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6.爪痕

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 大きく目を見開いたシュラトは体ごと背後を振り返ろうとしたようだが、途中でくらりとよろめき、その場に片膝をつく。

「騎士様っ!」
「……クソッ」

 シュラトが苦い表情で舌打ちをする。
 その白い騎士服の背中部分には、大きな爪痕が残されていた。そこから、ドクドクと血が溢れている。
 悲鳴をあげたカルナは、いまにも倒れてしまいそうなシュラトを支えながら、おそるおそる前を見た。

 魔物が倒れ伏せているのに変わりはない。だが、その鋭い爪先には、先ほどまでなかったはずの赤い血がこびりついていた。
 速すぎてカルナには見えなかったが、魔物の最期のあがきの一振りが、よりにもよってシュラトに当たってしまったらしい。

 カルナの顔から血の気が引く。

「き、騎士様……」
「……悪いが、肩を貸してもらえるか。少し移動しよう。死んでいるように見えるが、またさっきのようなことがあっても嫌だからな……」

 カルナはすぐに頷き、シュラトに肩を貸してゆっくりとその場を離れた。
 静かにカルナが振り返ってみると、魔物はその場に倒れ伏したままだった。今度こそ完全に絶命しているように見えるが、それでも油断はできない。

 魔物から少し離れた木陰で立ち止まり、カルナはシュラトと共にゆっくりとその場にしゃがみ込む。
 傷が背中にあるシュラトは木に背中を預けることもできず、片手と額を木の幹に押し付けて、荒い呼吸を繰り返していた。

 ──まず止血を……いや、誰か助けを呼びに行ったほうがいいんだろうか……。

 こんな時、どうすればいいのかわからない自分の愚図さが歯痒い。
 カルナが狼狽していると、どこか遠くから馬の蹄の音が聞こえてきた。
 シュラトがぽつりと呟く。

「ロウ……」
「もしかして、仲間の方ですかっ?」

 項垂れたシュラトが僅かに頷いた。
 それを見たカルナは慌てて立ち上がり、音のする方へと走った。

「おーいっ! おーいっ!」

 カルナが大声で叫ぶと、勢いを増した馬の足音が徐々にこちらへと近づいてくる。

 そして、森の少し開けたところから、馬に跨った若い男が現れた。
 シュラトと同じ騎士服を着ている。シュラトの仲間で間違いないだろう。

「こ、こっちです!」

 色々と説明する暇はない。カルナは短く叫んで、誘導するようにシュラトの元に戻る。
 男はきちんとカルナの後を追いかけてきてくれた。

「シュラト!」

 傷を負ったシュラトを見つけると、男は馬から飛び降りてシュラトへと駆け寄った。
 そして、慎重に、それでいて素早くシュラトの上着を脱がせる。
 中の血だらけのシャツをナイフで切り裂くと、痛々しい患部が露わになった。
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