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11.いつもの日々
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「おいっ、大丈夫か!?」
「ああ」
「……本当に大丈夫そうだな」
馬から下りた騎士たちは、木の根元で平然と胡座をかくシュラトを困惑の表情で見下ろす。
「なんだ? 毒にやられたんじゃなかったのか?」
「おかしい……さっきは確かに肌が青緑色に変色していたのに……」
「お前の見間違いじゃないのか? 引っ掻き傷はあるが、出血ももうほとんど止まってるみたいだぞ」
「せっかく治癒師も連れてきたのに……」
「おい、シュラト、どういうことだ?」
「さあ……」
シュラトを囲んで騎士たちがなにか言い合っている中、白いローブを着た少年が静かにカルナへと近づいて来る。おそらく、件の治癒師だろう。
「あの、大丈夫ですか?」
「へ?」
「顔、真っ赤ですよ。熱でもあるんじゃないですか?」
確かに、シュラトから乳を吸われ始めてからずっと体が熱くて、頭がクラクラしている。
何にこんな興奮しているのか、カルナ自身もわからない。本当に熱でもあるのだろうか。
「いえ、だいじょうぶ……」
です、と言い切る直前で突如意識が遠のき、カルナはその場にバタンと倒れた──ところを誰かに抱き留められたが、気を失ったカルナがそれに気付くことはなかった。
カルナが目を覚ましたのはその数時間後、街の大きな病院でのことだった。
目覚めた時には、シュラトはもちろん、他の騎士たちの姿ももうなかった。
どうやら、森で倒れたカルナを騎士たちが馬で病院まで運んでくれた後、彼らは騎士団の方へと戻って行ったらしい。
シュラトのことが少し心配だったが、ここにいないということは大丈夫だということなのだろう。
突然気絶したカルナの体にも特に異常はなかったらしく、医師には魔物と遭遇した際の心労による一時的な失神と診断された。
カルナとしては魔物に出会った心労のせいではなく、そのあとのシュラトとのあれこれが原因なのではないかとは思ったが、余計なことは言わないでおいた。
恥ずかしい云々以前に、ミルクの秘密を知られるわけにいかないからである。
もしシュラトがカルナのミルクの秘密を口外していたら──と、少し不安な気持ちもあったが、シュラトはちゃんとあのときの約束を守ってくれたようで、カルナは何事もなくあっさりと家へ帰された。
それからはまた、木を切って、それを街で売る、いつもの日々が帰ってきた。
魔物に襲われ、シュラトに助けられ、シュラトを助けるためにミルクを飲ませた──あの日は本当に日常とはかけ離れた、おかしな一日だった。
カルナは時々シュラトのことを思い出すこともあったが、考えても未だにあのときのキスの意味はわからない。
いや、そもそも本当にキスをされたかの自信すらないので、もし仮にされていたらの話だが。
──ミルクのお礼? そりゃあ、あれだけ格好いいひとにキスされて嫌な気分になる人は少ないだろうけど……
思い出すだけで、カルナの顔が赤くなる。
ファーストキスだった。
しかし、それを奪われた怒りやショックはあまりなく、照れや羞恥の方が圧倒的に大きかった。
キスもそうだが、乳を吸われた時にいやらしい声をあげてしまったことも恥ずかしい。
声は抑えたつもりだが、カルナの胸元にシュラトの頭があったのだから、聞こえていないわけがない。
あの時、カルナが感じていたことは、きっとシュラトにはバレていたはずだ。
一応「ありがとう」とは言われたが、内心変態だと思われていたのかもしれない。
あの日のことを思い出すたび、カルナはひとり羞恥に身悶えていた。
そんな、日々を過ごしつつ、徐々にカルナがシュラトとのことを忘れかけていたよく晴れた日のこと。
一仕事を終え、家で寛いでいたカルナの元にひとりの来客が訪れた。
「ああ」
「……本当に大丈夫そうだな」
馬から下りた騎士たちは、木の根元で平然と胡座をかくシュラトを困惑の表情で見下ろす。
「なんだ? 毒にやられたんじゃなかったのか?」
「おかしい……さっきは確かに肌が青緑色に変色していたのに……」
「お前の見間違いじゃないのか? 引っ掻き傷はあるが、出血ももうほとんど止まってるみたいだぞ」
「せっかく治癒師も連れてきたのに……」
「おい、シュラト、どういうことだ?」
「さあ……」
シュラトを囲んで騎士たちがなにか言い合っている中、白いローブを着た少年が静かにカルナへと近づいて来る。おそらく、件の治癒師だろう。
「あの、大丈夫ですか?」
「へ?」
「顔、真っ赤ですよ。熱でもあるんじゃないですか?」
確かに、シュラトから乳を吸われ始めてからずっと体が熱くて、頭がクラクラしている。
何にこんな興奮しているのか、カルナ自身もわからない。本当に熱でもあるのだろうか。
「いえ、だいじょうぶ……」
です、と言い切る直前で突如意識が遠のき、カルナはその場にバタンと倒れた──ところを誰かに抱き留められたが、気を失ったカルナがそれに気付くことはなかった。
カルナが目を覚ましたのはその数時間後、街の大きな病院でのことだった。
目覚めた時には、シュラトはもちろん、他の騎士たちの姿ももうなかった。
どうやら、森で倒れたカルナを騎士たちが馬で病院まで運んでくれた後、彼らは騎士団の方へと戻って行ったらしい。
シュラトのことが少し心配だったが、ここにいないということは大丈夫だということなのだろう。
突然気絶したカルナの体にも特に異常はなかったらしく、医師には魔物と遭遇した際の心労による一時的な失神と診断された。
カルナとしては魔物に出会った心労のせいではなく、そのあとのシュラトとのあれこれが原因なのではないかとは思ったが、余計なことは言わないでおいた。
恥ずかしい云々以前に、ミルクの秘密を知られるわけにいかないからである。
もしシュラトがカルナのミルクの秘密を口外していたら──と、少し不安な気持ちもあったが、シュラトはちゃんとあのときの約束を守ってくれたようで、カルナは何事もなくあっさりと家へ帰された。
それからはまた、木を切って、それを街で売る、いつもの日々が帰ってきた。
魔物に襲われ、シュラトに助けられ、シュラトを助けるためにミルクを飲ませた──あの日は本当に日常とはかけ離れた、おかしな一日だった。
カルナは時々シュラトのことを思い出すこともあったが、考えても未だにあのときのキスの意味はわからない。
いや、そもそも本当にキスをされたかの自信すらないので、もし仮にされていたらの話だが。
──ミルクのお礼? そりゃあ、あれだけ格好いいひとにキスされて嫌な気分になる人は少ないだろうけど……
思い出すだけで、カルナの顔が赤くなる。
ファーストキスだった。
しかし、それを奪われた怒りやショックはあまりなく、照れや羞恥の方が圧倒的に大きかった。
キスもそうだが、乳を吸われた時にいやらしい声をあげてしまったことも恥ずかしい。
声は抑えたつもりだが、カルナの胸元にシュラトの頭があったのだから、聞こえていないわけがない。
あの時、カルナが感じていたことは、きっとシュラトにはバレていたはずだ。
一応「ありがとう」とは言われたが、内心変態だと思われていたのかもしれない。
あの日のことを思い出すたび、カルナはひとり羞恥に身悶えていた。
そんな、日々を過ごしつつ、徐々にカルナがシュラトとのことを忘れかけていたよく晴れた日のこと。
一仕事を終え、家で寛いでいたカルナの元にひとりの来客が訪れた。
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