから誰よりも大切にされている自信がカルナにはあった。
だから、指輪の話も、ラナにではなく自分に贈ろうとしている物なのではないかと、カルナは容易に想像できたのだ。
先ほどシュラトに結婚のことを尋ねた際の反応から、もしや本当に遊ばれていたのかと一瞬血の気が引いたものの、結局、件の指輪の贈り先はカルナで間違いなかった。
──けれど、本当は嬉しいはずのその予想当たっても、今のカルナは素直に喜べない。
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