ミルクはお好きですか?

リツカ

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12.再会

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 トントンと軽くドアをノックする音が聞こえた瞬間、カルナの体はびくりとした。

 森で両親と三人、ひっそりと暮らしてきたカルナには、親しい友人はおろか、家を訪ねてくるような親戚もいない。
 というか、今まで家に誰かがやってきた記憶もあまりない。森で迷ったひとが助けを求めにやってくるくらいだろうか。

 とりあえず……、とカルナはおそるおそる玄関へ近付き、ドアの横にある小窓からこっそりと外を覗き込んだ。

「あっ」

 思わず、声が出る。
 そこに立っていたのは──件の騎士、シュラトだった。

 ──な、なんで?

 カルナは目を白黒させて、小窓からシュラトを見つめた。
 あの日からもう一週間以上経っている。
 何が目的でシュラトが森の中にぽつんとある我が家を訪れたのか、カルナには見当も付かなかった。

 カルナが口をぽかんと開けたままシュラトを覗き見ていると、ふいにその緑の目がスッと動いてカルナを捉えた。
 カルナはビクッと肩を跳ねさせる。

 扉も開けず、中からシュラトを窺っていたのがバレてしまった。
 だが、シュラトは特に気分を害した様子もなく、カルナに向かって柔らかく微笑んだ。

 いっそう戸惑いながらも、カルナは慌ててドアの鍵をあけて、扉から顔を覗かせた。

「お、お久しぶりです……」
「ああ、久しぶり。元気そうで良かった」

 シュラトは初めて会った時の無表情が嘘のようににこやかだった。
 それに対して、カルナは真っ赤な顔で少し俯く。

 ──もう二度と会うこともないだろうから、早く忘れようと思ってたのに……実際忘れかけてたのに……。

 あの日のことを思い出すと、カルナは未だに恥ずかしくて堪らなかった。
 毒消しのため、シュラトにミルクを飲ませたことは後悔していないが、それ以外の部分に問題がありすぎる。

 そんなカルナの羞恥を知ってか知らずか、シュラトは説明するように淡々と言葉を続けた。

「あのあと、俺もあなたと一緒に病院に運ばれたんだが、上から報告書を書くように言われて、渋々一度本部の方に戻ったんだ。それからまた病院に行った時には、あなたはもう家に帰ったと言われて……」
「あ、はい。特に体のどこにも問題がなかったので、目が覚めてすぐ帰りました。ご心配おかけしてすみません」

 なんだ、そのことか、とカルナは笑ってペコリと頭を下げる。

 カルナとしては、それで話は終わったのだと思っていた。シュラトがただの安否確認のため、カルナに会いに来たのだと思ったのだ。

 しかし、シュラトはその場から離れようとはしなかった。それどころか──

「話したいことがあるんだが、中に入ってもいいだろうか」
「えっ?」
「……ダメか?」

 シュラトの頭の上に、見えないはずの獣耳がしゅんと折れているのが見えた気がした。
 慌ててカルナは首を横に振る。

「いえ、ダメじゃないです! でも、うちには何もないので……」
「構わない」
「家の中も結構狭くて……」
「構わない」
「……」

 二度もそう即答されてしまえば、もうカルナに断る言葉はない。

「……では、どうぞ……」

 カルナがおずおずと扉を開けると、シュラトは行儀良く「おじゃまします」と言って、家の中へと入ってきた。
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