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20.酒場にて
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シュラトが遠征に向かって一週間。
カルナはそろそろシュラトが帰って来るのではないかと期待して、夜遅くまで寝ずに待っていた。
しかし、結局その夜シュラトがカルナの家を訪れることはなく、カルナは少しガッカリとしてベッドに潜り込んだ。
早ければ一週間、遅くとも二週間ほどで戻れると告げられていた遠征任務は、どうやらまだ終っていないらしい。
たった一週間しか経っていないのに、カルナは寂しくて、不安で、シュラトの帰りが待ち遠しくてたまらなかった。
──早く無事に帰って来てくれたらいいな。
そんなことを思いながら眠りにつき、また早朝に目を覚ます。
寂しかろうが、寂しくなかろうが、生きていくためには働かなければならない。
その日もカルナはいつも通り森で木を切り、それを街へと売りに向かった。
日が沈む頃、すべての薪を売り切ることができたカルナは、近くの酒場で夕食を取ることにした。
薪を売り切れることは滅多にないので、自分へのちょっとしたご褒美だ。
少し前まではあまり外食をしなかったカルナだが、シュラトに連れられてそこで食事をしてからは、月に一回ほどの頻度で通っている。
味も良く、値段も良心的。シュラトが騎士仲間とよく訪れる店らしい。
店を訪れたカルナは空いているカウンター席に座り、パンとセットになった野菜たっぷりのスープと酒を注文する。
客はそこそこ多かったが、比較的簡単に出せるものを頼んだからか、料理と酒はすぐに運ばれてきた。
ゴロゴロと野菜の入ったスープは飽きの来ないさっぱりとした味付けで、カルナのお気に入りだ。パンも店で焼いたものを出してくれるので、焼き立てで美味い。
そうしてカルナがひとり上機嫌で食事をしていると、背後からガヤガヤと賑やかな話し声と足音が近付いてくる。
興味本位でカルナがちらりと後ろを振り返ると、五、六人の屈強な男たちが、ちょうどカルナの真後ろのテーブル席へと腰を下ろしたところだった。
──あっ。
カルナはあわてて前を向く。
やってきた男たちは皆、白い騎士服を着ていた。
つまり、彼らはシュラトと同じ騎士なのだ。
カルナは妙に緊張していた。
誰も顔見知りではないのだから、恋人の同僚かもしれないというだけでいちいち緊張する必要はないと頭ではわかっているのだが、それでも勝手に体が縮こまる。
彼らがシュラトと同じ第二騎士団の騎士なのかは定かではない。
──だが、元々シュラトから教わった店なので、シュラトの同僚の騎士がやって来たとしてもおかしくはないのだ。
騎士たちは酒とつまみを頼むと、わいわいと楽しげに会話を再開した。
仕事終わりなのか、テンションが高く、声が大きいため、耳を澄ませなくても会話の内容が聞こえてくる。
「ロウのやつはいま故郷に戻ってるのか」
聞いたことのある名前に、カルナの耳がピクリと反応した。
「ああ。あいつ、長期の休みが取れるたび頻繁に帰るよな」
「故郷の幼馴染に惚れてんだとよ」
「ふーん。狼獣人は大体そうだよな。獣の本能が残ってんのかね、群れから伴侶を選ぶってのは」
「あいつら一穴主義も多いしな。そこがまたモテ要素で狡いんだよ」
シュラトと初めて会ったあのとき、助けを呼びに行ってくれたシュラトの同僚の名前が『ロウ』である。
おまけに、彼がシュラトと同郷の狼獣人であることは、カルナもシュラトから聞いて知っていた。
「そういえば、シュラトはどうなんだ?」
もしかすると、ここにいる騎士たちは本当にシュラトの同僚なのかもしれない──そんなことを考えていた矢先、ちょうど騎士の口からシュラトの名前が出てきて、カルナの肩はびくりと跳ねた。
つい気になって、耳を澄ませてしまう。
「どうって?」
「あいつ、団長の娘さんと結婚するんじゃないのか?」
──……え?
その瞬間、カルナの体が凍りついたように硬直した。
カルナはそろそろシュラトが帰って来るのではないかと期待して、夜遅くまで寝ずに待っていた。
しかし、結局その夜シュラトがカルナの家を訪れることはなく、カルナは少しガッカリとしてベッドに潜り込んだ。
早ければ一週間、遅くとも二週間ほどで戻れると告げられていた遠征任務は、どうやらまだ終っていないらしい。
たった一週間しか経っていないのに、カルナは寂しくて、不安で、シュラトの帰りが待ち遠しくてたまらなかった。
──早く無事に帰って来てくれたらいいな。
そんなことを思いながら眠りにつき、また早朝に目を覚ます。
寂しかろうが、寂しくなかろうが、生きていくためには働かなければならない。
その日もカルナはいつも通り森で木を切り、それを街へと売りに向かった。
日が沈む頃、すべての薪を売り切ることができたカルナは、近くの酒場で夕食を取ることにした。
薪を売り切れることは滅多にないので、自分へのちょっとしたご褒美だ。
少し前まではあまり外食をしなかったカルナだが、シュラトに連れられてそこで食事をしてからは、月に一回ほどの頻度で通っている。
味も良く、値段も良心的。シュラトが騎士仲間とよく訪れる店らしい。
店を訪れたカルナは空いているカウンター席に座り、パンとセットになった野菜たっぷりのスープと酒を注文する。
客はそこそこ多かったが、比較的簡単に出せるものを頼んだからか、料理と酒はすぐに運ばれてきた。
ゴロゴロと野菜の入ったスープは飽きの来ないさっぱりとした味付けで、カルナのお気に入りだ。パンも店で焼いたものを出してくれるので、焼き立てで美味い。
そうしてカルナがひとり上機嫌で食事をしていると、背後からガヤガヤと賑やかな話し声と足音が近付いてくる。
興味本位でカルナがちらりと後ろを振り返ると、五、六人の屈強な男たちが、ちょうどカルナの真後ろのテーブル席へと腰を下ろしたところだった。
──あっ。
カルナはあわてて前を向く。
やってきた男たちは皆、白い騎士服を着ていた。
つまり、彼らはシュラトと同じ騎士なのだ。
カルナは妙に緊張していた。
誰も顔見知りではないのだから、恋人の同僚かもしれないというだけでいちいち緊張する必要はないと頭ではわかっているのだが、それでも勝手に体が縮こまる。
彼らがシュラトと同じ第二騎士団の騎士なのかは定かではない。
──だが、元々シュラトから教わった店なので、シュラトの同僚の騎士がやって来たとしてもおかしくはないのだ。
騎士たちは酒とつまみを頼むと、わいわいと楽しげに会話を再開した。
仕事終わりなのか、テンションが高く、声が大きいため、耳を澄ませなくても会話の内容が聞こえてくる。
「ロウのやつはいま故郷に戻ってるのか」
聞いたことのある名前に、カルナの耳がピクリと反応した。
「ああ。あいつ、長期の休みが取れるたび頻繁に帰るよな」
「故郷の幼馴染に惚れてんだとよ」
「ふーん。狼獣人は大体そうだよな。獣の本能が残ってんのかね、群れから伴侶を選ぶってのは」
「あいつら一穴主義も多いしな。そこがまたモテ要素で狡いんだよ」
シュラトと初めて会ったあのとき、助けを呼びに行ってくれたシュラトの同僚の名前が『ロウ』である。
おまけに、彼がシュラトと同郷の狼獣人であることは、カルナもシュラトから聞いて知っていた。
「そういえば、シュラトはどうなんだ?」
もしかすると、ここにいる騎士たちは本当にシュラトの同僚なのかもしれない──そんなことを考えていた矢先、ちょうど騎士の口からシュラトの名前が出てきて、カルナの肩はびくりと跳ねた。
つい気になって、耳を澄ませてしまう。
「どうって?」
「あいつ、団長の娘さんと結婚するんじゃないのか?」
──……え?
その瞬間、カルナの体が凍りついたように硬直した。
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