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9.恐怖と戸惑いと
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「っ……」
声を出さないよう、カルナは唇を噛んで耐えた。
いままで、誰かに乳を吸わせたことなんて一度もない。というか、自分のミルクを他人に飲ませること自体、カルナは今日がはじめてだった。
恥ずかしくてたまらないが、そんなことを言っている場合ではない。
命の恩人であるシュラトの騎士生命がかかっているのだ。
そのシュラトは、なんとか乳を吸っているようだが、毒で体が弱っている所為か、はたまた遠慮しているのか、あまりうまく乳を吸えていないようだった。
カルナは迷いつつ、シュラトが吸っている方の胸の下側を、いつも搾乳のときにやっているように片手の指先でムギュっと押した。
「んっ……」
「あっ、ご、ごめんなさいっ、手伝おうと思って……」
突如噴き出たミルクに驚いたらしいシュラトが、カルナの乳首から口を離した。
自身の唇付近にかかったミルクを、シュラトはぺろりと器用に舐め取る。
どことなく、先ほどよりも顔色が良くなっている気がした。
「……甘いな」
「気分はどうですか?」
「ああ、痛みがだいぶ引いてる。本当に効果があるみたいだ」
「良かったぁ……」
カルナはホッとして笑った。
見れば、シュラトの背中にあった青緑色の部分が先ほどよりも少し小さくなっている気がする。おそらく、ちゃんと解毒されているのだ。
「あ、あの、さっきも言ったんですけど、このミルクのことは内密にお願いします……」
「ああ、わかってる。俺とあなたの秘密だな」
そう囁いたシュラトの視線が、じっとカルナへと注がれる。妙に熱のこもった、どこか悩ましげな視線だった。
「……もっと飲みたい」
「あ、はい」
求められるがままカルナが胸を差し出すと、シュラトは今度は迷いなく乳首を口に含み、絶妙な力加減で乳を吸った。心なしか、さっきより上手く吸えているような気がする。
──すごく格好いいひとなのに、なんだか赤ちゃんみたいですごく可愛い。
カルナはなぜだか少しドキドキしていた。これが母性本能というやつなのだろうか。
そうして、伏せられたシュラトの長い睫毛をぼんやりと見つめていると、突然シュラトの長い腕がカルナの背中に回り、そのまま優しく抱きしめられる。
「~~~~ッ!」
その瞬間、ぞくぞくとした寒気にも近い感覚が、カルナの体中を電流のように駆け巡った。
──こわいっ!
シュラトが肉食獣人であろうことは、出会った瞬間からカルナも気づいていた。
けれど、自身がこれほどまでに肉食獣人に対して本能的な恐怖を抱いていることは、カルナも今日初めて知ったのだ。
それに、突然抱き付かれるなんてカルナも予想外だ。
確かに体勢的にはこのほうが飲みやすいのかもしれないが、カルナは今までこんな風に他人に抱きしめられたことなんて一度もない。
恥ずかしくて、気まずくて、どうしたらいいのかわからなかった。
自然と、シュラトの肌と触れ合った部分が熱くなる。
そんなカルナの怯えも戸惑いも知らず、シュラトは無心でカルナの乳を吸っていた。
背中に回った腕が、二人を密着させるようにさらにカルナの上半身を引き寄せる。
「あっ……」
ジュッと強く乳首を吸われた瞬間、カルナの口から勝手に少し高い声が漏れた。
恥ずかしくて、咄嗟に口を片手で覆う。
シュラトの伏せられた瞼が持ち上がり、深緑の美しい瞳が上目遣いでカルナを見た。
すると、口に含まれている方の乳首にピリッとした小さな痛みが走る。
「か、噛んじゃダメですっ」
「ああ、すまない……」
素直に謝ったシュラトはすぐに唇を離し、詫びるようにペロペロとそこを舐める。
舌で乳首を舐められるたび、ジンジンと痺れるような感覚が走って、カルナはわけもわからずギュッと目を瞑った。
声を出さないよう、カルナは唇を噛んで耐えた。
いままで、誰かに乳を吸わせたことなんて一度もない。というか、自分のミルクを他人に飲ませること自体、カルナは今日がはじめてだった。
恥ずかしくてたまらないが、そんなことを言っている場合ではない。
命の恩人であるシュラトの騎士生命がかかっているのだ。
そのシュラトは、なんとか乳を吸っているようだが、毒で体が弱っている所為か、はたまた遠慮しているのか、あまりうまく乳を吸えていないようだった。
カルナは迷いつつ、シュラトが吸っている方の胸の下側を、いつも搾乳のときにやっているように片手の指先でムギュっと押した。
「んっ……」
「あっ、ご、ごめんなさいっ、手伝おうと思って……」
突如噴き出たミルクに驚いたらしいシュラトが、カルナの乳首から口を離した。
自身の唇付近にかかったミルクを、シュラトはぺろりと器用に舐め取る。
どことなく、先ほどよりも顔色が良くなっている気がした。
「……甘いな」
「気分はどうですか?」
「ああ、痛みがだいぶ引いてる。本当に効果があるみたいだ」
「良かったぁ……」
カルナはホッとして笑った。
見れば、シュラトの背中にあった青緑色の部分が先ほどよりも少し小さくなっている気がする。おそらく、ちゃんと解毒されているのだ。
「あ、あの、さっきも言ったんですけど、このミルクのことは内密にお願いします……」
「ああ、わかってる。俺とあなたの秘密だな」
そう囁いたシュラトの視線が、じっとカルナへと注がれる。妙に熱のこもった、どこか悩ましげな視線だった。
「……もっと飲みたい」
「あ、はい」
求められるがままカルナが胸を差し出すと、シュラトは今度は迷いなく乳首を口に含み、絶妙な力加減で乳を吸った。心なしか、さっきより上手く吸えているような気がする。
──すごく格好いいひとなのに、なんだか赤ちゃんみたいですごく可愛い。
カルナはなぜだか少しドキドキしていた。これが母性本能というやつなのだろうか。
そうして、伏せられたシュラトの長い睫毛をぼんやりと見つめていると、突然シュラトの長い腕がカルナの背中に回り、そのまま優しく抱きしめられる。
「~~~~ッ!」
その瞬間、ぞくぞくとした寒気にも近い感覚が、カルナの体中を電流のように駆け巡った。
──こわいっ!
シュラトが肉食獣人であろうことは、出会った瞬間からカルナも気づいていた。
けれど、自身がこれほどまでに肉食獣人に対して本能的な恐怖を抱いていることは、カルナも今日初めて知ったのだ。
それに、突然抱き付かれるなんてカルナも予想外だ。
確かに体勢的にはこのほうが飲みやすいのかもしれないが、カルナは今までこんな風に他人に抱きしめられたことなんて一度もない。
恥ずかしくて、気まずくて、どうしたらいいのかわからなかった。
自然と、シュラトの肌と触れ合った部分が熱くなる。
そんなカルナの怯えも戸惑いも知らず、シュラトは無心でカルナの乳を吸っていた。
背中に回った腕が、二人を密着させるようにさらにカルナの上半身を引き寄せる。
「あっ……」
ジュッと強く乳首を吸われた瞬間、カルナの口から勝手に少し高い声が漏れた。
恥ずかしくて、咄嗟に口を片手で覆う。
シュラトの伏せられた瞼が持ち上がり、深緑の美しい瞳が上目遣いでカルナを見た。
すると、口に含まれている方の乳首にピリッとした小さな痛みが走る。
「か、噛んじゃダメですっ」
「ああ、すまない……」
素直に謝ったシュラトはすぐに唇を離し、詫びるようにペロペロとそこを舐める。
舌で乳首を舐められるたび、ジンジンと痺れるような感覚が走って、カルナはわけもわからずギュッと目を瞑った。
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