ミルクはお好きですか?

リツカ

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19.さみしい

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 好きだと言い合った日から、カルナとシュラトの距離はさらに縮まった。

 シュラトは仕事が終わると毎日カルナのもとにやってきて、そのままカルナの家に泊まり、翌朝カルナの家から仕事へと向かう。
 気づけばほとんど一緒に住んでいるような状態だったが、カルナはそれが嫌ではなかった。

 毎晩のように抱きしめられて、キスをして、耳元で「俺の可愛いひと」と囁かれる。
 あの日のことがあってから、シュラトは頻繁にカルナへの愛を口にするようになった。
 好きや愛してるなどの言葉もそうだが、たまにカルナのことを「俺の奥さん」と呼ぶこともある。
 まだ出会ってから半年も経っていないのでさすがに気が早いのだが、カルナもふざけてシュラトのことを「俺の旦那さん」と呼び返すことがあるので、ある意味おあいこなのかもしれない。

 それと……あの日は途中までで終わったが、その次に会った時にはちゃんと最後までセックスもした。
 カルナは経験がないのでベッドに横たわってシュラトにされるがままだったが、シュラトがカルナを気遣いながら優しく抱いてくれたことは、経験のないカルナにもなんとなくわかった。

「痛くないか?」
「っ……た、たぶん……」
「ゆっくりするからな。無理そうだったらすぐ抜くから……」
「ん、……っあ、ああッ……」

 最中は少し苦しくて、すごく恥ずかしくて、でも、すごく気持ちが良かった。
 それに、終わったあと、シュラトに抱き寄せられて眠るのもとても心地良かった。

 初めて会った日、シュラトに腕を掴まれただけで悪寒が走ったのがまるで嘘のようだ。

 肉食獣人が怖かった。
 シュラトに出会って、親しくなって、シュラトが肉食獣人でなければよかったのにと、そんなどうしようもないことを思うこともあった。
 けれどいまは、シュラトが肉食獣人でも良いと思っている。

 生前の父の教えに反することにはなるが、それでもカルナは、シュラトと一緒にいれば幸せになれる気がしていた。

 命の恩人で、初めての友人で、初めての恋人──なにからなにまで、シュラトはカルナの特別なひとだった。
 本当に、家族以外で初めて大切だと思えた、唯一のひとだった。




「一週間以上あなたに会えないなんて……気が狂いそうだ……」
「大袈裟ですよ」

 遠征に行く前日、シュラトはひどく不満そうだった。いつもよりカルナに甘えて、名残惜しそうに何度もキスをする。
 シュラトの方が年上なのに、たまに子どものような態度を取るシュラトがなんだか可愛らしく思えた。

「きっとあっという間ですよ」
「……あなたは俺のことが『たぶん好き』だから、そうやって涼しい顔をしていられるんだ。俺はあなたのことが『とても好き』だから、あなたよりもっと寂しい……」
「はいはい」

 拗ねたように言うシュラトの髪を子どもにするようによしよしと撫でていると、その手を掴まれ、深いキスをされた。
 そうして、そのまま抱き上げられて、たっぷりとベッドの上で愛しあった後、ふたりはくっついたまま眠りに落ちる。


 翌朝、カルナが目を覚ました時には、シュラトは置き手紙を残して遠征へと向かった後だった。

「……俺だって、ちゃんとさみしいですよ」

 残されたベッドの上で、カルナはそう独りごちる。そして、わずかにシュラトの香りが残るシーツをぎゅっと抱きしめた。

 朝ひとりで起きることも、夜ひとりで眠ることも、少し前までは当たり前だったのに──

 ここ数年忘れていた『さみしい』という感情に苦笑しながら、カルナは隙間から朝日が差し込むカーテンを一気に開けた。
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