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7.秘密
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三本の引っ掻き傷からは、今も血が流れていた。そして、不可解なことに、その傷の周辺が青緑色へと変色している。
「ロウ……」
「傷はそれほど深くない……が、毒にやられてるな……」
毒──カルナの顔が更に青ざめる。
「……魔物自体は倒している」
「ああ、ここにくる途中で見た」
淡々とシュラトと言葉を交わした後、ロウと呼ばれた男は立ち上がり、再び素早く馬に跨った。
「治癒師を呼んでくる。それまで死ぬなよ」
「あ、あの……」
カルナが声をかけると、ようやくロウの目がカルナへと向いた。
「ああ、あんたが森に住んでる牛獣人か?」
「は、はい」
「そうか。災難だったな……俺はこれから応援を呼びに行ってくる。あんたはこの場に残ってもいいし、家に帰ってくれても構わない」
ロウの言葉に、カルナは目を丸くして首を横に振る。
「そんなっ、助けてもらったのにこのまま家に帰るなんて……!」
「でも、傍に居たからといって、あんたにできることもないだろう。……いや、こんな話をしてる場合じゃないな。なら、とりあえずこのまま待っててくれ。ああ、それと、動くと毒の回りが速くなるから、シュラトのことはそのままで。じゃあ、俺は行ってくる」
早口でそう言ったロウは馬を走らせ、来た道を颯爽と戻っていった。
残されたカルナは呆然とその後ろ姿を見送ったあと、再びシュラトの傍にしゃがみ込んだ。
しかし、ロウの言った通り、カルナにできることは何もなかった。治癒の心得もなければ、毒に関する知識もない。
カルナは自身の無力さに打ちひしがれていた。
すると、苦しげな顔をしているシュラトが、笑うように僅かに唇を歪める。
「……なんだか、あなたのほうが死にそうな顔をしているな……」
「は、はい……?」
「心配しなくとも、死にはしない……精々、体に麻痺が残るくらいだろう……」
「そんな……」
麻痺なんて残ったら、騎士の仕事ができなくなってしまう。
カルナは強く唇を噛んだ。
そうこうしている間にも、シュラトの背中の青緑色の部分はじわじわと広がっている。
カルナは何もできない自分の無力さが口惜しくてたまらなかった。
──いや、俺にもひとつできることがあるじゃないか。
それを思い出した瞬間、カルナの体がぶるりと震えた。
『カルナ、この秘密は誰にも教えてはダメだからな。教えていいのは、お前が将来結婚する相手にだけだ。そして、お前に牛獣人の子どもが産まれたら、その子に今母さんが言ったのと同じことを伝えるんだぞ』
今は亡き母の言葉がよみがえる。
カルナがこれからやろうとしていることは、母との約束を破り、そのうえ何処にいるかもわからない一部の同胞にまで迷惑をかけてしまう行為なのかもしれない。
けれど、今そんなことを気にしている時間の余裕はなかった。
シュラトはカルナの命の恩人なのだ。
カルナは震える手で自身の白いシャツのボタンを外し、前をはだける。
「あの、このことは秘密にしておいて欲しいんですが……あっ、ミルクはお好きですか?」
「ロウ……」
「傷はそれほど深くない……が、毒にやられてるな……」
毒──カルナの顔が更に青ざめる。
「……魔物自体は倒している」
「ああ、ここにくる途中で見た」
淡々とシュラトと言葉を交わした後、ロウと呼ばれた男は立ち上がり、再び素早く馬に跨った。
「治癒師を呼んでくる。それまで死ぬなよ」
「あ、あの……」
カルナが声をかけると、ようやくロウの目がカルナへと向いた。
「ああ、あんたが森に住んでる牛獣人か?」
「は、はい」
「そうか。災難だったな……俺はこれから応援を呼びに行ってくる。あんたはこの場に残ってもいいし、家に帰ってくれても構わない」
ロウの言葉に、カルナは目を丸くして首を横に振る。
「そんなっ、助けてもらったのにこのまま家に帰るなんて……!」
「でも、傍に居たからといって、あんたにできることもないだろう。……いや、こんな話をしてる場合じゃないな。なら、とりあえずこのまま待っててくれ。ああ、それと、動くと毒の回りが速くなるから、シュラトのことはそのままで。じゃあ、俺は行ってくる」
早口でそう言ったロウは馬を走らせ、来た道を颯爽と戻っていった。
残されたカルナは呆然とその後ろ姿を見送ったあと、再びシュラトの傍にしゃがみ込んだ。
しかし、ロウの言った通り、カルナにできることは何もなかった。治癒の心得もなければ、毒に関する知識もない。
カルナは自身の無力さに打ちひしがれていた。
すると、苦しげな顔をしているシュラトが、笑うように僅かに唇を歪める。
「……なんだか、あなたのほうが死にそうな顔をしているな……」
「は、はい……?」
「心配しなくとも、死にはしない……精々、体に麻痺が残るくらいだろう……」
「そんな……」
麻痺なんて残ったら、騎士の仕事ができなくなってしまう。
カルナは強く唇を噛んだ。
そうこうしている間にも、シュラトの背中の青緑色の部分はじわじわと広がっている。
カルナは何もできない自分の無力さが口惜しくてたまらなかった。
──いや、俺にもひとつできることがあるじゃないか。
それを思い出した瞬間、カルナの体がぶるりと震えた。
『カルナ、この秘密は誰にも教えてはダメだからな。教えていいのは、お前が将来結婚する相手にだけだ。そして、お前に牛獣人の子どもが産まれたら、その子に今母さんが言ったのと同じことを伝えるんだぞ』
今は亡き母の言葉がよみがえる。
カルナがこれからやろうとしていることは、母との約束を破り、そのうえ何処にいるかもわからない一部の同胞にまで迷惑をかけてしまう行為なのかもしれない。
けれど、今そんなことを気にしている時間の余裕はなかった。
シュラトはカルナの命の恩人なのだ。
カルナは震える手で自身の白いシャツのボタンを外し、前をはだける。
「あの、このことは秘密にしておいて欲しいんですが……あっ、ミルクはお好きですか?」
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